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安倍晋三は国家公務員合同初任研修開講式訓示で求めた能力の全てが縦割りによって失われることに気づかない

2016-04-07 11:22:11 | 政治

 安倍晋三が2016年4月6日、第50回国家公務員合同初任研修開講式で訓示を行い、国家公務員たる者かくあるべしと、自らが思い描いたのか、スピーチライターが書き上げたものなのか、理想の能力を求めた。  

 どのような能力が国家公務員としての理想なのか、先ず第一に「国家公務員の務めとは何か。 それは、一人ひとりの国民の人生、日々の暮らしと向き合うことであります」と、「一人一人の国民と向き合う『感受性』」を求め、それを以て理想の能力としている。

 「一人一人の国民と向き合う」一例として安倍晋三は中学卒業後、経済的理由で高校進学を断念したものの、21歳で通信制の高校に進学、それも結婚、2人の子どもの育児に追われて学業を断念、70歳を前に再び入学して卒業した73歳の女性をエピソードとして取り上げ、「どんな感想を抱いたのか」を聞いて、感想の例も自分から挙げて示した。

 安倍晋三「家庭の経済事情に左右されることなく、意欲さえあれば、誰もが高校にも、大学、専修学校にも進学できる。教育を受けられる社会を創らなければならない。

 結婚、子育て、更には介護といった事情に関わりなく、学んだり、仕事したり、自分のやりたいことができる。誰もが活躍できる日本にしなければならない」

 そして「感想は、様々であると思います」と前置きして、抱いた感想を「仕事にぶつけて貰いたい」、「ほとばしるような情熱なくして、政策を実行していくことはできません」と、理想とする能力の発揮を求めているが、要するに自身の「一人一人の国民と向き合う『感受性』」が求めることとなった自身が抱いた感想を例示して、それを仕事に変える能力を求めた。

 但し安倍晋三が言っている経済格差=教育格差はそれを放置してきた政治側の課題であって、国家公務員がどうこうできる問題ではない。政治側の経済格差=教育格差是正の大まかな設計図を受けて、それをより精密な設計図に仕上げるのが国家公務員側の能力であり、責任である。

 このことは昨日ブログに書いた返還不要の給付型とするのか、従来どおりの利子付き返還型とするのか、あるいは卒業後の収入に応じた所得連動返還型とするのか、全て政治側の設計図ににかかっている奨学金制度を一つ見れば理解できる。

 安倍晋三はこの後触れる自身の「1億総活躍プラン」をついつい宣伝したくなったのだろう、国家公務員に求めても仕方のない能力を求めるトンチンカンを仕出かしたに過ぎない。

 例え安倍晋三が自身の「一人一人の国民と向き合う『感受性』」をどのように宣伝しようとも、自らの経済政策アベノミクスが金持ミクスとなっていること、格差ミクスとなっていることは「一人一人の国民と向き合う『感受性』」を欠いていることの証明以外の何ものでもない。

 自身が欠いている能力を国家公務員に求めた。滑稽な限りである。

 安倍晋三はまた現場に足を運び、現場の声を聞く能力を求めた。

 安倍晋三「皆さんも、『現場』に足を運んでください。そして、『現場』の声に耳を傾けてもらいたいと思います。『現場』も知らずに、机の上で資料作成の『技術』だけを磨いても、何の意味もありません。ゼロは、いくら積んでも、ゼロであります。
 
 『現場』にこそ、『答』がある。私は、そう確信しています。私自身も、『現場』の声を活かしていきたい。一番「現場」に近い場所で仕事をしている皆さんもそうでしょうが、そういう方々の声を、是非聞きたいと考えていますし、そういう声に耳を傾ける柔軟性を持ち続けていきたいと考えています」

 自身の「現場主義」を念頭に置いた発言に違いない。

 2016年3月10日、東日本大震災5年目を翌日に控えた前日の記者会見で述べている。

 安倍晋三「何としても、復興を加速する。その決意のもと、総理就任以来、3年余りで30回近く、被災地に足を運んでまいりました」

 「3年余りで30回近く」被災の現場に足を運んで、現場の声に耳を傾けた。

 だが、会計検査院の4月6日(2016年)公表の東日本大震災の復興予算との関連で公共施設などの復旧事業の完成状況を調査した報告書は約6.6兆円の計画中、2014年度末までに完成したのは4分の1の約1.6兆円分にとどまり、工事の進捗率を示す予算の執行割合も約34%止まりだと「時事ドットコム」記事は復旧事業の遅れを伝えている。  

 記事は末尾で報告書の内容を次のように取り上げている。

 〈14年度末までの復興予算総額は29兆3946億円。うち復興交付金による基金は2兆412億円で執行率は48.5%、その他の国の補助金による「復興関連基金」は3兆8167億円で執行率51.5%だった。同院は厚生労働省が被災児童支援で地方に配った基金の残額計約2億円が、9県で別目的に回されていたと指摘。事業終了で余った基金は返還するよう求めた。〉――

 予算に応じた厳格な執行が行われていないばかりか、復興予算の別目的への流用まで行われている。

 ここからは安倍晋三の「3年余りで30回近く、被災地に足を運んだ」と言う現場主義は見えてこない。「一人一人の国民と向き合う『感受性』」とも違う。

 安倍晋三は復興と再建が進んだ企業や施設のみを訪問して彼らの声に耳を傾けているのだから、そもそもからして「現場主義」でも何でもない。

 如何に復興と再建が進んでいるか、そうと見せかけるための足の運び方にしか見えない。

 安倍晋三はその他にもグローバル化時代を見据えた、内向きの発想ではない、「如何なる困難な課題にも敢然と挑戦し、しっかりと『答え』を出していく」判断能力や「前例にとらわれない柔軟な発想力」と「『若さ』という特権」を原資とした「失敗を恐れない行動力」を国家公務員として欠かすことができない能力に挙げて、そのような能力の発揮を求めている。

 但しこれらの能力に期待し、その発揮を求めるには例えこれらの能力を有していても、その発揮を阻害する特に日本の官僚組織に於ける構造上の弊害となっている“タテ割り”を取り上げて、先ずはその打破・根絶に言及しなければならないはずだが、一言も触れていない。

 「失敗を恐れない行動力」は自身の意見や主張を上のそれと闘わせ合うことによってよりよく発揮し得る。だが、“タテ割り”とは上下関係で結び合い、上に慣れ、上の意見・主張に従うことを意味する。如何なる優れた能力も“タテ割り”に組み込まれたら、その力を失い、タテマエと化す。

 安倍晋三はこれまで散々に“タテ割り”の弊害を口にしてきた。だが、今回の国家公務員合同初任研修開講式では触れるべき“タテ割り”の弊害を口にせずに理想とする能力のみを求めた。

 と言うことは日本の官僚組織に於いて“タテ割り”の弊害を完全に根絶できたと見ていることになる。

 安倍晋三は前々回の第48回国家公務員合同初任研修開講式訓示では“タテ割り”に触れている。

 安倍晋三「しばしば、霞が関は、『タテ割りだ』との批判を受けます。

 しかし、それでは、困難な課題に立ち向かうことはできません」――

 この通り、「タテ割りでは困難な課題に立ち向かうことはできない」と言っている。当然、「前例にとらわれない柔軟な発想力」も、「『若さ』という特権」も、「失敗を恐れない行動力」も“タテ割り”を前にしては十分に発揮出来ないことになる。

 果たして安倍晋三は日本の官僚組織に悪弊として巣食っている“タテ割り”を打破することができたのだろうか。

 2012年10月31日、安倍晋三は自民党総裁として野田民主党首相の所信表明演説に対して衆院本会議で代表質問を行い、民主党の被災地復旧・復興に関して総括している。

 安倍晋三「私は10月3日、自民党総裁就任後直ちに福島県を訪れました。そこで耳にしたことは、前面に出てこようとしない政府への憤りであり、縦割りのまま現場の声に応えられていない復興庁への不信であり、責任を被災地の市町村に押し付ける民主党の無責任な姿勢に対する失望でした」――

 “タテ割り”に雁字搦めとなっていて、復旧・復興が進んでいないと痛烈に批判している。

 当然、安倍政権は安倍晋三の指導力のもと、このような“タテ割り”の打破に動くことになる。

 2013年1月1日の安倍晋三年頭所感。

 安倍晋三「除染や生活再建など課題は山積していますが、これまでは縦割り行政の弊害や現場感覚の欠如によって対応が滞っていると多くの指摘を聞きました。

 安倍内閣では政府内の縦割りを廃するため、東電福島原発事故からの再生を福島再生総括大臣の下に一元化し、被災地の現場でスピーディに決定し、実行できる体制を整えます。これにより、早期の帰還、復興を実現してまいります。これからまとめる経済対策でも、復旧・復興に思い切って予算を投じ、被災地の復興を加速させます」

 改めてタテ割り”打破の決意を述べた。

 2013年3月11日、東日本大震災から2度目の3月11日を迎えて安倍晋三は記者会見を行っている。

 安倍晋三「現場では手続が障害となっています。農地の買取りなど、手続の一つ一つが高台移転の遅れにつながっています。復興は時間勝負です。平時では当然の手続であっても、現場の状況に即して復興第一で見直しを行います。既に農地の買取りについては簡素化を実現しました。

 今後、高台移転を加速できるよう、手続を大胆に簡素化していきます。これからも課題が明らかになるたびに行政の縦割りを排して一つ一つきめ細かく手続の見直しを進めてまいります」

 同じく“タテ割り”打破の決意表明であり、その排除こそが復興加速化唯一の有効な方法だと言っている。

 だが、2014年になっても2015年になっても、“タテ割り”打破を言い続けている。

 2014年11月19日全国町村長大会安倍晋三挨拶。

 安倍晋三「元気で豊かな『地方の創生』は、安倍内閣の最重要課題であります 。今後、長期ビジョン、総合戦略を取りまとめることとしておりますが、まさに、『知恵は現場にあり』です。創意工夫を凝らして成果を上げている自治体や、困難な状況を打開しようと努力している現場に、私どもがどんどん足を運び、地方の声に徹底して耳を傾けてまいります。

 国主導のやり方ではなく、地域の発想や創意工夫を生かし、個性と魅力あふれる取組を、国がしっかりと後押しをしてまいります。その際、各省の縦割りを排し、ワンストップで支援する、地域にとって本当に使い勝手の良い仕組みにしてまいります」――

 2015年10月15日、一億総活躍推進室看板掛け及び訓示。

 安倍晋三「我々は『一億総活躍社会』という大きな目標を掲げました。少子高齢化、この現実にしっかりと目を据えながら、この現実から逃れずに、この現実を克服していかなければ、日本の輝ける未来を描いていくことはできないわけであります。

 若者も高齢者も、男性も女性も、困難な問題を抱えている人も、また難病や障害を持った方々も、みんなにとってチャンスのある社会をつくっていく。みんながもう一歩前に出ることができるような、そういう日本に変えていかなければならないわけであります。

 そのために今日から、この『一億総活躍推進室』がスタートしたわけでございます。皆様方には、その一員としての未来を創っていくとの自覚を持って、省庁の縦割りを排し、加藤大臣の下に一丸となって、正に未来に向けてのチームジャパンとして頑張っていただきたいと思います」――

 そして先に挙げた2016年3月10日の東日本大震災発災から5年目を迎える前日の記者会見。

 安倍晋三「『手続に時間がかかる。』

 『人材も資材も足りない。』

 『用地取得が進まない。』

 現場で耳にしたこうした声に一つひとつ対応するところから、3年前、私たちはスタートしました。復興庁のもと霞が関の『縦割り』を打ち破る。そして、『現場主義』を徹底する。それまでの復興行政を一新し、復興を加速してまいりました」――

 “タテ割り”打破がかなり進捗していることを示す言葉となっている。

 だが、この記者会見の最後の方で次のように述べている。

 安倍晋三「あわせてもう一点、いまだにやはり被災地へ行きますと、どうしても省庁の縦割りというような話も聞かされております。私たちは復興庁、正に復興の司令塔でございます。それぞれの省庁は一生懸命取り組 んでいただいておるわけでございますけれども、被災地において、やはり縦割りだなというようなことのないように、しっかりとその辺は、正に私たちが横串を刺していくというような考え方も引き続き必要だと いうふうに思います。   

 しっかりと現場主義に徹する、そしてまた、被災地に寄り添う、そして、省庁の縦割りを排除する、そして、私たち復興庁はしっかりと復興の司令塔だというその使命を持って今年1年、そして、今年1年は 正に新しい5年の初年度でございますから、この1年を頑張っていただきたいと、そのように思うところでございます」

 現実には“タテ割り”打破は左程進んでいないことを示す言葉となっている。

 被災地の復興に限らず、その他の場面でも、あれ程“タテ割り”打破を言い続けながら、それを実現し得ないでいる。

 上下関係に縛られて上の意思が優先され、上下・左右別なく縦横・柔軟な意思の疎通を阻むことになる“タテ割り”が被災地の公共工事進捗率の低さや予算執行率の低さの原因の一つとなっているはずだ。 

 大体が封建時代の昔から明治・大正・昭和・平成と続いてきて、日本のありとあらゆる組織を動かす人間関係の血肉化したエンジンとも言うべき“タテ割り”が2年や3年で打破できるわけがない。

 であるなら、安倍晋三は今回の国家公務員合同初任研修開講式の訓示では“タテ割り”が「前例にとらわれない柔軟な発想力」や、「『若さ』という特権」、あるいは「失敗を恐れない行動力」をも阻害する要件として立ちはだかることを前以て予想して、先ずはこれらの能力を求める前に“タテ割り”打破の能力を求めるべきだったはずだ。

 だが、求めなかった。“タテ割り”打破に何度も触れながら、それが上下関係で結び合い、下が上に慣れ、上の意見・主張に従うという構造の人間関係を指すことに気づいていなからであろう。

 気づいていたなら、下がしっかりしていなければ“タテ割り”にたちまち巻き込まれ、次第に上下関係に無自覚となっていくのだから、何を差し置いても触れなければならなかったはずだ。

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