飯島参与訪朝は拉致問題に何らかの進展があったのだろうか。5月18日午後、日本に帰国し、菅官房長官に報告しているのみで、公にはされていない。
報告内容は「NHK NEWS WEB」によると、〈拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指す日本政府の方針や、拉致問題で、拉致被害者の即時帰国と真相究明、実行犯の引き渡しが実現しなければ“日本は動かない”という意向を伝えた〉ことになっている。そして次のように発言したことになっている。
飯島参与「本音の話ができた」――
要するに北朝鮮に乗り込むについての、そして乗り込んでからの、北朝鮮要人と会談に臨んだ際の日本側の態度のみを公にしたに過ぎない。北朝鮮側の反応は伝えられていない。
いくら飯島参与が「本音の話ができた」としても、日本側のそのような態度に応じた北朝鮮側の動向がどうであったか、必要とする肝心な情報は後者にあるのにマスコミには何ら伝わっていない。
好きで好きでしょうがない女性にやっと告白する機会を得た男が相手に愛を伝えるに「本音の話ができた」としても、相手から、「アンタにちっとも興味はない」と「本音の話」を伝えられたなら、男の側の「本音の話」は意味を失う。
日本側の「本音の話」に対応した北朝鮮側の「本音の話」が占う進展具合であって、それを公にしていないということは悲観的結果を予測させるのみである。
飯島参与訪朝の事前連絡がなかったために不快感を表明した韓国に対しては同じ轍を踏まないためにだろう、訪問結果を伝えたという。《飯島参与訪朝:拉致問題で進展なし 韓国に説明》(毎日jp/2013年05月20日 01時46分)
記事は韓国政府高官が5月19日、つまり飯島参与日本帰国の翌日、北朝鮮訪問結果について日本政府が韓国政府に対して拉致問題で目立った進展はなかったと説明したと、聯合ニュースの記事として伝えている。
日本政府は拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指す方針に変わりはないという立場を取っているものの、核、ミサイル問題は日本は北朝鮮にとって真の交渉相手になり得ないから、拉致交渉が主体となって、例え進展があったとしても、核、ミサイル問題を置き去りにして拉致だけ進展があったとは言えない。
こういった事情からの韓国に対する目立った進展はなかったという報告の可能性がなきにしもあらずだが、実際に進展はなかったに違いない。
このことは安倍晋三の次の発言に現れている。
安倍晋三「飯島氏の報告の概要は菅官房長官から聞いた。北朝鮮における交渉、対話の中身は申し上げることはできない。必要があれば飯島参与から話を聞きたい」(NHK NEWS WEB)
もし何らかの進展があったなら、報告は菅官房長官を間にワンクッション置かずに、官房長官が同席すれば済むことだから、直ちに安倍晋三に報告という形を取ったに違いない。
だが、安倍晋三は直ちに報告を聞くことをしない猶予を置いた上に、「報告の概要は菅官房長官から聞い」ているとは言うものの、飯島参与と直接会う会わないは「必要があれば」とさらに猶予を置いている。
この二重の猶予自体が成果――拉致解決に進展がなかったことを物語っているはずだ。
そもそもからして飯島訪朝は、と言うよりも、安倍晋三指示の飯島北朝鮮派遣は誰もが承知しているように日本政府の側からの情報では一切知らされていなくて、当然、北朝鮮要人との会談から、その成果、帰国というすべての経緯から結末に至るまでが秘密に伏されていなければならなかった予定事項でありながら、そのためにも6カ国協議の重要な同盟国である米国にも韓国にも事前連絡を行わなかっただろうから、日本側の予定事項を無視する形を取ったがゆえに北朝鮮政府側の情報暴露とも言うことができる北朝鮮のマスメディア報道によって日本国民の知るところとなったこと自体が既に北朝鮮当局の拉致問題に対する姿勢を窺うことができる。
北朝鮮当局に当初から拉致問題に真剣に取り組む姿勢を持ち合わせていたなら、北朝鮮当局は安倍晋三の秘密に最後まで付き合ったはずだ。
マスコミや北朝鮮関係の専門家に「北朝鮮のプロパガンダに利用された」と言われる所以である。
今回の飯島訪朝でもしも拉致問題に関して何らかの進展が確約できたなら、安倍訪朝、最低でも拉致被害者帰国の希望が生じるサプライズへと進展したはずで、それが参院選前なら、憲法改正を可能とする参院選3分の2議席以上獲得の決定打となったかもしれないにも関わらず、そうはならずに物の見事に目論見が外れて、さしずめ三球三振の取らぬ狸の皮算用で終わったといったところだろう。
2008年9月17日の当ブログ記事――《次期日本国総理大臣麻生の外交センスなき拉致対応-『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いたことだが、2002年9月17日の小泉第1回訪朝時に於いても事前に秘密外交が行われ、その秘密は最後まで保つことができた。
金正日に拉致解決に一定の進展を与える意図があったからこその日本政府側の秘密外交に対する秘密保持の協力であったはずだ。
言ってみれば、小泉訪朝、拉致被害者一時帰国のサプライズを演出するためには小泉純一郎を主演とする必要があったために事前の外交は秘密に伏さなければならなかった。
2002年9月17日の小泉第1回訪朝に20カ月先立つ2001年1月に中川秀直前官房長官(当時)がシンガポールのホテルで北朝鮮の姜錫柱・第一外務次官と秘密裏に会談を行なっている。
そして朝日新聞がこのことを伝えたのは小泉第1回訪朝の2002年9月17日から25日後の2002年10月12日の夕刊である。
いわば2001年1月の中川秀直前官房長官と姜錫柱・北朝鮮第一外務次官との会談から2002年9月17日の小泉第1回訪朝を経て2002年10月12日の朝日新聞報道まで事前交渉の秘密は保たれていた。
上記朝日記事は伝えている。中川秀直が〈「拉致問題は避けて通ることのできない政治問題。交渉に入る前に(一定の回答が)示されるべきだ。(被害者の)安否確認や帰国して家族と面会することは可能か」と質したところ、姜氏は「行方不明者」という表現ながらも、「即、動きを見せることができ、人を探して帰すこともできるだろう」と具体的に言及し、柔軟姿勢を見せた。〉云々――
この後も何らかの幾度かの秘密交渉によって日朝それぞれの成果を積み上げ、調整を重ねていき、これらの事前の秘密外交で成果が前以って確約されることとなっていたはずだ。
このように事前交渉の秘密が保持できたからこそ、小泉訪朝と金正日の拉致認知と5人の一時帰国(永久帰国となったが)はサプライズ足り得た。
7月に参院選を控えている安倍晋三にしたら、飯島訪朝によって成功裏に終わった中川秀直の秘密外交の再現を狙ったに違いない。同じように飯島秘密外交が成功し、参院選前に拉致解決に何らかの進展を見ることができたなら、憲法改正を自民党単独で可能とするかもしれない参院選大勝利は勿論、衆参同日選も可能となって、衆議院に於いても現在以上の議席獲得は計算可能となり、拉致進展と併せた衆参圧勝は安倍晋三の名前とその能力を数段と高めることができ、憲法改正の望みも果たすことができ、長期政権の保証ともなり得る。
だが、何もなければ、何もないままに衆参同日選挙を強行した場合、国民が自民党に議席を与え過ぎたと考える可能性は否定できず、衆院の議席を減らす恐れも生じることになり、その与え過ぎの意識が参院選挙にも影響する可能性も考えなければならず、参院選単独選挙とせざるを得なくなる。
例え参院選に勝利したとしても、憲法改正を可能とする議席獲得までいくかどうかは予断を許さないことになる。
結果として飯島訪朝は参院選勝利の決定打の思惑は外れ、三球三振に終わった捕らぬ狸の皮算用といったところだろう。
この捕らぬ狸の皮算用は拉致問題に於ける安倍晋三自らの思惑の思うようにはいかないことの現れであるが、この思惑の停滞は拉致問題に限らない、他の思惑の停滞に発展しない保証はない。
既に歴史認識で大胆な金融緩和で獲得したスタートダッシュの勢いにある種の停滞を与えている。今後問われることになる実体経済の成長に向けたアベノミクス第3の矢の停滞を予兆とならない保証もない。
一つのヘマが次のヘマを予測して、次のヘマへとつながっていくというやつである。
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