2月26日(2012年)日曜日、朝日テレビの「報道ステーションSUNDAY」で橋下大阪市長が導入を考えている小中学生留年制度を取り上げていた。
2月26日(2012年)当ブログ記事――《橋下大阪市長流「留年」教育論の単細胞・見当違いな機械性 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》の中で「NHK NEWS WEB」記事からの引用として、矢野大阪市教育委員長が「フランスでは小学校で留年する制度を取り入れてきたが、子どもにとっては逆効果で、学力への意欲をそいでしまった。学力に課題のある子どもには個別に対応して、学力を上げるようにしている」と橋下市長留年制度反対の発言をしていたことについて、〈フランスではどういった理由で逆効果なのか、学力への意欲を殺いだのか、矢野教育委員長が説明したのかしなかったのか、説明したが、記事が取り上げなかったのかは分からないが、何も触れていない。〉と書いたが、番組がフランスの留年制度に触れていた。
番組を視聴した方もたくさんいるかも知れないが、記録しておくためにブログにして見ることにした。但し橋下大阪市長の留年制度導入は教育評論家の尾木直樹氏のインタビュー記事が発端だということで、尾木氏をゲストに呼んでいることから、留年制度を遣り取りした箇所をついでに取り上げて見ることにした。
2月22日大阪市役所記者会見。
橋下市長「分からないまま、そのまま、おー、授業を、朝から晩まで、席に座らせるなんて、そんなの拷問以外の何ものでもないんですよ」
2月20日読売新聞夕刊 大阪版――尾木氏インタビュー記事。
尾木氏の言葉「橋本さんの動きを見ていると、新しいものがない。小学校で九九ができなければ、留年させても、子どもの力をつけてもらうというのを橋本さんが出してきたなら、僕は大喝采しますよ」
2月22日市教育委員会との会合。
橋下市長「あのー、尾木さんが言っていたように、ある程度のところまでは絶対にもう、意地でも、あの、そこまでは、あのー、レベルを上げてですね、で、元のクラスに戻して上げる」
2月22日尾木氏のブログ。
尾木氏のブログの言葉「インタビュー記事にひょいと飛び乗りした大阪市の橋本さん。小学校での留年を検討なんて発信したものだから、このブログにまで反対意見が――」
「学校教育法施行規則 第57条」――〈高等学校に入学することのできる者は,中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者若しくは中等教育学校の前期課程を修了した者又は文部科学大臣の定めるところにより,これと同等以上の学力があると認められた者とする。〉を取り上げ、小中学校でも校長が成績などを理由に事実上留年させることは可能だが、殆ど例がないと指摘し、「橋下氏が言う授業についていけない子どもの立ち場に立った教育と何か」と番組は問う。
現在の対応は習熟度別授業。
習熟度別授業導入校
全国の公立小学校――91.0%
全国の公立中学校――92.6%
2月23日大阪市役所記者会見。
橋下市長「習熟度別授業は時間数って言うものが限られたものになっていますしね。もっと徹底して、あのー、分からない子どもに対しては、分かるように教える」
ここでフランスの留年制度を取り上げている。
半田俊介記者(パリで)「ヨーロッパでは留年制度を取り入れている国はたくさんあるんですが、中でもフランスは義務教育のうちから高い留年率となっていることで知られています」
「OECD(経済協力開発機構」調査。
○15歳になるまでに36.9%の子どもたちが留年を経験。
フランスは6歳から16歳までが義務教育期間。留年経験者へのインタビュー。
小学校4年生時に留年経験の女の子「最初はすごく厭で泣いたけど、あとは大丈夫だった。留年してよかった。その時にしていなくても、あとでしていたと思うから」
中学時に留年経験の20代見当の若者「中学の時に留年して、凄く辛かった。それで勉強しなくなって、うまくいかなかった」
フランスでは勉強は学校でするものと考えられていて、放課後はそれ以外の活動を義務づけられていて、「書くことを伴う宿題」は法律で禁じられているとのこと。フランス教育関係者へのインタビュー。
リュック・フェリー元教育大臣「(低学年は)読み書きを習い、ごく基本的なことを学習する時ですが、その時に十分に学習することが出来なかった子どもを留年させるのは非常に有効だと私は考えている。
先ず小さい子どもたちですから、それ程キズつきません。それに不可欠な基礎知識を得ていない子どもをそのまま進級させるのは過ちだと思っています」
低学年の子どもはたいしてキズつくことはないからと、低学年限定の留年制度肯定論者となっている。
日本の橋本市長が留年制度導入を提案したことについて――
リュック・フェリー元教育大臣「お勧めしません」
低学年限定なら導入可とすべきを、否定し、軽快に笑うが、この理由が後で分かる。
解説「しかし低学年以上の留年は効果がないという調査結果が数多く出されていて、コストが掛かる留年は見直すべきだとしている」
「低学年以上の留年は効果がない」ということなら、低学年での留年は一時的な効果にとどまることになる。
低学年時の留年者と高学年時の留年者は多くが異なると言うことなら、高学年時の留年が例え学ぶ内容が難しくなっていくことが原因だとしても、低学年時の学習理解は絶対的な評価ではないことになって、教師の判断能力の問題となってくる。
教育問題を専門とする女性社会学者。
マリー・ドリュ=ベラ パリ政治学院教授「教師は留年した子どもを信用しない傾向にあります。そして子どもはヤル気を削がれ、『友達がいなくなった』、『自分はバカだ』と言っています」
リュック・フェリー元教育大臣とは違って、キズつけることになるからと留年制度否定論者の姿を取っている。
解説「今月、OECDは義務教育の留年はコストが掛かる上、教育上の利点は僅かだとして廃止を求める提言をまとめている」
要するにリュック・フェリー元教育大臣の低学年限定の留年制度肯定論は個人的なものか、少数意見化していて、社会全体としてはその効果に疑問を持ち出しているために橋本市長の提案は「お勧めできません」ということなのだろう。
フランスでは廃止になるかもしれないが、橋下市長は大いに進めてくださいと嗾けたら面白かったろうに。
斎藤泰雄国立教育政策研究所「明治の初めに日本が近代的な学校制度を導入して以来、約30年に亘って実は小学校で『試験進級制度』。従って留年者も大量に出るという時代がありました。
教育の質が実はバラバラだったっていう、カリキュラムとかですね、教科書っていうものも実は全国で統一されておりませんでした。例え学校に子どもが通ったとしても、本当のどの程度の学力が身についているのか、その不安を解消するための方法として、実は使われたのが『試験進級制度』と――」
解説「師範学校卒業の教師が育つなど、教育環境が整備されたことを受けて、1900年(明治33年)試験進級制度は廃止、以来日本の義務教育で成績の良し悪しによって留年することはなくなった」
斎藤泰雄国立教育政策研究所「今なぜ100年以上も経った昔の制度を復活させなければならないのかと。1年遅れるということのデメリットは、(留年の)そのメリットでカバーできないことになると思う」
解説「教育に競争原理を導入する一方で、子どもには手厚い教育を求める橋下市長、それは両立するのだろうか」
2月24日大阪市役所。
橋下市長「競争原理という言葉を世の中は勘違いしているし、あのー、競争というのは自立を促す、うー、環境の一番重要な要素でしてね、できる子はしっかりドンドン伸びていけばいい。
しかし分からない子どもはしっかりサポートする。それによって個々人がお互いに切磋琢磨をして、えー、何も相手方を蹴落とすというわけじゃないですから」
あなたは成績が悪いから、留年させることにします、最初から学び直しなさいと教師に言われて、教師に言われたとおりに言われた教えを理解しょうとするのは受け身の暗記式知識受容(=受動的知識受容)であって、その受動性から脱して自分から進んで学ぶ積極性(=主体性)を持ち得なければ、いくら競争原理を課そうと自立を促すことにはならない。
このことは留年しない生徒にも言えることだが、自立は主体性なくして育たない。主体性のない競争は機械的な成績競争となる。あるいは競争のための競争、競争が自己目的化する。優れた成績を残すアスリートでありながら、あるいは優れた成績で有名大学を卒業しながら、世に名を留めてから犯罪に走ったりして社会から脱落していくのは競争から社会人として自立を学ぶことができなかった者で、競争を自己目的化させていたと疑うことができる。
長野メインキャスター「留年生に関して尾木さんの提案に橋下市長が乗った形でしたよね。これ、最初に聞いたとき、どうでした」
尾木直樹「チョービックリした。本人も知らなかったんですよ、記事も知らなかったの。だから、何が起きたのかと思ってね」
長野メインキャスター「やっぱりちょっと違うんですか」
尾木直樹「全然違いますよ。今の表現で言うと、手厚い方の、あのー、主張しいる方だし、橋下さんは競争は大事だと今もおっしゃってますよね。
だから、それと相反している。全く対立している構図です。人間的に対立してるんじゃないですよ。あの理論として違う考えなんです」
要するに競争原理を導入しない形の留年制度ということなのだろうか。
長野キャスター「今尾木さんが一番反応したのは、競争は自立を促す形みたいな・・・」
尾木直樹「これは全く心理学的にもあり得ない。脳科学的にもあり得ないことで、橋下さん、お話に行くわよ」
富川悠太サブキャスター「橋下さんがおっしゃってる留年と尾木さんがおっしゃってる留年のニュアンスが違うんですか」
尾木直樹「全く違うと思いますよ。どう違うかと言うと、僕の場合はそのね、日本の場合は、橋下さんはそこは言ってるんですよ。学年で上がっていくでしょ、6段階で。ステップアップして、ステップアップしていかないんだ。
とにかく時間さえアップしていけば、卒業できると。で、学力が身についているだろうかということは殆ど気にしていなんです。だから、九九ができなくても、卒業していくんですよ、
で、そういう子たちが橋下さんも言っているようにグレるとか、いろいろな状況になっていきますから、きちっとね、習得主義という考えがあるんですよ。
日本は学年主義なの。学年が上がっていくだけ。だけれども、多くの国が把えているのは習得主義というので、習得したかどうかというのを卒業の段階で大事にしていこうって考えで。だから、学力をどういうふうに収得させるかというところへ僕は重点を置くべきだと」
この習得主義の方法論として「小学校で九九ができなければ、留年させても、子どもの力をつけてもらうというのを橋本さんが出してきたなら、僕は大喝采しますよ」とインタビューで述べたのではないのだろうか。
中には必要と考えている学力(私自身はみなが言う学力なるものは創造的発想に即応できない暗記学力に過ぎないと思っているが)を習得していない子がいる。そういった子をどう習得させるのかの方法論の一つとして留年制度が考えられていて、尾木氏自身も「小学校で九九ができなければ、留年させても」といった発言につながったはずだ。
長野メインキャスター「そんな中で橋下さんは科目だけでもいいんだとおっしゃっていますよね」
尾木直樹「そうなんですよ。だから、ここら辺がね。橋下さんこういうふうに言ってるんですよ(フリップを立てる)」
○科目別の留年
○グレる
尾木直樹「非常にね、理解できますよね。科目別の留年と。
留年というと、年齢が一つ下のところへ行くと、これはあり得ないですよ。OECDが勧告を出したくらいですから。やめなさいっていうのが。
それはもう(調査の)成果はきちっと受け止めなければいけなくって。科目別に、例えば7月だけ下の学年に行ってくるとか、あるいは橋下さんが言っているのは特別教室みたいなのをつくって、そこへ行って勉強して、例えば九九をマスターして戻ってくるとか、ヨーロッパでやってるんですよ。スモールクラスとか、色々な言い方をしながらね。
ただ、そういう柔軟な体制を取っていかなければいけないってことですね」
「例えば7月だけ下の学年に行ってくる」にしても、屈辱と受け止める生徒が出ない保証はないし、1カ月不足分を学習し直して元のクラスに戻ることができたとしても、そのクラスは不足がない分、さらに先に進んでいて、戻ってきた生徒はついていけないという問題が起きないだろうか。
長野メインキャスター「合わせれば6年で卒業するんだと。ただ、柔軟に、きちっと自分が足りないと思っているところを学年を自由に移動できる――」
尾木直樹「そうですねえ。これももっと時間があれば、説明できるんですが。日本みたいに一学年ずつクラス分けされていて、しかも一人の教師が同じ教科書を使って、今、習熟度別っていうのが出てきていますけれども、そんなんので40人見られる訳がないですよ」
留年制度を論じる番組だが、留年制度に黒白をつけないままに少人数学級に議論を変えている。何のために、「小学校で九九ができなければ、留年させても、子どもの力をつけてもらうというのを橋本さんが出してきたなら、僕は大喝采しますよ」と言ったのだろう。
長野キャスター「子どもがグレるのを避けるためにもそういうふうな・・・(聞き取れない)」
橋下市長が掲げている学校選択制や学区撤廃、校長公募問題に移る。
長野女史も尾木氏が留年制度論から少人数学級論に豹変したものだから、つなげようがなくて、後の言葉を飲み込んでしまったのかもしれない。
少人数学級であっても、習熟度別併用の少人数学級となった場合、必要とする暗記学力を獲得できないまま小学生の場合は6段階、中学生の場合は3段階自動的・機械的に、あるいはトコロテン式にステップアップして、従来と変わらないまま卒業ということもあり得る。
暗記学力習得に卓越した者で親にカネがある場合は大学に学び、よりよい会社に就職でき、それなりに生きる力を身につけていくだろうが、暗記学力習得に不得手な者が単に習熟度別併用の少人数学級で他の生徒よりも低レベルの暗記学力を細々と学んだとしても、社会を生き抜いていく力を身につけることができるのだろうか。>
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