言葉のクロッキー

本とかテレビその他メディアから、
グッと感じた言葉・一文などを残してゆきたい。
その他勝手な思いを日記代わりに。

映画『バハールの涙』

2019-01-23 | 映画 音楽
原題:『Girls of the Sun』 
 監督・脚本:エヴァ・ウッソン  製作:2018 フランス・ベルギー・ジョージア・スイス合作  111分
いつまでも続く終わりのない戦いが、中東で起こっている。かつてのベトナムやユーゴのように。
「2018年ノーベル平和賞受賞者ナディア・ムラドが訴えるメッセージを実感する、自らの尊厳のためISと戦う女性たちの生き様に・・・」とあるように、女性の立場から訴えた反戦映画。
監督・主役その他主な出演者は女性が多い。ISに夫を銃殺され、息子を捕られ、自らは性奴隷にされ、仲間を戦闘で失い、もう涙も枯れたという元弁護士の美人戦闘員バハール。彼女は女性兵士達のリーダーなのだ。またある女性戦場カメラマンは爆撃の破片で片目を損傷し黒い眼帯をし、カメラを通し、戦争の実態を世界に発信している。彼女の夫は戦場で取材中に落命。自分は娘を置いて戦場に身を置き取材活動を優先するジャーナリスト。
荒涼と荒れ果てた町々、緑の少ない自然環境を背景に、風の音すら聞こえるほどの静寂、そこに流れる刺すような緊張感。重量のありそうな自動銃を抱え、心に苦しみを背負った女性たちが、最前線に在ってISと熾烈な戦闘を繰り広げる。
現実に根ざした映画であることから、日本の現状との落差の大きさを考えてしまう。違った宗教・人種が混在する地域で安穏に生活する難しさを感じる。一旦崩れた平和は容易に元に戻らない。終わりの見えない紛争、泥沼の紛争へと発展してしまう。息子の救出に成功し、涙、涙のバハールだったけれど、彼女たちの戦闘は終わりではない。どちらかが根絶やしになるまで続く、果てもない戦いなのだ。そんな所に生まれなくて良かったよ

映画「家へ帰ろう」

2019-01-05 | 映画 音楽
原題「THE LAST SUIT」。製作国:スペイン・アルゼンチン合作 製作年:2017
原題と邦題「家へ帰ろう」とは一見結び付かないように思える。でも映画を観終わると、そういうことかと思う。
ホロコーストの地獄から脱出し、半死半生でたどり着いた我が家。しかしそこはかって親の弟子だった一家が住んでおり一家の主人は家を奪われるのを恐れ、けんもほろろの対応をする。だがその息子はそんな父親を許せず、父を張り倒してその青年の命を助けた。それから70年の歳月が過ぎゆき、二人は13000㎞も離れた、アルゼンチンとポーランドに分かれて住んでいた。男は仕立て屋として生計を立て、88年も生きながらえ、老人となり、家族にホームに入れられそうになる。それを良しとしない老人は、自ら仕立てた最後のスーツを持ってアルゼンチンから遠くポーランドまで旅をし、恩人へ届けようと決心をし、家族には黙って家を出る。飛行機や列車を乗り継ぎ行くのだけれど、それは多くの人たちに助けられての旅路だった。見知らぬ異国の人たちが差し伸べる無償の援助。この世の中捨てたものではないなと思わせる数々の援助に支えられ、老人はポーランドにたどり着く。そしてあの思い出の詰まったかっての我が家に帰り着くが、会いたい恩人はそこには居らず、訪ねても誰もそんな男は知らないという。途方に暮れる老人。しかしそこに奇跡が訪れる。老人がふと窓越しに見かけた男。何かにアイロンがけをしている眼鏡をかけた老人に何かを感じた老人はその男を見つめているうち、それは紛れもなく自分の命の恩人だと気が付くのだった。男も窓越しに見つめる老人に気が付き、見つめ返す。男の目に驚愕が広がる。外に出て言葉にならない再会を交し合う。やがて眼鏡をかけた男は言う。「さ、家へ帰ろう」と。
ある年寄りの思い出旅と言ってしまえばそれまでだけれど、中身は重い。触れたくない、思い返したくもない中身なのだけれど、二人の男の片隅に残っていた熱い思い、友情を人生の終盤で再体験した物語を演じた俳優の演技はすばらしい。またそれを支えた多くの人たちの演技が良い。心温まる作品。
      監督:パブロ・ソラルス  主演:ミゲル・アンヘル・ソラ