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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

サンプリング雑感

2006-09-12 | フィールドから
・前日に引き続き,K村さんたちとアカエゾマツのサンプリング.午前中に,山火事後に再生した広葉樹二次林に行く.このあたりは,1914年ごろの山火事ではないかと思われるが,はっきりした年代は不明である.山火事後の林とはいえ,ミズナラの巨木などもあり,山火事の強度はあまり大きくなく,焼け方も不均一だったのではないかと想像される.


・ここ富良野では珍しいのだが,ここではアカエゾマツとミズナラが見事に混交している(ちょっと母子里の森林を彷彿させる).全体にササは薄く,ミズナラを初めとした広葉樹,トドマツなどがびっしりと更新しており,よく見るとアカエゾマツも胸高直径5cm程度の個体も目に付く.ここのサンプリングは2時間程度でさくさく終わり,午前中のうちにもう一つの湿地林でサンプリング.午後からは,さらに標高1000m~1100mの高山帯にてサンプリングを行う.景観もめまぐるしく変わるが,林床の様子も当然ながら大きく変貌する.

・アカエゾマツが湿地,高山帯,火山堆積物跡,山火事後,泥流跡,砂礫地など,様々な場所(しかも,変なところ)に分布していることはよく知られている.しかし,1日のうちに,こうして様々なタイプの森林を一挙に見るチャンスはあまりない.しかも,サンプリングでは,木のすぐ近くまで行かなければならないので,必然的に,湿地のずぶずぶ感とか,根曲がり竹の圧迫感(ものすごく人を寄せ付けない感じ・・・),とかを肌で(というよりも足の裏で)実感してしまうこととなる.こういう感覚は,論文を書くときにも大事だなと思ったりするのだが,そんなことよりも,こんなところに生えているアカエゾマツはやっぱりえらい,と感心するのであった.

実りの秋,収穫の秋

2006-09-11 | フィールドから
・富良野では玉ねぎの収穫が本格化.実りの秋である.森林総研のK村さんを迎え,標高630m付近の湿地林にてアカエゾマツの種子採取.研究用には1母樹につき5球果もあれば十分だが,どうせ登るならば事業用種子も採取しようという算段で,大勢のスタッフとともにガヤガヤと現地に向かう.この湿地林は,ほぼアカエゾマツの純林といってよいのだが,何とも原生的な雰囲気を醸し出している.


・5人の登り手はそれぞれ球果の多そうな木に取り付き,気がつくと既にはるか上空である.ラベル付けや胸高直径の測定などはゲスト2人にお任せし,こちらは連絡係と称してふらふら動く.が,あまり役に立っていないようで・・・.球果が届けられるまでの時間,この湿地林がどうやってできたのかなど,太古に思いを馳せる.



・お昼前になると,ぞくぞくと球果が集まってくる.母樹ごとにみると,赤っぽいもの,緑っぽいもの,大きいもの,小さいものと様々な“変異”がある.それにしても,種子採りというのはどうしてこう,人をハイな気分にさせるのだろう.ずっしりとした種子を肩に担いで上がってくるときの気分は,まさに「獲ったどー」という感じ(自分では登ってないけど・・・).最終的に取れた球果は生重量で約70kg.ヤニを軽く落として,オリに入れて天日乾燥の準備.きれいに並んだ球果は美しく,実に壮観である.






フィンランドからのゲスト

2006-09-04 | フィールドから
・フィンランドから2名の研究者を迎えて,林内案内.樹木園,直営現場,保存林,ミズナラ優良木,選木実習林,といった内容でエクスカーション.6日もK大の実習案内ということで,いよいよ案内業務が忙しい.案内は当然英語で行ったのだが,My英会話には日々の調子というものがあり,本日はどうにも調子がよろしくない.リスニングの方はというと,彼らの話すスピードは決して速いとは思わないのだが,なぜか頭に入って来ず,まだまだ修行が必要である・・・.

・現在,直営現場は1910年代に発生した山火事後に更新した広葉樹林である.ここでは1名のゲストの専門ということもあって,土場での生産方法や機械について熱心な討議が繰り広げられる.当方はやや蚊帳の外ということもあり,その隙にベテラン職員Sさんからウダイカンバの丸太生産の奥義について教えを乞う.丸太の曲がり,節などをどのようにうまく外して,いい素材を生産するか,その真剣勝負に感銘を受ける.いつも思うことだが,そこには厳然たるストイックな世界がある.

・4時から講義室にてセミナーをしていただく.日本とフィンランドの比較という観点で概要を説明してくれたので非常に分かりやすい.国土面積や森林率は似ているが,林業がGDPに占める割合などはもちろん大きく異なる.林業対象樹種は、ヨーロッパアカマツ,ヨーロッパトウヒ,カンバの3種類と単純である.興味深かったのは,機械化が進んでいるフィンランドではオペレータや運材車のドライバーの労働力の確保が重要で,逆に,そこにはきちんとした需要があるらしい.

・若い研究員は,Un-even forestの施業を研究しているとのこと.フィンランドではかつては択伐が行われたが,良木伐採が一般的であったため,残された森林の価値が下がった.そのため,施業方針は皆伐+植林(とくにヨーロッパトウヒ)か,皆伐+天然更新が中心らしい(その2つのシステムの割合は半々とのことである).

・こちらでは,択伐+天然更新だけではうまく整合しない場合も多いので,群状択伐+植林,群状択伐+天然更新補助作業といった,小面積皆伐を取り入れた方針転向も必要か?と考えているだけに,その方向性はまるで逆である.皆伐+天然更新で問題がないのであれば,なぜに難しそうな択伐に挑戦するのか,やや理解に苦しむのだが.フィンランドでは私有林のオーナーの要望やNGOの皆伐に対する否定的な意見も多いらしい・・・

・とかく,ここ北海道の天然林施業にとって参考になるのか,参考ならないのかはよく分からぬが,一度,フィンランドに行ってみたい気にはなってくる.そういえば,アメリカで知り合ったNikkanenはフィンランドだったか・・・.今度,確かめてみよう.

再生林再生計画.

2006-08-31 | フィールドから
・北海道では1910年代に山火事が頻発し,その後にカンバやナラ類を中心とした広葉樹主体の二次林が再生している(ここでは再生林とよんでいる).本日は,その再生林の施業予定地に大勢の職員が集合し,施業方針の検討を行う.検討箇所付近にはヨーロッパトウヒがかなりの面積にわたって植林されているが,おそらく大部分が不成績に終わり,自然にウダイカンバが更新してきたらしい.もともとウダイカンバが少なかったためであろうが,本数密度は既に30-80本/ha程度に落ち着いてしまっている.

・伐採率をどの程度に設定するか,その算定根拠はどうするか?小さな木を蓄積量算定から抜くべきかなど,あーでもないこーでもないとなかなかに熱い議論が展開される.それにしても,再生林の下層はクマイザサに厚く覆われており,当然,ウダイカンバの次世代は育っていない.ということで,「ウダイカンバ林としては,そろそろ仕立てあがったことだし,再生林を小面積で皆伐し,地がき処理して,ウダイカンバ林を再生させよう」という当方の持論を主張.

・焼松峠というところで,試験的に再生林を皆伐し,その後に地がき処理を行った際のデータ(現在,日本森林学会誌に投稿中)が浸透してきたせいか,割合と好感触.最終的に,25m×50mくらいの単位を8箇所程度,皆伐して地がき(地拵え)して針葉樹を疎植するとともに,ウダイカンバの天然更新を図ろうという方針になる.

・上手くいけば,50年後には50年生のウダイカンバ林が再現されるはずで,将来の収穫の楽しみが増える上に,皆伐時の収穫でもそれなりの収入が期待できるのが,この計画のメリットである.ただし,もちろん不確定要素はあり,更新の失敗によるササ地の広がり,更新したウダイカンバ稚樹のウサギやエゾシカによる食害などは心配である.

・同じ面積だと最適面積がいつまでも分からないので,思い切って50×50mの皆伐もやりたい(1箇所でもいいから・・・)という提案をする.ほとんど,「しょうがないなあ・・・」という感じで一応了承.しかし,「やるからにはちゃんと研究しろよ」,と至極まっとうな指摘が・・・.当方,勢いづいたまま「やります!」と答え,そんなわけで宿題はますます増えていくのであった・・・.

母子里のアカエゾマツ

2006-08-25 | フィールドから
北海道大学雨龍研究林にYさんを訪問.母子里の森林を見せていただく.もっぱら案内業務ばかりのこの時期に,こうして案内していただく側になるのは新鮮だ.森に入ってまず目に付くのはササの厚さである.ここ母子里では,積雪が2m以上になるとのことで,そのぶんササの高さは富良野とは比較にならない.標高400mくらいでクマイザサからチシマザサに変わると聞いて驚く.富良野では700m付近に境界があるのだが,それだけ厳しい環境なのだろう・・・

・長期モニタリングを行っているサイトでは,アカエゾマツの巨木が目に付く.富良野では,湿地,蛇紋岩帯,高山帯など,他の植生が入ることができないところにひっそりと集団を作っているのだが,ここでは富良野におけるエゾマツの役割(?)をアカエゾマツが果たしているようだ.それにしても,どうしてここにはエゾマツがないのだろう・・・.ミズキ,オニグルミ.ウダイカンバなども欠くと聞き,何か納得できるシナリオがないだろうかとしばし考える(が,なかなかいいアイデアは浮かばない).

・地はぎ処理後の実生定着の様子を見せていただく.地はぎ面積は0.3-0.6ha程度と富良野とほぼ同じ.ダケカンバ,トドマツ,アカエゾマツが目立つ.アカエゾマツが普通に更新していることに少し驚くが,枯死していく割合はやはり高らしい.地がきの方法などについて現場でしばし議論する.

・富良野の地はぎ論文について,相談に乗っていただく.論文を作成するためには,何がその論文の「オリジナリティ」なのかを明確に位置づけることが大事だが,案外本人には見えなくなってしまっていることもある.この論文では,400-750mくらいまで標高別に地はぎ処理を行っているのが一つの面白さであり,凸,平,凹という3つの地形を人為的に設定したというのがもう一つの面白さなのだが,議論するうちに,地はぎする標高によって更新する樹種構成などが異なることが「(世界的にみれば)面白かったのだ!」と整理できる.やはり,その分野で既に論文を書いておられる方のアドバイスには重みがあり,「何事にも先達はあらまほしけれ・・・」と実感したのであった.

過去の試験地の発掘作業

2006-08-22 | フィールドから
・過去に設定され,しばらく放置された試験地を復元するのは一苦労である.今回は,1979年に設定されたトドマツ標高別試験地の一つを間伐こととなり,植栽位置図と現地との対応を行うために現場へ急行.

・それにしても,どうして試験地のすぐ横に,同じ樹種で一般造林地を作ってしまうのかね.違う樹種を植えておいてくれると楽なんだが,試験地の端を確定するというのが,この手の掘り起こし作業では一番の大仕事である.

・幸い,きちんとした杭がいくつか見つかって,母樹番号と現地の杭を完全に一致させることができた.2反復×8標高(種子産地)×5母樹×30本=合計2400本からなる試験地だが,妙な被害を受けていることもなく,よく設定できものだと改めて感心する.

・こうして復元できると,いつものことだが,ちゃんと調査しないと「もったいないおばけ」が出そうな気がしてきた.かくして,スケジュールはますますタイトになってしまうわけで,うーむ.


人工林から天然林への誘導

2006-08-21 | フィールドから
・午前中,ストローブマツ人工林内に設定した皆伐地での実生調査.ここ富良野には北米原産の五葉松であるストローブマツの人工林がたくさんある.富良野の気候では,植栽して確実に成林する外来樹種はこのストローブマツとヨーロッパトウヒ(ドイツトウヒ)の2種といってよいだろう.

・最近,このストローブマツ人工林をいかにして,天然林に誘導するかというのが一つの課題となっている.そこで,ストローブマツの人工林内に25×25mの小面積皆伐地をあちこちに作って(場合によっては,その後ブルドーザによる地表処理も行って),そこに自生種の天然更新を図ろうとしているわけである.そんなこんなで,今年の調査は皆伐放置の場所と,皆伐+地表処理の場所で実生の発生定着の状態が違うかどうかの調査である.

・皆伐放置区では,昨年とは様相が一変し,なんとも見事なイチゴ畑になっている.これはおそらく,埋土種子から発芽定着したものであろう.イチゴは森林内の埋土種子の常連ではあるが,ここまで繁茂するとは全くもって予想外だ.

・一方,皆伐地では,想像以上に定着できておらず,場所によっては全く更新していないようなところもある.おそらく乾燥と強光による発芽阻害かあるいは発芽後のかなり早期に死亡しているのかもしれない.もしかすると,皆伐範囲は25m×25mでも広すぎるのかもしれないという感じ.いずれにしても,炎天下の調査は頭をもうろうとさせ,これなら実生も厳しかろうと実感したのであった.