プーチンと安倍晋三の平和条約締結への各言及が同床異夢であることがより明らかとなった2度の首脳会談

2016-12-17 11:23:25 | 政治

 2016年12月16日、安倍晋三はプーチンとの2度の首脳会談を経て、「共同記者会見」を開いた。    

 安倍晋三の冒頭発言は北方四島元日本人島民の返還に賭ける思いから入った。その思いを既に81歳を超えている平均年齢と、「もう時間がない」としている元島民の言葉で表現した。

 そして北方四島を日本人とロシア人の「友好と共存の島」にしたいという元島民の願いを受けて、人道上の理由から日本と北方四島をより自由に往来できる方法を検討することで合意したことを明らかにした。

 いわば北方四島の領土・主権の帰属の解決を先送りした発言となっている。

 それもこれも平均年齢が81歳を超えていて、「もう時間がない」という元島民の切実な思いに応えるためだということなのだろうが、これは表向きの正当化であって、帰属問題を解決に向けて全然進めることができていないことが主因となっている正当化なのは誰の目にも明らかであるはずである。

 対してプーチンはどのような問題から冒頭発言に入ったのだろうか。その問題によってプーチンの関心の第一がどこにあるのかが分かる。

 プーチンの冒頭発言と記者との質疑応答は「産経ニュース」記事に依った。  

 プーチンは冒頭発言を日本とロシアの経済協力から入っている。貿易投資関係について話し合ったとか、「ビジネス対話が行われ、そして省庁間、実業界間の覚書が調印された」とか、「省庁間のミッションによって、数十もの非常に多くのプロジェクトが協議された」とか実利一辺倒の発言となっている。

 そのために来日し、安倍晋三の故郷山口にまで訪れて首脳会談を開いたのだから、当然の入り方である。もし北方四島の帰属問題と帰属に応じた平和条約問題だけを議題としていたなら、プーチンは来日しなかったに違いない。

 裏を返すと、安倍晋三は経済問題でプーチンを釣った。釣って、その魚(プーチンの日本に対する関心)を育てるためには経済に関わるそれ相応の餌を与え続けなければならない。

 安倍晋三は元島民の思いを伝えてから、平和条約問題に入っている。締結されるにしても、遠い先のことだから、2番目に持ってきたのだろう。

 安倍晋三「戦後71年を経てもなお、日本とロシアの間には平和条約がない。この異常な状態に私たちの世代で、私たちの手で終止符を打たなければならない。その強い決意を、私とウラジーミルは確認し、そのことを声明の中に明記しました。

 領土問題について、私はこれまでの日本の立場の正しさを確信しています。ウラジーミルもロシアの立場の正しさを確信しているに違いないと思います。

 しかし、互いにそれぞれの正義を何度主張し合っても、このままではこの問題を解決することはできません。次の世代の若者たちに日本とロシアの新たな時代を切り拓くため、共に努力を積み重ねなければなりません。

 過去にばかりとらわれるのではなく、日本人とロシア人が共存し、互いにウィン・ウィンの関係を築くことができる。北方四島の未来像を描き、その中から解決策を探し出すという未来志向の発想が必要です。

 この『新たなアプローチ』に基づき、今回、四島において共同経済活動を行うための『特別な制度』について、交渉を開始することで合意しました。

 この共同経済活動は、日露両国の平和条約問題に関する立場を害さないという共通認識の下に進められるものであり、この『特別な制度』は、日露両国の間にのみ創設されるものです。

 これは平和条約の締結に向けた重要な一歩であります。この認識でもウラジーミルと私は完全に一致しました」――

 要するに領土問題は双方の主張の真っ向からの違いから解決の見込みが無いために北方四島で双方の主張を「害さない」「特別な制度」を設けて共同経済活動を行うことで合意した。

 そして共同経済活動は「平和条約の締結に向けた重要な一歩となる」と訴えている。

 但し安倍政権だけではなく歴代日本政府は「4島の帰属問題の解決を前提として平和条約を締結する」ことを基本姿勢としている。

 と言うことは、共同経済活動を4島帰属の解決にこの上なく役立つ重要な要素に想定していることになる。そして「この認識でもウラジーミルと私は完全に一致しました」と、プーチンが安倍晋三と同じ土俵に立ち、同じ関係性を築いたかのように発言している。

 だからこそ、前以て共同経済活動を「日本人とロシア人が共存し、互いにウィン・ウィンの関係を築くことができる」「新たなアプローチ」だと意義づけることができたのだろう。

 だが、仔細に考えると北方四島の帰属をロシア側に置いた日本との「ウィン・ウィンの関係」を考えることは不可能で、ロシアが手放し、日本に帰属させた「ウィン・ウィンの関係」を考えることも不可能である。

 このいずれかの関係も、日本かロシアか一方に「ウィン」を置かなければならない。双方共にとはいかない。

 双方共にという意味で「ウィン・ウィンの関係」とするためには経済問題に限らなければならないはずだ。

  いわば北方四島で日露が協力して経済活性化を図ることで得ることのできる「日本人とロシア人が共存」した「ウィン・ウィンの関係」と言うことになる。

 と言うことは、帰属問題を外して可能とする「ウィン・ウィンの関係」でなければならない。

 このことは共同経済活動は、「日露両国の平和条約問題に関する立場を害さないという共通認識の下に進められる」という発言に象徴的に現れている。

 いわば日本と北方四島の自由往来と同様に双方の帰属問題の違いに触れないということを示している。

 安倍晋三は北方四島での共同経済活動ばかりか、対ロ8項目の経済協力プランに言及し、「たくさんの日露の協力プロジェクトが合意されました」と経済協力を前面に打ち出した冒頭発言の終わり方となっている。

 最初に元島民の思いに触れているが、日露の経済協力、と言うよりも、日本の対ロ経済協力を主体とした冒頭発言と見るべきだろう

 要するに帰属問題を外した経済問題でプーチンを釣っていることになるから、共同経済活動が「平和条約の締結に向けた重要な一歩となる」と訴えていることは、日本国民向けにそう思わせて、自身の北方四島外交の正当性を見せかけていることになる。

 「日露両国の平和条約問題に関する立場を害さない」共同経済活動は十分に可能だが、領土の帰属問題を害さない平和条約締結はあり得ないからだ。

 プーチンが平和条約締結に触れたのは経済問題と結びつけてのことだった。安倍晋三も同じように結びつけているが、経済問題でプーチンを釣ってるのとは異なる。

 プーチン「安倍首相のイニシアシブにおいて、南クリル諸島(北方領土)における共同経済活動も考えられています。このようなことを実現することで、平和条約締結に向けた信頼の醸成が行われていると思っています」

 「安倍首相のイニシアシブにおいて」という言葉にも釣り人は安倍晋三だと分かる。

 プーチンも北方四島での日露経済協力が平和条約締結に向けた第一歩となるようなことを言っているが、これは日本からの経済協力を釣る餌に過ぎないだろう。

 質疑での次の発言が証明している。

 先ずプーチンは日露の国境を定めた日露和親条約(1855年2月7日(安政元年12月21日)締結)に触れて、日本は北方四島を手に入れ、さらに1905年の日露戦争後の講和条約で南樺太を日本が割譲させたことに言及し、次のように続けている

 プーチン「40年後の1945年の戦争の後にソ連はサハリンを取り戻しただけでなく南クリル諸島(北方四島)も手に入れることができました」

 「北方四島は第2次世界大戦の結果ロシア領となった」としているロシアの基本姿勢を言葉を替えて改めて主張した。

 このような姿勢をベースに置いたプーチンのその他の発言である。

 安倍晋三が帰属問題を外して共同経済活動と平和条約締結に触れているのに対してプーチンは帰属問題をロシアに置いてそれらに言及している。

 この同床異夢の関係は如何ともし難い。

 安倍晋三は12月16日午前開かれた「日露ビジネス対話」で次のようにスピーチして、自身の外交成果を誇っている。

 安倍晋三「後世の人々は2016年を振り返り、日露両国の関係が飛躍的な発展の軌道に乗った一年であったと意義付けることでしょう」

 ビジネス対話だから当然だとしても、帰属問題に限ると、同床異夢の関係性から抜け出ることができていない以上、経済協力に限って日露両国関係が「飛躍的な発展の軌道に乗った一年と意義付けるだろう」と断らなければならないはずだ。

 帰属問題抜きの日露発展を喜ぶのは経済界と経済界と引っついた政治家のみである。

 安倍晋三は自分に都合の良い統計だけを取り上げてアベノミクスの成果だと見せかけるのが得意だが、これも同一線上の成果誇示となる。もし正直な政治家なら、安倍晋三に正直さを望んもでないものねだりに過ぎないが、「プーチンと16回も首脳会談を重ねながら、経済関係の飛躍性に反して帰属問題では飛躍は望むことはできない同じ一年となってしまった」と謝罪しなければならない。

 望むことのできない一年だったからこそ、「戦後71年を経てもなお、日本とロシアの間には平和条約がない。この異常な状態に私たちの世代で、私たちの手で終止符を打たなければならない」と、「一年」という期間を「私たちの世代」という不確定の長い期限に置き換えなければならなかったはずだ。

 要するに同床異夢ばかりか、安倍晋三の不正直も目立つ記者会見となっていた。

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沖縄オスプレイ不時着:米軍の説明を鵜呑みできない機体の大破、民間人も交えたパイロットへの検証を

2016-12-16 08:36:43 | 政治

 2016年12月14日夜、夜間空中給油訓練中の米軍普天間飛行場所属輸送機オスプレイが沖縄本島名護市の約80メートル沖の浅瀬に着水(?)、機体を大破させた。但し乗員2人は怪我をしたのみで、米軍嘉手納基地所属の救難ヘリが救助し、海軍病院に搬送したという。

 米軍はこの“着水”を不時着と発表、日本政府も米軍の発表に追随してのことだろう、米軍同様に不時着と発表している。

 だが、不時着にしては機体が大破している状況から、墜落ではないかとの疑いが出ている。マスコミ記事の写真を見ると、操縦席のある胴体頭部と尾翼を含む胴体後部が胴体中央部からもぎ取られ、胴体中央部は右の翼に付着しているものの、左の翼はどこかに吹き飛んでいて、普段は見えない接続部が隠されていた内臓が剥き出しになったみたいに外に曝け出された無残な姿を見せている。

 安慶田(あげた)沖縄県副知事が12月14日午後、アメリカ軍キャンプ瑞慶覧(すげらん)でニコルソン四軍調整官と会談し、抗議したところ、逆ギレされたようだ。

 勿論、会談したことを伝えている2016年12月14日付「NHK NEWS WEB」記事には逆ギレされたとは書いてはない。

 安慶田副知事「県民が配備に強く反対してきたオスプレイが、このような事故を起こしたことに対し、怒りを禁じえない」

 そしてオスプレイの飛行中止と配備撤回を要請したという。
  
 ニコルソン四軍調整官「パイロットは県民や住宅に被害を与えないようにしていて、感謝されるべきで表彰ものだ。県は政治問題化するつもりか」

 この逆ギレには生半可ではない相当な苛立ちを窺うことができる。
 
 会談後の対記者団発言。

 安慶田副知事「私たちからすれば、抗議して当たり前なのだが、抗議されること自体に非常に怒りをあらわにしていた。アメリカ軍は自分たちを理解してもらいたいと言うが、きょうのような態度では理解しようにも理解できない」

 ニコルソンの発言は明らかに逆ギレである。

 「時事ドットコム」記事がこのニコルソンの事故の状況の説明を載せている。12月14日午後、キャンプ瑞慶覧で記者会見したときの発言だそうだ。   

 ニコルソン「機体のシステムによる問題ではない。オスプレイは価値のある機体だ。空中給油を行った際に、事故機のプロペラが給油機のホースを切断。ブレード(羽根)の損傷で不安定な飛行となったため、パイロットが米軍キャンプ・シュワブ(名護市など)沖への着陸を決めた。

 (市街地の飛行を避け、海岸での着陸を選んだパイロットに対して)称賛を送りたい。沖縄の人たちを守るため、浅瀬に着陸しようとしたのは良い判断だった」(下線部分は解説体を会話体に直す)

 記事は安慶田副知事と翁長県知事の発言を伝えている。

 安慶田副知事「(ニコルソンは)植民地意識丸出しという感じがした。抗議文を読んでいる時も外を見たりして、人間性を疑った」

 翁長知事「これまでも(ニコルソンは)高圧的な発言が多かった。米軍の考え方と県民感情は大きな違いがある」
 
 別の「時事ドットコム」記事によると、〈パイロットは普天間飛行場へ帰還を試みたが、住宅地を飛行することになるため現場から数キロ離れたキャンプシュワブに変更〉して、〈海岸沿いに基地を目指したが飛行困難な状況となり、パイロットの判断で浅瀬に不時着。〉したのだそうだ。

 キャンプシュワブは沖縄県名護市辺野古にあり、基地は海沿いにまで突き出している。

 要するにパイロットは住宅地に囲まれた世界一危険とされている普天間飛行場へ帰還した場合の万が一の住宅街への不時着の危険性を想定して、それを回避するためにキャンプシュワブへの帰還に変更、どうにか機体を制御して海沿いを飛んだが、制御しきれなくなって浅瀬に不時着したことになる。

 だとしたら、なぜもっと機体が制御できていた間に不時着を試みなかったのだろう。ご存知のようにオスプレイはプロペラを垂直方向か水平方向いずれかに移動が可能で、垂直方向とした場合、ヘリコプターとして飛行し、水平方向とした場合、プロペラ機として飛行する。

 NHKのニュースで航空自衛隊で戦闘機のパイロットを務めた元空将が「夜間の空中給油訓練はベテランのパイロットでないと行えないリスクの高い訓練で、不時着時の大破の状況から大事故の類い」だといったことを話していたが、ベテランパイロットで、当初から不時着の危険性を想定していたなら、制御可能なうちに機体への衝撃をより和らげ得るヘリコプター着水を試みたはずだ。
 
 ところが、操縦席のある胴体頭部と尾翼を含む胴体後部が胴体中央部からもぎ取られて、胴体中央部は右の翼を付けているものの左の翼がどこかに吹き飛んでいる状況からすると、プロペラ機として飛行していた状態での不時着としか見えない大破となっている。

 もしそれがヘリコプターとして飛行した“着水”によって引き起こされた大破であるなら、垂直に静かに降りてきて浅瀬に到達したのではなく、空中給油を行った際に給油機のホースを切断したためにプロペラのブレード(羽根)に損傷を与えてしまい、キャンプ・シュワブに向かう途中、左右のプロペラが均一な回転力を失って、錐揉み状態の制御不可能な状態を招いて浅瀬に激突したとしか考えられない。

 しかしこの考えは前に触れたように、なぜもっと機体が制御できていた間に不時着を試みなかったかという疑問ばかりか、ベテランパイロットに相応しい、在るべき操縦能力という点で明らかに矛盾することになる。

 ここでニコルソンの逆ギレが答を導いてくれる。
 
 オスプレイのプロペラのブレイドが給油機のホースを切断したいうことがウソ偽りのない真正な事実そのもので、そのことを発端とした住宅街への不時着によって引き起こされるかもしれない重大な危険性回避のためのコース変更が招いた浅瀬への不時着にしても、同じくウソ偽りのない真正な事実そのものだとしても、夜間であろうと、空中給油中にホースを切断したこと自体が重大な過失・失態であって、それが全ての始まり・全ての原因である以上、その始まり・原因の謝罪から入って然るべきを、いわば謝罪する立場に立たされていながら、謝罪するどころか、前段を切り捨てて、コース変更を選択した後段にだけ焦点を当て、「感謝されるべきで表彰ものだ」と逆に恩着せがましいことを言う。

 まさしく開き直りの逆ギレそのものだが、ニコルソンは自身の立場上オスプレーの沖縄配備が日米の安全保障上必要であると信じているはずだから、例えそのことに反対するどのような声に出会ったとしても、逆ギレしたり苛立ったりは抑えなければならないし、それを抑えて、例え安慶田副知事がオスプレイの不時着を受けてその飛行中止と配備撤回を要請したとしても、謝罪は謝罪として行い、自身の理によって飛行中止はできないことの、あるいは配備撤回には応じることができないことの説得に掛かったはずだ。

 ところが、そういった立場上の態度を取ることも、パイロットの給油機ホースの切断という重大な過失・失態を謝罪もせずに苛立った逆ギレを見せた。

 この妥当性を欠いたニコルソンの態度に正当性を与えるとしたら、前段も後段もウソ偽りのない真正な事実などではなく、逆のオスプレーの飛行を擁護するためにつくった事実と見る他はなくなる。

 墜落という疑惑を持たざるを得ない大破の状況から、米軍の説明だけで、機体に問題があるのではなく、プロペラのブレイドが給油機のホースを切断して損傷を受けたことが原因の不時着だと早々に決着づけることはできない。

 米軍だけではなく、沖縄側の民間人を交えたパイロットに対する聴取を行って、米軍発表の事実が事実かどうか検証すべきだろう。

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安倍晋三は北方四島返還問題でプーチンに赤子の手を捻るが如くに足許を見られていると気づいていない

2016-12-15 09:56:25 | 政治

 2016年12月14日付「YOMIURI ONLINE」が12月15日の山口での安倍晋三との首脳会談を控えたプーチンとのインタビュー全文を記載している。   

 読み通して理解できることは、プーチンは北方四島を日本に返還する気はないということである。

 そのことを窺わせる発言を順を追って拾い出してみる。

 プーチン「我々は平和条約の締結をめざす。我々は完全な関係正常化を求めている。ロシアと日本との間に平和条約がないことは、過去から引き継がれた時代錯誤だ。時代錯誤は解消されるべきだ。しかし、どのように解消するかは難しい問題だ。

 あなた(インタビューを行った記者のこと)は共同宣言に触れた。その宣言には、両国が履行すべき、平和条約の基礎となるルールが書かれている。共同宣言を注意深く読むと、まず平和条約を締結し、その後、共同宣言が発効して、二つの島が日本に引き渡されると書いてある。どのような条件の下で引き渡されるのか、どちらの主権下に置かれるのかは書かれていない。にもかかわらず、共同宣言は署名された」

 ロシアから日本への領土返還なのだから、共同宣言にその点について書いてなくても、主権は我が国にあると言っているロシアから日本に移すことを想定内としなけれればならないはずだが、共同宣言には返還後「どちらの主権下に置かれるのかは書かれていない」と、予定調和とすべきその想定を否定しているということはプーチン自身は日本への主権の移行を想定していないということであろう。

 ロシアの主権のままなら、返還にはならない。主権の移行を以って返還となる当然の経緯を共同宣言には書いてないという口実を用いる以上、プーチンには二島返還の気もないということであろう。

 と言うことは、我々は目指しているとしている「平和条約締結」は領土返還なき締結を意味することになる。

 記者が4島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するという安倍晋三の立場を伝えると、プーチンは次のように答えている。

 プーチン「共同宣言には2島について書かれている。だが、(あなたは)4島の問題について言及した。つまり、共同宣言の枠を超えた。これはまったく別の話で、別の問題提起だ」

 この発言に於いて、歯舞・色丹の2島だけではなく、国後・択捉の他の2島も、いわば4島全てを返還する気がないことを窺うことができる。プーチンはその根拠は次の発言で明らかにする。

 プーチン「第2次大戦という20世紀の恐るべき悲劇の結果は、しかるべき国際的な文書によって確定していることを理解しなければならない。第2次大戦の結果として成立した国際法の基礎を崩さず、論争をどうやって解決するかはとても難しいことだ」

 プーチンのみならずロシアが公式見解としている「第2次世界大戦の結果、北方4島はロシアの領土となった」としていることの具体的な説明に他ならない。

 そして「国際法の基礎を崩すことはできない」という姿勢を取っていることからも、返還の意思がないことを窺うことができる。

 そして次のように発言している。

 プーチン「安倍首相の故郷を訪れる中で、この問題をどうやって解決できるか、はっきりと理解できるようになりたい。そうなれば、とてもうれしい。チャンスはあるのだろうか。おそらく、いつもある。なければ、話し合うことは何もない。これらのチャンスがどれくらい大きなものなのか、今は言えない。それは我々のパートナー(日本)の柔軟性にかかっている」

 要するに返還の気もないのに話し合いは「我々のパートナー(日本)の柔軟性にかかっている」と、日本の「柔軟性」だけを求めている。その柔軟性とは日本のロシアに対する経済協力なのは断るまでもない。

 領土返還交渉も平和条約締結交渉も解決は難しいと前置きした日本の対ロ経済協力に向けた「柔軟性」の要求なのだから、「柔軟性」に応えざるを得ない仕掛けを言外に含んでいる。

 次の遣り取りは記者が日本の状況を説明して今が領土交渉を前に進める「ジャストタイミング」ではないかと質問したことに対するプーチンの答であるが、この発言も領土を返還する気がないことを窺うことができる。、

 記者「1956年の共同宣言から60年たった。プーチン大統領の国内的な政治基盤は非常に強固だ。80%以上の人の支持を集めている。安倍首相も、強い政権基盤を持っている。私たちの世論調査でも、50%を超える人の支持を得ている。日本国民の側の理解だが、世論調査を見ると、かつては4島一括返還でないといけないという声が大きかったが、最近では2島先行返還でもいいという人の声も大きくなってきた。今はまさに三つの要素がそろったジャストタイミングだと思う。大統領は、これだけの条件が揃いながらも、前に進むことが困難な状況だという認識なのか」

 プーチン「そうだ。おっしゃる通りだ。安倍首相も私も国内の支持率はかなり高い。しかし、私にその信頼を乱用する権利がないと考えている。

 見い出すことができるどんな解決策もロシアの国益に合致しなければならない。しかし、我が国の国益のリストには日本との関係正常化が含まれていて、それは最後の項目ではない」

 日本との関係正常化はロシアの国益に適うが、それが「最後の項目ではない」と言っている「ロシアの国益」とは、他の発言からも4島をロシアの領土として守ると言うことを指し、返還は「ロシアの国益に合致」しないという意味をなしているはずだ。

 いくら言葉を弄しても、北方4島をロシア領として維持することを「ロシアの国益」としていることが透けて見えていながら、一方で、解決は難しいと思わせて、その交換条件として日本の対ロ経済協力に向けた「柔軟性」の具体例をプーチンは今度は次々と挙げていく欲張りを見せる。

 先ずウクライナ問題に関する欧米の対ロ制裁に日本が加わったことを槍玉に挙げる。

 プーチン「日本はロシアに対する制裁に加わった。制裁を受けたまま、経済関係をより高いレベルに進展させることができるのだろうか」

 プーチン「日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で、露日の合意がどれぐらい実現できるのか見極めなければならない。日本はどの程度、独自に物事を決められるのか。我々は何を期待できるのか。最終的にどのような結果にたどり着けるのか」

 プーチン「我々にはそれ(北方領土に於ける共同経済活動)の用意があるが、日本がロシアに対して制裁を続けたままで、同盟の義務を怠ることなく、それをやる用意があるのか。我々はその質問に対して答えを出すことはできない。日本だけがその質問に答えを出すことができる」

 領土交渉を前に進めたければ日米同盟を無視して経済制裁を解けとあからさまに要求している。

 記者が領土問題に話を戻して質問をすると、その答の中にも領土を返還する意思のないことを窺うことができる。

 記者「北方領土の問題はロシアから見ても、唯一残された国境線の問題だと認識している。2004年には、中国との間で4300キロ・メートルに亘る国境の画定をすでに終えている」

 プーチン「ロシアには、領土問題はまったくないと思っている。ロシアとの間に領土問題があると考えているのは日本だ。しかし、それについて我々は話し合う用意はある」

 日本が中国に対して「尖閣諸島に領土問題は存在しない」と言っているようにプーチンは日本に対して「ロシアには、領土問題はまったくない」とにべもないことを言っている。

 にも関わらず、「それについて我々は話し合う用意はある」と気を持たせる。ロシアにとって解決しなければならない経済問題が存在するからなのは断るまでもない。

 記者がなお食い下がるが、それに対するプーチンの答は経済問題に絞られている。

 記者「しかし、私たちが認識する限り、相当レベルの首脳同士の会話があり、その過程では、新しいアプローチという言葉も出てきたと認識している。日本の首相が言った言葉かもしれないが、双方の間で新しいアプローチを模索しようという形で、話し合いの前進があるのではないかと想像していた。今、大統領の話を聞く限り、実質的な前進がまだ得られていないというのが印象だ」

 プーチン「イエスでもあり、ノーでもある。前進はある。安倍首相が提案し、平和条約締結と領土問題の解決に向けての弾みをつけたように見える。安倍首相は何を提案しただろうか。信頼の協力の状況を作り出すことを提案した。他の方法では、平和条約締結に向けた文書に署名するのは想像もできないだろう。我々が言っているように、互いに信頼し合い、協力し合うことがなければ、文書に署名するのは不可能だ。

 だから、我々は、こうした状況を作り出すことに同意している。その意味で、前進は確かにある。例えば、安倍首相は、露日両国の最も重要で興味深い協力活動の分野において、8項目の経済協力プランを提案し、経済協力を新たな水準に引き上げるよう提案した」

 「信頼の協力の状況を作り出す」条件とは日本の対露経済協力であり、その方法でしか「平和条約締結に向けた文書に署名する」ことはできないと、ここでも平和条約締結の気を持たせて、日本の対露経済協力を促している。

 要するにプーチンが“平和条約締結に向けた文書署名”という餌で経済協力を釣ることをロシアの国益としていることに対して安倍晋三は当初は領土返還という日本の国益の解決の鍵としてプーチンとの個人的な信頼関係の構築を考えていたが、芳しい反応を得ることができず、自身の首相就任中の解決を焦る余り、と言っても、その希望が持てず、「自分の世代で」と解決の時期を後退させているが、対ロ経済協力を日本の国益解決の鍵とするに至った。

 プーチンはその足許を見て、経済協力を含めた様々な日本の「柔軟性」を求めて、自らの「国益」を満たそうとしている。

 国際関係に於ける冷徹であるべき外交術という点で安倍晋三はプーチンにとって赤子の手を捻(ひね)るようなものではないのか。

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アベノミクスの失敗を改めて証明する月末金曜日午後3時退社「プレミアムフライデー」の消費促進

2016-12-13 11:04:24 | Weblog

 昨夜2016年12月12日夜7時からのNHKニュースが政府と経済界が個人消費停滞の打破検討の協議会を12月12日開催、来年2月から月末の金曜日に買い物や旅行を促す全国規模のキャンペーンを実施、企業に対して従業員が午後3時を目処に退社できるよう対応を呼びかけて消費に繋げる方針を決めたと伝えいて、経済効果がどのくらいだといったことを流していた。

 このニュースを聞いただけで、このような方針の決定はアベノミクス失敗の最たる証明に他ならないと思った。

 先ずどのような内容の仕組みなのか、同日付「NHK NEWS WEB」から見てみる。    

 協議会は東京都内で経団連や小売りなどの業界団体の代表が出席して行われた。決定した名称は「プレミアムフライデー」

 プレミアムフライデーのロゴマークまで既に決めている。黒色の円形縁取りで中は土色に近いくすんだ黄色で、両目を表現させたのだろう、目の位置に両端を眉を吊り上げる形の半円形で盛り上げた「PremiuM」の黒文字を当て、同じく鼻を表現したのだろう、鼻の位置に横一線で「FPIDAY」の黒字を当てている。

 口は目や鼻の文字と同じ幅の黒色の線で笑みを表現する両方の口の端を上げた半円形で表現している。口の端を表現する短い線がないだけで、自然保護や反戦等の活動のシンボルマークとなった「ラブ・ピース」に似ていないことはないが、「ラブ・ピース」のような可愛らしさは全然ない。

 くすんだ黄色で目と鼻を英字で表現している分、得体の知れない表情となっている。小学生が描くような赤いスカートと青色のスカート(他の色でもいいが)を穿いて買い物籠を下げて元気よく大きく手を振って歩く向かい合わせになった小さな女子を横向きに描いて円の中央に配置するような絵の方が買い物の気分を表現するように思える。

 「PremiuM FPIDAY」の文字は下端の円の線に沿ってその内側に配置すれば十分である。

 まあ、どうでもいいことだが、記事は人手不足の傾向にある上に月末は商品の納期や仕事の締切りが集中して仕事量が普段より多くなる中小企業の対応がどうなるかといった趣意で一応示している。

 そして経済効果。永濱利廣第一生命経済研究所首席エコノミストが、国内の大手企業や中小企業の従業員が一斉に午後3時に仕事を終えて買い物や旅行、娯楽などの消費をすることを前提にした場合、1日当たり約1230億円に上ると試算しているという。

 この1日当たり約1230億円の経済効果は推計で1300億円を超える「ハロウィーン」の市場規模に匹敵すると記事は解説している。

 捕らぬ狸の皮算用となるのか、捕って皮何枚と数えた上でソロバンを弾くことになるのかやってみてのお楽しみだが、安倍晋三は首相就任後、アベノミクスの経済政策で賃金上昇と企業収益向上の好循環を景気良く謳った。

 この循環の順番は企業収益向上が先である。先ずアベノミクスの経済政策で企業が利益を上げ、その利益の一部を従業員の賃金に還元させて、還元された賃金の一部が消費に回って、その消費が再び企業の利益に回り、その利益の一部をさらに従業員の賃金に回していき、その賃金の一部が・・・・・・という繰返しがアベノミクスに担わせた“好循環”であった。

 だが、企業は日銀の異次元の金融緩和を受けた円安と株高で大きな利益を上げたが、アベノミクス本体の経済政策ではさしたる利益を上げることができなかった。円安と株高が主たる元手の利益は円高と株安に振れた場合、自動的に吐き出さなければならなくなる。企業は賃上げに慎重になった。

 これでは好循環が始まらないと見た安倍晋三は企業の尻を叩いて賃上げを要請し、いわゆる官製賃上げによって企業は僅かながらに賃上げに応じたものの、金額が僅かであっても、大企業とその正社員には厚く、中小企業とその正社員には薄く、非正規社員にはなお薄い配分のため、下に行く程人数が多い賃金構成が邪魔をして個人消費額は上がらなかった。

 このことだけでもアベノミクスの失敗を証明しているのだが、その失敗を「有効求人倍率は47全ての都道府県で1倍を超えた」とか、「実質賃金もプラスに転じ、6カ月連続でアップしている」、「安倍政権は100万人の雇用をつくった」等々の指標を持ち出して、「経済の好循環は生まれている」とゴマカシていたが、賃上げが消費に結びつかない状況に痺れでも切らしたのか、消費そのものを直接上げるために政府が経済界の尻を叩く官製の消費促進に打って出たのだろう。

 この官製消費促進に打って出ざるを得ない現状こそが官製賃上げによって露わとなったアベノミクス失敗に追い打ちをかける、その失敗の最たる証明に他ならない。

 このことは上記記事が拾った街の声が裏付けている。

 広告会社勤務20代男性「自分の会社では午後3時に仕事を終えるのはかなり難しいと思う。所得を増やすような施策がない中で消費につながるかは疑問だ」

 「所得を増やすような施策がない」という表現でアベノミクスの失敗を言い当てている。

 映像制作会社勤務20代女性「早く退社できれば有意義に時間を使いたいが、将来の不安があるので給料が増えないならお金はあまり使わず貯金にまわしたいと思う」

 個人消費が増えないのは将来の不安が原因だとよく言われているが、この女性は職場に於ける不安定な地位をも含めた不安定な将来ということかもしれないが、そういった諸々の不安を払拭してくれる政治が行われていないことの言い回しであって、やはりアベノミクスの失敗に言及した街の声であるはずだ。

 化学メーカー勤務50代男性は「フレックス制度なども定着してきているし曜日を決めて取り組むのはとてもよいことだと思う。映画や旅行に行きたい」

 従業員数が多くなる程フレックスタイム制を導入している企業の割合が増えているということだから、それなりの規模以上の会社に勤めて、それなりの賃金を得ているからできる消費行動の予定なのだろう。

 人材派遣会社勤務30代の男性「金曜に早く帰れるならとてもうれしいし、休日の充実につながる。経済にもよい効果があるのではないか」

 「プレミアムフライデー」の消費に意欲を燃やしている。

 これらの街の声から透けてくる光景はアベノミクスの失敗ばかりではなく、巷間よく言われているアベノミクスは格差ミクスという光景でもあるはずである。

 街の声による後二者は積極的な消費意欲を見せているが、それが少数派であって、官製消費促進に過ぎない「プレミアムフライデー」が官製賃上げ同様にアベノミクス失敗の証明でしかないことを消費者庁のサイトからも窺うことができる。

 「平成26年版消費者白書」 

 〈社会経済活動の中で、消費活動は非常に大きなウエイトを占めています。消費者が支出する消費額の総額は、2013年現在約286兆円で、経済全体(国内総生産(GDP)=約478兆円)の約6割を占めています。〉

 「平成27年版 消費者白書」  

 〈家計が支出する消費額の総額は、2014年に約288兆円で、経済全体(国内総生産(GDP)=約488兆円)の約6割を占めている。〉
 
 「平成28年版消費者白書」  

 〈家計が支出する消費額の総額は、2015年に約285兆円で、経済全体(国内総生産(GDP)=約499兆円)の約6割を占めている。〉
 
 2013年の消費総額は約286兆円、
 2014年の消費総額は約288兆円
 2015年の消費総額は約285兆円

 2014年4月1日から消費税が5%から8%へと増税している。2013年末から2014年4月にかけて買い溜め目的の駆け込み需要によって消費が増えた。それが2013年約286兆円に対する2014年の2兆円増の約288兆円となって現れたのだろう。

 だが、2015年は駆け込み需要の反動もあるが、約285兆円と、2014年と比較して3兆円、2013年と比較して1兆円減らし、2013年から2014年に掛けての駆け込み需要での2兆円増を1兆円上回る2015年消費総額の下振れとなっている。

 各年とも賃金が上がっているにも関わらず、それが大企業偏向の官製の賃上げで、アベノミクスが押し上げた自律性を構造とした賃上げでないことからの消費の低迷であり、自律性を一度も吹き込まれていないことが経済の好循環のエンジンとはなり得なかった原因であろう。
 
 アベノミクスのその失敗を拭うために次の一手として「プレミアムフライデー」なる官製の消費促進に出た。

 要するにアベノミクスの失敗を改めて証明するためのアイテムに過ぎない。

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安倍晋三の東京パラ・オリンピック「世界一の大会にする」を世界一のハッタリ・大風呂敷と見るか否か

2016-12-12 11:15:55 | 政治

 日本の首相安倍晋三が2016年12月11日、都内で開催された新国立競技場整備事業起工式に出席し、挨拶している。

 「挨拶」
 
 安倍晋三「本日ここに、新国立競技場整備事業起工式が挙行されるに当たり、一言御挨拶を申し上げます。

 昨年7月、旧整備計画の白紙撤回に際し、私は、新国立競技場を国民、そしてアスリートから祝福されるものにする、世界の人々に夢と感動を与えられるような場にしていくと申し上げました。

 その後、関係者の皆様の御尽力により、アスリートを第一とし、世界最高のユニバーサルデザインを備え、周辺環境等との調和や日本らしさを取り入れた、新しい競技場の姿が描かれてまいりました。その姿は、この神宮外苑や旧国立競技場の歴史を受け継ぎ、新時代のスポーツと文化を発信する競技場として生まれ変わると私たちに強く確信させてくれるものであります。

 先般のリオデジャネイロ大会は、日本選手団の大活躍により、幕を閉じました。ブラジルから引き継いだバトンを手に、東京オリンピック・パラリンピックを、世界一の大会にしなければなりません。夢と希望を分かち合う大会、誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する大会、我が国の『未来』を切り拓く大会にしていかなければなりません。

 新しい国立競技場は、正にその舞台にふさわしいスタジアムです。4年後、多くのアスリートが、この競技場で、自己の限界に立ち向かい、人や社会を元気にしてくれると信じています。

 いよいよ建設工事が本格化しますが、今日に至るまでの関係各位の御努力に対し、心より敬意を表します。これより、日本スポーツ振興センター、その他関係者の協力の下、新しい国立競技場が無事竣工し、新時代のスポーツと文化を発信する拠点となっていくことを心より祈念いたしまして私の挨拶とさせていただきます。

 先般のリオデジャネイロ大会は、日本選手団の大活躍により、幕を閉じました。ブラジルから引き継いだバトンを手に、東京オリンピック・パラリンピックを、世界一の大会にしなければなりません。夢と希望を分かち合う大会、誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する大会、我が国の『未来』を切り拓く大会にしていかなければなりません。

 安倍晋三は「先般のリオデジャネイロ大会は、日本選手団の大活躍により、幕を閉じました。ブラジルから引き継いだバトンを手に、東京オリンピック・パラリンピックを、世界一の大会にしなければなりません」と前置きして、目指すべき目標を「夢と希望を分かち合う大会、誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する大会、我が国の『未来』を切り拓く大会」に置いた。

 いわば、「夢と希望を分かち合う」という点で「世界一」を、「誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する」という点で、「世界一」を、「我が国の『未来』を切り拓く」という点で「世界一」を掲げたことになる。

 なかなか欲張っている。これをハッタリ、大風呂敷の類いと見るか否か。

 安倍晋三は自身の政治能力、日本という国の総合力を弁えているのかどうか、兎にも角にも「世界一」が大好きなようである。東京パラ・オリンピックを「世界一の大会にする」と言ったのは今回の挨拶が初めてではない。

 《第192回国会に於ける安倍晋三所信表明演説》(首相官邸/2016年年9月26日)

 安倍晋三「一 はじめに

 世界一への執念。

 歴代最多のメダルラッシュとなったリオ五輪では、世界の強豪たちに真っ向勝負を挑み、最後の一瞬まで勝利を諦めない選手たちの姿に、日本中が感動しました。

 4年後の東京オリンピック・パラリンピックは、必ずや、世界一の大会にする。何としても、成功させなければなりません。同時に、我が国の『未来』を切り拓く。私たちもまた、世界一暮らしやすい国、世界一信頼される国を目指し、新たなスタートを切る時です」――

 リオ五輪では「歴代最多のメダルラッシュとなった」と言っている。確かに「歴代最多」は事実そのものだが、諸々の事実の単なる一つに過ぎないことを隠している。

 リオ五輪でメダル獲得第1位のアメリカは金46個、銀37個、銅38個の合計121個。対して日本は金12個、銀8個、銅21個の合計41個に過ぎない。

 人口割でメダル数を比較する方法があるが、国勢調査に基づいた日本の2016年11月1日現在の人口は1億2695万人。ネットで調べたアメリカの2014年人口は3.189億人。

 大雑把に1億人に3億人と見ると、日本の人口はアメリカの人口に対して3分の1となる。アメリカの合計メダル数121個÷3≒日本の合計メダル数40個。

 日本の合計メダル数41個に対して人口割りにした場合の合計メダル数はほぼ同数となる。

 だとすると、金メダルの数もほぼ同数でなければならない。アメリカは金46個÷3≒15個。日本の金メダルは12個。12個が精一杯だったのだから、3個の差は大きい。

 しかも日本の金メダル12個の内、お家芸と言われているレスリングが4個、柔道が3個と半数を超えていのに反してオリンピックの華と言われている陸上競技に至ってはゼロ個となっている。

 人口割でメダル数を比較するなら、陸上競技に限って身体能力が違うという言い訳は許されない。

 夏季オリンピックの華の中の華と言われているマラソン男子ではかつて君原健二や森下広一が銀メダル、円谷幸吉が銅メダルと活躍し、女子マラソンに至っては野口みずきと高橋尚子が金メダル、有森裕子が銀に銅と活躍している。

 確かにここのところ身体能力が極めて高いアフリカ勢の独擅場となっているが、2004年のアテネ大会の男子マラソンではイタリアが金、アメリカが銀、ブラジルが銀とアフリカ勢以外から出し、野口みずきは銀のケニアを抑えて金を獲得し、高橋尚子はルーマニアの銀、ケニアの銅を抑えた金であるのだから、アフリカ勢の身体能力を絶対とすることはできない。

 こういった数ある事実を隠した、安倍晋三が言っている「歴代最多のメダルラッシュとなった」に過ぎない。

 安倍晋三は所信表明で東京オ五輪は「我が国の『未来』を切り拓く。私たちもまた、世界一暮らしやすい国、世界一信頼される国を目指し、新たなスタートを切る時です」と言っているが、パラ・オリンピックは他の競技大会同様に競技選手の各競技に関わる身体的と精神的限界に向けた可能性への挑戦の機会の主たる一つであり、挑戦とその成功如何は各選手が個々に担う。

 一人が成功したからと言って、次のオリンピックで他の競技者が成功するとは限らない。このような可能性への挑戦の繰返しであって、このことは日本の競技選手に限らず、世界中の競技選手に与えれれている挑戦の機会であり、各国選手が分け合う限られた成功であって、日本人選手が活躍したという喜びや同じ日本人として自信を与えられることはあっても、そういった精神性以外に国民全般に何らかの形ある恩恵として与えるものではないから、科学の分野に於ける何らかの挑戦と成功がそれぞれに形ある恩恵を国民全般に与えるのとは違って、「我が国の『未来』を切り拓く」契機となるわけではない。

 このことは1964年の東京オリンピックを見れば理解できる。このオリンピックの成功は日本人に強い自信を与えた、その自信は日本の高度成長の力強い推進力となったものの、社会的インフラに傾いた、いわばハコモノに偏った高度成長であって、10年後にはバブル時代(1986年~1991年)を迎えることになった。

 このバブルは書類だけの売買契約で土地の値段を釣り上げていった土地転しや暴力団等を使った土地・家屋からの強制的な追い立てによる地上げ行為で天井知らずに上昇させた土地資産価格が誘発した一大好景気であって、このようは悪徳性の蔓延に行き着いた日本の発展途上に於ける一大イベントとしての1964年東京オリンピックであり、教育や文化まで含めて、「我が国の『未来』を切り拓いた」わけではない。

 当然、2020年東京パラ・オリンピックにしても、「我が国の『未来』を切り拓く」ことはないだろう。小泉純一郎政権とその後継の第1次安倍内政権で日本の社会は格差が拡大し、第2次安倍政権でなおのこと格差は拡大しているのだから、日本の素晴らしい建築技術で建設した世界に誇ることのできる競技場で日本人選手が活躍して、日本国民の多くが世界一の「夢と希望を分かち合う」ことになったとしても、あくまでもパラ・オリンピックに限った分かち合いであって、富裕層や準富裕層は兎も角、一般生活者の現実的生活のレベルでの分かち合いとは決してなることはない。

 「誇れるレガシーを創出し、日本の力を世界に発信する」ことに成功したとしても、開会式、あるいは閉会式の演出や選手村の運営等に限った成功であって、そのことが政治に反映されるわけではなく、当然、今の日本を覆っているこの現実を変える力とはなりはしない。

 2020年東京パラ・オリンピックが「我が国の『未来』を切り拓く」ことはないということである。

 安倍晋三が「世界一」と言っているどの点を取っても、ハッタリ・大風呂敷の類いで終わるだろう

 所詮オリンピックはそれがどれ程に大仕掛けであろうと、祭りに過ぎない。熱狂は終われば覚める。「『未来』を切り拓く」力など持っていない。

 「『未来』を切り拓く」力は政治にかかっている。政治はそれを行う政治家の選択にかかっている。その選択は選挙という手段を通して国民が行うのだから、国民の良識が本質のところで深く関わっている。

 回り回って政治にかかっているとしても、「『未来』を切り拓く」のは戦前回帰を旨としている安倍政治ではない。

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蓮舫の「党首討論・裏実況中継」評価10点満点中8点に「いきなり10点取ると」云々の客観性なき過剰自負

2016-12-10 10:54:38 | 政治

 安倍晋三と蓮舫の党首討論は2016年12月7日。この模様を細野豪志代表代行と玉木雄一郎幹事長代理が「党首討論・裏実況中継」と称してネット上で実況解説している。

 党首討論翌日の12月8日、蓮舫は民進党本部で「記者会見」を行った。

 安積フリーランス記者「昨日のQT(党首討論)の時に、党本部で『裏実況中継』というのを細野豪志さんと玉木雄一郎さんがされた。その後で党首討論の点数をつけていただいたが、お二方とも蓮舫代表の初QTは『8点』だと言われた。

 これは100点満点でなく、10点満点で8点。10点満点で8点という評価についてどう思われるか。あと2点なかったわけだが、ご自分でこの2点取れなかったのはどういうところと思われているか。そのあたりを伺いたい」

 ネットで調べると、「QT」というのは、党首討論(=Question Time)の略だそうだ。

 蓮舫「100点満点でなくてよかったな、というのが正直なところと(笑い)、いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので、まだまだ謙虚に皆さんの声を聞きたいと思います」

 「100点満点でなくてよかった」と言っていることは、「100点満点の採点で8点でなくてよかった」という意味なのは断るまでもない。

 但し10点満点中8点という高成績に「いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので」と応じている。

 この発言が意味していることは10点満点を取る能力を有していることの示唆となっているということであろう。その能力を有していなければ、「いきなり10点を取ると」いう言葉は出てこない。

 言外から「10点を取ることもできます」との思いを窺うことができる。いわば自分には10点を取る力があるという自負でもある。

 要するに「党首討論は初めての経験だったから、8点程度が妥当な成績ではないのか」といったところが8点という採点に対する蓮舫自身の自己評価と言うことになる。

 但しである。党首討論に於けるそれぞれの党首のディベート術に対する各陣営の評価は自陣営の党首に対する採点は甘く、敵対陣営の党首に対する採点は辛いと相場が決まっている。
 
 蓮舫はこのことを知っていないはずはない。知っていないとしたら、蓮舫の客観的判断能力を疑わないわけにはいかなくなる。

 「党首討論・裏実況中継」を行った細野豪志は2016年9月2日告示・9月15日の民進党代表選ではグループから立候補を求められていながら、立候補せずに蓮舫の推薦人に名前を連ね、グループとしても蓮舫を推し、代表に当選した蓮舫から代表代行の役を仰せつかっている。

 玉木雄一郎は代表選では蓮舫の対抗馬として前原誠司と共に立候補し、敢えなく討ち死にしたものの、幹事長代理に任命されている。

 共に蓮舫執行部の一員であるという点からも、両者が自陣営の蓮舫のディベート術に辛い採点をつけるはずはなく、初出陣にしては健闘したとそれなりに色をつけたはずだ。

 それが10点満点中の8点ということであるはずだ。

 当然、細野豪志と玉木雄一郎の色をつけた8点の採点と、その採点に対して「いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので」という言葉に現れている蓮舫自身の8点どころか、10点を取る力があるとする自負との間に落差が生じていることになる。

 この落差はそのまま蓮舫自身の客観的判断能力のなせる技と見ることができる。

 大体が相手の未知の発言に応じたこちらの相手にとって未知の発言、こちらの相手にとって未知の発言に応じた相手の未知の発言という何が出てくるか予想が難しい、それゆえに言葉を咄嗟に紡ぎ出す力を試される臨機応変の戦いを求められる党首討論に公平に見て、100点満点とか10点満点とかありようがない。

 もしあるとしたら、それぞれの政策が100点満点で100点、10点満点で10点の内容でなければならない。そういった満点の政策であるなら、誰からも追及を受ける隙きが存在しないことになるからだ。

 言葉を紡ぎ出す力がなくても、この政策のどこに不備がありますかと尋ねるだけで片付く。

 利害の異なる人間の全ての利害を満足させるような満点の政策など、どこにも存在しない。政策に不備があるから、党首討論は成り立つ。政策の不備に応じて党首討論に於ける発言も満点ということはあり得ない。

 蓮舫は「いきなり10点を取ると次のハードルも高くなりますので、まだまだ謙虚に皆さんの声を聞きたいと思います」と、「謙虚」という言葉を使っているが、10点を取る力があるとする自負からは謙虚さの微塵も感じ取ることはできない。

 だが、蓮舫は満点を取る力があると自負している。

 もし実際に謙虚さがあったなら、党首討論終了後に、決して無いとは言えない自身の足らないところを反省していたはずだから、記者の「あと2点なかったわけだが、ご自分でこの2点取れなかったのはどういうところと思われているか。そのあたりを伺いたい」という問いに素直に答えていたはずだ。

 もう一つ素直に答えなければならない理由は、党首討論で蓮舫は安倍晋三が蓮舫の問いそのものに答えなかったことに対して「ちゃんと真っ正面から答えて下さいよ」と批判していたからである。

 他人が正面から答えないことを批判しながら、自身は正面からの答を避ける。 

 謙虚さの無さが満点を取る力があるといった過剰な自負を生み、客観的判断能力を失わせている原因となっているはずだ。

 蓮舫はこの記者会見でもう一つ真正面からの答を避けている場面を見ることができる。
 
 佐藤読売新聞記者「昨日、蓮舫代表の党首討論の内容をめぐって、おそらく総理のことを『息をするようにうそをつく』と発言した部分に関して、橋下徹前大阪市長がツイッターで、『人格攻撃はよくない』と。その上で、蓮舫代表は『二重国籍問題ではバリバリのウソつきだ』という投稿をした。もしその件で感想なり反論があればお願いしたい」

 蓮舫「様々なご指摘は、謙虚に受け止めます」

 蓮舫は真正面から答えずに「様々なご指摘は、謙虚に受け止めます」と答えたことで、「ウソつき」という非難を間接的に認めたことになる。

 もし認めていなければ、「私は二重国籍問題ではバリバリのウソをついてはいません」と真正面から答えることになったはずだからだ。

 但しこの発言は実際にウソをついていた場合、ウソが露見したときのウソつきであることの更なる言質となるが、「様々なご指摘は、謙虚に受け止めます」という発言はどのような言質ともならない無難な発言となる。

 このことを計算して使った言葉だとしたら、なかなかの海千山千の強(したた)かさを心得ていることになるが、そう言った強かさは政治家に必要な資質だとしても、謙虚さの無さや過剰な自負、客観的判断能力の欠如といった資質を併せ持つと、時と場合に応じて国民の支持を失う危険性に早変わりすることもあり得る。

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党首討論:蓮舫の追及どころを間違えた「総理の答えない力、逃げる力、ごまかす力、まさに神っています」

2016-12-09 11:21:59 | 政治

 2016年12月7日午後3時から国家基本政策委員会両院合同審査会で安倍晋三と民進党代表蓮舫の党首討論が行われた。国会質疑での蓮舫の安倍晋三に対する追及の程度からしてあまり期待していなかったが、期待していなかった通りとなった。

 但し安倍晋三の発言に対して自身では気の利いていると思っているに違いない短く纏めた機知に富んだ言葉を咄嗟にいつも通りに幾つか吐いていて、頭の回転の良さを見せていたが、その言葉だけを取り上げると、効果的に皮肉を効かせた発言に見えるが、いくらそうであったとしても肝心の追及どころを間違えて安倍晋三を追い詰めることができなかったのだから、相手の胸に刺さらない言葉だけの皮肉で終わる。

 ブログ題名に使った「総理のその答えない力、逃げる力、ごまかす力、まさに神っています」もその一つで、他に「強行採決をしたことがない?よく、息をするように嘘をつく」もその一つであろう。

 この「息をするように嘘をつく」の言葉に対して橋下徹が自身のツイッターに投稿した「これが事実なら民進党蓮舫さん、人格攻撃はよくないよ。人を嘘つき呼ばわりしたら、蓮舫さんなんか二重国籍問題ではバリバリの嘘つきだ。国民はしっかり見ている。詐欺罪で有罪判決を受けながら僕を詐欺師呼ばわりした辻本清美とやはり同類か!政策論争に徹すべき」との発言を「産経ニュース」が伝えている。 

 私自身もブログに、〈蓮舫の二重国籍問題が騒がれている。日本国籍を有していさえすれば、台湾国籍放棄は手続きの問題だから、騒ぐ程のことはないと思うが、この問題での蓮舫の発言が微妙に違っていることである。となると、蓮舫の正直さが問われることになる。正直でなければ、代表の資格はない。〉と書いた。

 安倍晋三と蓮舫の党首討論の発言は12月7日付「産経ニュース」記事から引用することにした。全体的なことは参考にして貰いたい。  

 蓮舫が追及どころを間違えた発言をする前に幾つかの遣り取りがあったから最初にそれを紹介したいと思う。 

 先ず蓮舫は日本には536万人もギャンブル依存症の疑いのある患者がいる、そういった依存症患者は勤労を怠り、副次的犯罪を誘発する危険性を抱えている、にも関わらず5時間33分の審議時間のみで強行採決に踏み切ったのはなぜなのかと追及した。

 対して安倍晋三は2014年に視察したシンガポールの施設は「カジノだけではなくて、ホテル、あるいは劇場、ショッピングモールや水族館、また、テーマパークも構成」していて、「カジノといわれる施設の床面積は3%のみ」だから問題はないといった趣旨の発言をし、同時にIR法案は議員立法であって国会で決めることだからと、強行採決は自身に関係ないといった趣旨の発言を見せた。

 この発言に蓮舫は2011年にIR議連ができたときの最高顧問は安倍首相であって、2014年のシンガポールのカジノ視察は総理としてのカジノ視察であり、「成長戦略の目玉になる」と発言していた「総理肝いりの法案だから、伺っているんです」と、議員立法で済ますわけにも強行採決に無関係だと済ますわけにもいかないといった趣旨の発言で応酬した。

 こういった遣り取りがあってから、安倍晋三と蓮舫の次の遣り取りの場面に移る。

 蓮舫「先程総理、おっしゃいました。カジノIR施設は、その中でカジノはわずか3%の面積だと。それ以外は商業施設、国際会議場、ホテル等で、確かにそこにおいては、設備投資、雇用を生み出す経済効果は一時あるかもしれません。けれども、総施設の売上のその7割、8割、9割は、わずか3%のカジノが生み出しています。カジノだけが盛り上がって、儲かって、それ以外の施設は衰退しているという事例が、世界でも報告されています。

 カジノは、なぜ問題なのか。それは負けた人の掛け金が収益だからです。依存症に陥って、借金までして、それでも勝てなくて、負けた金が、それが収益であり、利益になる。つまり、サービス業やものづくり産業のような、新たな付加価値は全く生み出しません。これのどこが成長産業なんでしょうか。私は国家の品格に欠くと思う。成長産業であるという理由を端的に教えていただけませんか」

 安倍晋三「まさにですね、この法案の中身については、中身については、これ欠席はされずに、まさに委員会においてご議論をいただきたい、こう思うわけであります。議員立法でありますから、私はこれ、閣法ではございませんから、これについて説明をするですね、私は責任を負っていないわけでございますので、提案者にですね、対して、すいません、ちょっとね、(柳田稔委員長「総理、ちょっと待ってください。静粛にお願いします」) 民進党のみなさん、静かにやりましょうよ。

 委員長、お願いしますよ。こんなにね、ワーワーワーワー騒がれますと、私もしゃべりにくいんですよ。よろしいですね。みなさん、落ち着かれましたか。よろしいですか。よろしいですね。はい。そこでですね、やはりこれはまさに委員会において、建設的な議論をですね、これ専門家である提案者にしっかりと質問していただきたい。こう思う次第でございます」

 蓮舫「総理自らが成長産業の大きな目玉になるとおっしゃっているんです。なぜ成長産業につながるのか教えて下さい」

 安倍晋三「これは先ほど申し上げました、いわば統合リゾート施設であり、床面積の3%は確かにカジノですが、それ以外は劇場であったりテーマパークであったりショッピングモールであったり、あるいはレストランであるわけです。それは当然、そこに対しての投資があるわけで、投資があり、それは雇用にもつながっていくのは事実であります。だからこそ統合リゾートと言われているわけです。町中にカジノができるものでは全くないわけでございまして、限定的な場所で今言ったような形で作られることについてはご理解をいただきたいと思う次第です」

 蓮舫「ただのリゾート施設だったら法律は要らないんです。カジノが入っているから、こうやって法律を出しているんじゃないですか。だからカジノがどうしたら成長産業に資するのかと何度も伺っても、総理のその答えない力、逃げる力、ごまかす力、まさに神っています」――

 「総理のその答えない力、逃げる力、ごまかす力、まさに神っています」という発言は一見、効果的に皮肉を効かせた、相手をたじろがせる言葉に見えるが、要するに「カジノがどうしたら成長産業に資するのか」という追及を早々に引き上げて、そのように結論づけだけの話に過ぎないのだから、安倍晋三にとっては痛くも痒くもなかったはずだ。

 事実蓮舫は追及の急所を一度は掴みながら、その追及に徹すべきところを、公明党の中でも山口代表や何人かの議員がIR法案に反対していることを挙げて、反対の正当性の要因に加えようとしたり、今年度の税収の下振れ問題や電通の長時間労働の犠牲となって自殺した女性の名前を上げて長時間労働の是正の問題等の追及に移ってしまうことで徹すべき追及どころを間違えてしまった。

 統合型リゾート施設の中でカジノが占める面積は3%でも、施設全体の総売上の「7割、8割、9割」はカジノの売り上げによって占められていて、カジノで「負けた人の掛け金」を主たる収益としていると認識していたのなら、「カジノで負けた人の掛け金を主たる収益としているカジノ併設の統合型リゾート施設を成長戦略の目玉とするというのは、国家の品格を欠くのではないのか」となぜ最後まで追及しなかったのだろう。

 蓮舫のIR施設の整備が「成長産業であるという理由を端的に教えていただけませんか」という追及に安倍晋三は真正面から答えず、そのことにヤジが上がると、そのヤジを批判することで自身の発言の正当性の保証に使ういつもの狡猾な誤魔化しに、「そういった誤魔化しは使わないで欲しい」とピシャっと遮ってしぶとく追及を続けるべきところを、「総理のその答えない力、逃げる力、ごまかす力、まさに神っています」と安っぽく結論づけてしまった。

 折角の追及どころを、そうであることを気づかないままに自身から手放してしまった。

 蓮舫が今年度の税収の下振れ問題を追及したのに対して安倍政権は100万人の雇用をつくった、47のすべての都道府県で有効求人倍率は1倍を超えた、企業の収益は過去最高だといった統計を例の如くに示してアベノミクスの成果を誇っているが、いくら誇ろうとも個人消費は殆ど停滞したままの状況にある。

 個人の消費生活を豊かにしない、それ以外の経済指標の好結果とは一体何なのだろう。一部の富裕層・準富裕層だけが消費生活を謳歌しているということではないのか。

 ここに見えるのは格差社会そのものである。

 また税収の下振れは「円高である」と円高原因説を挙げているが、過去最高の企業収益が円安と株高に支えられ、税収の下振れが円高と円高を受けた株安に原因があるなら、アベノミクス自体は企業収益や税収にプラスの値を与える力はないと言っているに等しい。

 なぜこれらの点を掴まえて追及しなかったのだろう。ここでも追及どころを間違えた。

 安倍晋三はアベノミクスの成果を誇った挙句に「統合リゾートとしてさまざまな投資が起こり、まさに雇用を作っていくことにつながっていくということを先程申し上げたところです」と、蓮舫のIR施設の整備が「成長産業であるという理由を端的に教えていただけませんか」との追及をケロッと忘れて、それをアベノミクス成長戦略の一つに加えている。
 
 つまり「負けた人の掛け金」を主たる収益としていようがしていなかろうが、「投資が起こり、雇用を作っていくことにつながってい」けばいいとしたことになる。

 勿論、「投資が起こり、雇用を作ってい」けば、それだけで終わるわけではない。「投資」は回収し、回収の上に利益を積み上げていかなければならないし、「雇用」は維持していかなければならないし、利益の積み上げに応じて増やしていかなければならない。

 全て原資は「負けた人の掛け金」と言うことになる。

 と言うことは、統合型リゾート施設(IR施設)はカジノでのギャンブルで儲ける客よりも負ける客をより多く塩梅しなければ、施設自体が企業として成り立たないばかりか、成長産業ともならないし、成長戦略の目玉にもならないことになる。

 ギャンブルで儲ける人間よりも負ける人をより多く出さなければならないということなら、ギャンブルに負ける人間をつくり出す産業であり、成長産業でもあり、負ける人間をつくり出すことを成長戦略の目玉としているということになる。

 日銀の金融政策を受けた株価と為替以外、見るべき景気策を持たないアベノミクスだから、なり振り構わってはいられなくなったのだろう。そのなり振りの構わなさが強行採決という現象となって現れたはずだ。

 蓮舫は折角の党首討論デビュー戦で満を持していたはずだが、一見気が利いているように見える警句紛いの発言だけを実際には何の役にも立たないままに印象に残こることとなった党首討論となった。

 一番の原因は既に触れているように追及どころを間違えたからだろう。

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安倍晋三訪問の戦争の始まり真珠湾と戦争の終わり広島・長崎は日本の愚かしい政治家と軍人が作り出した

2016-12-08 11:27:22 | 政治
 

 安倍晋三が12月26日と27日にハワイに行き、オバマ大統領と共に真珠湾を訪問、「犠牲者の慰霊」と「日米の和解」を演出すると言う。

 この演出を日本国内ばかりか、米国内からも評価の声が上がっている。きっと日米関係の新たな転換点を期す安倍晋三の歴史的な外交成果――レガシーとして記録されるに違いない。

 だが、日本の対米戦争の始まりが真珠湾攻撃であり、その終わりの鐘を撞いたのが広島・長崎原爆投下の紛れもない歴史的事実であることを忘れてはならない。

 その歴史を噛み締めずに「犠牲者の慰霊」と「日米の和解」のみをクローズアップさせたのでは、慰霊にしても和解にしても、反省という痛みを伴わせることのない自己目的化させることになる。

 これから書くことは既に世間一般に知られた事実であり、当ブログでも何度も取り上げてきたことと同じ内容となるが、歴史の事実から離れて慰霊と和解のみに視点を向ける自己目的化を避ける観点から、開戦と終戦に於ける日本側の動向を再び書いてみることにした。

 昭和15年(1940年)9月30日付で内閣総理大臣直轄の研究所として設立された総力戦研究所の所長から昭和16年(1941年)7月12日に研究生に対して日米戦争を想定した、研究生を閣僚とした演習用の青国(日本)模擬内閣実施の第1回総力戦机上演習(シミュレーション)計画が発表された。

 東条英機が1941年(昭和16年)10月18日に首相就任する3カ月前で、当時は陸軍大臣の地位にあった。

 〈模擬内閣閣僚となった研究生たちは1941年7月から8月にかけて研究所側から出される想定情況と課題に応じて軍事・外 交・経済の各局面での具体的な事項(兵器増産の見通しや食糧・燃料の自給度や運送経路、同盟国との連携など)について各 種データを基に分析し、日米戦争の展開を研究予測した。

 その結果は、「開戦後、緒戦の勝利は見込まれるが、その後の推移は長期戦必至であり、その負担に青国(日本)の国力は 耐えられない。戦争終末期にはソ連の参戦もあり、敗北は避けられない。ゆえに戦争は不可能」という「日本必敗」の結論を導き出した。

 これは現実の日米戦争における(真珠湾攻撃と原爆投下以外の)戦局推移とほぼ合致するものであった。

 この机上演習の研究結果と講評は8月27・28日両日に首相官邸で開催された『第一回総力戦机上演習総合研究会』にお いて当時の近衛文麿首相や東條英機陸相以下、政府・統帥部関係者の前で報告された。

 研究会の最後に東条陸相は、 参列者の意見として以下のように述べたという。

 東条英機「諸君の研究の労を多とするが、これはあくまでも机上の演習 でありまして、実際の戰争といふものは、君達が考へているやうな物では無いのであります。

 日露戦争で、わが大日本帝國は勝てるとは思はなかった。然し勝ったのであります。あの当時も列強による三國干渉で、止むに止まれず帝国は立ち上がったのでありまして、勝てる戦争だからと思ってやったのではなかつた。

 戦というものは、計画通りにいかない。意外裡な事が勝利に繋がっていく。したがって、諸君の考えている事は机上の 空論とまでは言はないとしても、あくまでも、その意外裡の要素というものをば、考慮したものではないのであります。なお、 の机上演習の経緯を、諸君は軽はずみに口外してはならぬということであります。」〉(「Wikipedia―総力戦研究所」

 日露戦争(1904年(明治37年)2月8日~1905年(明治38年)9月5日)から総力戦研究所の日米開戦シュミレーションの1941年7月・8月まで40年近く経過している。武器・兵器の技術的発達、その発達に応じた戦術・戦略の時代的変化を計算に入れずに40年前の日露戦争を持ち出すこと自体時代遅れとなっている。

 このような時代遅れの軍人が陸軍大臣を務め、首相となってアメリカに戦争を仕掛けた。

 しかも日露戦争当時よりも日本は国力を増しているが、それ以上にアメリカは国力をつけ、総合的な国力でアメリカは日本の20倍と言われていた。

 そのような国力や国力に対応した軍事力、戦術等の彼我の力の差を計算に入れた戦略(=長期的・全体的展望に立った目的行為の準備・計画・運用の方法)を武器とするのではなく、それらを無視しているばかりか、戦術的にも戦略的にも過去の戦争に位置づけなければならない約40年前の日露戦争時の「意外裡」(=計算外の要素)を持ち出して、それを武器にアメリカを仮想敵国とし、首相になってアメリカに対して1941年12月8日未明の真珠湾攻撃を以てして戦争を仕掛けたのだから、当時の日本の軍人や政治家の愚かしさは計り知れない。

 さらに東条英樹は陸軍大臣当時の1941年1月8日に大日本帝国陸軍に示達した戦陣訓「恥を知る者は強し。常に郷党(きょうとう)家門の面目を思ひ、愈々(いよいよ)奮励(ふんれい)してその期待に答ふべし、生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず、死して罪過の汚名を残すこと勿(なか)れ」によって戦うことを死と結びつけて、日本兵そのものを無駄な死へと追い詰めていったのである。

 この余裕の無さは日本軍の非力の裏返しであるはずだが、その構造にさえ気づかなかった。

 東条英機は陸軍大将まで上り詰めている。陸軍大将の脳ミソがこのような愚かしさを成分としていたのだから、日本の軍人全体の程度、日本軍自体の程度は知れていることになる。

 東条英機と並んでその代表格として杉山元を挙げなければならない。

 杉山元は陸軍士官学校卒業、陸軍大学校卒業と東条英機と同様の学歴を経て、陸軍大臣、陸軍参謀総長、教育総監の陸軍三長官を全て経験し、そして元帥になっている優れた大日本帝国軍人であって、このような最高の経歴を得たのは大日本帝国軍隊史上、他に2人しか存在しないという傑出さを誇っている。

 1941年12月8日未明の真珠湾攻撃を3カ月遡る1941年(昭和16年)9月5日の天皇と杉山元当時大日本帝国陸軍参謀総長との皇居での遣り取りである。

 昭和天皇「アメリカとの戦闘になったならば、陸軍としては、どのくらいの期限で片づける確信があるのか」 

 杉山元「南洋方面だけで3カ月くらいで片づけるつもりであります」

 昭和天皇「杉山は支那事変勃発当時の陸相である。あの時、事変は1カ月くらいにて片づく と申したが、4カ年の長きに亘ってもまだ片づかんではないか」
 
 杉山元「支那は奥地が広いものですから」

 昭和天皇「ナニ、支那の奥地が広いというなら、太平洋はもっと広いではないか。如何なる確信があって3カ月と申すのか」

 大日本帝国陸軍参謀総長の杉山元は何も答えることができずにただ頭を垂れたままであったという。(『小倉庫次侍従日記・昭和天皇戦時下の肉声』『文藝春秋』/2007年4月特別号)

 陸軍参謀長という地位にありながら、昭和天皇から「如何なる確信があって南洋方面だけで3カ月くらいで片づけることができるのか」との趣旨で質問を受けながら、日本軍の武器・兵器と兵力、さらに軍事的技術に加えて長期的・全体的なこれこれの展望に基づいて戦えば、3カ月で片付くはずですと陸軍としての戦略を説明して天皇の納得を得るべきを、得ることができなかった。

 あるいはこれこれこういった緻密・具体的な戦略を用いて戦いに臨む計画を立てていますから3カ月という日数を計算しましたと答えることができなかった。

 「3カ月くらいで片付ける」という戦略を立てていたなら、昭和天皇から「如何なる確信があって3カ月と申すのか」と問われて答えられないはずはない。

 要するに見当で「3カ月」と言ったに過ぎない。

 日中戦争の国力を消耗されられるだけの膠着状態も、日中双方の戦略・戦術を科学的・合理的に分析するのではなく、「奥地が広い」という抽象的な空間の広がりを原因に挙げている。

 分析したら、陸軍の無能を曝すことになる。後者に原因を置けば、陸軍に責任が及ばないからだろう。

 この程度の非科学的な軍人が大日本帝国陸軍の世界で陸軍大臣、参謀総長、教育総監の陸軍三長官を全て経験し元帥にまでなり、大日本帝国陸軍を率いた。

 以下の地位の軍人の程度を推して知るべしである。

 広島・長崎への原爆投下が決定的に戦争終結の鐘を撞いた。

 確かに原爆投下は恐ろしいまでの悲惨な被害を招く。悪魔の兵器と呼ばれる由縁となっている。だが、悪魔の兵器と称す以前の問題として投下を決定する、あるいは投下を招く国家権力者の狂気を問題としなければならない。

 金正恩がいい例である。国民を満足に食わせる政治よりも核兵器開発とその運搬手段となるミサイルの開発を優先させ、実験に余念がない。もし金正恩が自国防衛と称してアメリカ、あるいは日本に核搭載のミサイルを打ち込んだとしたら、それは金正恩という国家権力者が持つ狂気が仕向けることになる核攻撃であるはずである。

 1945年7月26日、ドイツ降伏後のベルリン郊外のポツダムにアメリカ、イギリス、中国の3カ国首脳が集まり、日本に対して無条件降伏を勧告するポツダム宣言を発表した。

 翌々日の1945年7月28日、当時の首相鈴木貫太郎は陸軍の恫喝に遭い、「黙殺」の声明を発する。

 既に日本は戦争継続能力を決定的に失っていたにも関わらず、本土決戦で米軍にその保証がないのに一矢を報い、終戦交渉を有利に進めようと、国民の犠牲を顧みずに最後のメンツに縋っていた。

 これを狂気を言わずに何と表現すべきだろうか。

 1945年8月6日、広島原爆投下 死者14万人

 1945年8月8日、ソ連対日宣戦布告

 1945年8月9日、長崎原爆投下 死者7万人

 後遺症に苦しみ、原爆症で命を失う被災者が跡を断たなかった。

 1945年8月9日未明、ソ連対日開戦 
   死者        30万人以上
   シベリア抑留者 57万人以上

 1945年8月14日、ポツダム宣言無条件受諾

 1945年8月15日、昭和天皇による終戦の玉音放送

 鈴木貫太郎が1945年7月28日にポツダム宣言を「黙殺」してから10日足らず以降、辛うじて持ちこたえていた大日本帝国と大日本帝国軍隊は決定的な瓦解に向かう衝撃に立て続けに見舞われることになった。

 このような予想もしていなかったであろう最悪の事態を招いたのは日本の軍隊が、特に陸軍が戦争を仕掛けた手前、そのメンツに拘って退(ひ)くときに退くことができずに戦争継続に走った狂気としか言いようのない愚かしさに支配されていたからであろう。

 戦後に録音された敗戦時外務省政務局長であった安東義良発言が残っている。

 「言葉の遊戯ではあるけど、降伏という代わりに終戦という字を使ったてね(えへへと笑う)、あれは僕が考えた(再度笑う)。

 終戦、終戦で押し通した。降伏と言えば、軍部を偉く刺激してしまうし、日本国民も相当反響があるから、事実誤魔化そうと思ったんだもん。

 言葉の伝える印象をね、和らげようというところから、まあ、そういうふうに考えた」

 この発言には国民が受けた犠牲、国土が受けた破壊と荒廃に対する視線、更には日本の軍隊が外国民と外国国土に対して行った残酷な仕打ちに対する視線を存在させていない。存在させていないからこそ、できる発言であり、存在させていたなら、戦争によって引き起こされた数々の事実の恐ろしさ、特に最終盤になって立て続けに起き、敗戦に向かって雪崩を打つことになった事実とその恐ろしさに圧倒されて、「降伏」を「終戦」と言い換えるゴマカシに自ら得意になって笑うことなどできなかったろう。

 戦争がもたらすことになった犠牲や破壊の恐ろしさに対する視線を欠き、言葉のゴマカシを得意になって笑うことのできる資質を招いている人間的要素は正気とは正反対の狂気以外に考えることができるだろうか。

 狂気は常識的な頭の中にも存在させることができる。

 安東義良は戦後衆議院議員を務めたり、拓殖大学教授や駐ブラジル大使を歴任している。

 戦争の犠牲となった日本人ばかりか、外国人を慰霊するにしても、戦争当事国間の和解を図るにしても、日本の対米戦争の始まりが真珠湾攻撃であり、その終わりの鐘を撞いたのが広島・長崎への原爆投下であり、その両方の歴史的事実を招いたのが日本の愚かしい政治家や軍人であることを忘れた慰霊や和解であったら、単なる形式的で終わることになるだろう。

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安倍晋三のオバマとの真珠湾訪問に自らの全体主義・国家主義の歴史認識を隠した平和主義のマヤカシを見る

2016-12-06 09:22:36 | 政治

 NHK総合テレビが昨日2016年12月5日夕方の6時と7時のニュースで安倍晋三の真珠湾訪問を伝えた。首相官邸で記者団に直接、そのことを話していた。周囲が暗かったから、夜の発表なのだろう。

 安倍晋三自身の歴史認識を隠してキレイゴトを並び立てたマヤカシ満載の言葉の羅列となっている。

 夜7時ちょっと過ぎにNHKのサイトにアクセスしてみると、「NHK NEWS WEB」は既にその記事を載せていた。それを採録してから、12月6日早朝6時過ぎに首相官邸サイトを覗いてみると、既に「会見記録」が載せてあった。   


 安倍晋三「今月の26日、27日、ハワイを訪問し、オバマ大統領と首脳会談を行います。

 この4年間オバマ大統領とは、あらゆる面で日米関係を発展させ、そして、アジア太平洋地域、世界の平和と繁栄のために共に汗を流してきました。先のオバマ大統領の広島訪問に際して、核なき世界に向けた大統領のメッセージは、今も多くの日本人の胸に刻まれています。

 ハワイでの会談は、この4年間を総括をし、そして未来に向けて更なる同盟の強化の意義を世界に発信する機会にしたいと思います。これまでの集大成となる最後の首脳会談となります。

 そして、この際、オバマ大統領と共に真珠湾を訪問します。犠牲者の慰霊のための訪問です。

 二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない、その未来に向けた決意を示したい、こう思います。

 同時に、正に日米の和解、この和解の価値を発信する機会にもしたいと考えています。今や日米同盟は世界の中の日米同盟として、日米共に力を合わせて、世界の様々な課題に取り組む『希望の同盟』となりました。その価値は、意義は、過去も現在も未来も変わらない、このことを確認する意義ある会談となると思います」

 記者の訪問日程の決定についての質問に対して――

 安倍晋三「昨年、戦後70年を迎え、米国議会において演説を行い、私の70年を迎えての思い、考えについて発信したところであります。その中において、真珠湾を訪問することの意義、象徴性、和解の重要性について発信したいと、ずっと考えてきました。同時に、オバマ大統領との4年間を振り返る首脳会談を行うことができればと考えてきたところでありますが、先般のリマにおける短い会談において、12月に会談を行おう、そして、その際に、2人で真珠湾を訪問しようということを確認し、合意をしたところであります」

 「先のオバマ大統領の広島訪問に際して、核なき世界に向けた大統領のメッセージは、今も多くの日本人の胸に刻まれています」――

 2016年10月27日、国連総会第1委員会(軍縮)が核兵器の全面廃絶に向けて全ての国が共同行動を取る決意を新たにするとした日本主導の決議――「核兵器廃絶決議」を国連全加盟国の8割を超す167カ国の賛成を得て採択した。

 中国とロシア、北朝鮮、シリアの4カ国が反対し、英仏など17カ国は棄権したが、昨年棄権した米国が賛成に回った。 

 この決議は23年連続で採択されている。だが、世界の核兵器の現実は殆ど変わっていない。その理由は日本主導の「核兵器廃絶決議」が義務(あるいは罰則)を伴わせた規則の体を成していない、いわば法的拘束力を一切伴わせていない、「核兵器のない平和で安全な世界を実現しましょう」といった類いの形式的な決意表明以外の何ものでもないからである。

 結果、23年間も同じことの繰返しを演じることになった。

 一方、国連総会第1委員会(軍縮)は日本主導の「核兵器廃絶決議」を採択した同じ日にオーストリア等50カ国超共同提案の「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」の採択を行い、賛成123、反対38、棄権16の賛成多数で採択された。

 この決議案は2017年3月から条約の制定に向けた交渉の開始と多数決を規則としている国連総会の場での採決を求める内容となっていて、決議案自体が賛成多数で採決されている以上、「核兵器を法的に禁止する条約」そのものが賛成多数で採決される確率は高く、当然、核保有を意思している核非保有国ばかりか、核保有国に対しても法的拘束力を持つ不都合な条約となる。

 当然、アメリカやロシア等、核保有国は反対に回り、日本も、安倍晋三は「核のない世界を目指す」と発言していながら、核保有国と同じ立場に立って反対票を投じた。

 にも関わらず、尤もらしい顔と尤もらしい言葉の調子で「先のオバマ大統領の広島訪問に際して、核なき世界に向けた大統領のメッセージは、今も多くの日本人の胸に刻まれています」と言うことができる。

 安倍晋三の胸には決して刻まれてはいない。もし刻まれていたなら、オバマ大統領の広島訪問は2016年5月27日。「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」の採択は同じ年5カ月後の2016年10月27日。核保有国のアメリカに同調して反対票を投ずることはなかったろう。

 上記言葉が如何にマヤカシに満ちているか、理解できるはずである。
 
 オバマと共に行う真珠湾訪問は「犠牲者の慰霊のための訪問」であると同時に「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」「未来に向けた決意」を示す行動であって、その行動を通して「日米の和解」、その「価値を発信する機会」だと、平和主義者なら口にしてもおかしくない、自然な物言いを見せている。

 だが、安倍晋三は日本の戦前の戦争を侵略戦争とは認めず、このことに対応して戦後のアメリカ主導のGHQによる占領政策を否定する歴史認識に立っている。

 2012年4月28日の自民党主催「主権回復の日」に寄せた安倍晋三のビデオメッセージ。

 安倍晋三「本来であれば、この日を以って、日本は独立を回復した国でありますから、占領時代に占領軍によって行われたこと、日本がどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか、もう一度検証し、それをきっちりと区切りをつけて、日本は新しスタートを切るべきでした」――

 「占領時代に占領軍によって行われたこと、日本がどのように改造されたのか」と言っている否定的な改造に対する肯定的な国家像の対象は戦前の日本国家以外に存在しない。いわば大日本帝国が占領軍によって悪い方向に改造されたと、その政策を否定し、翻って戦前の大日本帝国を肯定する趣意となっている。

 「占領時代に占領軍によって」「日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか」と言っていることは当然、上記発言の構図と同じく戦前の日本人の精神――天皇制の元、天皇と日本国家への奉仕を求めた国家と国民の関係が形づくることになっていた日本人の精神こそが健全な精神だと肯定的に価値づけていることになる。

 そのような健全な日本人の精神を占領政策がダメにしてしまった。

 このようにも占領政策を否定していながら、平和主義者のような口振りで真珠湾訪問は「日米の和解」を示すものだと言い、「和解の価値を発信する機会」だと言う。

 歴史認識に関わるこのマヤカシは底なしである。

 また真珠湾訪問を「犠牲者の慰霊のための訪問」だと意味づけていること自体にマヤカシそのものの彩りを見ないわけにはいかない。

 2012年12月26日の第2次安倍内閣発足以降、安倍晋三は靖国参拝を我慢し、春季例大祭、秋季例大祭、8月15日の終戦記念日に共真榊奉納で済ませていたが、発足1年後の2013年12月26日、靖国神社を参拝している。

 参拝当日の発言。

 安倍晋三「本日靖国神社に参拝を致しました。日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表し、そしてみ霊安らかなれと手を合わせて、参りました」

 戦没者を祀る参拝でありながら、国家と戦没者の関係性は参拝の常套句としている「国に殉じて亡くなられた」であったとしても、「国のために戦って尊い命を捧げた」であったとしても、それらの言葉が象徴しているように国家への奉仕を目的とした殉死行為と見ていることになり、当然、国家を主体とし、戦没者を従の関係に置いて、その国家を肯定する考えを示していることになる。

 もしその国家を否定的に見ていたなら、安倍晋三のように「日本のために尊い命を犠牲にされた」とも、あるいは「国に殉じて亡くなられた」、「国のために戦って尊い命を捧げた」等々、日本や国の「ために」と、日本や国に役立つという意味での言葉遣いとはならないだろう。

 国家権力の被害者という観点、あるいは国家権力に騙されたという観点からの言葉となるはずである。

 だが、そうはなっていない。あくまでも役に立った奉仕という観点からの言葉となっているということは、靖国神社に於ける「日本のために」あるいは「国のために」と戦没者を顕彰する参拝行為は戦前の国家を肯定し、国家と個人の関係を戦前の立ち位置に置く空間・場となっているということである。

 靖国神社自体が戦前の全体主義、あるいは国家主義をそのまま受け継いでいるということもあるが、戦前の全体主義、あるいは国家主義に自ら染まっている、全てとは言わないが、参拝者の多くが靖国神社という全体主義的、あるいは国家主義的空間で参拝行為を通して戦前の日本国家に対して自らの全体主義、あるいは国家主義を通わせ合う戦没者慰霊という儀式となっているのである。

 そのような儀式の代表者が安倍晋三である。

 安倍晋三自らが戦前の日本国家を肯定する全体主義、あるいは国家主義の歴史認識に染まっていながら、その歴史認識を隠して真珠湾訪問を平和主義の立場からの「犠牲者の慰霊のための訪問」であるかのようにマヤカス。

 安倍晋三のハワイ訪問の間、我々は安倍晋三の言葉や態度の端々に平和主義者の顔を見ることになるだろう。それが仮面だと気づいているのはどのくらいいるだろうか。

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日本維新の会遠藤敬の盗人に追い銭とならないか、秋田犬贈呈のバカげた対ロ媚態外交の醜態

2016-12-05 11:38:12 | 教育
 

 2012年7月に佐竹敬久秋田県知事がプーチンに贈った、現在4歳となる雌の秋田犬「ゆめ」のお婿さんを探してプーチンに贈る話が進んでいる。話を持ち出したのは遠藤敬(48歳・大阪18区)日本維新の会国対委員長。

 そのキッカケは遠藤敬が小学校5年生のときに親にせがんで秋田犬を買って貰ってその魅力に取り憑かれ、現在公益社団法人「秋田犬保存会」(秋田県大館市)の会長までしている関係からだと2016年12月4日付「産経ニュース」記事が、お婿さん贈呈を思い立ち、贈呈に向けた運動をしている経緯を伝えている。 

 大阪府高石市を生地とし、大阪18区選出の衆議院議員が秋田県大館市所在の「秋田犬保存会」の会長を務めている。この秋田犬ぞっこんの元々のキッカケを記事は、佐竹秋田県知事がプーチンに贈呈した「ゆめ」の父犬を以前飼っていた関係からだと解説している。

 その父犬は「好古」と名付けていた。

 「好古」は〈馬遼太郎氏の代表作「坂の上の雲」の主人公の一人である日本陸軍大将、秋山好古(1859-1930)にちなんで遠藤氏が命名した。日露戦争の英雄の名を冠した「好古」の血を引く犬が、両国友好の象徴としてプーチン氏に贈られたというのは巡り合わせの妙である。〉と記事は因縁づけている。

 だが、この因縁をプーチンが知ったなら、かつてのロシア帝国とロシア帝国に続く旧ソ連が広大な領土と、その広大さに依拠させた強大な国家権力、さらに領土内のロシア人に与えられていた特権性が育んだ自らを人種的に偉大だとする大ロシア主義をかつてのロシア帝国とソ連が体現していたと見て、その偉大性を取り戻すためにソ連回帰を様々に試みているプーチンが知ったなら、安倍晋三が日中戦争と太平洋戦争での日本の敗北を日本の歴史的汚点として受け入れ難い思いを抱いているように日露戦争でのロシアの敗戦はロシアの歴史的汚点と見ている可能性は高く、遠藤敬が胸に抱き、記事が指摘している肯定的な「巡り合わせの妙」に果たして同調するか、至って微妙な話となる。

 遠藤敬は官房長官の菅義偉と親しく、「官邸と維新のパイプ役」と称される人物だと記事は紹介していて、まあ、日本維新の会は自民党の補完勢力と呼び習わされているのだから、当然のその関係から11月末に国会内の一室で安倍晋三の腰巾着にして官房副長官の萩生田光一と会い、贈呈の要望を行ったこととその際の会話を記事は伝えている。

 遠藤敬「日露友好の架け橋として、『ゆめ』を贈呈して頂きましたけれども、今度はお婿さんを贈りたい」

 萩生田光一「ロシア政府に聞いて、『ぜひ迎えたい』ということであれば、そのような調整をしたい。安倍晋三首相にも相談して返答したい。もう候補がいるわけ?」

 遠藤敬「子犬は何百頭といますから。ただ、動物のことなので、相性もありますので。そういうのも含めてご協力いただけたらな、と」

 萩生田光一「分かりました。頑張ります」――

 遠藤敬は「動物のことなので、相性もありますので」と言っているが、近年の離婚理由の第1位は男女共に性格の不一致だと言うから、動物だけではなく、人間にも相性があるということを知らなかったのだろうか。

 「動物にしても、相性がありますので」と言ったなら、知っていたことになる。

 この程度の知性の持ち主とは見ない。多分、言い間違えたのだろうと百歩譲ることにする。

 遠藤敬による「ゆめ」のお婿さん探しの狙いを記事は、〈北方領土交渉が正念場を迎える中、今度はその婿としてオスの秋田犬をプーチン氏に贈り、2島返還ならぬ“2頭譲渡”によって両国の友好ムードを醸成>するためと解説している。

 この狙いについての遠藤敬の発言。

 遠藤敬「秋田犬によって日露関係が深化し領土交渉が進展するなら、これ程有り難いことはない」

 最終的に〈首脳会談の際に「婿候補」を連れて山口に出向くことも含め、萩生田氏に対応の検討を要請〉することになった。

 要するに「ゆめ」のお婿さんとなるオスの秋田犬をプーチンに贈呈、プーチンの機嫌を取ることで日ロ両国の友好ムードのなお一層の醸成を図って日露関係を深化させ、領土交渉進展の一助となったなら、これ程喜ばしいことはない、万々歳だと言うことなのだろう。

 狙ったことに対する結果がどれ程に仮定の思惑だとしても、ロシア側が北方四島の主権を放棄し、四島の日本返還に応じるか否かのロシア側にとっての一大国益がオスの秋田犬1匹の贈呈で左右できると期待すること自体が甘い。

 プーチンにしてもオスの秋田犬1匹の贈呈を受けて、その歓びと感謝を(したとしても)領土に関わる一大国益を斟酌する契機とするだろうか。

 いわば遠藤敬はプーチンが受けるかも知れない個人レベルの実益と領土と言う国家レベルの実益(=国益)を同じ次元の問題だと混同し、プーチンの大ロシア主義にそもそも反することを考慮にも入れずに国家レベルの実益(=国益)をプーチンの機嫌を介した個人レベルの実益でどうかしようと間抜けにも奔走しているに過ぎない。

 このようにも相手の機嫌を取って自身の利益を図ろうとすることを媚を売ると言う。それを領土問題の外交に活かそうと期待しているのだから、媚態外交そのものである。もしプーチンに領土を返還する気がなかったなら、盗人に追い銭となる可能性も否定できない。

 贈呈の話は官房副長官の萩生田光一から官房長官の菅義偉にまで伝わり、安倍晋三の了解を得たのだろう、菅義偉自身が実現に向けて動くいていることが12月3日付「NHK NEWS WEB」から窺うことができる。

 12月3日の国の天然記念物に指定されている秋田犬の魅力をPRするフォーラムでの挨拶。記事は菅義偉が秋田県出身だと伝えている。

 菅義偉「予算委員会で、『ゆめの婿を何とかしろ』という質問があり、私は、『外務省を通じてしっかりお願いする』と引き取った。(ロシア政府に対して)今も交渉しているが、なかなか、色よい返事を貰うことができていない。しかし、こうしたことが話題になるのは秋田犬の素晴らしさを世界にも知って貰える大きなチャンスだ」――

 遠藤敬の盗人に追い銭となる可能性も否定できない対ロ媚態外交に安倍晋三も菅義偉も乗ったことになる。

 外相の岸田文雄が2016年12月3日、ロシアのラブロフ外相とモスクワで会談、ラブロフは領土問題は後回しにして平和条約の協議を優先させるべきと主張したそうだが、このことはプーチンが2016年11月20日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催地リマで会見したときの発言に対応させたラブロフの主張であろう。、

 「産経ニュース」   

 プーチン「(北方四島は)国際的な文書によりロシアの主権があると承認された領土だ。

 (条約締結後の歯舞、色丹2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言について)どのような根拠で、誰の主権の下に置かれ、どのような条件で返還するかは書かれていない」――

 要するに北方四島の主権はあくまでもロシアにあることに変わりはないとし、尚且つ2島返還を決めた1956年の日ソ共同宣言は無効だとしている。

 まさしく盗人に追い銭とならない保証はない秋田犬のお婿さん贈呈であり、媚態外交の最たる醜態としか言い様がない。

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