外国人人材受入れ拡大を柱とした出入国管理法改正案が12月8日(2018年)に成立、2019年4月1日の施行となる。政府は受入れ対象検討の農業と漁業は季節によって仕事の量が変動することなどから例外的に「派遣」の形態を認める方針を固め、12月下旬開催の関係閣僚会議で正式に決めることにしていると2018年12月9日付「NHK NEWS WEB」が伝えていた。
漁業の場合は技術や経験が必要となる船に乗って漁に出るという仕事よりも、例えば牡蠣の殻剥きとか、干物の天日干しといった作業が対象となるはずだ。
2017年6月末時点の技能実習生総数約25万1721人に対してベトナム人は10万4802人。中国人が7万9959人。そしてその他。ベトナム人が約42%を占めている。対して中国人は約32%。
一時は中国人がトップを占めていたが、ベトナム人にトップの座が取って変わられたと言う。
ネットで調べると、2018年12月10日時点の円の対ベトナムドン為替レートは1円205.70 ドンとなっている。
2018年7月19日付「VIETJOベトナムニュース」記事がベトナム労働総連盟の調査に基づいて労働者の平均月収は前年調査に比べて+1.4%増の553万VND(約2万7000円)で、月の最低賃金平均334万VND(約1万6300円)を約39.8%上回っているが、一部の労働者は今もなお基本給が地域別最低賃金を下回っていると伝えている。
ベトナム人労働者の平均月収が日本円で約2万7000円。ベトナム人の場合、日本の技能実習制度を利用して出稼ぎに来るのは主としてこういった月の最低賃金を下回る労働者が多くを占めることになると思われる。ときには悪徳ブローカに大枚の金をはたくケースはベトナムで現在従事している労働では満足に生活できていないベトナム人がイチかバチの賭けに縋ってのことかもしれない。
ベトナムの労働時間は1日8時間で週48時間だと、これもネットで紹介している。現在の日本の最低賃金は全国平均で時給874円(最高は東京都985円)。日本で最低賃金全国平均の時給874円で1日8時間、週休2日で週40時間働くと、約3万4960円。月4週で13万9840円。9840円を切り捨てても、月13万円となる。
農業にしても、漁業にしても収穫物に応じて繁忙期は異なるから、閑散期を避けて繁忙期ごとに農家や漁家(ギョカ・漁業で生計を立てている家)を渡り歩いても、ほぼ1年間を通して仕事を手に入れることが可能で、移動時間を抜いて月10万円になったとしても、ベトナムの一般労働者の平均月収の約2万7000円を7万3千円も上回る月収を手にすることができる。ベトナム人は技能実習制度の実習生としても、外国人材受入れ制度の「特定技能1号」対象就労者としても、益々増えていくことが考えられる。
両制度とも日本人と同等の報酬を義務付けているが、農業や漁業が、あるいはその他が「派遣」の形態が認められた場合、派遣労働者の月賃金が正規社員のそれの約3分の2弱とされているから、このような賃金の傾向と使い勝手の良さから、勢い作業現場がベトナム人の派遣労働者が占めることになるだろうし、そうなって賃金を比較する日本人労働者が排除されていった場合、あるいは外国人よりも低賃金で使うことのできる高齢女性等の賃金の低い日本人労働者のみを囲い込む結果となった場合、ベトナム人にとっては高収入でも、日本人労働者と同等の報酬は有名無実化して、低賃金労働の現場と化す恐れが生じない保証はない。
となると、技能実習生や外国人材「特定技能1号」を受入れている他の業種にしても、外国人と同等の仕事をする日本人労働者はより賃金を低く雇用できる派遣で間に合わせて、その賃金との比較で日本人労働者と同等の報酬を外国人労働者に当てはめる賃金抑制策が一般化する可能性は否定できない。何しろ企業側は止むを得ない事情がない限り1円でも安く使いたい旨味を欲しているからだ。
安倍晋三は派遣労働者の正社員化に取組んでいる。人手不足から非正規社員の正規社員への囲い込みが必要になって正規社員が増加傾向にあるが、企業側は喜んで正規化に努めているわけではない。
例え農業と漁業に限った業種であっても、外国人の派遣労働者で間に合わせたり、他の業種にしても外国人雇用を増やしていくと同時に何も高い給料を出して日本人を使うことはないといった理由付けからの賃金抑制策が罷り通って日本人労働者を賃金の低い派遣に限定していった場合、外国人の賃金抑制策にもなり、勢い安倍晋三の非正規の正社員化政策に逆行していくことになる。
こういったことが外国人人材受入れの農業と漁業に派遣を認めることから始まる可能性は否定できない。