空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの感想 9(不思議な長老)

2018-09-11 13:53:35 | 文化

銀河アンドロメダの感想

この章には、サイ族の長老が自分のは黄金の魔法、ハルリラのは、バラ色の魔法と言って、自分を誇る場面があるが、 

この間、死刑になった教祖の主宰していたあのオウム真理教では、道場で座りながら、空中浮遊が出来るなどというのを神通力を習得したとして誇るように聞いていたが、禅では、そういう神通力はたいしたものではないと考える。庭の掃除をする、お茶碗を洗う、歩く、息をする、こうした普段我々が普通にやっていることを本物の神通力だという。

個人的なことで恐縮だが、若い頃、二段を取るまで柔道をやったのはよかったが、左ひざの関節のところが、何かの拍子でずれて歩けなくなるのだが、自分で伸ばして直すことが出来る。一年に一度くらい何かの拍子で、起きるがすぐに自分で治せるので全く気にも留めないでいたら、高齢者になったあたりから、自分の力で中々回復できないのだ。すると、部屋の中も移動できなくなる。立つと、痛みもかなりのもので、歩けない。この時の精神的ショックは大変なものだ。足と腰には、自信があっただけに、おおげさに言えば絶望状態になる。普段、なにげなく歩いていたことがどんなに素晴らしいことか分かる。パラリンピックの人達はこういうどん底から、はいあがり、鍛えてきて晴れの舞台に立つているのだと思うと、最大の敬意を抱くようになる。

ま、私の場合は、医者や接骨院に行く前になんとか直してしまうのだが、この経験をすることにより、禅で、こうした歩くというようなことこそ、本物の神通力だと教えることがよく分かる。

まして、科学の力で、飛行機を飛ばすようになった。もう人類は魔法を手にいれたようなものだ。

この物語の長老がたとえ黄金の魔法を持っていたにしても、鉱毒を川に流すのをサイ族の軍人に許可しているようでは、中身がしれているということになりはしないのか。

だからこそ、このサイ族の一味は危険なわけだ、もしかしたら、悪魔メフィストの遠隔操作でうごかされているという疑いも起きる。

 

ゲーテの「ファウスト」は私の若い頃、好きな本だった。

ファウストはありとあらゆる学問を収めた大学者であるが、それでも、老人となり、知性では、

真理を知ることが出来ないと嘆き、自殺しようとするが、それを思いとどまり、メフィストレスという悪魔と契約をするという話がある。

ファウストが生きている間は、メフィストは家来のように何でもいうことをきき、ファウストが死んだら、メフィストのいいなりになる。ファウストがまず最初に手に入れたがったのは若さである。その次には恋。

ゲーテの話は物語であるが、我々人間も悪魔に動かされるような衝動  ま、分かりやすく言えば欲望の奴隷になることがあるのは、ニュースを見ないでも分かること。仏教では煩悩と言う、やはりこれを書かなくては、人間を書いたことにならない。つまり、文学にならないというわけだろう。

 

 

 

9 不思議な長老

  異星人サイ族の銅山に行く前に、ひと悶着があった。伯爵の息子トミーが伯爵の交渉についていくと言い出したのだ。これはロス家のおしゃべりの秘書夫人がもらしたことで、我々は知ったのであるが。夫人によると、トミーの行動は父親の伯爵の価値観とあまりに違うことで悩みの種になっているらしい。トミーは以前、伯爵から資金を借りて、自転車をつくる会社を起こしたのだが、失敗した。新しい車に若者の人気が集中した結果のようだった。

今度は家庭用水耕栽培のキットだそうだ。伯爵はこの地域は大きな農場が多いから、そういうものははやらないとして、資金を出すことは出来ないと突っぱねたらしい。

そこで仕方なく、異星人の言う株式会社をつくろうとして、父親と意見が合わず、ロス氏から幾分か資金をかりて、さらに欲しいと思っているところに、この異星人との交渉を耳にしたらしい。

 

  トミーはキリン族で背か高く、偉丈夫で、ハンサムで、どこかモディリアニという画家の描く憂愁な人物像を思わすものがあるが、父の伯爵のような理想主義を軽蔑し、実利主義を尊ぶところがあり、もう貴族を廃止すべきだと思っているから、カルナともその点では意見が合い、カルナに好意を持っている。

カルナに対しては、ハルリラもほれているらしいので、この火花を吾輩、寅坊ははたから見て心配することになった。

 

いつの間に、ハルリラとトミーは話がはずむ仲となっていた。

「おやじはかなり変わっているだろう。俺は今度家庭用水耕栽培のキットの株式会社をつくろうと思っているのだが、おやじは株式会社そのものに反対しているのだから、まいるよ。おやじは株主本位の株式会社に反対しているらしいが、働く人のための株式会社もあると思うのだが、俺が説明しても、前の会社で失敗しているものだから、話を聞こうともしない。とても金は出してもらえんだろうな。異星人のサイ族は金を出すんではないかな。なにしろ、株式会社の価値観を広めたがっているのだから、確かに親父の言う通り、異星人のサイ族の言う株式会社は株主本位だということは分かる。しかし、そういうのはカルナさんの言う働く人のための会社という風に、徐々に法律で変えられるんじゃないか。異星人が金を出してくれるなら、俺は彼らを株主として歓迎し、それで会社を立ち上げることができるかもしれん。そういう期待を持つのだが、親父はなにしろ最初から純粋主義で行かないと駄目らしい、融通がきかん。だから、ことごとく俺と意見が対立するのよ。おぬしはどう思う。ハルリラ」

 

 

 「わしか。わしはそういうことに関しては何か言うほど、そういう方面の情報を集めておらん。最近の新政府の借金、百兆ギラということから、増税という話がどうもおかしいというのも、最近知ったばかりだ。新政府は革命前の政府から引き継いだ隠し金、八十兆ギラを地下に持っているというじゃないか。それはともかく、トミー。おぬしが異性人から金を借りるということには賛成できんよ。」とハルリラは言った。

 我々は祭りの準備で、広場にいる人たちと、向日葵踊りの練習をしたあと、サイ族の銅山に行くことにした。その練習の時に、トミーもカルナも吟遊詩人もハルリラも吾輩もこうした若くて時間のある連中が集まったから、練習とはいえ、愉快な経験だった。笛と太鼓でリズムをとり、その二拍子のリズムにのって、両手をあげ、右、左と、手と足を動かす。その楽しいこと。阿波踊りによく似ている。

 

 翌日、我々はついにサイ族の占拠する銅山の本局に向かった。

 

馬車で、森林地帯の道を通り過ぎると、金色の禿げた土がむき出しになった銅山が巨大な山のようにあり、その下の平地に小さな町があった。異星人がつくった町だった。

色々な色の小さな家が沢山並び、広場もあり、広場には大きな彫刻と噴水があった。

カーキ色の軍服を着たサイ族の兵士がうろうろしていている。

案外だったのはサイ族は意外に小柄な感じがするのだった。

鹿族の方が背が高いような印象だった。鹿族には吟遊詩人ほどの百八十センチぐらいのがけっこういる感じがしたが、もっとも、低いのもかなり、いる。

ところが、サイ族はだいたい背が低いが太っていて、腕が太い。

 

 

本局は華麗なビルだった。受付には兵士が三人いて、こちらに一人が銃を向け、一人が刀をぬいた。何も持っていないベレー帽をかぶった男が我々の前に来て、「何者だ」と怒鳴った。

「知事だ」と伯爵が前に進み出た。

「テラヤサ国の政府の役人ならば、身分証明書を出せ」

伯爵はそれを見せた。

「何の御用で」

「こちらの司令官に会いたい」

「ご用件の向きは」

「川に鉱毒が流れて、農民が困っている 」

「分かりました」

中に入ると、青銅で出来た車が三台とまっていた。

「ほお、青銅の車」

「青銅をつくるには錫がいるよな。すずはどこでどれるのだ」とハルリラが言った。

「銅山の向こうの地下に錫がたくさんありますよ」

 

広間を通り、司令官の執務室に入った。我々は吾輩、寅坊と吟遊詩人とハルリラと あの大男と伯爵と秘書官だった。

 

 

 「銅が和田川に流れ、その鉱毒が田畑をあらし、農民が困っています。なんとかなりませんか」と伯爵が言った。

「わたしは貴公たちの向日葵惑星を強い富のある国にして貿易をしたいと思ってきたのです。」

 「しかし、銅山は勝手にそちらで占拠したと聞いています。新政府の許可を得ていない」

 「お宅はどういう身分なのか」

「伯爵です。貴族院議院の議員であり、そこの町の知事でもあるのです。そういう責任ある立場から、申し上げているのです」

 「資源は先に見つけた者が活用するのは当然というのが、我らサイ族の長い間の慣習法でしてな」

 「しかし、ここはあなたの国ではない。向日葵惑星のテラヤサ国の

領土です」

 「領土。そういう概念はわが惑星にはありませんな。わが惑星はサイ族がみんな仲良く暮らしておる。自分の領土に線を引き、国どおしが争ったのなんていうのは千年も前にあった昔の歴史の話でしてな。そんな慣習はアンドロメダ銀河では通用しませんぞ」

 「どちらにしても、鉱毒が民衆に被害を与えているという事実をどう考えるのですか」

 「銅の鉱毒を別のルートを使って山の地下に埋める方法がないわけではない。しかし、それにはそちらもそれなりの金貨を出してもらわなければなりませんな」

 

 

 「いくらですか」

「百億サラ」

「それは直ぐには払えない。政府の財務局に申請書を出して審査してもらわないと、それだけの大金は無理だ。

それにそんな大金を我が国が出さなければならない義務があるのか、疑問があるし、新政府の中で議論して結論を出さねばならない」

「それでは、今のままでいくしかないでしょう」

「しかし、その問題とは別にあなた方がここを不法占拠しているという問題がある。ここは向日葵惑星のテラヤサ国の領土で、ここで銅山を開発して仕事をするには、法務局の許可を受け、それなりの税金を払い、」

「ちょつと待って下さい。そういう問題は政府と話し合うこと。一議員と話し合うことではありません。

もう既に、そういう話し合いは、新政府の高官と話し合いが進んでいる」

「誰ですか。その高官と言うのは。」

「首相補佐官ヨコハシ殿です」

「なるほど」

 

「そちらの方はご家来か」

「いえ、アンドロメダ銀河鉄道の乗客とカルナさんです」

「そんなら、話が早い。こうしたことはサイ族の言い分が通るというのがこのあたりの銀河では慣習法になっている。それを知らないテラヤサ国というのは随分と文明の遅れた国ですな。

一発、帝都の郊外にある軍事訓練所に我らの優秀なミサイルをぶっ放してみせましょうか。私としては、そういうことはしたくないですし、わが指導者の長老が文化の交流と言いますからな。しかし伯爵のような無知な方にはこれが一番きくことは確かなことです」

「長老とは」

「我ら遠征隊の精神的指導者だ。わしは軍人として司令官で軍を動かす最高責任者だが、長老はサイ族の惑星の高貴な方の直属の使命を帯びている方での。

わしも、長老のご意見は尊重しなければならぬ。だからこそ、長老の意向に沿うように、平和裏に向日葵惑星とビジネスをしたいと思っているのじゃ」

 

 

 「その長老の方にお会いしたいですな」と伯爵が言った。

「長老に。今は堂にこもっていますよ。」

「いつお出になるのです」

「いや、わしども俗人には分からん」

「何をされているのですか」

「軍人にそんなことを聞かれてもね。何か高貴なことをされているのだと思いますよ」

 

その時、その長老が出てきた。あごに長い髭が三角形の銀色の飾りのように伸びていた。浅黒い肌の顔はしわだらけで、茶色の目の眼光は鋭かった。

「わしに会いたいとな」

「はあ、そう言っておりますが」と司令官は言った。

「おい、ハルリラ。わしを知らんか」

 

「いいえ、存じておりません」

「お前の所の魔法はバラ色の魔法次元。わしの所は黄金の魔法次元」

「ああ、それは聞いたことがあります。魔法次元にもいくつかの種類があるというのを。しかし、黄金の魔法次元については名前ぐらいしか、知りません」        

「うん。わしはな。このあたりの銀河は黄金の魔法次元の価値観で統一されるべきだと思っているのだ。何か異存はあるか」

「と言われても、その価値観がかいもくわかりませんので」

「ふうむ。バラ色の魔法次元みたいな呑気でだらしのない所とちがうからな。

平和なビジネスとそれを守る武力。これが我らの看板だ。奥は深いから、こんなところで喋っても意味はないが、つまり皆が豊かになる。これほど、良いことはあるまい」

「武力といっても、ミサイルがあるのでしょう。魔界で開発されたという噂があるけど」とハルリラにしては珍しいほど小声で言った。

「魔界?メフィストは人の心をあやつるのだ。魔界では、物はつくらん」

「なるほど」

 

  「ところで吟遊詩人。お宅はどんな音楽をかなでるのかな」

「出来れば、宇宙の大真理を表現するような音楽を作曲して、演奏してみたいですね。いつもはその時の気分で、あるいは好きな曲を演奏しますけど」

「宇宙の大真理。それなら、わが黄金の魔法次元の価値観を作曲してみたら、どうだ。そして、この向日葵惑星で演奏するんだ。客は入るぞ。大金持ちになることは間違いなしだ。どうだね」

「ごめんこうむりますね。ビジネスと宇宙の大真理は一致しません。魔法次元の価値観がどういうものか知りませんが、あなたの言葉とあなた方がこの向日葵惑星にやってきて、やっている行動を見て、真理とは全く一致しないということが分かりますから、そんなものは音楽にしたくありませんね」

  「あんたが考えていることは幾分キャッチしておるわ。地球の方だから、キリスト教とか仏教とか、それから、わしらの科学から見たらチャチな科学を使って、何か追い求めている。どうだ。当たっているだろう。だいたい、アンドロメダ銀河鉄道で旅する奴にはそういうのが多い。」

「いけませんか」

「地球で、わしが興味を持つのは維摩経だな。あの主人公は大商人で、文殊菩薩をいいまかしてしまったではないか。しかし、黄金の魔法次元の価値観は最終的に黄金をもたらしてくれる。そこが維摩の言うことと、わしらの次元の価値観と違うところだ」

「この向日葵惑星の宝殿にある経典には興味はないのですか」

「宝殿のモナカ夫人、うん、名前ぐらいは聞いている。向日葵惑星はテラヤサ国の文明が低いから、レベルは知れている」

「文明は低くても、文化は高いということはありますよ」と吟遊詩人は言って、モナカ夫人で経験したことをかいつまんで話してみた。

「それが本当なら、少しは興味を持つな」と長老が言った。

吟遊詩人はヴァイオリンをかき鳴らし、声を張り上げた。

「わたしは野獣になりたくない。」

「野獣。 それは魔界の話ではないかな。魔界はわしも嫌いだ。毒界といわれるメフィストの住むところ」

「そのメフィストにあなたがあやつられるということはないのですか」

「失礼なことを言うな。あんなのはわしに近づくことさえ出来ぬ。

ああいうのが近づくのは心の未熟なものだけよ」

「しかし人の心に忍び込む魔界の連中がいると聞きますよ」

「わが黄金の魔法次元の価値観は素晴らしいもので、我らを豊かにする」

 

吟遊詩人は再びヴァイオリンをかきならした。

ある種の情熱とこころをかきならす恋慕の情がヴァイオリンの音色の中に感じられる。

 

食欲、性欲、金銭への欲も欲張りすぎないことが大切

人の肉体のいのちははかない

しかし、不生不滅の形のない「いのち」もある

あの銀河が教えてくれる

あの花が教えてくれる

野獣になったら、その見えないいのちを見失う

満月をみたら、美しいと思うように、

我らはいのちの美しさをみたら、その衣服につつまれたいと思う。

いのちは虚空のように目に見えない

それでも森羅万象も我らのいのちも

その神秘な虚空のいのちから流れてくる

 

 

        【つづく 】

        久里山不識

 



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