安倍晋三が消費税再増税先送りして解散・総選挙を行うなら、再増税判断有識者「点検会合」は儀式・形式の類いに過ぎなかったことになる。「点検会合」は2015年10月の予定通りの増税賛成派が多数を占めたにも関わらず、それを反故にしたのだから。
10月6日午前の衆院予算委員会で消費税増税判断について次のような質疑があった。
松野「総理、まず、ことし最大のテーマは、消費税の引き上げをいつ決断されるかということでありますが、総理はこれをいつ決断されるつもりでありますか。
安倍晋三「消費税につきましては、伸びていく社会保障費に対応する、そして子育ての支援のための費用を確保する、国の信認を維持する、そうした目的のために消費税を引き上げていくこととしたわけでございますが、同時に、経済は生き物でありますから、経済が打撃を受けている状況、あるいはまた、消費税の引き上げによって経済が腰折れをして、結果として成長がはかばかしくないということになり、デフレ脱却が困難となり、その結果、税収減につながり、よって財政の再建にもマイナスになるようであれば、これは考慮しなければならないわけでございます。
つまり、経済の指標を分析し、判断する必要があるんだろうと思います。そのための指標となるものが7月、8月、9月の指標でございまして、どれぐらいの成長率なのかということでありますが、足元のさまざまな数値が7月、8月、9月とそれぞれ出始めるわけでございますので、昨年も行ったマクロ経済の専門家等による議論を早目にスタートしたい、こう考えているわけでございまして、そうした議論も進めながら、7~9の数字を見て年内に判断をしたい、このように考えております」
「昨年も行ったマクロ経済の専門家等による議論を早目にスタートしたい」とは有識者を集めてそれぞれの判断を伺う「点検会合」のことを指す。第1回は11月4日となっていたから、安倍晋三のこの発言は点検会合の1カ月前の発言となる。
点検会合の「議論を進めながら」と言っているが、「7~9の数字を見て年内に判断をしたい」としている以上、安倍晋三は7~9月期の国内総生産(GDP)速報値を優先させていることになる。
いわば決定権は7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が握っていることになる。この速報値が安倍晋三の判断基準となるということである。
だとしたら、この発言から1カ月後に「点検会合の」を開く必要があったのだろうか。
《「今後の経済財政動向等についての点検会合」について》(内閣府/2014年11月4日)には次のように書いてある。
〈消費税率の10%への引上げについては、「税制抜本改革法」にのっとって、経済状況等を総合的に勘案して、判断を行うこととされている。その際の参考とするため、今後の経済財政運営に、どのような留意点があり、対応が求められるか、幅広く国民各層の有識者・専門家を招いて意見を伺うべく、昨年と同様「今後の経済財政動向等についての点検会合」を開催する。〉
有識者・専門家は計45名。場所は現在は右翼の巣窟首相官邸。
11月4日第1回。(全般的な観点から)
5人が予定通りの再増税増税
3人が増税時期の延期
11月13日第2回。(国民生活・社会保障の観点から)
再増税賛成4人
反対3人
11月14日第3回 。(地方・地域経済の観点から)
6人が予定通りの再増税賛成
1人が増税延期
2人が賛否保留
11月17日第4回。(経済・金融の観点から)
8人が再増税賛成
2人が引上げに反対
11月18日第5回。(経済・産業の観点から)
7人が賛成
1人が延期
1人が賛否保留
この賛成の打率は30人、6割7分の67%だとマスコミが伝えていた。反対は2割2分の22%、45人中10人の貧打。賛否保留が5人。バッターボックスに立たなかった。
既に9月8日の時点で内閣府は2014年度第1四半期(4月~6月)GDP確定値を物価変動を除いた実質で前期比マイナス1.8%、年率換算マイナス7.1%と発表していた。さらに 日銀が8月上旬から9月上旬にかけて行った個人の景気判断は2期連続の悪化を示し、内閣府発表の8月の景気動向指数は2カ月ぶりに悪化、10月1日発表の「景気が良いと答えた企業から悪いと答えた企業」を引いた日銀9月短観(企業短期経済観測調査)は大企業の製造業の景気判断はプラス13ポイントと小幅ながら2期ぶりに改善したものの(実質的には横ばいだそうだ)、大企業の非製造業は小売り等が悪化、プラス13ポイントと前回を6ポイント下回り、2期連続で悪化、中小企業の製造業が前回を2ポイント下回ってマイナス1ポイント、非製造業は前回を2ポイント下回って0ポイント、双方共に2期連続の悪化と、景気を示す各指標は芳しい内容ではなかった。
いわば7~9月期のGDPは前以て予測がついていた。そのような予測を前提として安倍晋三は点検会合開催の1カ月前から7~9月期の国内総生産(GDP)速報値を判断基準として予定通りに増税か、先送りかを決めるとし、そして速報値の11月17日発表を受けて先送りを決めたばかりか、衆議院を解散までした。
当初からGDP速報値を判断基準とすることを既定路線としていて、それを貫いたことになる。そのために45人も集めて5回も開催した「点検会合」の予定通り2015年10月消費税10%増税賛成多数を反故にした。
このような経緯からも、やはり「点検会合」に意味があったのか、疑問に感じざるを得ない。
単に体裁を整えるための儀式・形式の類いに過ぎず、時間とカネの壮大なムダではなかったか。
「点検会合」の45名の報酬がどのくらいかは分からない。
2004年7月26日の古い記事になるが、「しんぶん赤旗」が政府の各種審議会でかけ持ちの委員が4人に1人と多数占めていて、委員の最高報酬額は月額131万円だと書いている。
2005年2月27日付の朝日新聞《審議会 見えぬ人選》は、〈元官僚、861ポストに〉という副題で、〈官僚出身と判明した861ポストのうち、、244が経産省関連だった。
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厚労省では、会長職が10人。社会保険審査会は常勤6人うち3人が官僚出身者で、委員長は旧厚生省の元局長。委員長、委員共に、月給は114万円6千円だ。〉とある。
要するに政府審議会委員長職・委員職は官僚たちの天下り先になっている。
〈委員長、委員共に、月給は114万円6千円〉だとすると、民間の委員にしても同程度に準じることになる。なぜなら、官僚出身者の方が報酬が高いということになると、それが噂となって広がって特別待遇といった批判に結びつかない保証はなく、役人共はそういった噂や批判を恐れて同程度とするか、あるいは民間の方を少し高くして口止め料のの役目を持たせると同時に自分たちの報酬額を守る手段とするだろうからである。
当然、官僚と民間の間には自ずと慣れ合いの力学が働くことになる。
いずれにしても安倍晋三は最初から「点検会合」の判断を増税するか先送りするかの決定要件としていなかったのだから、出席した顔触れからしても、実質的には儀式・体裁の類いに変じることになった時間と報酬の壮大なムダで終わらせたことになる。
安倍晋三は行政のムダの排除を言いながら、自分からムダを作っている。