9月7日告示・20日開票の自民党総裁選の立会い演説会が2018年9月10日午前、自民党本部で開かれ、安倍晋三はそこで自然災害対応の減災・防災対策を打ち出した。その発言を以下のサイトから引用してみる。
《総裁選立会い演説会》(NHK NEWS WEB/2018年9月11日) 安倍晋三「安倍晋三でございます。所見を申し述べるに先立ちまして、まず冒頭、北海道胆振東部地震によりまして、お亡くなりになられた方々に衷心より哀悼の意を表します。 そしてすべての被災者の皆さまにお見舞いを申し上げます。 政府としては発災以来、昼夜を分かたず、災害応急対応にあたって参りました。献身的に現場にあって被災者救出に全力を尽くしている自衛隊、警察、消防、海上保安庁、すべての関係者の皆さまに感謝申し上げたいと思います。 被災者の皆さまが1日も早く安心して暮らせる生活を取り戻すことができるよう、政府が一丸となって総力をあげて取り組んで参ります。また、台風21号、西日本豪雨、そして大阪北部地震、また熊本地震、そして政権奪還の原点である、東日本大震災からの復興にも全力を尽くして参ります。 そして、電力インフラ、また空港などの重要な交通インフラについて、さまざまな災害に際して、そのライフラインを維持することができるよう、全国で緊急に総点検を行い、その強靱化に取り組んで参ります。さらには集中豪雨などの近年の気象の変化に対応し、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策を3年、集中で講じ、安心できる強靭な日本を作り上げて参ります。 |
この話をしてから、再度の立候補を伝え、「尊敬する石破茂候補とともに、品格ある希望にあふれた総裁選挙にしていきたい、こう考えております」と告げている。
安倍晋三自身やその妻安倍昭恵の森友・加計問題に関わる対行政不当介入の政治関与が疑われ、自民党が8月(2018年)末に総裁選での「公平・公正な報道」の要請を求める文書を新聞・通信各社に出したのは安倍晋三に不利にならないための、いわば自分たちの利益のために「公平・公正」という言葉を使った不当な報道介入であって、安倍晋三は「品格」とか「ある希望」という言葉を使う資格はない。
にも関わらず、平然として使うことができるのは狡猾な人間に仕上がっっているからであって、そのような人間がそのような言葉を使うこと自体、人間が軽いからであり、当然、言葉も軽いということになる。人間も軽く、その軽さに応じて言葉も軽いから、津各資格もない言葉をいくらでも口にすることができる。
安倍晋三は「集中豪雨などの近年の気象の変化に対応し、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策を3年、集中で講じ、安心できる強靭な日本を作り上げて参ります」と、このことを総裁選に当選した場合の首相として公約に掲げた。
9月14日に行われた対立候補石破茂との日本記者クラブでの討論会でも、同じ発言をしている。
安倍晋三「近年の気象の変化に対応し、防災、減災、国土強靱化のための緊急対策を3年集中で講じ、そして、強靭なふるさとを構築していく。美しく伝統あるふるさとを次の世代に引き渡してまいります」
歴代自民党政府が地元利益誘導の土建政治を繰り広げて人口の都市集中(=地方の過疎化・人口減少)を招いただけではなく、借金だけを増やし、「美しく伝統あるふるさと」を台無しにしてきた事実を隠して「美しく伝統あるふるさとを次の世代に引き渡してまいります」と言うことができる。この白々しさも人間が軽いからであって、そのような人間が発する言葉が重みを持つことはない。
安倍晋三が立会演説会と討論会で発言していることは「集中豪雨などの近年の気象の変化に対応」させた、今後3年と期限を区切った国土強靱化緊急対策の構築ということである。但し第2次安倍政権が減災・防災対策を打ち出したの主として2011年3月11日発災の東日本大震災をキッカケとしてのことである。「集中豪雨などの近年の気象の変化」を受けてのことではない。
2011年3月11日の東日本大震災から約1年半近く後の野党だった自民党は2012年6月に一度国会に提出した「国土強靭化基本法案」を政権復帰後の2013年5月に再提出し、2013年12月4日の参院本会議可決、成立させ、同2013年12月11日に正式名「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」として施行させている。
そして翌年の2014年6月3日、「国土強靱化基本計画」を閣議決定している。
そこには次のような文言が並べられている。
〈2 国土強靱化を推進する上での基本的な方針
国土強靱化の理念を踏まえ、事前防災及び減災その他迅速な復旧復興、国際競争力の向上等に資する大規模自然災害等に備えた国土の全域にわたる強靱な国づくりについて、東日本大震災など過去の災害から得られた経験を最大限活用しつつ、以下の方針に基づき推進する。〉
この文言によって、主として東日本大震災をキッカケとした防災・減災だと分かる。そして安倍晋三は記者会見や施政方針演説等で「国土強靱化基本計画」に基づいて防災・減災についての発言を行っている。いくつかを取り上げてみる。
「2015年2月12日第189回国会に於ける施政方針演説」
安倍晋三「御嶽山の噴火を教訓に、地元と一体となって、観光客や登山者の警戒避難体制を充実するなど、火山防災対策を強化してまいります。近年増加するゲリラ豪雨による水害や土砂災害などに対して、インフラの整備に加え、避難計画の策定や訓練の実施など、事前防災・減災対策に取り組み、国土強靱化を進めてまいります」
「第190回国会における施政方針演説」(首相官邸/2016年1月22日)
安倍晋三「昨年も関東・東北豪雨を始め自然災害が相次ぎました。堤防の強化対策、避難訓練の実施、的確な防災情報の提供など、事前防災・減災対策に徹底して取り組み、国土強靱化を進めてまいります」
「記者会見」(首相官邸/2016年・2016年3月10日)
安倍晋三「政府としては、災害から国民の命と財産を守るため、多くの尊い犠牲の上に得られた貴重な教訓を踏まえて、防災・減災対策を徹底していく考えであります」
「第195回国会における所信表明演説」
安倍晋三「本年も、全国各地で自然災害が相次ぎました。激甚災害の速やかな指定が可能となるよう、その運用を見直します。事前防災・減災対策に徹底して取り組み、国土強靱(じん)化を進めてまいります」
「長州『正論』懇話会講演要旨」(産経ニュース/2018.8.14 10:00)
安倍晋三「西日本豪雨では、たくさんの方がお亡くなりになった。改めてご冥福をお祈りします。
前政権の時代、『コンクリートから人へ』といったスローガンが叫ばれた。河川の改修や治水事業、砂防ダムの建設、ため池の維持改修など、まるで公共事業全てが悪いように批判され、予算は大幅に削られてしまった。国民の命を守る、防災や減災に必要なインフラまで削ってはならない。減災・防災の観点から、河川の浚渫(しゅんせつ)なども含めて安心な暮らしを確保するための対策を全国的に早急に講じる必要がある」
以上挙げた閣議決定の政策や安倍晋三の発言の多くは事前に起きた自然災害に基づいて今後起き得る危険性のある同規模、あるいはそれ以上の規模をも予想した自然災害への備えとしての防災・減災の位置づけとなっている。
このことは既に見てきたように立会演説会と討論会の発言も同じ構図を取っている。比較のために総裁選立会い演説会の発言を再度ここに取り上げてみる。
「台風21号、西日本豪雨、そして大阪北部地震、また熊本地震、そして政権奪還の原点である、東日本大震災からの復興にも全力を尽くして参ります」と言ってから、「集中豪雨などの近年の気象の変化に対応し、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策を3年、集中で講じ、安心できる強靭な日本を作り上げて参ります」と発言している。
但しこのような構図は事前に起きている自然災害を起点として国土強靱化の「防災・減災」に備えることにしたという意味合いを取ることになる。つまり「国土強靭化基本法」が施行された2013年12月11日時点からの安倍政権の「防災・減災」対策がどの程度の成果を上げたのか、上げなかったのか、取り合わない発言となっている。
もしも2013年12月11日の時点から2018年9月半ばまでの現在までに国土強靱化対策が何らかの成果を上げていたなら、事前に起きている自然災害を起点として国土強靱化の「防災・減災」に備えることにしたという構図の発言は、それまでの成果を自ら蔑ろにする矛盾を曝け出すことになって許されなくなる。
このこととは逆に今日までに国土強靱化が何も成果を上げていなかったなら、事前に起きている自然災害を起点として国土強靱化の「防災・減災」に備えることにしたとする発言は許されることになる。
要するに今日まで何も成果を上げることができなかったから、その無策を隠すために事前に起きている自然災害を起点とした発言に迫られることになった。これまで無策であるなら、無策を繰返すことになるはずで、3年と期限を区切った「3年」は決意をそれらしく見せる耳に聞こえの良い言葉に成り下がる。
言っていることが立派に聞こえても、人間が軽い、それゆえに言葉も軽い。しっかりと見極めなければならない。