《尖閣へ常駐「させるとは公約してない」高村・自民副総裁》(asahi.com/2012年12月29日17時56分)
12月29日(2012年)のテレビ東京の番組での発言だそうだ。
高村正彦・自民党副総裁「尖閣諸島に公務員を常駐させるとは、衆院選の公約に書いていない。衆院選で出したJファイル(政策集)には『検討する』と書いてある。常駐させるとは書いてない。
検討するということは、たとえば中国が実効支配を強引に力で侵そうとして、常駐をすることがそれを守ることに資するなら、そういうこともありうるよという一つのメッセージだ。だから、そうではない時に、わざわざ常駐させて中国の国民感情をあおるのは、外交上得策ではない。
これは当たり前のことで、あまり乱暴なことをしたらそういうこともありうるよというメッセージだ」
確かに、「『検討する』と書いてある。常駐させるとは書いてない」が、「中国が実効支配を強引に力で侵そうとして、常駐をすることがそれを守ることに資するなら、そういうこともありうるよという一つのメッセージ」だとするなら、そのようなメッセージだとなぜ最初から書かなかったのだと言いたくなる。 『J-ファイル2012 自民党総合政策集』
政策集に書いてある尖閣に関わる箇所を拾い出してみる。
3. 領土・主権
132 尖閣諸島の実効支配強化と安定的な維持管理
わが国の領土でありながら無人島政策を続ける尖閣諸島について政策を見直し、実効支配を強化します。島を守るための公務員の常駐や周辺漁業環境の整備や支援策を検討し、島及び海域の安定的な維持管理に努めます。
「わが国の領土でありながら無人島政策を続ける尖閣諸島について政策を見直し、実効支配を強化します」と断定していることは公約としますの物言いそのものであり、また実効支配強化とは恒久的な性格を持たせた実効支配政策の構築を言うはずであり、その線上での公務員常駐の「検討」であって、「そういうこともありうるよという」可能性としての「一つのメッセージ」では済ますことはできないはずである。
もし単なるメッセージであったなら、公約としている「実効支配を強化します」の恒久性を持たせた実効支配政策をどこかに吹き飛ばしてしまうことになる。
それを実効支配強化とは無関係の可能性で済まそうとするところに既に薄汚いゴマ化しがある。
「無人島政策を続ける尖閣諸島について」の政策の見直しとは「無人島政策」から有人島化政策への一大転換の趣旨を持たせた公約宣言であり、有人島化することによって日本国有の領土であることの領有意志を厳格に示す、具体性と恒久性の実現に向けたメッセージとするということでなければならないはずだ。
いわば領有意志表示の主たる方法を“公務員常駐”による有人島化とするということの「検討」ということであって、中国の態度如何で決定する変数ではないはずだ。変数だとする意図を汲み取ることのできる文言はどこにも見当たらない。
もし“公務員常駐”を中国の態度如何で決定する変数としたならば、政策集に謳う以上、恒久性を持たせなければならない厳格な領有意志表示――「実効支配を強化します」とは決してならない。
無人島政策を見直すと言いながら、当面は無人島政策を続けることになる。
大体が、「中国が実効支配を強引に力で侵そうとして、常駐をすることがそれを守ることに資するなら、そういうこともありうる」とする政策手順は、少なくとも中国の侵略気配を嗅ぎ取ってからの、あるいは最悪、中国が侵略行動を開始してからの常駐行動ということになり、後手に回る恐れが生じる。
中国が前以て釣魚島は中国固有の領土だから、これから釣魚島奪還の軍事行動に移ると宣言してくれるなら、さして後手に回ることはないかもしれない。
1941年12月8日未明(日本時間)の真珠湾攻撃は択捉島に集結した日本海軍機動部隊が攻撃12日前の11月26日にハワイへ向けて出港の隠密行動を取っている。しかも対米宣戦布告は攻撃開始の30分前と決めていた秘密行動である。
但し翻訳等の遅れから、実際の宣戦布告は攻撃開始1時間後となる。
こういった手違いがなかったとしても、中国は行動するギリギリまで行動開始を告げることはないだろうし、不法占拠されている自国領土の奪還だから、宣戦布告を含めてどのような行動開始の告知も必要としないとする態度を取る可能性は否定できない。
しかも中国と日本は一跨ぎのところにある。中国行動開始察知後の常駐では間に合うはずはない。
逆に“公務員常駐”は検討課題だと言いつつも、尖閣諸島は日本固有の領土であり、尖閣に対するどのような行動も中国に許さないとする牽制の意を込めた前以ての強い意志表示にしようと思い定めていたはずで、そのような意志表示を無人島政策の見直し、いわば恒久的な有人島化政策の具体的な形に添わせようとしていたからこそ、検討課題としたはずだ。
そうであるにも関わらず、政策集に尖閣の無人島政策から有人島化政策への変更による実効支配強化を謳い、その手段として公務員常駐化を検討課題としながら、実際に政権を獲って公約通りに推し進めた場合、逆に中国との関係悪化を招くと見て、中国の態度次第のメッセージだと詭弁を用いて誤魔化すに至った。
実際には公約で謳う段階で既に中国の反発を予定事項として、「中国の国民感情を煽る」関係悪化を覚悟していなければならなかったはずだ。
それを後付けで持ち出して、体裁のいいゴマ化しを働く。
もし中国の行動次第のメッセージであって、それらしき行動を示していないときに「わざわざ常駐させて中国の国民感情をあおるのは、外交上得策ではない」と言うなら、何も政策集に書く必要は生じない。
政策集に尖閣実効支配強化の趣旨に則らせる形で“公務員常駐”の「検討」を書きながら、実効支配強化の趣旨から外れた弁解を展開するようでは中国に足許を見られて、何とまあ腰の抜けた連中だと日本の外交がバカにされるだけである。
尖閣実効支配強化の一方法とすべく検討課題とした“尖閣公務員常駐”は実際には番犬の役目を果たさない犬の遠吠えに過ぎなかった。
安倍晋三は今回の選挙中、街頭演説等でマニフェストに「自民党はできることしか書いていない」と何度も訴えた。「できることしか書いてない」も強がるだけが得意の犬の遠吠えに堕すことになる。