最初に断っておくが、誰もが弁えているように「先見能力」とは「将来のことを予め見通す能力」のことを言う。勿論、将来のことを見通すには様々な学者その他の知識人・有識者、あるいは各種マスメディアが提供する将来の事象に関わる統計や予見等の情報を参考にする。
だが、菅首相はその先見能力の存在を否定した。そうとしか解釈できないWEB記事に出会った。
菅首相自身が自らに先見能力を存在させていないから、如何なる他人も先見能力を存在させていないと思い込んでいるのか、人間と言う生きもの自体がそもそもから先見能力を存在させていないと思い込んでいるのか、本人に聞いてみないと分からない。
情報解釈の間違いと受け取られないように全文を参考引用しておく。但し、元記事を読みやすいように適当に改行と名前の太字化等、一部手を加えてある。
《一体改革 民主案の調整難航も》(NHK/2011年1月18日 4時33分)
菅総理大臣が目指す社会保障と税制の一体改革を巡って、この問題を担当する与謝野経済財政担当大臣が民主党案に難色を示していることについて、党内では、政権公約に掲げた案を安易に変えるべきではないという指摘が出ており、調整が難航することも予想されます。
この問題を巡って民主党は、先の政権公約=マニフェストで、月額7万円の最低保障年金を創設し、財源は全額消費税で賄うとした案をまとめています。
これについて菅総理大臣は、内閣改造後の記者会見で「5年ぐらい前にいろいろ議論したが、この5年間の人口構成の変化や、さらに5年10年先の変化を考えるとその前提でいいのか」と述べ、マニフェストの修正に含みを持たせました。
そして、政府でこの問題の取りまとめに当たる与謝野経済財政担当大臣は「全額、税方式となると、膨大な金も掛かる。税方式にすれば未納入の問題が解決するという点もあるが、すべての制度に一長一短がある」と述べ、民主党案に難色を示しました。
これに対し、岡田幹事長は17日、記者会見で「与謝野大臣は民主党政権の一員となったのだから、民主党の考え方も十分踏まえて国会で答弁してもらいたい」と述べたほか、
細川厚生労働大臣も「民主党がマニフェストで約束した最低保障年金を創設し、その財源を税で賄う方式を基本としたい」と述べ、政権公約に掲げた案を安易に変えるべきではないという考えを示しました。
菅総理大臣は、6月ごろまでに一定の結論を得られるよう、近く、関係閣僚による会合を開いて議論を本格化させることにしていますが、民主党案の取り扱いをめぐる考え方の違いが表面化しており、調整が難航することも予想されます |
菅首相は言っている。
「5年ぐらい前にいろいろ議論したが、この5年間の人口構成の変化や、さらに5年10年先の変化を考えるとその前提でいいのか」
要するに民主党がマニフェストに掲げた社会保障政策は5年後10年後を見通した議論でないということになる。5年ぐらい前の議論は以後の「5年間の人口構成の変化」を先見しない(先を見通さない)議論だったと。
だから5年前の議論は現在の「人口構成の変化」を受けた現況に於ける議論の前提、あるいは政策決定の前提とはならないと。まるきり参考にはならないと
さらに「10年先の変化を考えると」、5年前の議論はとてもとても参考にはならない、それを前提とした政策は無理な話だと、「10年先の変化」を見通した議論ではないと否定し、否定することによって先見能力を存在させること自体を否定している。
だとすると、菅内閣は与謝野馨が自民党時代の経済財政担当相時代に自らが主導して08年11月に纏めた「社会保障国民会議」の最終報告書を踏襲して税と社会保障一体改革の政策参考とするそうだが、この報告書自体にしても、「10年先の変化」についていけず、今後の社会保障政策構築の前提とならないとしなければならないことになるが、そうだとはしていない。矛盾そのものである。
菅首相は2009年9月、民主党代表代行、副総理、農林漁業再生本部顧問の立場で『林業再生への提言~21世紀は緑のエネルギーで生きる』なるプランを作成、その中心である農林業に関わる「民主党の4つの目標」を発表している。
(1 )木材自給率の向上(10年後5000万m=50%)
(2) 林業、木材産業、住宅産業等地域産業の活性化
10年後木材生産で現在の3倍の6300億円、木材関連産業全体で現在の2倍に
(3) 中山開地域の雇用の拡大(10年後木造建設等々含む本材関連産業で100万人〉
最後の「10年後木造建設等々含む本材関連産業で100万人」の雇用創出は2009年から10年後の「人口構成の変化や、さらに5年10年先の変化を」先見しないで計画立てたプラン、目標だったしなければならないし、目標だったことになる。
断るまでもなく、菅首相は如何なる議論もそれを纏めた時点での議論は5年後、10年後の「人口構成の変化」やその他の社会変化に対しての前提とならないと言っているのだから。
つまり、如何なる議論にしても5年後、10年後を先見して議論を構築する必要があっても、その先見性を排除した、いわば先見能力を発揮しない結論が導かれていることになる。
菅首相は副総理だった9年10月11日日曜日、朝日テレビの『サンデープロジェクト』に出演して、ヨイショジャーナリスト芸人の田原総一郎を相手に得々と喋っている。
菅副総理「民主党は林業再生プランというものを出して、直接雇用が10万、切った木を使った雇用まで含めると、一応100万というものを2年前に出している」
この「100万」は「民主党の4つの目標」で掲げている「10年後木造建設等々含む本材関連産業で100万人」の10年後の「100万人」と言うことであろう。
菅首相のこの発言にしても、「人口構成の変化や、さらに5年10年先の変化を」先見しない発言としなければならない。
実際には様々な研究機関、組織が10年後20年後を先見した統計予測と予測研究を行っていて、多くがそのような情報を参考に自らの先見性を交え、あるいは自らの先見能力を発揮して必要とする議論、必要とする情報を組み立てている。
菅首相が言っている「人口構成の変化や、さらに5年10年先の変化」の一例としてインターネット上から参考にした2006年9月27日作成の研究例の冒頭部分を挙げてみる。
《今後の高齢化の進展 ~2025年の超高齢社会像~》
「1.高齢者人口の推移
○ 平成27(2015)年には「ベビーブーム世代」が前期高齢者(65~74歳)に到達し、その10年後(平成37(2025)年)には高齢者人口は(約3,500万人)に達すると推計される。(図1)」・・・
2006年に約20年後を先見した高齢者人口推移を研究しているのである。また20025年まで先見した様々な日本の人口動態研究・統計も存在する。あるいは少子化・高齢化に伴って、日本の経済が縮小に向かっていくという研究もある。
必要とするなら、この種の様々な研究・統計を参考にして、且つ自らの先見能力を交えて5年後、10年後を見通して、あるいは見据えて政策の構築にかかるのが国会議員であろうと地方議員であろうと、自らの使命であり責任であるはずである。
勿論、現実の状況変化に応じて少しの手直しは生じるだろう。
それを菅首相は「5年ぐらい前にいろいろ議論したが、この5年間の人口構成の変化や、さらに5年10年先の変化を考えるとその前提でいいのか」と、「5年10年先の変化」を先見した議論ではなかったと言う。何ら先見能力を交えた議論ではなかった言う。
最初の議論の全面的な変更は多くの場合、人口構成の変化やその他の社会の変化が理由ではなく、社会を先見する能力を欠いていたことからの変更、あるいは社会の実態を把握する能力を欠いていたことが原因であろう。
あまり手前勝手なことを言うなと腹立たしくさえなる。自分の都合がいいようにあるべき経緯、あるべきプロセスを平気で捻じ曲げる。大体が詭弁を専ら用いる人間はご都合主義と来ているが、菅首相がこれ程までにご都合主義をは驚きである。
野党を税と社会保障一体化改革の議論に引き入れて菅内閣の延命を図るために民主党の政策を節操もなく変更するのだと正直に言うべきである。
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