近年、専門家の間では、有害物質が小児の健康に与える影響が問題となっていますが、これらの情報はあまり大きく取り上げられることはありません。また、小児の健康と環境との因果関係については未解明な部分が多く、この分野での研究や政府の施策も不十分なのが現状です。
私たちは、未来を担う子供たちのために、有害物質の小児に与える影響について自ら情報を収集し、対策を講じることが必要です。
以下、小児の健康と環境について、平成18年8月に環境省から出された、「小児の環境保健に関する懇話会報告書」を中心に紹介します。
小児の特徴
1 血液-脳関門の機能が不完全
過去ブログ「化学物質と経皮吸収」でも紹介したように、血液から脳へ物質が移行する場合、これを制限する機構として血液-脳関門がありますが、脂溶性で分子量が小さい物質は移行しやすいといわれています。特に、胎児や生後6ヶ月までの小児は、この血液-脳関門が成長途上で不完全なために、有害物質を取り込みやすく、その後の成長にも影響を及ぼす可能性が高くなります。
2 食物の摂取様態による有害物質の蓄積・ばく露
小児の場合、主に母乳を栄養源とするために、母親の体内に蓄積された脂溶性の化学物質を取り込みやすい状況にあります。特に、幼児期に摂取する食物の体重あたりの量は成人と比べて多い割に、その種類には偏りがあります。このため、有害物質に汚染された食品を多く食べていた場合、体内に蓄積さればく露されやすくなります。
3 小児特有の行動による有害物質のばく露
小児は、発達期に手やモノを口に入れる行動(マウジング)があるため、有害物質が床やオモチャなどに付着していた場合、高濃度で体内に取り込んでしまう可能性が高くなります。
4 胎生期のばく露
母体に多環芳香族炭化水素(PAHs)、メチル水銀、エタノール、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT、鉛などの有害物質が蓄積されていると、胎盤を通じて胎児の血中に取り込まれてしまいます。
・多環芳香族炭化水素は、車の排ガスや工場の排煙などに含まれています。栃木臨床病理研究所と東京理科大、京大などの研究グループは、実験により、ディーゼル車の排ガスなどに含まれる極めて微小な粒子(ナノ粒子)を妊娠中の母親が吸い込むと、生まれた子供のぜんそくや乳幼児突然死症候群などの原因となっている可能性があるとしています。(山陽新聞WEB NEWS「科学・環境微小粒子で子どもの肺に害 ディーゼル車排ガスなど」)
・メチル水銀による事例としては、熊本県水俣市で工場排水中のメチル水銀化合物が原因となった水俣病や、新潟県阿賀野川流域で発生した新潟水俣病などがあります。
・エタノールは、アストリンゼン、ヘアスプレー、マニキュア、ローションなどに腐敗防止や殺菌、可溶化、乾燥促進などの目的で使用されています。
・ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、変圧器やコンデンサのほか、塗料、可塑剤、ノーカーボン紙など、幅広い分野で使用されてきました。2001年7月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特別措置法)」が施行され、PCB廃棄物の保管事業者は15年以内(2016年まで)に適正に処理することが義務付けられました。しかし過去に製造されたPCBの70%以上は今でも使用されているため、環境を汚染し続けています。
(過去ブログ「魚の食品としての安全性」参照)
・DDTは、農薬や家庭用の殺虫剤として使用されましたが、体内への蓄積性や発がん性などの害が明らかにされ、1970年代には日本や西欧で全面使用禁止になっています。しかしながら、一部の発展途上国では、マラリア防除の目的で現在も使用されています。(過去ブログ「内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)の恐怖 3」参照)
5 生理学的機能の未発達によるばく露・蓄積
乳幼児の有害物質の吸収率は大人と異なり、たとえば鉛の消化管の吸収率は、大人の10%に対し、1~2歳の乳幼児は約50%と極めて高くなっています。また、発達段階にある体は、成人と比べて脂肪や水分の構成が異なるため、動物実験の結果では、鉛が脳に多く蓄積されています。小児の場合、骨にも鉛が蓄積されやすいといわれています。
6 化学物質の代謝、分解速度による毒性の増加
小児の場合、体内に取り込まれた化学物質の代謝、分解が遅く、化学物質の毒性が増加することがあります。(一部その逆もあります。)
また、体外への排泄能力も未熟なために、化学物質の毒性が増加しやすいという特徴があります。
7 熱に対して脆弱
(有害物質とは直接的な関係はありませんが)小児や幼児は、体温の調整機能や汗腺の発達が不十分なため、熱中症になるリスクが高いという特徴があります。
【小児の環境保健に関する各国の取り組み】
小児の環境保健に関する各国の取り組みは、下記のようになっています。
・1997年 マイアミ宣言:先進8カ国の環境大臣会合で小児の環境保健に関して国際的な合意がなされる。
・1995年 米国大統領令「環境中の健康と安全リスクからの小児の保護」が発令される。
・1999年 欧州 第3回環境と健康に関する大臣会合で欧州における小児の健康保護に関する環境政策の方針を定める。
・2004年 「欧州の小児環境・健康アクションプラン」採択
各国が2007年までに自国の小児環境・保健アクションプランを策定
・2006年 国際化学物質管理会議「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」(SAICM)採択
ドバイ宣言(生命の安全を脅かす恐れのある化学物質のばく露から小児を保護する方針を含めたハイレベル宣言)
【日本の取り組み】
・2000年 クロルピリホス(有機リン系殺虫剤で農薬、防蟻剤として使用され、新生児の脳に形態学的変化を起こす可能性が示唆)の室内濃度基準指針1m3当り0.1μg(成人の10分の1)
・2005年 厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」公表。
・2006年 金属製アクセサリーの誤飲を防止するため、関係団体に対し、製品中の鉛含有状況の把握、適切な情報提供、製品中の鉛含有量の低減努力等について通知。
参考となるサイトを下記に紹介します。
・子どもの環境保健に関するわが国の現状と課題
・小児環境保健に関する環境省の取り組み状況(資料2)
・小児の環境保健に関する懇談会報告書(環境省 平成18年8月)
・化学物質の環境リスクに関する国際シンポジウム プログラム アブストラクト集(2007.12.9~12.10)
・鉛含有金属製アクセサリー類等の安全対策に関する検討会報告書(平成19年2月16日 厚生労働省、経済産業省)
冒頭にも書いたように、私たちは、未来を担う子供たちのために、有害物質の小児に与える影響について自ら情報を収集し、対策を講じることが必要です。そのために当サイトが少しでも参考になればと思います。
【主な参考文献】
・小児の環境保健に関する懇談会報告書(環境省 平成18年8月)
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私たちは、未来を担う子供たちのために、有害物質の小児に与える影響について自ら情報を収集し、対策を講じることが必要です。
以下、小児の健康と環境について、平成18年8月に環境省から出された、「小児の環境保健に関する懇話会報告書」を中心に紹介します。
小児の特徴
1 血液-脳関門の機能が不完全
過去ブログ「化学物質と経皮吸収」でも紹介したように、血液から脳へ物質が移行する場合、これを制限する機構として血液-脳関門がありますが、脂溶性で分子量が小さい物質は移行しやすいといわれています。特に、胎児や生後6ヶ月までの小児は、この血液-脳関門が成長途上で不完全なために、有害物質を取り込みやすく、その後の成長にも影響を及ぼす可能性が高くなります。
2 食物の摂取様態による有害物質の蓄積・ばく露
小児の場合、主に母乳を栄養源とするために、母親の体内に蓄積された脂溶性の化学物質を取り込みやすい状況にあります。特に、幼児期に摂取する食物の体重あたりの量は成人と比べて多い割に、その種類には偏りがあります。このため、有害物質に汚染された食品を多く食べていた場合、体内に蓄積さればく露されやすくなります。
3 小児特有の行動による有害物質のばく露
小児は、発達期に手やモノを口に入れる行動(マウジング)があるため、有害物質が床やオモチャなどに付着していた場合、高濃度で体内に取り込んでしまう可能性が高くなります。
4 胎生期のばく露
母体に多環芳香族炭化水素(PAHs)、メチル水銀、エタノール、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT、鉛などの有害物質が蓄積されていると、胎盤を通じて胎児の血中に取り込まれてしまいます。
・多環芳香族炭化水素は、車の排ガスや工場の排煙などに含まれています。栃木臨床病理研究所と東京理科大、京大などの研究グループは、実験により、ディーゼル車の排ガスなどに含まれる極めて微小な粒子(ナノ粒子)を妊娠中の母親が吸い込むと、生まれた子供のぜんそくや乳幼児突然死症候群などの原因となっている可能性があるとしています。(山陽新聞WEB NEWS「科学・環境微小粒子で子どもの肺に害 ディーゼル車排ガスなど」)
・メチル水銀による事例としては、熊本県水俣市で工場排水中のメチル水銀化合物が原因となった水俣病や、新潟県阿賀野川流域で発生した新潟水俣病などがあります。
・エタノールは、アストリンゼン、ヘアスプレー、マニキュア、ローションなどに腐敗防止や殺菌、可溶化、乾燥促進などの目的で使用されています。
・ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、変圧器やコンデンサのほか、塗料、可塑剤、ノーカーボン紙など、幅広い分野で使用されてきました。2001年7月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特別措置法)」が施行され、PCB廃棄物の保管事業者は15年以内(2016年まで)に適正に処理することが義務付けられました。しかし過去に製造されたPCBの70%以上は今でも使用されているため、環境を汚染し続けています。
(過去ブログ「魚の食品としての安全性」参照)
・DDTは、農薬や家庭用の殺虫剤として使用されましたが、体内への蓄積性や発がん性などの害が明らかにされ、1970年代には日本や西欧で全面使用禁止になっています。しかしながら、一部の発展途上国では、マラリア防除の目的で現在も使用されています。(過去ブログ「内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)の恐怖 3」参照)
5 生理学的機能の未発達によるばく露・蓄積
乳幼児の有害物質の吸収率は大人と異なり、たとえば鉛の消化管の吸収率は、大人の10%に対し、1~2歳の乳幼児は約50%と極めて高くなっています。また、発達段階にある体は、成人と比べて脂肪や水分の構成が異なるため、動物実験の結果では、鉛が脳に多く蓄積されています。小児の場合、骨にも鉛が蓄積されやすいといわれています。
6 化学物質の代謝、分解速度による毒性の増加
小児の場合、体内に取り込まれた化学物質の代謝、分解が遅く、化学物質の毒性が増加することがあります。(一部その逆もあります。)
また、体外への排泄能力も未熟なために、化学物質の毒性が増加しやすいという特徴があります。
7 熱に対して脆弱
(有害物質とは直接的な関係はありませんが)小児や幼児は、体温の調整機能や汗腺の発達が不十分なため、熱中症になるリスクが高いという特徴があります。
【小児の環境保健に関する各国の取り組み】
小児の環境保健に関する各国の取り組みは、下記のようになっています。
・1997年 マイアミ宣言:先進8カ国の環境大臣会合で小児の環境保健に関して国際的な合意がなされる。
・1995年 米国大統領令「環境中の健康と安全リスクからの小児の保護」が発令される。
・1999年 欧州 第3回環境と健康に関する大臣会合で欧州における小児の健康保護に関する環境政策の方針を定める。
・2004年 「欧州の小児環境・健康アクションプラン」採択
各国が2007年までに自国の小児環境・保健アクションプランを策定
・2006年 国際化学物質管理会議「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」(SAICM)採択
ドバイ宣言(生命の安全を脅かす恐れのある化学物質のばく露から小児を保護する方針を含めたハイレベル宣言)
【日本の取り組み】
・2000年 クロルピリホス(有機リン系殺虫剤で農薬、防蟻剤として使用され、新生児の脳に形態学的変化を起こす可能性が示唆)の室内濃度基準指針1m3当り0.1μg(成人の10分の1)
・2005年 厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」公表。
・2006年 金属製アクセサリーの誤飲を防止するため、関係団体に対し、製品中の鉛含有状況の把握、適切な情報提供、製品中の鉛含有量の低減努力等について通知。
参考となるサイトを下記に紹介します。
・子どもの環境保健に関するわが国の現状と課題
・小児環境保健に関する環境省の取り組み状況(資料2)
・小児の環境保健に関する懇談会報告書(環境省 平成18年8月)
・化学物質の環境リスクに関する国際シンポジウム プログラム アブストラクト集(2007.12.9~12.10)
・鉛含有金属製アクセサリー類等の安全対策に関する検討会報告書(平成19年2月16日 厚生労働省、経済産業省)
冒頭にも書いたように、私たちは、未来を担う子供たちのために、有害物質の小児に与える影響について自ら情報を収集し、対策を講じることが必要です。そのために当サイトが少しでも参考になればと思います。
【主な参考文献】
・小児の環境保健に関する懇談会報告書(環境省 平成18年8月)
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