安倍晋三の石破派閣僚起用見送りは報復人事 憲法改正の考え方同調条件はお門違い

2018-09-24 11:42:56 | 政治
  

 2018年9月22日、安倍晋三が総裁3選を受けた内閣改造で対立候補だった石破茂が率いる石破派からの閣僚起用を見送る意向だと各マスコミが伝えた。「共同通信」

 閣僚起用見送りの理由を、〈憲法改正の考え方に同調することを人選で重視する。〉と書いている。現在、石破派からは「石破を応援するなら辞表を書け」と言われた農水相の斎藤健ただ一人が入閣しているが、〈記事は交代させる方針だ。〉と伝えている。

 さらに、〈首相は石破派からの党役員登用も避ける見通し。〉だと、その意向を解説している。

 安倍晋三のこのような起用方針に対しての石破氏発言を記事は紹介している。

 石破茂「同じ党の同志だ。『誰を支持した』を(人事の)判断基準にするのは明らかに間違っている。国家国民に誠実な姿勢ではない」と批判したを紹介している。

 確かに憲法改正の考え方に違いがあれば、安倍晋三案で憲法を改正する閣議決定の際、閣内不一致に直面する危険性を考慮せざるを得ない。一見尤もらしい理由に見えるが、安倍晋三の憲法改正案を国民大多数にとって正当性ある内容だとすることができるかである。

 国民の大多数が正当性ある内容であると認めている場合は、国民は他の憲法改正案を正当性から排除していることになって、そのような憲法改正案を掲げる党員を閣僚に起用することは閣内不一致の要因となりかねず、そのことを避けるための閣僚起用見送りは正当性ある措置となる。

 当然、国民の大多数が正当性ある内容であると認めていなければ、他の憲法改正案が正当性持つ可能性があることになり、先ずは自民党内でどちらの憲法改正案に正当性を認め得るか、国民にそれぞれの改正案を時間をかけて丁寧に説明し、理解を得る手続きを行わなければならない。

 安倍晋三の憲法改正案はそういった手続きを取ったのだろうか。そのような手続き取っていないのは世論調査を見れば分かる。NHKが2018年9月15日から17日まで行った世論調査は安倍晋三が秋の臨時国会に自民党の改正案を提出できるよう党内議論を加速させたい考えを示していることに対しての質問を設けている。

「提出すべき」18%
「提出する必要はない」32%
「どちらともいえない」40%

 この「どちらともいえない」の40%は提出するかどうかは決めかねていると解釈すべきだろう。もし安倍晋三の憲法改正案に正当性を認めていたなら、提出を決めかねているという状況は起き得ない。

 朝日新聞が2018年8月4、5両日に行った世論調査での憲法改正に対する国民の考えについて見てみる。

 安倍政権のもとでの憲法改正に賛成か反対か。

 賛成31%
 反対52%

 内閣支持層での反対26%
 内閣不支持層での反対84%

 とてものこと、国民の大多数が安倍晋三の憲法改正案に正当性を認めているとは言い難い。にも関わらず、安倍晋三は「全ての自衛官が誇りを持って任務を全うできる環境を整えることは、今を生きる政治家の責任だ。憲法の中に、わが国の独立と平和を守ることと、自衛隊をしっかりと明記することで責任を果たしていく決意だ」とか、「憲法に自衛隊を明記して違憲論争に終止符を打つ」と自身の改憲意思に基づいた改憲内容を絶対として繰返し口にするのみで、国民の多くに理解を得る十分な説明という手続きを尽くしているとは見えない。

 このことは次の一文にも現れている。

 「憲法記念日にあたって」(自民党/2018年5月3日)

本日、憲法記念日を迎えました。
わが党は結党以来、現行憲法の自主的改正を目指し、党内外で自由闊達な議論を行い、数々の試案を世に問い続けてまいりました。
これらの知見や議論をもとに、国民の皆様に問うにふさわしいと判断された4つの項目、すなわち、(1)安全保障に関わる自衛隊、(2)統治機構のあり方に関する緊急事態、(3)一票の較差と地域の民意反映が問われる合区解消・地方公共団体、(4)国家百年の計たる教育充実 について、精力的に議論を重ね、本年3月末に、各項目の条文イメージ(たたき台素案)について、一定の方向性を得ることができました。
今後わが党は、この案をもとに衆参両院の憲法審査会で議論を深めるとともに、各党や有識者のご意見も踏まえながら、憲法改正原案を策定し、憲法改正の発議を目指して参ります。
何よりも大切なことは、国民の皆様のご理解を得て、慎重に進めて行くことであります。わが党が先頭に立って活発な国民運動を展開し、自らの未来を自らの手で切り拓いていくという気概で、憲法改正の議論をリードしていく決意です。

 自民党内で議論を行い、〈国民の皆様に問うにふさわしいと判断された4つの(改憲)項目〉を決めた。次に、〈この案をもとに衆参両院の憲法審査会で議論し、各党や有識者の意見も踏まえながら、憲法改正原案を策定し、憲法改正の発議を目指す。〉

 そして最後に、〈何よりも大切なことは、国民の皆様のご理解を得て、慎重に進めて行くことであります。〉と、国民投票で3分の2以上を得るための国民に対する説明と理解の獲得を最後に置いている。

 もし国民投票で否決されたなら、膨大な時間と膨大なエネルギーをムダに使ったことになる。〈国民の皆様に問うにふさわしいと判断された4つの項目〉を議論し、決めたなら、自民党として必要と望むこういう方向での憲法改正を目指しますが、国民の考えはどうでしょうかと問い、理解を得るための時間をかけた十分な説明を尽くし、その責任を果たした上で衆参両院の憲法審査会での議論、憲法改正原案の策定、憲法改正の発議に向けた手続きに入るのが国民の負託を受けた国会や内閣のする最良の方法であるはずだ。

 こういった手続きを取った説明責任を果たさないばかりか、安倍晋三は自らの憲法改正案に対してのみ正当性を与えて、党内をその案で集約して、憲法改正の発議に持っていこうとしている。

 対して石破茂が考えている憲法改正案の手続きを見てみる。

 石破茂は安倍晋三の9条2項は維持したまま3項を付け加えて、そこに自衛隊の根拠規定を明記する案に対して9条2項を削除し、交戦権に疑義が出ないよう改正案を考えている。この案は国民の理解を簡単には得ることはできないように思えるが、但し改正に向けた手続きは次のようになっている。

 2018年8月10日に国会内で行われた「石破茂氏総裁選出馬表明会見」産経ニュース/ 19:26)

 石破茂「憲法も論点になるでしょう。私は優先順位をきちんと定めるべきだと思っております。来年の参院選までの合区解消のための憲法改正は間に合いませんでした。4年後には次の選挙があります。このための憲法改正は時限性のあるものです。さらに、国民の人権を決して不当に侵害しない。そういう前提に立った元で、緊急事態条項は必要であります。憲法上に根拠がなければそれが行われず、被害が拡大をする、そういうことはございます。
憲法9条については、国民の深い理解が必要であり、必要なものを急ぐ。最後に申し上げれば、自民党の憲法改正草案には『政府は国民に対して説明する責務を負う』。それは『権利と義務』の章に定めております。急ぐものは何か、今必要なものは何か。そういうことをきちんと意識しながら、憲法改正に取り組んでまいりたい」

 石破茂は憲法改正は自民党の憲法改正草案に「政府は国民に対して説明する責務を負う」と規定しているように「国民の深い理解が必要」だと言って、安倍晋三の手続きと異なって憲法改正の発議よりも先に国民に対する説明責任を置いている。
実際に自民党憲法改正草案の「国政上の行為に関する説明の責務」について第21条で「国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う」と、極々当たり前のことだが、規定している。

 2018年8月17日に国会内で行った記者会見でも、憲法改正の発議よりも国民に対する説明責任を先の手順としている。

 石破茂「(『自衛隊の明記』は緊急性があるとは思わないと指摘したうえで)9条改正は国民の理解を得て、世に問うべきものだ。理解なき改正をスケジュール感ありきで行うべきではない」(NHK NEWS WEB

 安倍晋三は自身の憲法改正案を正当性ある内容なのかどうか、先ずは国民に説明し、理解を得る手続きを取らないままに石破茂の改正案や発議に向けた手続きを排除して、自らの案のみを絶対として発議に持っていくための閣議決定の際に閣内不一致の危険性から閣僚起用見送る、あるいは党役員登用を避ける。この遣り方のどこに正当性を認めることができるだろうか。

 正当性を認め難い以上、閣僚の起用の見送りや党役員登用の回避は総裁選で石破茂が善戦したことで安倍晋三の評価を下げたことに対するお門違いな報復人事でしかない。


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