安倍政権は政権発足早々、公約に掲げた高校授業料無償化の所得制限を打ち上げた。《文科相 高校無償化に所得制限》(NHK NEWS WEB/2012年12月27日 2時28分)
高校授業料無償化は民主党政権が所得制限無しで2010年度から実施していた。
12月27日(2012年)の初閣議後の記者会見。
下村文科相「自民党は選挙公約で所得制限を設けることを約束しており、その公約を速やかに実現する方向で検討したい。
(所得制限設置時期について)いま中学3年生の生徒は、現行の制度を前提に進路の選択を考えている。生徒や保護者などに混乱が生じないよう、所得制限は、再来年度以降の実施を考えていきたい」――
カネに余裕のある親の子から授業料を徴収するということだけを考えた所得制限の導入だろうから、いきなり制限を掛けたとしても困る金持は存在しないと思うが、言っていることがどうも腑に落ちない。
『J-ファイル2012 自民党総合政策集』には高校授業料無償化について次のように記載している。
〈63 激動の時代に対応する、新たな教育改革(平成の学制大改革)
高校授業料無償化については、所得制限を設け、低所得者のための給付型奨学金の創設や公私間格差・自治体間格差の解消のための財源とするなど、真に公助が必要な方々のための制度になるように見直します。〉――
「平成の学制大改革」と「改革」に「大」をつけてあるのは恐れいった話だが、大と名づけた改革で名づけたとおりに利害関係が固定化した制度の改革を成し遂げることができていたなら、大と名付ける改革は必要なくなっているはずだ。
改革が目指したとおりに改革できずに旧態依然の制度として残すことになるから、いつまで経っても「大改革」と名付けなければならなくなる。
政治家や官僚の力とはこの程度だと自己客観視できていたなら、改革に「大」などと名付けることなどできないだろう。謙虚に控えめに普通に「改革」と名付けて、但し強い責任感を持って自らが理想とする改革に挑戦する姿勢を取るはずだ。
公務員削減や議員定数削減の改革、あるいは一票の格差是正の選挙区改革等を一つ取っただけでも、理解できる話である。
政策集の安倍自民党の高校授業料無償化は所得制限を設けて浮かした財源を「低所得者のための給付型奨学金の創設や公私間格差・自治体間格差の解消のための財源とする」と、カネの遣り取りだけで片付けていて、高校生の立場に立った視線は抜きにしている。
高校授業料無償化は例え親がそのカネを払わなくて済むとしても、その最終利益者は高校生である。特に中・低所得層の高校生は授業料で親に負担をかけなくて済むことになるから、心理的な解放感を最大の利益とすることができる。
心置きなく勉強に励むことができると考える生徒も出てきているはずだ。尤も親に授業料の負担をかけているわけではないから、後ろめたさを感じることなく遊ぶことができると考える不心得な生徒も存在するかもしれない。
いずれにしても高校授業料無償化は最終的には高校生の問題である。自治体の問題でもなければ、学校の問題でもない。安倍自民党の高校授業料無償化所得制限導入に高校生の立場に立った視線が抜けているとしたのはこの点からである。
国家を最優先に考える国家主義者の安倍晋三らしいと言えば、らしいと言える。
所得制限がなけれが、金持の子は国からの授業料の支払いは必要ではないかもしれないが、誰もが金銭的な恩恵を平等に受けることになる。金銭的な平等は心理的な平等となって、生徒それぞれに反映する。
金持の子どもの中には、「俺のウチは必要ないけど、所得制限がないから貰っているだけのことだ」と嫌味な受け止め方をする場合もあるだろうけど、少なくとも生徒間では誰もが貰っていることとして金銭的な平等を維持可能とし、心理的にも平等な立場に立たしめ可能とすることになる。
だが、所得制限を掛けた場合、所得制限がなかった場合の金銭的平等性と心理的平等性を壊して、無償化を受けている高校生と受けていない高校生との間に金銭的立場とこのことの影響として現れる心理的立場に優劣の格差を生じせしめることになりかねない。
そうなった場合、所得制限無しで中・低所得層の高校生が手に入れることができるだろう心理的な解放感は相殺されることになる。
親が高額所得者の高校生の息子や娘が授業料の無償化に与(あずか)っていないことをいくら隠そうとしても、与らないままに授業を受け、与らないままに高校を卒業した場合、少なくとも授業料に関して金銭的優位性のみならず、心理的優位性を否応もなしに自らに備えることになるだろうし、その優位性がいくら親のお陰であったとしても、親の子に対する他の投資から得た学歴や知識取得といった諸々の成果と共に将来的な勲章となって、その勲章が他者に対する立ち位置を有利にすることは親の経済格差が子どもの教育格差や学歴格差、職業格差、最終的には収入格差につながっていくことによって証明し得るはずである。
逆に授業料の無償化を受けて高校生活を送る中・低所得層の子息は無償化を受けていないクラスメートに対して意識・無意識に金銭的にも心理的にも劣位な立場に自らを置き、ある種の負い目として精神に刻み込むといった状況は否定できない。
特に金持の子を友人に持った所得の低い家の高校生は無償化の恩恵を受けていること自体が友人に対する劣等感となって跳ね返らない保証はなく、無償化の恩恵に与る高校生の多くが親の経済格差の追い打ちを無償化という形で受けることにならないとも限らない。
そういう状況に追いつめないためにも高校3年間の生活に精神的な影響を及ぼす授業料に関しての無償化に限ってはせめて平等を旨として、親の経済格差が子どもの経済格差に発展していく負の連鎖に巻き込まないささやかな砦として無償化問題を残しておく配慮は必要ではないだろうか。
だが、無償化の所得制限がつくり出す生徒間の金銭的格差に加えた心理的格差は逆に親の経済格差が子どもの経済格差に発展していく負の連鎖に一枚加える格差となり、そのような格差の追加に政府自身が手を貸すことになる。
無償化に所得制限を設けなくても、所得税の累進化率を高くするとかして、代替することができるはずだ。
税金を多く払っている親の子と少ししか払っていない親の子との間に精神的優劣の感情が生じたとしても、高校生が一個の個人としての立場に立った場合、同じ額の授業料無償化の恩恵を受けている点で格差がないことは高校3年間の生活に金銭的負担も心理的負担も限りなく縁遠いものとするはずである。
安倍政権の高校授業料無償化所得制限導入は最終利益者である高校生の立場に立って考えることができない、親子間で受け継ぐ経済格差の負の連鎖に手を貸す単細胞にして愚かな政策としか映らないが、どんなものだろうか。
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