――提言の具体化は「総理のリーダーシップにかかってている」とわざわざ言われること自体が問題――
昨6月25日、政府の復興構想会議が菅政府に対して提言を纏め、答申した。《復興構想会議 臨時増税検討を》(NHK NEWS WEB/2011年6月25日 16時39分)
大まかに要約してみる。
提言は『悲惨のなかの希望』と名義。何と弱々しい意味づけなのだろうか。『立ち上がるニッポン!』とか、もっと力強い意志を込めることができなかったのだろうか。
まさか「希望」で終わらせていいわけではあるまい。
復興構想会議設置日――震災発生から1か月後の4月11日。纏めるまでに2か月半もかかった。その間、12回の会合。
●今回の巨大津波が防波堤のみで防御できなかったことから、大自然災害は完全封殺の思想を撤回、被害を最小限化する「減災」の考え方で対処すること。
●被災地の地形や産業などの状況の多様性に対応して代表的な地域モデルごとに高台移転などの整備や土地利用を組み合わせること。
●復興財源
次の世代に負担を先送りしないこと。基幹税を中心に多角的な検討を速やかに行い、具体的な措置を講じること。臨時増税の検討を行うこと。
●地方自治体が復興に必要な政策に必要に応じて使える自由度の高い交付金の仕組の設定。
●漁業の再生
地元漁業者が主体となった法人が漁業権を取得できる新たな「特区」の活用。
民間企業との連携や漁業への新規参入の促進。
●東京電力福島第一原子力発電所事故
原子力災害に絞った復興再生のための協議の場の設置。
放射性物質の除去など環境技術の最先端拠点の設置。
●今後のエネルギー戦略
再生可能エネルギーの導入と省エネルギー対策等総合的な推進の必要性。
再生可能エネルギー電気買取り制度の早期実施。
●結び
「『悲惨』の中にある被災地の人々と心を一つにし、全国民的な連帯と支えあいの下で、被災地に『希望』の明かりをともすことを願っている」
提言は他にもあるだろうが、以上が重点とした提言の数々であるはずである。
だが、こういったことが主となる提言を纏めるために構成員16名、検討部会19名も識者を集め、2カ月半も時間をかけたのだろうか。復興財源の決定にしても、その財源の被災自治体に対する振り分け方法にしても、漁業の再生方法にしても、原発事故収束と放射能除去方法、さらに復興方法にしても、被災県知事が復興構想会議のメンバーに名を連ねるまでもなく政府と直接話し合い、取り決めていけば済むことでなかったろうか。
勿論、被災県知事は政府との話し合いに併行させて被災市町村長と話し合いの場を持たなければならないし、被災市町村長は県知事との話し合いに併行させて各被災住民と話し合いを重ねていかなければならない。
記事に、〈被災地は地形や産業などの状況が多様〉と書いてあるように、各基礎自治体の被災民ごとに利害を異にするだろうし、この利害の相違に応じて各基礎自治体ごとの利害も異なってくるし、各県ごとの利害も自ずと違いが生じてくる。
「代表的な地域モデルごとに高台移転などの整備や土地利用を組み合わせること」としているということは各地の実情に合わせることへの提言でもあるはずだ。
各県ごとの復興方法の大枠を決めて、あとは各県と各基礎自治体の話し合いに任せて、復興財源の配布方法を決め、その財源に立った各県ごとの復興の過程を政府が監視するという手順を取ったなら、もっと早くに物事は決定したのではないだろうか。
復興はどうすべきかを決定するのにワンクッションを置く形で復興構想会議と名づけた組織をわざわざ設置する必要性はあったのかということである。
あるいは逆にこの程度のことを識者を集めた組織に決めて貰わなければ政府は何もできないということなのだろうか。
〈政府は、この提言を基に復興の基本方針を策定し、本格的な復興予算となる第3次補正予算案を編成する方針〉だということだが、どうもムダな時間とムダなカネをかけたとしか思えないが、素人故の浅はかな考えに過ぎないのだろうか。
五百旗頭筆耕構想会議議長「政府が、この提言を真摯(しんし)に受け止め、誠実に、速やかに実行することを強く求める」
2か月半もかけたということで提言内容に確信を持っていることに対して政府の提言実現に確信が持てないことの裏返しとしての念押しということなのだろうか。菅仮免相手では無理もない疑心なのかもしれない。
菅仮免「経済や社会の在り方、それに原子力の問題など大きな課題に対し、後世に残る重厚な提言を頂いた。今後は、この提言を最大限に生かして、復興に当たっていきたい」
提言だけ重厚であっても意味はない。「政治は結果責任」。結果を伴わせて提言は生きてくる。結果責任意識がなく、責任回避ばかりに走る菅仮免がどのくらいのことができるのか。
村井宮城県知事「提言が絵に描いた餅になるかどうかは、総理のリーダーシップにかかってている。提言はいろんなものを書き込んでいるが、最後はすべて財源に突き当たるので、政府には、それに見合った財源を準備してもらいたい」
わざわざ「総理のリーダーシップ」を言わなければならない。リーダーシップに事欠かない総理であったなら、殊更取上げなくてもいいリーダーシップのはずだ。
菅仮免は極楽トンボに出来上がっているから、自身のリーダーシップが期待されたと思って、内心Vサインを掲げたかもしれない。
水産業復興特区ついて――
村井宮城県知事「政府は実現に向かって汗を流してもらいたい。実現することを前提に、今後は漁協と調整していく」
昨夜のNHKニュースは地元の宮城県漁業協同組合が「水産業復興特区」構想の反対署名を村井県知事に提出したと伝えていた。
それぞれに利害を異にする。一筋縄でいかない復興構想会議提言の実現が待ち構えている。
佐藤福島県知事(福島事故の損害賠償について)「必要となる法整備を含むことが盛り込まれ、国が最後まで意を用いるとしている。私どもの要望や意見はおおよそ認められた。具体的には、国との協議の場で進めて行きたい。与野党の国会議員が福島県を訪れた際、『挙党一致で対応する』と言っていた。小異を捨て、大同に立って、被災地のことを常に考え、この提言を具現化してほしい」
「私どもの要望や意見はおおよそ認められた」と言っている。だったら、復興構想会議を媒介する手間を置かずに直接政府に「私どもの要望や意見」をおおよそ認めさせてもよかったし、そうしたなら時間を省くことができたはずだ。
最後に議長の発言を再び取上げている。
五百旗頭筆耕構想会議議長「私は、歴史家として、重大な国難であればあるほど、そのときの与野党が協力し、国民や被災地を救うために結束してやってもらいたい。今後は、政府が提言に書かれていることを具体的な施策に落としていく作業が行われる。菅総理大臣からは『今後とも見守って提言してほしい』と言われたので、そういう努力は続けたい」
被災地そっちのけ、被災住民そっちのけの永田町政争の最終責任は菅仮免にある。政権運営能力を著しく欠いていることが原因となっている与野党対立であり、与党内対立であり、総体としての政争だからだ。
菅仮免は4月22日の首相官邸記者会見で次のように発言している。
菅仮免「私自身、この大震災のときに、総理という立場にあったひとつの宿命だと受け止めておりまして」
大震災を立場上の「ひとつの宿命」と受け止めていながら、日本の政治を震災復興に向けて満足に纏めることも、満足に前に進めることもできていない。だからこそ、五百旗頭議長に「重大な国難であればあるほど、そのときの与野党が協力し、国民や被災地を救うために結束してやってもらいたい」との要望を受けることになる。
所詮、「総理という立場にあったひとつの宿命」云々は口先だけの奇麗事に過ぎないということなのだろう。宿命と受け止めたにしては満足な実行過程を踏んでもいないし、当然のこととして着実な結果を上げてもいない。
何も復興会議を間に置かずとも政府と被災県が直接議論して決めればいい復興策を中間に復興と名づけた会議を設置して決める手続きは結果的に指揮系統の乱れや、意志決定の遅れ・混乱を招いて整理統合を迫られたが、震災発生後首相官邸に何々対策本部だ、何々会議だ、何々室だ、何々チームだと名づけた20以上もの意志決定の組織を次々と立ち上げていった、必要な名称をつければ名称どおりに組織が機能して物事がスムーズに進んでいくと期待する政治運営の一環としてある意志決定機関の設置ではなかったかと思えてならない。 |