麻薬中毒で夫を失った女。そんな男との間に生まれた一人息子。女は息子が嫌いだった。
息子がサーフィンするためにハワイに行った。そしてサメに襲われて死んでしまう。
東京からハワイに飛んだ女は、冷たくなった息子を確認する。帰国しようと空港まで来たけれど、他人のサーフボードを眺めているうち気が変わり、しばらくハワイ・カウアイ島ハナレイに滞在する。
毎日、飽かずハナレイ・ベイの海を眺めた。そしてそれは10年あまり続くことになる。そのつど海を見て過ごした。深い悲しみと怒りとやり切れない思いを胸に秘めて。
忘れようと努めたけれどできなかった。女は息子を愛していたのだ。知らずに深く愛していたのだ。そのことにハナレイ・ベイの海を眺めているうちに、じわじわと分かってくるのだった。
そんなある日、片足を失ったサーファーが海辺に立っているのを見たという若者がいて、そのサーファーに会いたくて海辺を彷徨って探すが見つからない。
明るい空色をしたカウアイ島の海の色。温かく、しょっぱさを感じない海水、砕け散る白い波。そんな海に無心に波乗りに熱中する若者たち。亡き息子の面影を追い、生前ぶつかりながらも共に生活していた頃を回想する。
スコール、南国特有の木々、海辺に生育してる大木、強い海風、島の住人、島の建物、島のサルーン、島の夜の臭い・・・
いろいろ印象的な映像が写しだされるが、しかし、海のシーンがとても多かった。スクリーンいっぱいにハナレイ・ベイの海を映し出す。波の音、波の色、砕け散る波頭、夕日に沈む海。
映画を観ていて、その悠久さに癒されながらも一人ぽっちになった女の物語に共感する。日本人的には諸行無常ということか。この作品は日本人が主体だけれど、英語の会話シーンも多く洋画と言ってもよいくらい洋風なのだ。舞台が専らカウアイ島だからかもしれない。
毎日いつまでも海を見つめていた女は、ある日吹っ切れたのか、海にサヨナラをしたあと振り返ったその先に見た者は亡き息子だったのだろうか。
村上春樹の原作。原作からの解釈はいろいろだろうけれど、映画はサラッとして、不幸な女の物語を包み込み、体の中をカウアイ島の風が吹き抜けたような後味が残る。
主演の吉田羊は、ずけずけとものを言い、バリバリの英語を喋り、男勝りの強い女を演じ、説得力があってとても良かった。