環境と体にやさしい生き方

環境の悪化は生物系全体に大きな影響を与えています。環境と体にやさしい健康的な生活を考えるための新鮮な情報を紹介します。

魚の食品としての安全性

2007年10月17日 | 食生活等
魚はとても有用な食品であるにもかかわらず、海の汚染が進んでいるために、食品としての安全性が大きな問題となっています。

【魚の食品としての効果】
私たちは、食物からさまざまな栄養分を摂っています。特に不飽和脂肪酸は、心臓、循環器、脳、皮膚などの機能を保ってくれる有用なものであり、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの必須脂肪酸は人間の体内では生成できないため、食物からとる以外に方法がありません。

不飽和脂肪酸は、青魚に多く含まれています。特に青魚には、不飽和脂肪酸の中でもDHAやEPAといった良質の脂肪酸がたくさん含まれています。青魚とは、サバ・イワシ・サンマ・アジなど、背中の部分が青い回遊魚のことを言います。その種類には、サケ・マグロ・ブリ・ニシン・アユなども含まれます。

魚は身の部分の色で分けると、赤身魚と白身魚に区分されます。
赤身の魚はマグロやカツオなどであり、「ミオグロビン」という特殊なタンパク質を多く含んでいるため筋肉組織が赤色をしています。ミオグロビンに多く含まれている鉄分は、貧血がある人にはとてもよい食物です。赤身の魚は、DHAやEPAも多くもっています。

(参考:DHA、EPA)
DHAは、ドコサヘキサエン酸の略で、中性脂肪の低下や血栓症の予防効果があるほか、記憶学習能力の向上、脳や神経組織の発育促進、視力の向上、血しょう中のコレステロール低下作用などの働きがあります。また、EPAは、エイコサペンタエン酸の略で、コレステロールや脂肪を減らす働きがあり、動脈硬化や心筋梗塞、脳血栓などの成人病を予防します。


このように、魚介類には人間の健康に有用な成分が多く含まれています。しかしその一方で、これらに蓄積された有害物質による健康被害が懸念されています。


【深刻な海洋汚染】
魚の生息する海洋の環境は、さまざまな要因で急速に悪化しています。
その要因としては、次のようなものがあげられます。

・工場排水、農畜産業排水、生活排水等に含まれる有機物や窒素、リンなどの無機物による汚染
・海洋投棄物や陸上からの流失物(プラスチック類、魚網など)による汚染
・過去に海底に沈殿したプラスチックなどから溶出した有害物質による汚染
・油田や船舶から流出した油による汚染
・船舶塗料の溶出による汚染
・焼却や燃焼による大気汚染を原因とした海洋汚染
  など

この他、合流式下水道も海洋汚染の原因のひとつです。合流下水道とは生活排水と雨水を同じ管きょで下水処理場に送る方式です。このため、大雨の際に水量が増えて処理しきれない場合には、未処理の汚水がそのまま海に放流されます。東京湾には年間に約30回も処理しきれなかった汚水が流れ込んでいます。(国土交通省では、合流式下水道の改善を平成16年から10年間で完了することを、下水道法施行令の改正で義務づけています。)

海洋汚染の大きな特徴は、汚染物質の多くが海中にあって目にみえないことです。地域によっては砂浜を覆い尽くすほどの漂着ゴミも、海洋汚染物質の一握りに過ぎません。さらに、これらの汚染物質から溶出した有害物質については、姿かたちが見えないために分析しない限り確認のしようがありません。

東京海洋大学の兼広春之教授らが東京湾で海底ゴミを収集したところ、約50%がプラスチック容器や袋、約35%が空き缶だったとのことです。毎年、湾全体で年間100トンのゴミが増え続けているといいます。これと同様の事態が世界の海で起こっているのです。年間に日本全国の海岸に漂着したゴミだけでも約2万6,000トンに上ると推定されています。


【海洋汚染の魚への影響】
水中の有機物や窒素、リンなどが多くなり富栄養化状態になると、植物プランクトンが異常繁殖して赤潮が発生します。近年の地球温暖化による海水温の上昇は、これに拍車をかけています。東京湾ではここ数年、赤潮が80~120日も発生しています。
赤潮が発生すると、水中の溶存酸素濃度が低下するために魚が生息できなくなったり、呼吸する際にエラにプランクトンが詰まって窒息死します。また、繁殖した藻類が産出する毒素によって死滅する場合もあります。

大量発生した植物プランクトンが死んで海底に沈むと、分解の過程で硫化水素が発生し大量の酸素を消費するため、水中の溶存酸素量(DO)が減少して青潮が発生します。東京湾では、年間10~20日も発生しています。この青潮も、魚の成育に影響を及ぼします。


海洋を漂流するゴミ(マリンデブリ)による影響も無視できません。たとえばプラスチック製品の原料となる5ミリメートル以下の小さなレジン・ペレットを魚が飲み込んでしまうと、腸閉塞などにより餓死してしまいます。また、流失や廃棄による魚網がいつまでも海中を漂うことで海の生物を取り続ける「ゴースト・フィッシング」によって、命をおとす海洋生物も少なくありません。


さらに怖いのは、海洋への流出水に混入したり漂流ゴミに吸着した有害物質、海底の沈殿物などから溶出した有害物質です。これらの有害物質には、ダイオキシンやPCBなどの内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)、水銀などの重金属、発がん性の芳香族炭化水素などがあります。

海洋生物は、生育の過程でこれらの有害物質を蓄積していきます。特に、寿命が長く大型の魚は、小さな魚を餌として食べることで蓄積の度合いは高くなります。また、海底にすむアナゴなども海底に沈殿した有害物質を蓄積しやすい環境にあります。


【魚の食品としての安全性】
食物連鎖の頂点にある私たち人間が食品として魚を食べる場合、有害物質の体内での蓄積が健康に与える影響が懸念されます。たとえば、世界保健機構(WHO)は1日当たりのダイオキシン類の最大耐容摂取量を4pg(※)としていますが、東京湾内の魚介類の平均ダイオキシン濃度は2005年度に1g当たり4.4pg-TEQ(※)との報告もあります。

(※:pgは1兆分の1g、TEQは毒性等量で、もっとも毒性の強い2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした換算量)


変圧器やコンデンサのほか、塗料、可塑剤、ノーカーボン紙など、幅広い分野で使用されてきたPCBの魚への蓄積も進んでいます。PCBは、体内の脂肪に蓄積しやすく、発がん性があり、皮膚や内臓の障害、ホルモンの異常を引き起こします。特に人間の胎児は母親の子宮内で胎盤を経由して、また、出生後は母乳を通じてPCBを吸収します。
日本では、1968年に、福岡県のカネミ倉庫で製造された食用油に熱媒体として使用されていたPCBが混入し、これを摂取した人々に肝機能障害や肌の異常、頭痛などを引き起こしたいわゆるカネミ油症事件で、全国で10,000人以上が被害を訴え、約2,000人が患者として認定されました。

日本では、1974年にPCBの製造及び輸入が原則禁止になってから実に27年が経過して、ようやく2001年7月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特別措置法)」が施行されました。これによって、PCB廃棄物の保管事業者は15年以内(2016年まで)に適正に処理することが義務付けられましたが、過去に製造されたPCBの70%以上は今でも使用されているため、環境を汚染し続けているのです。


この他、ノニルフェノールビスフェノールAの魚介類への蓄積も増加しています。
ノニルフェノールは、プラスチック製品の他、塗料や工業用洗浄剤、潤滑油、化粧品、農薬などの添加剤としても使われており、脂質と結合しやすい性質があります。
ビスフェノールAはビフェノール化合物の一種で、ポリカーボネート樹脂や食品缶詰の内部コーティング、ビンの蓋、水道管の内張り、虫歯予防のシーラントなどに使用されています。


また、愛媛大沿岸環境科学研究センターなどの分析で、近年、繊維製品や建材、プラスチック製品に使われている臭素系難燃剤の一種が、 日本周辺やアジアの海洋生物中に蓄積する量が増えていることが分かりました。この物質はヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)と呼ばれ、動物実験で甲状腺ホルモンへの影響や神経毒性も指摘され、各国で新たな汚染物質として注目されています。

関連記事
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愛媛大沿岸環境科学研究センターは、米ニューヨーク州立大との共同研究で、北半球の先進工業国から発生した有機フッ素化合物が南極まで到達して地球規模で環境汚染が広がっていることも突き止めています。この有機フッ素化合物は、動物実験で発達への影響や免疫毒性などが指摘されています。


これまで書いてきたように、魚の食品としての効果は高い反面、安全性への不安は高まっています。食品としての安全性を考えた場合、食物連鎖の上位にあり寿命の長い魚や海底で生息する魚については、量を控えるなどの注意が必要です。また、経済発展のスピードに環境対策が伴わない国の沿岸地域や海水の流動性が低い湾内などでとれた魚についても、注意が必要です。

そして、一番大切なのは、私たちの命を支える海が汚染の一途をたどっていることをもっと認識して、私たち一人ひとりが海の環境を守るために、「汚さない」という意識を持ち、身近なところからきれいにするための行動をおこすことでしょう。


【主な参考文献】
・病気にならない生き方 新谷 弘実 サンマーク出版 2005
・日経エコロジー 2007.11号 東京湾の水質
・日経エコロジー 2007.11号 問われる大型魚の食品安全性
・日経エコロジー 2006.11号 すぐそこにある危機
・プラスチックの海 佐尾和子・丹後玲子・根本稔 編、海洋工学研究所出版部
・西日本新聞九州ねっとワードBOX ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)
・日経新聞(夕刊)2007.5.16 有害な有機フッ素化合物 北半球の汚染 南極到達
・Wikipedia 赤潮
・Wikipedia 青潮


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