原題「Woman in Gold」 2015 アメリカ/イギリス 109分 監督:サイモン・カーティス
クリムトが1907年に描いた傑作「黄金のアデーレ」。正式名称は「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」。この絵は今ニューヨークのある美術館に展示されてるが、それまではオーストリーの美術館ベルベデーレに展示されていた肖像画。しかも国宝級の扱いで。この作品は終戦後なぜオーストリーからアメリカに渡ったのか、史実をもとにドラマティックに映画化した作品。
1998年、アメリカで小さなブティックを営む主人公マリア・アルトマン(82歳)はオーストリー政府が打ち出した「個人の美術品は返還する」という方針・・・実態は言うだけに近い方針・・・に触発され、返還して欲しいとベルべデーレまで出向く。アデーレは主人公マリアの叔母にあたる人で、彼女の叔父がクリムトに依頼し、描いてもらった肖像画で、まったく個人的な絵だった。しかし無名の彼女の肖像画は、第二次世界大戦中、ナチスに略奪された。それを返還してもらうために、彼女は若い駆け出し弁護士のランディと契約する。しかし戦後国民的にも愛される名画となった絵を簡単に返還してくれるわけもなく、しかも現地で初期経費が180万ドルにもなる裁判に訴えても勝ち目はないとわかり、諦め、アメリカに帰る。マリアはユダヤ人で、もともとがウィーンの名家の一員。ナチの進出で両親と辛い別れを交わし、夫と共に着の身着のままでアメリカに亡命したという過去を背負っていた。亡命して彼女は、この絵の陰にある夢のように密度の濃かった祖国オーストリーでの生活を、心の中に封印していた。その絵を取り戻せるかもしれないと思った彼女は封印を解き、「昔の記憶を消さないため」また「正義のため」に返還を申し出たのだ。成果もなく帰国したが、弁護士ランディーは諦めきれずに検討を重ねていたが、ついにアメリカにおいてオーストリー政府を裁判に訴えることができる条件を掴む。彼は勤務していた弁護士事務所を辞め、何の後ろ盾もなく果敢にオーストリー政府をアメリカで訴え出たのだ。しかも200ドルにも満たない初期経費で。やがてアメリカの最高裁の支持を受け、オーストリーでの裁判に臨む。そして数々の葛藤・絶望感を乗り越え現地で開かれた最終判断で、オーストリーの担当官は、理は彼女の側にあることを認め、ついに彼女は返還を勝ち取った。ベルベデーレに残してくれるよう要請するオーストリー。しかし彼女はこの返還活動に冷たかったことを理由に拒否し、アメリカに持ち帰ったのだ。 若輩の駆け出し弁護士が、アメリカとオーストリー両国の司法を舞台に論争する。正義はどこにあるのかを論じるのはカッコよいものだ。その中にユーモアがあり、ジョークがある。退屈させない。たった109分の映画かもしれないけど、無理を感じさせることなく物語が展開され、とても楽しませてくれた映画だった。