安倍晋三は1カ月に1回の割合で被災地を訪問・視察して、そのうち何回かは放射能汚染で最も風評被害が酷かった福島だけではなく、岩手や宮城で食の安全を伝える試食パフォーマンスを繰返してきた。
例えば2014年5月17日は福島に入り、午後、福島市内のサクランボ農家を訪れ、収穫仕立てのサクランボを試食している。
風評被害払拭の試食は農産物に限らず、水産物、それらの加工食品、天ぷらにまで及んでいる。
上記5月17日の午前中は福島市の福島県立医大を視察している。
安倍晋三「(東京電力福島第1原発事故の影響に関して)放射性物質に起因する直接的な健康被害の例は確認されていないということだ。
(漫画「美味(おい)しんぼ」で、原発事故による放射性物質と健康被害を関連付けるような描写があったことへの受け止めを問われて)根拠のない風評には国として全力を挙げて対応する必要がある。払拭(ふっしょく)するために正確な情報を分かりやすく提供する。今までの伝え方で良かったのか全省的に検証する」(スポーツ報知)
「放射性物質に起因する直接的な健康被害の例は確認されていない」から何を食べても安心であるとの保証を首相の立場で国民に請け合った。
その上で、風評を払拭するための正確な情報の提供等によって「根拠のない風評には国として全力を挙げて対応する」ことを力強く約束した。
但しこれまでの情報提供の是非を全省的に検証する必要性を訴えてもいる。
この最後の発言からは従来の方法では風評払拭に効果が上がっていない状況が見えてくる
だとしたら、なかなか風評が収束しない状況を訴えて、従来の方法論の検証を先に持ってこなければならなかったはずだ。
効果が上がっていないこれまでの方法で「国として全力を挙げて対応する必要がある」と言ったことになるからだ。
効果が上がっていないことは次の2016年10月7日付「NHK NEWS WEB」記事が証明する。
10月7日、復興相の今村雅弘や関係省庁の局長級の幹部が出席して東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害の対策を検討する会議を開き、消費者が福島県産の食品を購入した際には何らかの特典を得られる仕組み等を検討していく方針を決めたと記事は伝えている。
裏を返すと、何らかの特典を与えないと福島県産の食品がなかなか消費されない状況にあることを示している。
会議では福島県産の農産物や加工食品のうち、きゅうり等の一部の品目では市場価格が原発事故前の水準に回復しているものの、その他の品目では価格が回復せず、依然として販路の減少や買い控えなどの課題に直面していることが報告されたと解説している。
いわば風評被害が消滅しない状況にある。
当然、特典を与える目的は福島県産食品の購入促進ということになるが、風評が消えていない状況で特典だけで売れることになるだろうか。
食品の値段以上の特典を与えたなら、売れるかもしれない。放射能汚染を懸念して購入した食品を捨てても、その価格以上の価値ある特典を手に入れることができるからだ。
いずれにしても安倍晋三が1年以上も前に「今までの伝え方で良かったのか全省的に検証する」と言いながら、実際に検証したのかどうか分からないが、風評払拭が進んでいないことになる。
記事は復興相の今村雅弘の発言を伝えているが、安倍晋三の試食パフォーマンスの効果を伝える象徴的な言葉となっている。
今村雅弘「宣伝ばかりではダメだと思うので、消費者にとって実のある仕組みを是非作って貰いたい。ポイントカードなどの仕組みを作ることも一つの例だ」
安倍晋三の試食パフォーマンスを頭に置いて言ったのではないことは明らかだが、そのパフォーマンスも首相自らの主たる風評払拭の宣伝の一つなのだから、「宣伝ばかりではダメだ」は安倍晋三の試食パフォーマンスの効果についても言及していることになる。
特典がポイントカードでは、どれ程の効果が上がるだろうか。ポイントカードはどこでもと言っていいくらいに行われている。
2016年10月5日付のもう一つの記事、「共同通信47NEWS」記事が安倍晋三の風評被害払拭試食パフォーマンスの効果を間接的に伝えている。
記事は消費者庁が2016年8月に調査し、2016年10月5日に公表した、《風評被害に関する消費者意識の実態調査(第8回)について》の内容を引用している。
記事はPDF記事から、〈食品の購入をためらう産地として福島県を選んだ人は、今年2月の前回調査と比べ0.9ポイント増の16.6%で、ほぼ横ばいだった。〉、〈食品の産地を「気にする」「どちらかといえば気にする」とした約3400人に理由を複数回答で聞くと「放射性物質が含まれていない食品を買いたい」は20.2%で前回比1ポイント増だった。〉と、その調査内容を紹介している。
その記事から、調査結果を示す表の画像を添付しておいたが、具体的には、〈普段の買い物で食品の生産地を気にする理由として、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した食品購買者に対して「あなたが食品を買うことをためらう産地」を次の中から選んでください。(回答はいくつでも)」の問いに対しての福島県が16.6%ということである。
放射能検査を受けて安全であることの証明を得て市場に出している食品でありながら、「あなたが食品を買うことをためらう産地」が福島県への回答に限っても未だに16.6%も存在する。
安倍晋三が被災3県の訪問・視察のついでにこの3年間、風評被害払拭のパフォーマンスを繰返してきたが、他の方法を考えなければならない程に殆ど効果はなかったようだ。