空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの感想 12 (祭りの中の何でも屋 )

2018-09-29 09:53:46 | 文化

  この章の最後に、オペラ{セビリアの理髪師}の言う「何と素晴らしい人生」と感じて生きている人は幸せな人だろう。しかしイギリスの哲学者バートランド・ラッセルの「幸福論」によれば、ロンドンの地下鉄の中で人を観察してみれば、皆、何かの悩みに取りつかれた顔をしていて、幸せな人は少ないのではないかと、書いている。

フランスの科学者で「パンセ」を書いた天才パスカルは人は一人になって自分を観察してみると、たいていみじめな心境になるから、貴族はそれを忘れるために、狩猟をやるのだというようなことを言っている。ゲーテはファウストの中で、幸せな人は少ないというようなことを言っていたと記憶している。

お釈迦様は普通の人の人生を見て、{苦}と喝破したと伝えられている。

 

現代は科学技術が発達して、物が豊富になり、文明国では豊かな人が増え、幸福な人が増加しているように見えるが、前の文章に書いた偉人達の言葉を見ると、そう楽観できそうもない。

 

宮沢賢治のように、世界中の人が幸せにならなければ自分の幸せはないという心境で世界を見渡せば、気の毒な人が多すぎて、「幸福」なんてとても無理ということになる。

 

私はいつだったか、こんなことをノートにメモをしたことがある。

「この宇宙には神秘がある。男と女の間にも神秘がある。

星空にも神秘がある。

花にも昆虫にも神秘がある。

その中で、最大のものは「いのち」だろう。

「いのち」の神秘を見詰めているのは

科学だけではない、芸術も文学も同じだと思う

そこで、「あなたの趣味は?」と聞かれたら

私はこう言おうと思う

「私の趣味は生きること

それから、古典を読むこと、

その中で、私は神秘を発見したのだから。」

 

セビリア理髪師も仕事をする中で、生きる喜びを発見したのかもしれない。

生きること。仕事をすること、ボランティア活動をすること、大自然に触れること、掃除すること、

料理すること、そのようにして、人は頭の中の妄想を綺麗にして、生きる生きる生きる、

そこにこそ、人間存在の神秘がある、苦からの脱出、喜びがあるのではないか

そうした喜びを与えてくれる神秘に感謝する時、祭りを盛大にやろうじゃないかという気持ちになる。

西行法師の「何事のおはしますをばしらねども、かたじけなさに涙、こぼれる」

 

 

 

 

12 祭りの中の何でも屋

 

 

  祭りが始まった。そこで、市民の驚きがあったようだ。毎年やっていることなので、ある決まったパターンが祭りの流れにあるが、それでも時々、突拍子もない出し物があって、市民の喝采や驚きがあったようだ。しかし、今度の場合は、その驚きは今までにないものだった。

それはまず、朝の十時から、花火が上がり、数台の山車が町の中央の大きな広場の周囲を回りだした時に始まった。真ん中の山車の一番上に、水耕栽培の果物がその長さ三メートル横二メートルの所に一面にその美しい深紅のものがあふれるようになり、真ん中にトミーが法被姿で太鼓をたたいているのだった。

 

 

 

 吾輩が確かに、その素晴らしいあふれるような果物の美しさには驚いたが、トミーそのものにはそんな驚きはなかった。市民は果物以上に、トミーの姿に驚いたのだ。まだ革命をへて、三十五年。伯爵の威光は市民全体に行きわたっていた。その伯爵の息子がこんな姿で、祭りに参加したことに驚きと感動があったようだ。

そして、さらに驚いたことは異星人のサイ族数人が民族衣装を着て、山車の二階にすわり、太鼓にあわせて、楽器を弾いていることだった。

しばらく見なかった白熊族の大男スタンタが先頭の綱を引っ張りあとから、祭りの衣装を着た市民が大人も子供もつながるように引っ張っている。

  

 その山車がゆっくり動き出すと、内側に山車と並んでもう五十名ほどの男女が向日葵踊りを始めていた。

我々は大広間のはじのベンチに座っていた。

「驚きね。でも、これではトミーさんの会社の宣伝をしているようなものだという批判がおきないか心配だわ」

「でも、会社の文字や宣伝めいたものは何もないわね」

「いつの間に、あんな水耕栽培をやっていたなんて、さすがトミーさんね。異星人がこういう形で祭りに参加するなんて全く意表をついているじゃありませんか」

 

 

 そこに、ひょつこり顔を出したのは異星人の司令官だった。

「どうです。兵士も民族衣装をきせれば、立派な平和の使者。ビジネスマン。いや、われらの神、サラスキー神の使者となりますでしょ。トミーさんは我らの考えを理解して下さる。しかし、我らもあの水耕栽培には驚きました。我らの文明ははるかに進んでいるのに、こういう水による栽培があるとは気づかなかった」

「トミーさんはいつも生命は無限であると言っていましたわ。水と空気と栄養さえあれば、無限に果物がつくられていくなんて、目を輝かせて喋りますわ。そういう視点から言えば、銅の鉱山から流れ出る鉱毒は生命を破壊しますよね。」

とカルナが言った。

 

「ビジネスは良いことにも使われるし、悪いことにも使われるのですよ」

「あら、そこまで分かっているのなら、即刻、鉱毒をなんとかしてくださりますよね」

「金がかかりますよね。こちらの国の新政府が一銭も金を出さないというのでは、金がないというけれど、彼らは隠し金貨を地下に持っているなんて公然の秘密でしょ。そこから、出せば、いいのです。林文太郎はあの金貨で、我らに対抗するような武力をつくろうという魂胆があるのですよ。無理なんです。文明のレベルが違う。ま、ユーカリ国の武力に対抗するための大砲づくりには、我らも賛成しますけどね」

「死の商人のビジネスでしょ」

「困りましたね。そうかたくなに、我らの方を見てもらっては、むしろ、新政府と交渉すべきことですよ」

 

 

 食事時になると、トミーは我らの方に来た。

「生命とは何と素晴らしいでしょう。細胞を生命という学者がいますけど、わたしはちょつと新しい考えを思いついたのですよ。細胞が生命なら、この果物をこんな風に無限にさせている力は「自然のいのち」とでもいうべきものです。「自然のいのち」は目に見えません。目に見えませんが、森羅万象にいきわたつているのです。」

  

  「自然のいのちですか。面白い考えだ。魔法学校でもそれに近いことを言う先生がいた」とハルリラが言った。

「それは素晴らしい先生ですね」

「真理は一つなんだと思いますよ。ただ、表現は色々にあるのだと思います。そして、その表現には、真理への到達度の差で、深い浅いがあるのだと思います」と吟遊詩人が言った。「トミーさんの太鼓の音を聞いていて、そう感じましたよ」

背後が洒落たカフェーになっていて、そこから、ボーイが出てきて、昼食の注文を聞いた。

 

 

 そこに勘太郎がグラスに酒を一杯入れて、「酒はいいね。ところで、詩人の川霧さんの仮装は変わっていますな。囚人服とは。」と言った。いつの間に川霧の服は囚人服になっていた。「いつに間に、魔ドリがやってきたのだな」とハルリラが言った。

そこへ知路が現れて、「笛を吹きましょうか」と言って、微笑した。

「ほほう、仮装ではない。悪の技に引っかかってしまったというわけですか」と勘太郎が言うと、飲み残しの酒を一気に飲み、「だから、わしは言うのです。人間には免疫が必要。人に酒が必要なように、ルールなき株式会社。株主本位の株式会社。これはいいではありませんか。我が国の発展には、競争が必要なんです。投資が必要なんです。ギャンブルが必要なんです」と言った。

「あなた、お酒に酔ってないかしら」

「いいでしょう。祭りなんですから。最近、僕はサイ族に友人をつくった。こいつがこの祭りに異星人を来るように運動してくれたのだと思う。おおい。来いよ」

「いつ、魔ドリがきたのかな。気がつかなった」と詩人がつぶやいた。

「皆、山車や踊りを見るのに夢中でしたからでしょ」と知路は言って笑った。

「知路さん。川霧さんは、あなたがいなくても元の服にできる方法を知っているのさ」とハルリラは笑った。

「ヴァイオリンね」と知路は寂しく言うと、さっと消えてしまった。

「やはり、魔界のやつだ。魔法でもあんな器用なことは出来ん」とハルリラは驚いたような顔をした。

 

 勘太郎も驚いて、何か浮かれたような歌を歌ったが、その時、一人のサイ族の青年、異星人がこちらにやってきた。

「あいつはギャンブルが好きでね」と勘太郎が言った。「僕の酒みたいなものさ。やめられないという悪の権化。もつとも、酒は上手にのめば、薬。ギャンブルだって、上手にやれば、ヒトは楽しみを得る。なあ、サイ族君」

 

「そうですよ。なんでも、度をこしたら、いけません」

「それなら、株式会社にきちんとしたルールをつくるべきでしょ」

「それは新政府のお仕事ですよ。わたし達はこの制度が経済を発展させることを知っていますからね」

「わしはきらいだな。わしは神々の住む社会がいい」とハルリラが言った。

吾輩には、ハルリラが言う「神々の住む世界」という意味がいまだはっきりしていなかった。

「神々の住む社会と言うのはシュムペーターの言う、あの資本主義が栄え、栄えることによって、いきづまり、新しい社会主義が誕生するとでもいうことを考えているのかな」と吟遊詩人が言った。

「シュムペーター。そんな人は知りません。私の故郷は魔法次元ではあったけれど、故郷は美しかった。すべての魔法人は人に親切だった。厳しいのは魔法と剣の修行のみ。故郷には美しい清流が流れ、花は目もさめるようなのが様々な色で、あちこちに無数の宝石の塊のようにあるのだった。子供たちの楽園だった。食料は豊かで、人々は質素だが、小ざっぱりした服装で、それぞれの個性を発揮し、どこの家にも愛の灯があった。悪口を言ったり、嫌がらせをする者もいなかった。働く人の喜びがあり、ギャンブルも好きな人がいなかったので、当然カジノもない。それが私の言う神々の住む世界ですよ」

 

 

 「そんな社会は退屈ですよ」とサイ族の青年が言った。

「パチンコがなくちゃあね。競争して会社を大きくして、金儲けして、こうやって文明が進めば、よその惑星にわれらの神、サラスキーの神を信仰すれば大金持ちになるという価値観を広める、この方が愉快じゃないですか」

 

また祭りが食事の休憩のあと、始まった。

サイ族の青年とハルリラの喧嘩が始まる。

「わしの神々の世界にけちをつける気か」とハルリラが言った。

「退屈だと言っているだけですよ」とサイ族の青年が言った。

 

「退屈だと。退屈な中に真珠は光るものだ」とハルリラが言った。

「退屈は退屈さ。俺なんか、あまり退屈になると、喧嘩でもして、退屈しのぎをしたくなるくらい、退屈は苦手よ」

「それじゃ、俺の剣と」とハルリラが言った。

「サイ族はそんな旧式の武器は使わん」

  

途中で、カルナが「止めなさいよ。あなたたち、向日葵踊りでもやってきなさいよ。そうすれば、退屈なんて吹き飛ぶわよ」

なるほど、向日葵踊りは三台の山車と一緒に、朝の三倍ほどに膨れ上がっている。

太鼓の音も笛もサイ族の楽器もまさに佳境のように、憂愁の音色を秘めた情熱の激しさで青空に響いていく。

 

「そうだな」とサイ族の青年は走っていき、司令官が踊っている仲間のサイ族の後ろにつき、踊り始めた。

  

 トミーはいつの間に、山車の上に戻り、太鼓をたたいているのだった。

深紅の水耕栽培の果物が上からあふれるようになって、そよ風に揺れると、トミーの頭が隠れる。

そよ風は山車に飾り立てられている金や銀やあらゆる宝石の数珠の飾りを揺らし、かすかな独特の音を出す。

空は青空。

異星人のサイ族数人が民族衣装を着て、二階にすわり、太鼓にあわせて、楽器を弾いている。これも中々の見ものだ。

 

我々、つまり吟遊詩人とハルリラと吾輩とカルナはまだカフェーでお茶を啜っていた。

「アリサとリミコが仲良く向日葵踊りをしているわ」とカルナが言った。

「我々も踊りますか」とハルリラが言った。

「あたしは見ているのが好きなの」とカルナが言った。

「ああ、あなたはエッセイストだから、観察してあとで文章にするのでしょ。一度、見せて下さいよ。」とハルリラが言った。

「いいわよ。でも、がっかりするかも」

「あなたの書くものなら、きっと気に入りますよ」とハルリラが言った。

 

 

 「異星人はやはり、この祭りに来ましたね」と吟遊詩人が言った。

「これで友好が深まり、こちら側の言うことに耳を傾けるように異星人がなってくれれば、銅山の鉱毒問題も案外、すんなり解決するという期待が持てますね。どうです。カルナさん」

「ええ、あたしもそういう期待を持ちます」とカルナが微笑した。

 

そこへ突然、勘太郎が踊りから戻ってきた。

多少、酒が回っているらしかった。

「俺には、踊りは合わない。カルナさん。酒を頼んでくれんか」

「自分でボーイに頼めば」

「ほお、トミーの親友にそんなことをいっていいのかい」

「どういう意味」

「俺とトミーは親友。トミーとカルナさんの中は知っている」

「変なことを言う人ね。ちょつとお酒が入ったくらいで、そんな風にからむ人はあたし、嫌いですよ」とカルナが言った。

勘太郎はカフェーの入口に入るのが面倒なのだろうか、それともカルナにこういう風に話しかけることに快感を感じているのだろうか。カルナは動かないで、静かに紅茶を啜っている。

「もうあなたは飲まない方がいいわよ」

「何で。祭りだぜ。祭りには色々な楽しみがある。ある者は踊りを踊ることに楽しみを見出し、ある者は太鼓をたたくことに。そして俺みたいに酒に喜びを見出すのもいる。人それぞれ自由が一番いいじゃないか」

 

 

 その時、花火が上がった。広場の奥の指揮台に一人の男が立った。

伯爵だ。人々は熱狂的な拍手をした。急に太鼓の音が勇ましく、伯爵を歓迎する響きの深いものに変わった。

伯爵はそれに答えて、手を振った。

 

「伯爵は人気がありますね」とハルリラが言った。

「それはそうですよ。普通の貴族はみんな新政府に呼び戻され、中央の役人か、今までと違い地方長官になっているのに、伯爵だけは自分のかっての領地の知事におさまるというのも彼の人気のせい」とカルナが言った。

 

 

 「伯爵は」と白熊族の大男スタンタは山車の綱を別の人に渡して、こちらに飛んできた。

「伯爵は素晴らしい。私の意見を取り入れて、町の川や小川のあちこちに沢山の水車をつくり、電気をおこし、各家庭に送るようにするという。祭りが終われば、その仕事で忙しくなる。わしはここで働くことに生きがいを感ずる。

それに、又。伯爵はカルナさんの期待に応えて、貴族制度を廃止するように新政府に働きかけているのですよ。内の伯爵みたいに人格高潔な人ばかりなら、貴族も悪くないけれど、わしは諸国を見てきて、民衆の声には、貴族の特権にあぐらをかいた忌まわしい貴族の方が多いという話ですからね。第一、ああいうものが格差社会の土台になっているというカルナさんの持論に、伯爵は賛成なさっている。何と心の広いひとだ」とスタンタは目を大きくして、多少興奮したように喋った。

スタンタの横に最近、彼とよく一緒にいるようになったキツネ族の小柄な中年の男がいた。

 

「ところで、君は何の仕事をしているんだい」

「わしですか。わしは伯爵のやれということを何でもやる、つまり何でも屋ですよ」とキツネ族の男は答えた。

その時、吾輩寅坊はオペラ「セビリアの理髪師」の中で、理髪師が歌う歌詞を思い出した。

「私は町の中の何でも屋だ。 

どいた。

夜が明けた。店へ急げ

ああ、何と素晴らしい人生~」

           

             【 つづく 】

 

 

 

 

 


銀河アンドロメダの感想 11 (いのちに満ちた明珠 )

2018-09-20 09:33:30 | 文化

 カント九条はこのファンタジイのなかでは、日本国憲法九条をさす。今、政権は憲法を改正しようとしている。狙いは九条を改正したいことははっきりしている。言葉の字句の上だけで、判断すれば、そういういう気持ちになることは分からないではない。

しかし、現に自衛隊はかつての日本軍より強力で、災害救助では、国民から、その奮闘ぶりを感謝されている。防衛力は合憲という解釈がなされ、しつかりと国民の間に定着している。

憲法九条は理想的すぎて、現実に合わないというのだろうが、憲法九条の理想を追求して、世界を軍縮に持って行くのが、人類の生き残る道だということが分からないのだろうか。

今の世界情勢は武器があふれている。多くの国が軍拡を進め、莫大な金をより強力な武器の開発へと進めている。この勢いで行けば、人類は地球温暖化か、大戦争によって滅亡に向かうことがみえるではないか。

恐竜は巨大な隕石の地球への衝突で、気象が急激に変わり、何億年と栄えたにもかかわらず、一気に滅びた。

今の人類の世界情勢を見ていると、このまま行けば、今後百年の間に人類の最大の危機が訪れる可能性が高いことに同意する人がかなりいるのではないか。それでは、何故憲法改正の動きが出てくるのか。短期的に見ているからである。ごく近い将来の安全だけを考えるから、そういう発想が出てくる。明治維新のような時なら、外国に侵略されないように、武器を強力にする。

それは正解だったと思う。しかし時代は変わった。第一次大戦と第二次大戦を経験し、その破壊力のすさまじさを知り、今や人類は核兵器とミサイルを手にしてしまったのである。

明治維新と同じ発想では、困るのである。

憲法九条を守り、世界に軍縮を呼びかけるのが、被爆国日本の役割ではないか。

現状において、日本がどの程度の防衛力を持つ必要があるのかは、国会で議論して決めることであると思われる。憲法九条を守るということは、理想的な看板であるけれども、人類と日本に必要なことである。

 

与謝野晶子の反戦の歌は今も生きています

 

ああ、おとうとよ、君を泣く

君死にたまふことなかれ

末に生まれし君なれば

親のなさけはまさりしも

親のなさけはまさりしも

親は刃をにぎらせて

人を殺せとをしへしや

人を殺して死ねよとて

二十四までをそだてしや

 

堺の街のあきびとの

旧家を誇るあるじにて

親の名を継ぐ君なれば

君 死にたまふことなかれ

旅順の城はほろぶとも

ほろびずとても何事ぞ

君はしらじな あきびとの

家のおきてになかりけり

 


 

  11  いのちに満ちた明珠

 

 祭りの前日の夜、花火があがった。和田川の河川敷であげたのだろう。

明日は昼間から、山車がでて、昼過ぎから向日葵踊りが始まる。異星人はいつ来るのか。

我々の家から、花火はよく見えた。何も和田川まで行かなくても、よく見えるので、ここは高級住宅地になっているのかなと思ったくらいだ。

ポーンといくつもの音がして、小さなボールのような赤いものが上空に上がると、そこでまたポーンと音をたてて、周囲に丸く円を描くパターンが多いが、その花模様は色々で、中には富士山のような山を山の稜線を小さな丸い花火でつくりあげている花火の技術はたいしたものだ。

何かの御殿のような建物、巨大な向日葵のような花、そんなものすら黒い星空に上がるのだから、その美しさは胸をはっとさせ、頭の中を空っぽにしてくれる美しさだと思った。

しばらく見とれていると、その花火の音の中に、やや鋭い一発の音が近くで聞こえた。我々は花火の音とも思ったが、何か銃声のようにも思えたので、奇妙な違和感をおぼえた。

  

この国で、こんな鋭い銃声を聞いたのは初めてだし、一般には流布していないものだと思っていたから、不思議に思った。

 

いつの間に、ハルリラがいないで、吟遊詩人が吾輩と一緒に花火を見ているのだ。ハルリラはトイレでも行ったのだろうと思っていた。

吾輩は花火の方向とは別のカーテンをあけて、そちらの方に視線をやり、凝視した。巨木の陰に、何か二人の人影が向かい合っている。

 

 

 一人はハルリラだ。相手は最初よく分からなかったが、どうもリミコらしい。

吾輩は静かに、部屋を出て、ドアを開けると、リミコは銃を持っている。

「拙者を光でおびきよせるとは不敵なことをするな」とハルリラが言った。

「気がついた。さすが、魔法を使う人だけあるわ。でもねあたし達の文明に比べたら、あなたの魔法なんて玩具みたいなものよ。それで、何の魔法次元なの」とリミコは聞いた。

「そんなことを言って良いのか。長老は黄金の魔法次元だろ。わしのはバラ色の魔法次元。盾の術。その程度の銃は拙者の魔法の盾で防ぐことが出来る。」

  

「あたしはあなたの手を狙ったのよ。余計なことをするなという警告を込めてね」

「余計なこととは」

「カント九条をわれらにのませようという策略よ。長老さまはおひとが良いから、私が先手を打っておかないとね」

「お宅は異星人のスパイか。サイ族のくせに、鹿族に変身するとはなかなの魔法だな」

「あら、この程度のお化粧はね」

「カルナとアリサの家に、スパイとして入り込むとは、魔法よりも中々の策略家だな。この国に来て、何を狙っているのだ」

「あたしのような下っ端に、そんなことは分かるはずがないでしょ」

 

 

 「鉱毒事件が起きているよな。銅山から流れ出る鉱毒が和田川に流れ込み、そして、そこの周囲の野菜畑にしみ込んだ鉱毒はウサギ族の村を襲った。君ら、サイ族はこの国の人達に害を与えにきたのか」

「ビジネスよ」

「なら、何でスパイみたいなことをするんだ」

「これは長老さまの言いつけなのよ。わたしは彼の秘書ですから、そういうことは率先してやらないと」

「何で、カルナさんの家に入り込むのさ」

「だから」

「長老さんのことは分かる。俺が聞いているのは長老さんが何でカルナさんに興味を持つのかということよ」

「カルナさんがスピノザ協会に入って、私たちのビジネスを邪魔しようとしているからでしょ」

「なら、スピノザ協会に忍び込んだ方が情報が得られるのではないか」

「そうね。確かにそれは言えるわ。私もよく分からないの。

でも、あなた方みたいな銀河鉄道の客が来ているという情報も必要なのよ」

「俺が」とハルリラは言った。

「俺なんか、ただの旅人よ」

「あなたは仕官しにきたのでしょう。純粋な旅人は吟遊詩人とあの猫族の男だけでしよ」

 

 

 突然、「僕も旅人ではあるけど、サイ族の鉱毒事件は賛成できないな」と吾輩は彼らの前に飛び出して、言った。

「危ない」とハルリラが言った。

リミコから銃が発射されたのだ。

ハルリラはそれより早く、虹のような煙幕を吾輩の周囲にはっていた。

吾輩は間一髪でどこかをやられる所だった。「左手を狙っただけよ。余計な邪魔をしないでという意味で」とリミコは言った。

虹が晴れ、夜の中で星がまたたき、いつの間に、広場の四隅にある街灯が広場をうすぼんやり明るくしていた。

 

大きな花火が上がった。いくつもの向日葵のような花火が色もいくつも描き出し、美しいと思った。

吟遊詩人が下りてきた。

「どうしたのですか」

ハルリラが簡単な説明をした。

「カント九条は何も策略なんかではない。この惑星の平和のために、必要なんだ。

いのちは何よりも尊い。なぜ、そんな武器を使って、大切ないのちを奪おうとするのかな。

ビジネスで来たのならば、紳士道で行くべきではないか。

文化の交流。例えば、互いに互いの国の詩を朗読する。詩の交換だ。音楽でも同じ。

そうすれば、争うという気持ちはなくなる。

ぜひ、異星人の皆さんに祭りに来るように、あなたが帰って、説得してほしい。

特に、長老によろしく。

 

 

 ほら、鳥の声が聞こえるではないか、何という鳥だが知らないが、美しい声だ。私のヴァイオリンにも負けないような音色だ、魂を引き込むような鳴き声が星の輝く夜空に響く。

これが詩ではないか。こんな神聖な生命のみなぎる所で、いのちに危害を加える武器を持つとは」

「ハルリラだって、持っているではないの」とリミコは言った。

ハルリラは刀を腰から抜いた。そして夜空に、地球のよりかなり大きめの満月の光が銀色の刃にあたり、美しく輝いた。

 

 

 「この刀はいのちが危ない時しか、使わない」とハルリラは言った。

私は歌う、平和を歌う。カント九条を歌う。と詩人は目を輝かせて言ってから歌い始めた。

「満月の差し込む光の慈愛

どこからともなく吹く霊のそよ風

呼吸の中に感じるいとしの君の声

ああ、わが愛は電波のごとく君の元に届く

さあれ、銀色の輝く刃は何ゆえに、森のざわめくいのちの広場に

慈悲の光よ、刃をおさめてくれ、」

 

 

 吟遊詩人はそう歌った。ハルリラは刀を鞘に納めた。

リミコは涙を流していた。

「無駄な争いはやめよう。異星人、君の仲間を祭りに呼んで欲しい」と詩人は言った。

 「しかし」とハルリラは言った。「異星人の銅山開発は車をつくり、売るというビジネスだけではないようですぞ。銅は大砲になります。こういう武器をつくるかどうかで、新政府は意見が分かれていて、伯爵さまはもちろん、反対しておられるが、新政府の保守派も改革派もこの点に関しては異星人の要求に同意しようとしているのですぞ。

産軍共同体をこの国にも作ろうとしているのです。産軍共同体のアイデアはおそらくメフィストの入れ知恵ということもありうる」

「産軍共同体が出来ると、異星人は儲かるというわけですか。あくまでもビジネスの形をとりたいということですね」と吾輩は言った。

「その通り。隣の国、ユーカリ国では、産軍共同体はできあがっている。あの国は倫理的には良い国だから、積極的に戦争をしかけることはしないが、その裏の産軍共同体は戦争をすると儲かるという仕組みになっている。この間は、向こうの小国で民族問題でトラブルがあった時、つまり、さらに向こうの大国が大砲をぶっ放した。ユーカリ国もぶっ放した。幸い、大きくならず、収まったけれど、結局ユーカリ国の産軍共同体だけが儲かり、一部の金持ちに大金が転げ落ちたという事実がある。そうだろう。リミコ」

「あたしがそんなだいそれた政治的な思惑のことなんか知っているわけないでしょ。長老か、司令官に聞くことね。でも、そんなことは教えるはずもないけれど。あたしの感触では、あたし達はあくまでも、この国とビジネスをしたいだけで、遠い宇宙空間を飛んできたのよ」

「そんなことなら、君をカルナ邸に、スパイにおくる筈がないだろう」

「スパイと言われても、何もただ、カルナとアリサの話し相手になっていただけよ」

「その内容を長老に報告する。そうだろう」

「でも、何も悪いことなんか、言ってないわよ」

「あたし達は何も悪いことなんか、話をしませんから。でも、異星人の噂はよくしたじゃないの」とカルナは言った。

 

 

 「問題はだね。悪いことをしていないというのは言い訳だということよ。

カルナとアリサという姉妹の情報を知るために、サイ族である君が鹿族に変身し、二人をごまかしてまるで親友のように振舞って、一緒に住むということ自体が既に問題なんだ。」とハルリラが言った。

リミコの唇が歪み、目に涙が浮かんだ。

「異星人である君たちサイ族が祭りに参加するように、君からも言うことだよ。それが実現できれば、真の意味の友好の足掛かりになる。祭りは天からのものだ。その中で、踊りあかせば、変な妄想は消え、ヒトは仲良くなれるものだ。人間社会には、身分だの、役職だの、金銭を持っているか持っていないかだの、成績が良いか悪いかなどということで、互いに偏見を持つ、人間はサイ族も鹿族もウサギ族も猫族も熊族もみんな一個の明珠の中に入るんだ。

祭りは明珠に入ってきたものを仲間として受け入れ、みんなあたかも魂がとけあうかのように、不思議な愛の光に包まれてしまうのだ。

これは宗教の中で言われることではあるが、宗教とはいのちとは何かということだと思う。生命とは何かということを科学とは違った視点から解き明かしたものだと私は思う。そう思わんかね」と吟遊詩人が言った。

吟遊詩人はヴァイオリンを奏でた。まるで、祭りの太鼓と笛のように、いのちの喜びにあふれた音色だった。

 

 

 つまらぬ妄想を捨てよう

みんな仲間なんだ

レッテルだの偏見だのそんなものに縛られない

素裸の魂に愛の衣服を着せて、

天の恵みの光に包まれて

踊ろう

山車は宝塔のように、神仏をのせた乗り物

その美しい宝石に飾られた山車を引いて

我らヒトは平和と愛に向かって、前に進もう

 

                                                 【 つづく 】

 

 

久里山不識

【アマゾンより、「霊魂のような星の街角」と「迷宮の光」を電子出版】

【水岡無仏性のペンネームで、「太極の街角」をBeyond Publishingより電子出版 】

 

 

 

 


銀河アンドロメダの感想  10 (文化交流 )

2018-09-16 10:51:37 | 文化

 人間の悪と善の葛藤を書くのが文学の大事な役目の一つでしょう。

でも、私の物語は価値観の追求も入っている。社会をより良くするためには、色々な方からのアプローチが必要であろうが、良い価値観の創造も大切と思う。

毎日のように、悪がニュースを騒がす。

この世界から、仮に一年くらいでも、今問題になっているパワハラや、セクハラや、悪口、嫌がらせが魔法のようになくなったとしたら、今問題になっている、いじめ、自殺、などのかなりの部分が改善されると思いませんか、パワハラも セクハラも 悪口も一緒に無くなったら、どれほど、住みやすい社会になるだろうと思う人が相当、日本にはいるはずです。

 

この間、新聞にSNSに「死にたい」と書き込む若者がものすごく多いという記事を目にしました。

 

何かおかしいと思いませんか。こんなに物が豊かで、教育レベルも高くなり、知識でも、ネット

の検索でかなりのことが分かる。

 

ジェト機は飛び、かっこいい車は走る。

こんなに便利な社会で、物が豊富な社会で、SNSを使って「死にたい」と言う若者が沢山いるとは全く悲しいことです。この間、そう言う社会の存在を証明するかのように、三十才に近い男がそういう悲しい思いをしている人を自宅におびき寄せ、九人近い人を殺したという事件がありました。そして、またその前後に似たような事件の続くこと。

確かに経済問題もあるのかもしれません。

しかし、この間の広告会社のエリ-ト女性社員が自殺したのは 給料はかなり良いのですから、そういうことではない。

それでは、どこに問題があるのか。

人間と人間の関係がおかしくなっているという考察も必要なのではないか。それが一番分かりやすい状態になるのは「ことば」です。道元は修行の中に、座禅と並んで、掃除すること、法華経を読むことを大事にしましたけれど、愛語も大切にしました。

教養のある人は人を傷つけるような形で、悪口や嫌がらせをしないものです。言葉がどれほど大切なものであるかを知っているからです。例えばヨハネ伝の最初には「言葉は神なりき」と書いてあります。道元は愛語を重視しました。良寛も同じです。和歌や優れた詩を知っている人も言葉の美しさや深さを知っています。

 

言葉を粗末にするような風潮が最近の日本の一部にある。

言葉を粗末にしてはいけません。

言葉を粗末にする発信源がもしも組織のリーダーであれ、中堅幹部であれ、そういう所から、降りてくるとすれば問題ですね。もちろん一般の市民が自発的にやるのも問題。

そういう発信源を遮断することを我々市民が率先して立ち上がることこそ、そうしたボランティア精神の人が増加することが、日本を良くすることになるのではありませんか。重要なのは大慈悲心と愛語です。

その先に、日本の平和があり、世界の平和が作られるのだと、私は思います。そういう中から、優れた文化が生まれるのだと思います。

 

北海道の災害は大変なことで、自然災害の怖さを感じます。死者が出たことはそのご家族の心を思えば、何と言って良いのか分からないほどの悲しみを覚えます。その中で、ボランティアの人々が駆けつけている、その人達を見ると希望を見ます。

 

言葉の問題でも、学校でも、職場でも、組織でも、何かの集団でも、正義のために立ち上がるボランティア精神が増加することが求められているのではないでしょうか。悪い言葉には迎合しない。

悪い言葉に迎合する奇妙な和の精神はこれから、明るい日本を築くのに必要としないということです。

 

 

 

 

 

 

  10 文化交流

  

  トミーが異星人に株主になってもらって、水耕栽培の株式会社をつくったことを我々はカルナから聞いていた。

我々はその頃、トミーの悪友勘太郎の紹介で、ある空き家を紹介されて、そこを仮住まいにしていた。

そのそばに、カルナとアリサの姉妹は友人のリミコと三人で、親元を離れ、別邸に住み、それぞれの仕事場に通っていた。

この別邸も勘太郎の紹介だったそうだ。

我々の家とカルナの間には、小さな広場があった。

この広場に、カフェーがあり、外にはさんさんと降り咲そそぐ日差しの中に洒落たテーブルと椅子があった。

ある時、我々はそこのカフェーでお茶を飲んでいると、そこに、カルナとアリサがやってきて、トミーの話が出た。

「全く、父上のやることを邪魔するようなことではありませんか」とアリサは困ったような表情をしていた。妹のアリサは姉のようなジャーナリスト風の理屈はないが、自由奔放な性格があるらしい。

「でも、水耕栽培というのは面白いアイデアではありませんか」とハルリラが言った。

「水耕栽培のキットはいいですよ。問題は異星人を株主とした会社をつくったという事実ですよ。」

「株式会社の法律ができたそうじゃありませんか」

「ルールがいいかげんですよ。それもよりによって、ギャンブル好きの異星人を株主にするなんて。おまけにカジノをつくるなんて」とアリサが言った。アリサは異星人のサイ族のギャンブル好きの性格がどうも嫌いらしい。ここの所はカルナと少し違う気がする。カルナはあくまでも、やっているサイ族の銅山から流れ出る鉱毒などの社会問題に重点を置いている。

 

 

 「でも、彼らを祭りに誘っているのは、トミーさんとか」とハルリラは言った。

祭りが近づいている。

「トミーさんをそういう風な行動にかりたてたのは勘太郎さんですよ。あの人はトミーさんの悪友です。あの二人を切り離さないと、トミーさんは父親の伯爵とことごとく対立することになりますわ。」

「勘太郎さんが悪友とは」と吟遊詩人が質問した。

「説明するのは難しいですけど、勘太郎さんはギャンブルが好きなんですよ。トミーさんはそういう人ではないのですけど。ですから、勘太郎さんは異星人に警戒心はあっても、異星人の主張する株主中心の株式会社には大賛成で、そういう国会議員にも知人がいる人でね。自分の家は宝石店で、そこの息子ですから、その店もいずれ株式会社にするのでしょう。」

「伯爵とはまるで違いますね」

「伯爵の息子トミーさんが伯爵と意見を異にするようになったのはトミーさんが勘太郎と付き合うようになってからのことなんです」

 

 

 カルナはエッセイストだった。アリサは語学学校に通っていた。隣のユーカリ国の言語を習得しているようだった。リミコはカルナとアリサの親友であるが、謎の女でもあった。三人は一緒に生活していた。

 

我々は二つの家の間の広場で、晴れの日はカフェーの外のテーブルで、食事をして色々な話をした。

ちょつと離れたロス邸と城がそこから見えた。いくつもの家にはばまれた一キロほど先に大きな広場があって、祭りが近いことが熱狂的な太鼓の音で分かった。

「トミーさんが異星人を祭りに誘ったというのは本当かね」とハルリラがある時、聞いた。

「そうよ」

「いいことじゃないか」と吟遊詩人が言った。

「でも、来るかしら。彼らは野蛮だから、文化を理解できるかしら。私たちの国は文明と言うか武力には弱いけど、文化には隣のユーカリ国よりも優れているし、まして異星人の文明だけの文化なしという国とは違いますからね」とカルナが言った。

そんな話をしていると、アリサとリミコもやってきた。

 

 

 カルナはこの間行った、サイ族の銅山の話を好んでした。

アリサは姉の話を興味深く聞いてはいた。小柄で思慮深い顔をしていたが、自由奔放ではあるが、姉には一目置いているようだった。

リミコはセクシーでいつも服を毎日、変え、フアションに興味を持っているように思えたが、何か深く考えているようなところもあった。

我々は吟遊詩人とハルリラと吾輩の三人の男である。

リミコがアリサに質問した。「ねえ、アリサ。ユーカリ国に研修旅行に行ってきたのでしょう。どんな国だった」

「どんな国って、少なくともわが向日葵国よりは文明が進んでいるわよ。」

「どんな風に」

「車が発達してるわ。それにビルも」

「我がテラヤサ国にも変な車が馬車と並んで走るようになったじゃないの。あの車」

「ユーカリの車はデザインもスマートだし、スピードも出るわよ。ただ、町に時々、装甲車に乗った兵士が巡回しているのよ。あれは何か、嫌ね」とアリサが言った。

「それはそうよ。あの国は科学を軍事利用しようとしているのだから。銃も大砲もつくっているのよ。それに、一番の欠点は我が国よりも文化レベルが落ちるということ。我が国のような宝殿もないし、伯爵が勧めているような絵画の文化もないし、詩の伝統もないし、陶器の芸術も ない。だから、我が国に対して、独特の羨望感がある。」とカルナが言った。

 

「それではわしの剣は役に立たんかな」とハルリラは笑った。

「ユーカリ国はわが国に敵愾心はないようだから、怖いということでは異星人の方が不気味ね」とアリサが言った。

「ああ、あのサイ族の連中。しかし、彼らも我らとビジネスをしたいだけじゃろ」とハルリラが言った。

「そうよ。彼らはそんな悪い人じゃないと思う」とリミコが言った。

 

「このテラヤサ国の何が欲しいのかな」とハルリラは言った。

「宝石よ。わがテラヤサ国はダイヤモンドやエメラルド、それはもう宝石の山がいくつもある。それに金もあるしね」

「でも、今は、銅山を開発して、それで一儲けしようとしているわ」とカルナが言った。

「鉱毒が流れているのにね」

「人の国の一部を勝手に占領して、鉱山を開発するなんて、そんなことは許されんことだよ」とハルリラが言った。

 

「ユーカリ国にも狙われそうだね」

「ユーカリ国は倫理があるから。卑怯なことはするなという倫理は深く浸透しているし、それに、我が国ほどではないけど、宝石の山は少し持っているわよ」とアリサが言った。

 

「サイ族の異星人は銅山で儲けた金銭で、宝石と金を買っていこうとしているのかな」とハルリラは言った。

「それだけじゃないわ。我々の産業では陶器ね。お茶碗と皿と花瓶。これは芸術品よ。」とカルナが言った。

 

 

 「なるほど」

「それから、絹の製品ね。これはユーカリ国も盛んだけど、我が国のはデザインに素晴らしいものがあって」とアリサが言った。

 

「それにしても不法占拠は困るわ」とアリサが言った。

「そうよ。税金も払わず、あんな銅山も占拠し、青銅をつくって、車の会社づくりに乗り出したわ」とカルナが言った。

 

「異星人の車を買わずに、ユーカリ国の車を輸入したらどうなのかい」とハルリラが言った。

「ユーカリ国は高い関税をかけて、我が国に彼らの優秀なのは入れないようにしているのよ」

「何故」

「ユーカリ国はわがテラヤサ国より、文明において先んじていることに優越感を感じていたいのでしょ。でも、文化の点ではひどい劣等感を持っているのよ。だから、文明では、常に優越の立場にいたいのでしょ。なにしろ、あそこは象族が多くて、鼻の長いことを自慢にしているくらいですから。

わが国の絹やお茶には憧れの気持ちがあるのに、科学技術は秘密裏にしたいらしい。」

 

「どうも、ユーカリ国と異星人の間に、秘密協定があるみたいよ」とカルナが言った、

「だって、異星人は来たばかりでしょう。」

「ええ、でもね。ユーカリ国が自分の国の科学技術を秘密にする政策を歴史的にとってきたことと、異星人のあの黄金の魔法次元の長老の間にそういう秘密の交信があったのじゃないかと思って」

「どんな」

「わがテラヤサ国をビジネスにおいて食い物にするということよ。そういう取引がユーカリと異星人の間であったのよ。証拠はないわよ。このことはわがスピノザ協会が独自に調べたことなの。信憑性は高いと思うわ」とカルナが言った。

 

「人間って、象族にしても、サイ族にしても看板は綺麗にしておいて、平和にビジネスしましょうなんて言ってきて、裏ではそんなことをするのね。親念さまの教えは本当なのね」

「なんだ。その親念の教えとは」とハルリラが聞いた。

「新念さまというのは地球の親鸞さまの生まれ変わりで、銀河アンドロメダのある惑星で布教しているそうよ。モナカ夫人の宝殿に出入りしているハリエさんがよく言っている偉いお坊さんよ。人間には、悪があるが、魔界のささやきがある場合もあるから気をつけなさいと忠告なさっているらしいことよ」とアリサは答えた。

ハリエはロス氏の執事の奥さんだった。

「ああ、ハリエさんって、病気がちのお母さま、伯爵夫人の世話をなさっているとか」

「ええ、そして足しげく宝殿に通っているわ」

「そこでは、神様もいるということを教えるのかい」

「仏さまよ」

「要するに、神仏でしょ」と吾輩はこういうことに口出すことを遠慮していたが、猫として飼われていた京都の主人の銀行員がよく言っていた神仏の方がどちらの神様が偉いだとかいう争いがなくていいと思っていた。それに、隣のスーパーの猫吉がいつもそんなことを言っていたことをふと、思い出した。ああ懐かしい緑の地球。ああ、懐かしい京都、そんな感情が吾輩を襲った。

 

「わしはサムライ精神だけで十分と思っている。卑怯なことはしない。悪口を言わない。強きをくじき、弱きを助ける。」

「座禅も入れて欲しいな」と吟遊詩人が長い沈黙を破るかのように微笑した。

詩人は黙ってはいたけれども、常に口元に美しい微笑をたたえていた。吾輩は先程、ちょつと神仏だなんて口走った以外はずっとかしこまっていた。なにしろ、魅力的な女性が三人もいるので、どう話の中に切り込んでいいのか戸惑っていたからだし、また彼らの話につきない興味を感じていたからでもあった。

 

 

 「わしはカント九条を伯爵さまに説明したが、そんな状態では無理かな。」とハルリラは言った。

「どういうこと」

「つまり、今度の新しい国造りに、憲法をつくると伯爵さまがおっしゃるから、わしはカント九条をぜひ入れて欲しいとお願いした。」

「カント九条って」

「カント九条とは」と質問されると、ハルリラは目を輝かして説明した。宇宙インターネットによると、銀河系宇宙に、ある惑星があって、カントいう偉人が出て、永遠平和の惑星をつくるべきだとして平和の提言をして、その九条がまるでモーゼの十戒のような美しい響きを持っているという。なにしろ、戦争を否定し、武力による威嚇、又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久に放棄すると書いてあるそうだ。

隣のユーカリ国だの、異星人だの、武力にまさる国があって、このカント九条を絵空事のように思う人も多いと思われるが、このテラヤサ国がこの向日葵惑星の平和のイニシャチブを取れば、このテラヤサ国だけでなく、ユーカリ国もまたその海の向こうのいくつかの国も武力を最小限にして、永久平和を宣言することができる。ただ、異性人はちょつとわしの計算違いではあるが、今のところ、ビジネスでいけそうであるのだからと、このカント九条を新政府にのませることが出来るチャンスであると、ハルリラは言った。

「それは素晴らしい条文ね」

「カント九条をつくり、向日葵惑星すべてにこの条文がいきわたるように、武力は警察力程度におさめる運動を展開する。これは夢みたいな話だが、

もう銀河の中には武力で滅びた惑星がいくつあることか、温暖化で滅びた惑星もある。地球の恐竜が滅びたのは自然災害だが、ヒト族は自らを滅ぼす道具を発達させているというのはどこの銀河でも悩みの種になっている」

「そう。その考えは伯爵さまが新政府に伝えているわ。しかし、異星人だの隣国のユーカリ国だのに対する保守派と改革派の思惑が色々からんで、そんなにすんなり行くかどうかは今の段階でははっきりしないみたいよ。

ただ、わがスピノザ協会の議員が活動していますから、望みはあるわ。スピノザの神は密度無限大の特異点から宇宙は始まったという科学とも相性がいいの。それに理想を目指すのですから」とカルナが言った。

「あら、宝殿の議員も三人いるから、それも加えたほうがいいのでは。ハリエさんが言っていたわよ」

「でも、難しいと思うわよ」とリミコが言った。

「どうして」

「だって、あなたも言っているように、異星人はミサイルを持っているのよ。

それから、ユーカリ国は大砲も新式の銃も持っているのよ。それで、どうやって、彼らと対抗するのよ」

 

 

 「文化交流ね。彼らは我らの伝統のある文化を学びたいはず。かって、我が国は極度に文明が発達し、千年前の戦争によって破壊されたのよ。知っているでしょ。そういう悲惨な経験のあと、廃墟の中から文化、陶器、絵画、詩、演劇という風に文化の成熟をめざして復活したの。今にいたったこの長い歴史の中で、古代の文明と復活したあとの努力の結晶の文化の輝きは異星人もユーカリ国もまぶしいような憧れで見ているのよ」

「それではますます、異星人が祭りに来ることが楽しみですな」

と吟遊詩人が言った。

「でも、問題は彼らが来るかどうかよ」とカルナが言った。

「周囲の状況は難しいが、我らが今度、あの異星人の長老と話し合ってみますよ」と吟遊詩人が言った。

「本当」

「本当ですよ。アンドロメダの旅人がお役にたてれば、嬉しいです」

 

そう祭りが近い。吾輩も楽しみにしている。異星人は来るだろう。来た場合にトラブルはおきないのだろうか。そんな思いが吾輩、寅坊の頭をかすめ、詩句が浮かんだ。

 

祭りがやってくる。祭りがやってくる。

太鼓の音が胸に響く

笛の音は夢の緑のよう

さあ、踊ろうよ。すっかり頭が空っぽになるまで踊ろうよ

美しい日差しから夕方の黄金の空、そして星の輝くまで

全てを忘れて、皆で踊ろうよ。

さすれば、つまらぬ妄想は消え

踊る人はみんな友達になる

見ている人も友達になる

踊れよ、おどれ、向日葵の惑星は珠玉のように輝くだろう。

 

        【 つづく 】

 

 

  久里山不識

【アマゾンより、「霊魂のような星の街角」と「迷宮の光」を電子出版】

【水岡無仏性のペンネームで、「太極の街角」をBeyond Publishingより電子出版 】

 


銀河アンドロメダの感想 9(不思議な長老)

2018-09-11 13:53:35 | 文化

銀河アンドロメダの感想

この章には、サイ族の長老が自分のは黄金の魔法、ハルリラのは、バラ色の魔法と言って、自分を誇る場面があるが、 

この間、死刑になった教祖の主宰していたあのオウム真理教では、道場で座りながら、空中浮遊が出来るなどというのを神通力を習得したとして誇るように聞いていたが、禅では、そういう神通力はたいしたものではないと考える。庭の掃除をする、お茶碗を洗う、歩く、息をする、こうした普段我々が普通にやっていることを本物の神通力だという。

個人的なことで恐縮だが、若い頃、二段を取るまで柔道をやったのはよかったが、左ひざの関節のところが、何かの拍子でずれて歩けなくなるのだが、自分で伸ばして直すことが出来る。一年に一度くらい何かの拍子で、起きるがすぐに自分で治せるので全く気にも留めないでいたら、高齢者になったあたりから、自分の力で中々回復できないのだ。すると、部屋の中も移動できなくなる。立つと、痛みもかなりのもので、歩けない。この時の精神的ショックは大変なものだ。足と腰には、自信があっただけに、おおげさに言えば絶望状態になる。普段、なにげなく歩いていたことがどんなに素晴らしいことか分かる。パラリンピックの人達はこういうどん底から、はいあがり、鍛えてきて晴れの舞台に立つているのだと思うと、最大の敬意を抱くようになる。

ま、私の場合は、医者や接骨院に行く前になんとか直してしまうのだが、この経験をすることにより、禅で、こうした歩くというようなことこそ、本物の神通力だと教えることがよく分かる。

まして、科学の力で、飛行機を飛ばすようになった。もう人類は魔法を手にいれたようなものだ。

この物語の長老がたとえ黄金の魔法を持っていたにしても、鉱毒を川に流すのをサイ族の軍人に許可しているようでは、中身がしれているということになりはしないのか。

だからこそ、このサイ族の一味は危険なわけだ、もしかしたら、悪魔メフィストの遠隔操作でうごかされているという疑いも起きる。

 

ゲーテの「ファウスト」は私の若い頃、好きな本だった。

ファウストはありとあらゆる学問を収めた大学者であるが、それでも、老人となり、知性では、

真理を知ることが出来ないと嘆き、自殺しようとするが、それを思いとどまり、メフィストレスという悪魔と契約をするという話がある。

ファウストが生きている間は、メフィストは家来のように何でもいうことをきき、ファウストが死んだら、メフィストのいいなりになる。ファウストがまず最初に手に入れたがったのは若さである。その次には恋。

ゲーテの話は物語であるが、我々人間も悪魔に動かされるような衝動  ま、分かりやすく言えば欲望の奴隷になることがあるのは、ニュースを見ないでも分かること。仏教では煩悩と言う、やはりこれを書かなくては、人間を書いたことにならない。つまり、文学にならないというわけだろう。

 

 

 

9 不思議な長老

  異星人サイ族の銅山に行く前に、ひと悶着があった。伯爵の息子トミーが伯爵の交渉についていくと言い出したのだ。これはロス家のおしゃべりの秘書夫人がもらしたことで、我々は知ったのであるが。夫人によると、トミーの行動は父親の伯爵の価値観とあまりに違うことで悩みの種になっているらしい。トミーは以前、伯爵から資金を借りて、自転車をつくる会社を起こしたのだが、失敗した。新しい車に若者の人気が集中した結果のようだった。

今度は家庭用水耕栽培のキットだそうだ。伯爵はこの地域は大きな農場が多いから、そういうものははやらないとして、資金を出すことは出来ないと突っぱねたらしい。

そこで仕方なく、異星人の言う株式会社をつくろうとして、父親と意見が合わず、ロス氏から幾分か資金をかりて、さらに欲しいと思っているところに、この異星人との交渉を耳にしたらしい。

 

  トミーはキリン族で背か高く、偉丈夫で、ハンサムで、どこかモディリアニという画家の描く憂愁な人物像を思わすものがあるが、父の伯爵のような理想主義を軽蔑し、実利主義を尊ぶところがあり、もう貴族を廃止すべきだと思っているから、カルナともその点では意見が合い、カルナに好意を持っている。

カルナに対しては、ハルリラもほれているらしいので、この火花を吾輩、寅坊ははたから見て心配することになった。

 

いつの間に、ハルリラとトミーは話がはずむ仲となっていた。

「おやじはかなり変わっているだろう。俺は今度家庭用水耕栽培のキットの株式会社をつくろうと思っているのだが、おやじは株式会社そのものに反対しているのだから、まいるよ。おやじは株主本位の株式会社に反対しているらしいが、働く人のための株式会社もあると思うのだが、俺が説明しても、前の会社で失敗しているものだから、話を聞こうともしない。とても金は出してもらえんだろうな。異星人のサイ族は金を出すんではないかな。なにしろ、株式会社の価値観を広めたがっているのだから、確かに親父の言う通り、異星人のサイ族の言う株式会社は株主本位だということは分かる。しかし、そういうのはカルナさんの言う働く人のための会社という風に、徐々に法律で変えられるんじゃないか。異星人が金を出してくれるなら、俺は彼らを株主として歓迎し、それで会社を立ち上げることができるかもしれん。そういう期待を持つのだが、親父はなにしろ最初から純粋主義で行かないと駄目らしい、融通がきかん。だから、ことごとく俺と意見が対立するのよ。おぬしはどう思う。ハルリラ」

 

 

 「わしか。わしはそういうことに関しては何か言うほど、そういう方面の情報を集めておらん。最近の新政府の借金、百兆ギラということから、増税という話がどうもおかしいというのも、最近知ったばかりだ。新政府は革命前の政府から引き継いだ隠し金、八十兆ギラを地下に持っているというじゃないか。それはともかく、トミー。おぬしが異性人から金を借りるということには賛成できんよ。」とハルリラは言った。

 我々は祭りの準備で、広場にいる人たちと、向日葵踊りの練習をしたあと、サイ族の銅山に行くことにした。その練習の時に、トミーもカルナも吟遊詩人もハルリラも吾輩もこうした若くて時間のある連中が集まったから、練習とはいえ、愉快な経験だった。笛と太鼓でリズムをとり、その二拍子のリズムにのって、両手をあげ、右、左と、手と足を動かす。その楽しいこと。阿波踊りによく似ている。

 

 翌日、我々はついにサイ族の占拠する銅山の本局に向かった。

 

馬車で、森林地帯の道を通り過ぎると、金色の禿げた土がむき出しになった銅山が巨大な山のようにあり、その下の平地に小さな町があった。異星人がつくった町だった。

色々な色の小さな家が沢山並び、広場もあり、広場には大きな彫刻と噴水があった。

カーキ色の軍服を着たサイ族の兵士がうろうろしていている。

案外だったのはサイ族は意外に小柄な感じがするのだった。

鹿族の方が背が高いような印象だった。鹿族には吟遊詩人ほどの百八十センチぐらいのがけっこういる感じがしたが、もっとも、低いのもかなり、いる。

ところが、サイ族はだいたい背が低いが太っていて、腕が太い。

 

 

本局は華麗なビルだった。受付には兵士が三人いて、こちらに一人が銃を向け、一人が刀をぬいた。何も持っていないベレー帽をかぶった男が我々の前に来て、「何者だ」と怒鳴った。

「知事だ」と伯爵が前に進み出た。

「テラヤサ国の政府の役人ならば、身分証明書を出せ」

伯爵はそれを見せた。

「何の御用で」

「こちらの司令官に会いたい」

「ご用件の向きは」

「川に鉱毒が流れて、農民が困っている 」

「分かりました」

中に入ると、青銅で出来た車が三台とまっていた。

「ほお、青銅の車」

「青銅をつくるには錫がいるよな。すずはどこでどれるのだ」とハルリラが言った。

「銅山の向こうの地下に錫がたくさんありますよ」

 

広間を通り、司令官の執務室に入った。我々は吾輩、寅坊と吟遊詩人とハルリラと あの大男と伯爵と秘書官だった。

 

 

 「銅が和田川に流れ、その鉱毒が田畑をあらし、農民が困っています。なんとかなりませんか」と伯爵が言った。

「わたしは貴公たちの向日葵惑星を強い富のある国にして貿易をしたいと思ってきたのです。」

 「しかし、銅山は勝手にそちらで占拠したと聞いています。新政府の許可を得ていない」

 「お宅はどういう身分なのか」

「伯爵です。貴族院議院の議員であり、そこの町の知事でもあるのです。そういう責任ある立場から、申し上げているのです」

 「資源は先に見つけた者が活用するのは当然というのが、我らサイ族の長い間の慣習法でしてな」

 「しかし、ここはあなたの国ではない。向日葵惑星のテラヤサ国の

領土です」

 「領土。そういう概念はわが惑星にはありませんな。わが惑星はサイ族がみんな仲良く暮らしておる。自分の領土に線を引き、国どおしが争ったのなんていうのは千年も前にあった昔の歴史の話でしてな。そんな慣習はアンドロメダ銀河では通用しませんぞ」

 「どちらにしても、鉱毒が民衆に被害を与えているという事実をどう考えるのですか」

 「銅の鉱毒を別のルートを使って山の地下に埋める方法がないわけではない。しかし、それにはそちらもそれなりの金貨を出してもらわなければなりませんな」

 

 

 「いくらですか」

「百億サラ」

「それは直ぐには払えない。政府の財務局に申請書を出して審査してもらわないと、それだけの大金は無理だ。

それにそんな大金を我が国が出さなければならない義務があるのか、疑問があるし、新政府の中で議論して結論を出さねばならない」

「それでは、今のままでいくしかないでしょう」

「しかし、その問題とは別にあなた方がここを不法占拠しているという問題がある。ここは向日葵惑星のテラヤサ国の領土で、ここで銅山を開発して仕事をするには、法務局の許可を受け、それなりの税金を払い、」

「ちょつと待って下さい。そういう問題は政府と話し合うこと。一議員と話し合うことではありません。

もう既に、そういう話し合いは、新政府の高官と話し合いが進んでいる」

「誰ですか。その高官と言うのは。」

「首相補佐官ヨコハシ殿です」

「なるほど」

 

「そちらの方はご家来か」

「いえ、アンドロメダ銀河鉄道の乗客とカルナさんです」

「そんなら、話が早い。こうしたことはサイ族の言い分が通るというのがこのあたりの銀河では慣習法になっている。それを知らないテラヤサ国というのは随分と文明の遅れた国ですな。

一発、帝都の郊外にある軍事訓練所に我らの優秀なミサイルをぶっ放してみせましょうか。私としては、そういうことはしたくないですし、わが指導者の長老が文化の交流と言いますからな。しかし伯爵のような無知な方にはこれが一番きくことは確かなことです」

「長老とは」

「我ら遠征隊の精神的指導者だ。わしは軍人として司令官で軍を動かす最高責任者だが、長老はサイ族の惑星の高貴な方の直属の使命を帯びている方での。

わしも、長老のご意見は尊重しなければならぬ。だからこそ、長老の意向に沿うように、平和裏に向日葵惑星とビジネスをしたいと思っているのじゃ」

 

 

 「その長老の方にお会いしたいですな」と伯爵が言った。

「長老に。今は堂にこもっていますよ。」

「いつお出になるのです」

「いや、わしども俗人には分からん」

「何をされているのですか」

「軍人にそんなことを聞かれてもね。何か高貴なことをされているのだと思いますよ」

 

その時、その長老が出てきた。あごに長い髭が三角形の銀色の飾りのように伸びていた。浅黒い肌の顔はしわだらけで、茶色の目の眼光は鋭かった。

「わしに会いたいとな」

「はあ、そう言っておりますが」と司令官は言った。

「おい、ハルリラ。わしを知らんか」

 

「いいえ、存じておりません」

「お前の所の魔法はバラ色の魔法次元。わしの所は黄金の魔法次元」

「ああ、それは聞いたことがあります。魔法次元にもいくつかの種類があるというのを。しかし、黄金の魔法次元については名前ぐらいしか、知りません」        

「うん。わしはな。このあたりの銀河は黄金の魔法次元の価値観で統一されるべきだと思っているのだ。何か異存はあるか」

「と言われても、その価値観がかいもくわかりませんので」

「ふうむ。バラ色の魔法次元みたいな呑気でだらしのない所とちがうからな。

平和なビジネスとそれを守る武力。これが我らの看板だ。奥は深いから、こんなところで喋っても意味はないが、つまり皆が豊かになる。これほど、良いことはあるまい」

「武力といっても、ミサイルがあるのでしょう。魔界で開発されたという噂があるけど」とハルリラにしては珍しいほど小声で言った。

「魔界?メフィストは人の心をあやつるのだ。魔界では、物はつくらん」

「なるほど」

 

  「ところで吟遊詩人。お宅はどんな音楽をかなでるのかな」

「出来れば、宇宙の大真理を表現するような音楽を作曲して、演奏してみたいですね。いつもはその時の気分で、あるいは好きな曲を演奏しますけど」

「宇宙の大真理。それなら、わが黄金の魔法次元の価値観を作曲してみたら、どうだ。そして、この向日葵惑星で演奏するんだ。客は入るぞ。大金持ちになることは間違いなしだ。どうだね」

「ごめんこうむりますね。ビジネスと宇宙の大真理は一致しません。魔法次元の価値観がどういうものか知りませんが、あなたの言葉とあなた方がこの向日葵惑星にやってきて、やっている行動を見て、真理とは全く一致しないということが分かりますから、そんなものは音楽にしたくありませんね」

  「あんたが考えていることは幾分キャッチしておるわ。地球の方だから、キリスト教とか仏教とか、それから、わしらの科学から見たらチャチな科学を使って、何か追い求めている。どうだ。当たっているだろう。だいたい、アンドロメダ銀河鉄道で旅する奴にはそういうのが多い。」

「いけませんか」

「地球で、わしが興味を持つのは維摩経だな。あの主人公は大商人で、文殊菩薩をいいまかしてしまったではないか。しかし、黄金の魔法次元の価値観は最終的に黄金をもたらしてくれる。そこが維摩の言うことと、わしらの次元の価値観と違うところだ」

「この向日葵惑星の宝殿にある経典には興味はないのですか」

「宝殿のモナカ夫人、うん、名前ぐらいは聞いている。向日葵惑星はテラヤサ国の文明が低いから、レベルは知れている」

「文明は低くても、文化は高いということはありますよ」と吟遊詩人は言って、モナカ夫人で経験したことをかいつまんで話してみた。

「それが本当なら、少しは興味を持つな」と長老が言った。

吟遊詩人はヴァイオリンをかき鳴らし、声を張り上げた。

「わたしは野獣になりたくない。」

「野獣。 それは魔界の話ではないかな。魔界はわしも嫌いだ。毒界といわれるメフィストの住むところ」

「そのメフィストにあなたがあやつられるということはないのですか」

「失礼なことを言うな。あんなのはわしに近づくことさえ出来ぬ。

ああいうのが近づくのは心の未熟なものだけよ」

「しかし人の心に忍び込む魔界の連中がいると聞きますよ」

「わが黄金の魔法次元の価値観は素晴らしいもので、我らを豊かにする」

 

吟遊詩人は再びヴァイオリンをかきならした。

ある種の情熱とこころをかきならす恋慕の情がヴァイオリンの音色の中に感じられる。

 

食欲、性欲、金銭への欲も欲張りすぎないことが大切

人の肉体のいのちははかない

しかし、不生不滅の形のない「いのち」もある

あの銀河が教えてくれる

あの花が教えてくれる

野獣になったら、その見えないいのちを見失う

満月をみたら、美しいと思うように、

我らはいのちの美しさをみたら、その衣服につつまれたいと思う。

いのちは虚空のように目に見えない

それでも森羅万象も我らのいのちも

その神秘な虚空のいのちから流れてくる

 

 

        【つづく 】

        久里山不識

 


銀河アンドロメダの感想 8 (大慈悲心)

2018-09-08 09:55:44 | 文化

 優れた価値観は常に宇宙の真理の支えがあるものだ。しかし、今まで人類の歴史に出てきた優れた価値観はいくつもあるが、見かけは相当違う。みな、それぞれの民族の文化の衣装をきている。そのこと自体は文化の尊重という意味で、大変、魅力的なことなのだが、奇妙なことに、

その価値観の見かけの違いから、口論が始まり、ひどくなると戦争にもなったことがある。

一番分かりやすい例では、キリスト教はかってイスラム教の土地に十字軍を送り、逆のことも起こった。

あるいは、よく知られている所では、ユダヤ教とキリスト教。

ユダヤ人がナチスドイツに虐殺されたのは、複雑な歴史的経済的対立があったのであろうが、根底に二つの宗教の厳しい対立があったからではないか。

現代では、ジェト機が飛び回り、地球は狭くなり、経済の交流が活発になり、そのこと自体は良いが、それぞれの国の文化と価値観の相互理解がマイナス方面に進むと、やはり争いが生じる。この争いを鎮め、地球の中に住む人々が仲良くするにはどうしたらいいか、

言葉で言う程に簡単なことではないのは、新聞やテレビなどのニュースを見ていれば、一目りょう然。それでも、大雑把に言えば、話しあいと、文化の交流と文化の相互理解しか良い方法はない。

そして、人類が努力すれば、必ず出来る。

なぜなら、世界中に散らばっている優れた宗教と哲学は根底に共通のもが流れているからだ。

つまり、真理は一つなのだ。名前が違う。着ている衣装も違う。しかし中身の真理は一つ。

それを私なりの言葉であえて言うならば、「いのちの神秘」であろう。これは、科学が発達すれば、より正確に言うことが出来るようになるかもしれないが、おそらく言葉(数学を含めて)で完璧に表現することは不可能だろう。だから、私は大雑把に「いのちの神秘」と言う。

この私の気持ちと似たことを分かりやすい詩にした人が過去の詩人にいます。有名な詩なので、ご存知の方も多いと思われます。漢詩は声に出して読むと、味わいが深まると思います。大自然の中に言葉に出来ない神秘ないのちがあると陶淵明は言っていると思われますが、いかがでしょう。

特に文字を赤くした所に注意していただきたいと思います。

 

盧(ろ)を結んで、人境に在り

而(しか)も車馬の喧(けん)無し

君に問う 何ぞ能くしかるやと

心遠ければ地自ら偏なり

菊をとる 東りの下(もと)

悠然として南山を見る

山気 日夕(につせき)に佳なり

飛鳥 相与(あいとも)に還る

此の中に真意有り

弁ぜんと欲して己(すで)に言を忘る

 

 

 

 

 8 大慈悲心

 

   我々は伯爵の重臣ロス氏への紹介状を村長から受け取り、かなりの坂をいくつものぼり、高台になっている町に入った。町の道は馬車が通れるほどであったが、けっこう入り組んで、あちらこちらで曲がっていて、商店や背の高い家や低い家が立ち並んでいたが、多くの家は黄色い感じで、二階のバルコニーには洗濯物以外に、鮮やかな花が競うように咲いていた。

その時、例の魔ドリが我らの行く手をふさぐように、飛んできた。ハルリラが気をつけた方がいいですよと詩人に声をかけた。詩人はブアイオリンをさして、「大丈夫。これがあるから」と言った。

魔ドリは詩人の肩に例のものを落とした。詩人の服が囚人服に変わった。

すると、詩人はツイゴイネルワイゼンをかなでた。甘くとろけるようで、気品のある音色が響いた。そうすると、元の青磁色のジャケットに戻った。

あまりにも早い変化に、ハルリラも驚いたらしく、「まるで魔法ではないか」と言った。

ふと、気がつくと知路が遠くにブルーの姿で立っていて、ちょっと微笑してから背中を向け、自転車に飛び乗り、彼女は去った。

我々がしばらく歩いていると、町の中央の方には、立派な城が見え、そこからニ百メートルほど離れた所にロス氏の大きな邸宅があった。

 我々は執事によって食堂のような広間に案内された。外は祭りの太鼓の音がする。透き通った大きな窓から祭りの準備の様子が見える。窓の下の庭の向こうに、すぐそばから、斜面になり、大きな広場になり、真ん中に屋根のついた休憩所があって、そこに、祭りの道具が置いてあるらしい。

もう数名の人達が踊りの練習をしているらしい、そういう人の動きが見える。

 

邸宅の主人である丸い顔をした黄色い顔の中年の男ロス氏がブルーのカーディガンを着て、広いテーブルの上を見ている。

テーブルの上には、豪勢な食事が並べられ、両端には、大きな花瓶に豪勢な花がいけられている。

男の横には、娘と思われるカルナというシックな灰色の毛織物を黒で引き締めたワンピースを着た若い女がいる。

猫族であるようだが、何かすばしこい目の動きと全体の機敏性に富んだ表情の動きから、吾輩はチーター族と考えた。珍しいのとその細身の身体とすばしっこい機敏な身のこなしに圧倒されて、吾輩は挨拶を忘れるところだった。

そんな吾輩の気持ちとは裏腹に、左横に立つ吟遊詩人は鷹揚な会釈をし、ハルリラは右横から度肝をぬくようにさらりと帽子をとって、挨拶をしている。 吾輩はいつのまにハルリラがその素敵な帽子を宿屋で仕入れたことを思い出した。

 

  我々が食卓について、簡単な自己紹介をしている最中に、帝都ローサ市の使者の自殺のニュースを執事が持ってきた。しかしこの話は宿屋で白熊族の大男スタンタから聞かされているので、驚きはしなかった。

使者は伯爵の行動をいさめるために、派遣されたらしいが、背後に異星人の方から多額のわいろを受け取ったという噂を号外によって暴露されたということが、中心の話題となった。

しばらくの間は、そこにいたカルナという娘とロス夫妻と執事が我々というアンドロメダの客を忘れたかのように、その話に、夢中になっていた。

我々も内容は知っていたが、この話がこの人たちに動揺を与えている様子に興味を持って見ていた。

 

「分かった。お前は戻れ、今は大事なお客様が来ている」とロスは秘書に言った。秘書はうやうやしく頭を下げて、広間から出ていった。

「いや、失礼しました。面倒な事件が起きて、ちょつと驚いたものですから」

 

「そのニュース、宿屋で聞いて知ってました」と白熊族の大男は言った。

彼は途中の洋品店で、服を新調していたので、まるで人が違ったように紳士に見えた。

「そうですか。問題は異星人からの圧力ですよ。新政府のトップは首相の林文太郎という異星人に弱い男。

ガンと跳ね返せないのでしようね。彼らの武力が怖いのですよ。」とロスは言った。

「それだけではありませんわ」とカルナは若さをぶつけるように話した。

「林文太郎には ドル箱になるという思惑もあるのですよ。金をとるか、鉱毒を流すのをやめさせるために、鉱山を閉めるかという選択の場合、彼はドル箱をとるでしょう。」

ハルリラが吾輩にしか聞こえない特殊な魔法の小声で、「カルナはスピノザ協会に所属し、それに、週刊誌に寄稿するこの国一流のエッセイストだそうだ」と言う

 

  「せっかく、革命をへて、三十五年」とカルナは言った。

「議会も始動し、隣国との外交も軌道に乗り出したところ、鉱毒事件で異星人とトラブルを起こしたくなくない気持ちも分からないわけではありませんが、鉱毒は清流を汚し、農民の持つ田畑を汚しています。放っておくなんてそんなことができますことでしょうか。」

 

「伯爵さまはどうするつもりなんですか。」とハルリラが聞いた。

ロスは長い口髭をなで、咳払いをしてから話した。

「伯爵さまは右目が見えないということもあって、自分からは中々動けないというハンディを背負っておられるが、純真無垢でおおらかで惑星の平和とこの国の問題解決に前向きの姿勢を持っておられる。

何よりも、市民の人気が高い方です。祭りがありますが、祭りを見れば、分かりますよ。」

「でも、サムライ復活論者というのは変わっていますでしょ」とロス夫人が言った。「飛び道具は卑怯という考えの持ち主ですし」

ハルリラは夫人の解説を聞いて、伯爵の考えが気に入っていってしまった。

ロスは伯爵の側近で、政界にも大きな影響力をもつている。そして、伯爵に色々入れ知恵をつける男として、新政府の改革派と保守派の両方ににらまれているらしい。そのためか、いのちをねらわれているという噂が飛ぶ人物でもある。ロスは自分もいずれ貴族になろうと思っている男であるが、娘は貴族廃止論者というのも、吾輩は話の流れの中で猫族の直感で推測した。

 

  しばらくすると、執事が伯爵夫妻の到着を告げた。伯爵と夫人が入口から入ってきた。そして、主賓席になる、右横の豪勢な椅子に座った。

 

伯爵は席につくと、ロスは日常の挨拶の言葉を丁寧に繰り返した。伯爵はただ、微笑してうなづいていた。伯爵夫人は華麗な衣装に身を包んで、やはり微笑していた。

伯爵がワインに口をつけてから、みんなを見回すと、しゃべり始めた。

「異星人は和田川上流の銅山をいつの間に占有しましたね。彼らの技術が大きな銅山を発見し、そばには錫もあるから、これで青銅器が出来る。

わが向日葵惑星のテラヤサ国は銃も大砲も今つくり始めた車も青銅が主要な材料になっている。国を富ますには、銅が必要というのが新政府のお偉方の考えです。そういうわけなので、銅山から流れ出る鉱毒の問題をわしが抗議したら、使者に手紙を持たせて、わしを説得しようとしたのです。首相の林文太郎の手紙を読みました。私はただ 稲に被害が出ているということを抗議しただけなのです。

その結果が、村の農民は早い時期に立ち去れですって。ひどいじゃありませんか。

農民は先祖伝来の土地をそんな風にされれば、怒りますよ。でも、あのままですと、鉱毒が田畑に流れてきて、稲が育たなくなるのでね。

新政府もそんな愚かなことをやらないで、鉱毒を流さないという方法を考えるのが先決ではないのですかね。そうですよ。利潤追求ばかりで、そこに住んでいる人のことを考えないなんて。 」

伯爵はそこまで言うと、ワインに再び口をつけた。

伯爵はワインに陶然としたようなそぶりで、しばらく沈黙した。邸宅の主人であるロスが「使者の手紙には何か特別なことが書かれていたのでしょうか」と言った。

伯爵は「今、話したし、皆さんが知っている他のことは何もありません。新しい客人がおられるのでくどいと思いましたが、号外も見ましたので、わしの感想と主張を知ってもらいたいと思い、喋ったのです。アンドロメダ銀河からのお客さんだそうだね。」

「はい、そうです」と吟遊詩人が丁寧に答えた。

「ま、私の講釈は気にせず、食事をしてくれたまえ」と伯爵は言った。

 

カルナは「伯爵。あたしにもしゃべらして下さい」と言った。

「どうぞ。私がカルナさんが喋るのが好きのはご存知でしょう」と伯爵は口にワインを持っていきながら、言った。

カルナは言った。「皆さん、ご存じのように、銅を精錬する際に出てくるのは恐ろしい鉱毒です。それが、我らが誇る清流に流れ込むわ。異星人は金儲けのためにきたので、文化交流が目的ではありません」

 「しかし、そこを話し合いで、良い方向に持って行くのが大切」と伯爵は微笑した。伯爵の殿様は痩せていて、キリン族のせいか背の奇妙に高い人で、顔も首も長く、目は瞳が見えないくらい細く、こちらを優しく見つめている。しゃべり方は優雅でゆったりとして、まるでショパンのピアノ曲のようだった。

 

  カルナは伯爵に微笑を送り、喋った。「異星人の銅山には、鹿族の労働者が集められ、安い賃金でひどい労働がおこなわれています。

川の中流には銅の車の会社がつくられ、彼らの惑星では地球型の高性能の水素自動車が走っているというのに、我らの国を文明の低い惑星と見下し、あのようなへんてこな車の製造をして売りつけている。

排気ガスは出るし、車の騒音も相当だし、あれなら、まだ馬車の方がはるかにいいですよ」

「まあ、買う連中がいるからね」と父親のロスが言った。

「それに、車の工場の中身は鉱山にまけず劣らず、労働状態はひどい。労働時間は長い。残業代は出ない。トイレに行くことすら、監視されている現場もひどいのです」とカルナは言った。

  

「異星人だけでなく、隣の国ユーカリ国の動きも気になりますな}と大金持ちのロスは言った。

「わしはな、」と伯爵は言った。

「銃も大砲もいらない。剣だけで十分だ。改革派と保守派が占拠している新政府のように、軍拡を進めることばかり考えていると、結局、新式の銃の開発、大砲と武器はどんどん発達していくばかり、科学は軍に奉仕することになってしまう。金は軍に奉仕するだけで、庶民のための福祉にまわらない。

 

こちらの福祉を豊かにして、文化を高めれば、ユーカリ国にも異星人にも尊敬されるようになる。そうすれば、彼らと文化交流が出来て、彼らもむやみな要求をしなくなるのではないかな。

 

我らの文化の価値を彼らに認めさせるのだ。向日葵惑星のテラヤサ国にはこんな素晴らしい文化があると異星人が知り、自分の国に報告する方がどれだけ素晴らしいかを教えてあげることの方が、お互いにうまくいく。

 

もしかしたら、彼ら異星人はみかけは経済・経済と言っているが、もしかしたら、あの秘密の宝殿と中に収められている経典を知りたがっているのかもしれない。

そうではないか。」

 

  「宝殿と経典とは何ですか」とハルリラが聞いた。

「いや、わしらも詳しいことは知らん。彼女が知っているよ。宝殿のモナカ夫人。会ってみるかね。彼女の考えは中々、独特でね。宝殿の主人でもある。」

「会いたいですね」と吟遊詩人が言った。

「明日、お連れしよう」と伯爵が言った。

  

「先程の話の続きだが」と伯爵は言った。「隣のユーカリ国の動きも気になるというロスの話ももっともではあるが、

 

その結果は戦争だ。何十万という若者が死ぬ。わしは剣だけで、国はおさまると思っている。

あの剣には、サムライの倫理がある

しかし、銃や大砲やミサイルにそんな高貴な倫理がないではないか。

 

外国勢との戦いをどうするかということだが、ここに、わしが発明研究所をつくった意義がある。

とびきり優秀な気球を沢山つくるのじゃ。真夜中、空から敵の背後にサムライ達を回し、そこから銃を持つ彼らを奇襲し、銃や大砲を奪い、彼ら兵士を傷つけないで、彼らの飛び道具を廃棄するのじゃ。そのためには、優秀な剣士がたくさん必要だ、わしの考えは妙案と思わんか」

 

ハルリラは神妙に聞いていたが、こんなことを言う人は初めてだったので、面食らっているようだつたが、自分の剣の腕が役に立つ場が見つかった喜びがあるようだった。

 

カルナが厳しい表情をした。

「伯爵!  ユーカリ国は、かなりの飛び道具を持っていますよ。夜中でも気づかれれば、気球など、高性能の銃で撃ち落とされてしまいます。そして、その次に来る反撃は今までの平和とビジネスから一転して、怖ろしい武器の攻撃がわがテラヤサ国に襲い掛かり、テラヤサ国は亡びるでしょう」

 

「カルナさんの言う通りかもしれない。ま、何事も話し合いだな。先程も言ったように、文化交流が大切だ。ユーカリ国とて、本音はわが国の文化を知りたがっている。相互の誤解で戦争になる。戦争は愚かな人間の行為だ」と伯爵が微笑した。

 

 

 翌日、宝殿に行った。それは金と銀と宝石で作られた正方形の巨大な建物で、入口が小さかった。

中から、現れたのは三十代半ばの女で、モナカ夫人だった。

 

モナカ夫人は語った。

「ここにある経典は天下の法典であります。私は毎日、読んでいるが、理解するのが大変」

「何でそんな素晴らしいものを外の人にも読んでもらうようにしないのですか」とハルリラが言った。

「理解できないと思うからです」

「それは出版して、多くの人に読んでもらえば、理解できる人も増えるのではありませんか。」

「カンスクリットで書かれているので、これを翻訳する作業はいまの向日葵惑星の文化と経済力では無理でしょう」

「それではあなたが死んだら、それを読める人がいなくなるではありませんか」

「そんなことはありません。私の親族はたくさんいますが、その中でこれを読めるのは二十人います。みな優秀な人材で、親族の中から選ばれ、代々、この宝殿を二十人で守ってきたのです。この人たちはこれをみんな習得して、この宝殿を守るのに、長いこと尽力してきたのです」

  「率直に言って、どんなことが書かれているのですか」と吟遊詩人が言った。

「アンドロメダ宇宙と人間の真理が書かれているのです」

「具体的に言って下さい」

「無理なことをおっしゃる。あえて分かりやすく言うならば、物と人がこの世界に存在している神秘を宇宙のいのちの働きと見て、そのいのちの表現を知ったヒトがさらに自らの精神を進化させ、神々の住むような美しい町を作っていくにはどうしたら良いかということだ。

我々の街には伯爵さま歴代の善政のおかげで、神々のいる町は守られてきた。

小川にはいくつもの水車がまわり、そこから家庭に電気が送られている。

そして、水。未来に目を向ければやはり、水から、水素エネルギーを作り出すことをめざす」

「水車!」大男スタンタは伯爵の前では、不思議なくらいおとなしく沈黙を守っていたが、水車の言葉に歓喜の声をあげた。皆は一瞬、スタンタの赤い顔に輝く大きな目を見た。モナカ夫人は一瞬、微笑して、さらに話し続けた。

「柳や緑の樹木や、ベンチにはいつも人に美しい優しい声がささやかれているような趣がある。道端の花は微笑している。

困っている人がいた場合には、親切に教えてあげる言葉に、人の心は癒される。

つまり、そういう風に導いたのは、経典に愛が書かれているからです。慈悲が書かれている。虚空が書かれている。

この宇宙を創造したのは大慈悲心であると。

 

  

「慈悲 」

「それから、あなた方の経典に法華経というのがあるでしょう。

あの中に人は如来の室に入り、如来の衣を着、如来の座に座して、しこうして広くこの経を説くべしと書かれていますよね。如来の室とは一切衆生の中の大慈悲心、これは悪口を言ってはいけない。人を傷つけることをしてはいけない。人に嫌がらせをしてはいけない。つまり、ハラスメントをしてはいけないということです。人に親切にするということです。それから愛語です。守られているのでしょうかね。

「如来の室」の意味を地球の方は子供に、そう大人にも言い伝えているのでしょうか。

そういう基本のことを知らないようでは、法華経の神髄に入ることは難しいのではないでしょうか。

 

 

 「あなた方の経典にはそういうことが書かれているのですか」

「はい、書かれています。それが一番大切なことで、その基本を忘れてはまずいです。宇宙の大真理は銀河系宇宙に行こうがアンドロメダ宇宙に行こうがみな同じです。」

 「春のそよ風が吹く

  そよ風にのって、慈悲の心も運ばれてくる

  花に、樹木に、空の雲に、慈悲の種はまかれていく

  愛語は惑星のいたる所に、音楽のように響いていく

  いたる所にある深いいのちの真理が

われらにほほえんでいく」

そう、モナカ夫人は小声で詩句を朗読して

「これが、最近、私の翻訳した向日葵惑星の経典の一部ですわ。

いかがですか」と彼女は美しく微笑した。

       【つづく】