2016年アメリカ大統領選は共和党候補トランプが勝利した。「Wikipedia」が次のようにトランプを紹介している。
〈1970年代からオフィスビル開発やホテル、カジノ経営などに乗り出し、1980年代には、ロナルド・レーガン政権下における景況感の回復を背景に大成功を収め、アメリカの不動産王と呼ばれることになる。
自己顕示欲が旺盛であると言われ、各種メディアに積極的に露出するだけでなく、自らが開発・運営する不動産に「トランプ・タワー」、「トランプ・プラザ」、「トランプ・マリーナ」、「トランプ・タージマハル」など、自分の名前を冠している。〉
最後の「トランプ・タージマハル」はネットで調べたところ米ニュージャージー州アトランティックシティーのカジノだそうで、1990年にトランプがオープン、1年後に破産を申請、所有権の半分を手放し、経営者が交代、トランプよりも経営手腕が優れていたのだろう、15年持って2016年10月11日に閉鎖している。
「タージマハル」とは、これも「Wikipedia」からの情報だが、〈インド北部アーグラにある、ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが1631年に死去した愛妃ムムターズ・マハルのため建設したインド・イスラーム文化の代表的建築である総大理石の墓廟。〉との解説。
イスラム嫌いのトランプがイスラムに関係する名前をつけた。その当時はイスラム嫌いではなかったのか、イスラム嫌いだったが、自己顕示欲から自身をムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンに擬えると共に亡くなった妃のために贅を尽くした建築物ということで、そこに女性性を見て、トランプが女好きであるゆえに女性の艶やかさと建物の豪華華麗さを表現している名前としてカジノに付けることになったのか。
ホテルの客室数2248室、レストラン20店舗、カジノの面積だけで15,544㎡と、東京ドーム(46,755㎡)の3分の1もある豪華さである。
トランプは義務ではないものの大統領候補が公表するのが慣例となっている納税申告書の公開を拒否し、最後まで公開に応じなかった。2012年に民主党大統領候補オバマと争った共和党候補ロムニーが納税申告書を公開、アメリカでは所得税率が10、15、25、28、33、35、39%と段階づけられているそうだが、低い方の14%だったことから、オバマ陣営から裕福で庶民の気持が理解できないと攻撃を受けた二の舞いを避けるための非公開だったはずだ。
収入に応じた所得税率で所得税を納めていたなら、堂々と公開しただろう。「庶民の気持は理解できますよ」と。
アメリカでは一般所得者よりも高額所得者の方が所得税率は低く見積もられているということだから、ロムニーのような現象が起きるのだろう。
だが、この一事を以てしてもアメリカはトリクルダウン型の利益再配分社会だと理解できる。
ブログに何度も書いてきたが、トリクルダウン(trickle down)とは「(水滴が)したたる, ぽたぽた落ちる」という意味で、上を税制やその他の優遇政策で富ませることによって、その富の恩恵が下層に向かって滴り落ちていく利益再配分の形を取るが、上が富の恩恵をすべて吐き出すわけではないし、より下の階層も同じで、受けた恩恵を自らのところに少しでも多く滞留させようとする結果、各階層毎に先細りする形で順次滴り落ちていくことになり、最下層にとっては雀の涙程の富の恩恵――利益再配分ということもある。
いわば上を最初に富ませて、その富のお裾分けを順次下に回していく経済政策だが、成功しているのは上を富ませることだけで、下への循環は成功していない。アメリカの富裕層の1%が国全体の富の50%を独占していると言われている。
アメリカの人口を3億人と見ると、300万人のアメリカ人が国全体の富の50%を手にしていて、残る2億9千700万のアメリカ人が50%の富を異なる金額で分け合っていることになる。
トリクルダウンが満足に機能していない不完全な経済国家は大企業や富裕層の所得等、上が富む分、国力や経済規模が大きく見えるが、内実は格差や貧困を抱えた矛盾大き社会となる。
アメリカがその第一の証拠となる。
日本の安倍晋三も自身はそうではないと否定しているが、円安と株高で富裕層と大企業を富ませたものの、その利益を自らの懐にとどまらせて下層に循環させない経済構造のまま放置し、結果的に格差を拡大させているのは国民の側よりも企業や富裕層側に立ったトリクルダウンの経済を押し進めているからである。
トランプは実業家である。幾つもの企業を経営している経営者の立場に立っている。国民寄りではなく、企業寄りの姿勢を見せることになるだろう。
このことはトランプがオバマケアの撤廃を掲げているところにも現れている。
アメリカでは中・低所得層の6人に1人が医療保険に未加入で、治療遅れが病気の進行を招き、結果として国の医療支出を増大させている弊害の解決策としてオバマが将来的に国民の9割以上の加入を目指す民間より安価な公的医療保険への加入を義務付ける医療保険制度改革を2010年に成立させたが、共和党自体がこの改革に反対していて、これまで下院で多数派を占める共和党が予算案執行に抵抗し、政府機関の一部が閉鎖となる混乱が生じている。
オバマケアにしても様々な矛盾を抱えているようだが、趣旨自体は国民、それもより収入の低い国民の側に立った医療保険改革となっている。今回の連邦議会選挙で上院も共和党が多数派を占めることになり、行方は予断を許さないが、トランプ共々制度に反対なら、自己責任に立った自助努力を求める、結果的に国民の側から離れた、いわば従来どおりに民間の保険会社に任せる企業寄りの方向に進む可能性も捨てきれない。
またトランプが自身が被告の裁判で判事の1人がメキシコ系アメリカ人だから公正な判断を下すことができないとその能力そのものを非難したことは白人を上に置き、有色人種を下に置いた白人優越主義からの有色人種に対する存在否定から発した意思表明であるはずだ。
この白人優越主義からの対有色人種存在否定は黒人が銃を持たず、また両手を挙げているにも関わらず銃を何発も発射して殺害してしまう、少なくない人数の白人警察によって過激な形で表現されている。
メキシコからの不法移民を防ぐためにアメリカとメキシコの国境に壁を築くという移民対策にもこの存在否定の思想が混じっている。
トランプはまた2016年3月に原則67万5千人の枠が設けられている移民受け入れ制限を強化するとの声明を発表している。トランプは心の奥底ではアメリカを白人だけの世界にしたいと思っているのではないだろうか。
少なくとも安倍晋三同様に多人種共存の考えはないようだ。ここにも対有色人種存在否定の片鱗を窺うことができる。
トリクルダウンにしても自民族優越主義にしても国民の権利や豊かさよりも国家の利益を優先させ、国家を大きくする国家主義を原点としている。
国民それぞれの権利や豊かさを優先させた場合、富の配分は細分化され、国そのものを大きく見せることはできない。
安倍晋三の「日本を再び世界の中心で輝く国としていく」にしても、トランプの「アメリカを第一にする。アメリカを再び偉大な国にする」にしても、国家主義を原点とした国家第一の思想であって、国民第一の国民主義の考えに基づいていない。
安倍晋三も国家第一の思想から法人税を下げて、大企業がなお一層富むように力を貸したが、トランプにしても 現行の連邦法人税率35%から15%への引き下げを訴えている。
引き下げが成功した場合、アメリカの富裕層の1%が独占している国全体の富は50%からそれ以上に膨らむに違いない。逆に一般国民はその富を減らしていく。機能しないトリクルダウンの、あるいは国家主義の当然の成り行きである。
日本の民進党の人への投資政策はこれから成長して社会に巣立っていく子どもの生育や貧しい学生の教育資金や大学の研究者の研究資金等々に投資するというもので、国の富が細分化されることによって国そのものを大きく見せる派手さはないが、アベノミクスの格差拡大とは違って国民の幸せをより平等に持っていこうという思想によって成り立っている。
トランプの政治が個人よりも国家優先の国家主義に基づいていながら、今回当選の原動力が規制政治やグローバル化から取り残され、中流層からの落ちこぼれの不安を抱えた白人たちだとマスコミは解説しているが、トランプの政治姿勢が取り立てて恩恵付与の対象としていない白人たちであることは皮肉な現象である。
トランプが白人優越主者であったとしても、国家主義を纏っている以上、トランプ自身がそうであるようにカネを大量に稼ぐ能力のある白人たちが優先されることになるに違いない。