空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの猫の夢想  35 【神々の号泣】

2019-01-26 09:41:26 | 文化

 

  吾輩はネズミ族の特徴をここで書いておきたい衝動にかられた。高度の文明と金銭を持っているので、彼らの気位は天狗のように高いということである。

そういう文明をきらって、ただ、ひたすら良寛のように道を求めてシンアストランは宇宙に修行の旅にでたのであろう。

だから、彼はまれな存在だ。ネズミ族には彼のような大男は珍しく、小柄な人が多いし、教養レベルも高い人から低い人まで実にさまざまで、アンバランスな文化を築いている。ウサギ族のように耳が長いという目だったものはなく、目が丸く鼻が長いというのも、ネズミから高度の文明を持つヒトに進化する過程で洗練されているので、もしも地球のどこかの地下鉄にのったら、ハンサムな奴だと思われる程度に人類にも同化できるかもしれない。

 さて、そのネズミ族の大男シンアストランは再び、沈黙して、呼吸の瞑想をしているようだった。

吟遊詩人が静かにヴァイオリンをかなでる。

神界から流れてくるような荘厳な響きが急に悲しみの流れのような音色に変わり、胸を打たれている間に、やがて小川の流れのようなかろやかな響きとなる。

それから、彼は歌を歌った。

 

森と湖を突き抜けた涼しい風がわが頬をなでる

月光は庭の隅々を照らし

緑の葉に宿った露はしずくとなって流れ

銀河の星は天から降るようにまたたいている。

かわせみが飛んでいるせせらぎの音

時々響く雷のような戦争の砲火と轟き

我は病む 戦火の自然に及ぶ愚かさを悲しみ

 

 

「わしはね。君等、地球の人達に一つだけ助言したいことがあるのだよ」

「何でしょうかね」

「うん、わしのような乞食行者が言うのも恐縮とは思うのだが、ぜひ伝えたいと思うのは、親鸞の考えをもう少し、取り入れた方がいいと思ってな」

「ああ、親鸞といえば、あのヒットリーラの国に還相回向して、布教していることは知っておりますが」

「わしは彼と会って、しばらくの間、話したことがある。素晴らしい思想だ。まさに人間は愚かで、悪の要素を持つ生き物であるが、その愚かさを自覚した時に、知恵の光が彼あるいは彼女を包む。そうすると愚かな自我が消え、人はその智慧の光そのものになってしまう、少なくともわしは親鸞の考えをそう解釈した。

戦争を見ればよく分かる。どちらも自分達が正義だと主張する。そして相手を憎む。そして、殺し合いだ。これは個人のトラブルでもそういう場合が多い。自分は正しい。相手が間違っている。親鸞はそこのところを少し考え直せというわけだ。」

「確かにその通りだと思います」と吟遊詩人が言った。

「シンアストランさんは行者なんですね」とハルリラが言った。

「まあ、そんなものじゃな」

「それなら、あの先生にとりついている幽霊を取り外してやれば。

そうでないと、子供たちを管理している先生が妙な妄想の虜になるとおかしなことになるのじゃないかと心配です」

 

「どれどれ、ああ、あの方ね。確かに、異界から来た幽霊がいるね。しかし、あの兵士だって、幽霊みたいなものだ。

わし達みんな幽霊みたいなものさ。ただ、どこに足場を置いているかということだけで、現象は異なってくる。

そうではないかね。君達ヒト族も精密な生き物だが、一皮むけば原子からできているのだろ。その原子たるや、殆ど空っぽだっていうじゃないか。君達の目が粗くできているから、目に形ある人間さまと映っているだけの話じゃないか。

異界も霊界も色々あるのに、君達の目では、見えんな。ハハハ」

「僕には少し見えるよ」とハルリラが言った。

「剣舞の時は世話になったから、愚痴は言わないが、お宅の魔法よりも、このあたりの修行は年季がいるのさ。君はまだ若い」

 

 「そんなことよりも、あの子供たちの先生に、若い女の幽霊がとりついているということですけど、その女が悪さをすることはないですか」

「あの幽霊はね、猫族の女なんだ。新聞記者かなんかで取材をしていたのだと思う。」

「何で死んだんですか」

「さあ、そこまでは知らん。今喋ったことも、わしの直観だからね。

それじゃまた」

そう言って、行者は立ち上がった。

「え、もう行っちゃうんですか」

「うん。食堂車に行って、少しコーヒーを飲んでくる」

  

シンアストランが通ると、今までにぎやかに喋り笑っていた生徒たちは、シーンとなって、行者を見詰めた。

すると、シンアストランは急に雷のような声を出した。

まるでサンスクリット語のようで、何て言ったのだが、分からないが、物凄く綺麗な宝石のようなものを先生の方に飛ばしたような美しい呪文だった。

ハルリラの魔法の呪文とは違う。

 

 あら、不思議や、先生にはあの若い猫族の娘の霊が消え、元のいつもの中年の馬族の先生に戻っていた。

急に老けたような印象を吾輩はうけた。

「あら不思議なことをする行者だね」と吾輩はハルリラに言った。

すると、「不思議だけど、今まで行者がいた所に、あの猫族の娘があの先生から飛び出て、そこに座っているよ」

「え、ぼくには見えないけど」と吾輩は言った。

吟遊詩人は言った。「うん、何かしらの神秘な生き物が隣に座ったね。それだけは分かるが、姿が見えない。見えるのはハルリラだけか。何か聞いてみたら」

 

「どうして、銀河鉄道に?」とハルリラは吾輩には見えない幽霊に聞いた。

「銀河鉄道に来たのは、妹が乗ってはいないかと探しに来たということなの」とハルリラはうなづきながら、独り言のように言った。

「妹さんって、どんな風なの」とハルリラはさらに聞いた。

 

吾輩は猫で、特殊な耳をしているから、そこのあたりまでなんとか聞こえたが、妹の様子を言っている所は聞こえなかった。そうすると、ハルリラが通訳してくれた。幽霊の妹とは、何と、ついこの間まで一緒にいた虎族の若者モリミズの恋人、猫族の娘ナナリアではないか。今はモリミズ夫人になっている。

「ハルリラ君。教えてあげたら」

ハルリラは吾輩には見えない相手の幽霊に、なにやら一生懸命に喋り、幽霊の妹ナナリアがトパーズの惑星で結婚式をあげたことを教えたのだ。

彼女が喜びのため息をしたのを、吾輩も猫の耳でキャッチした。

「良かった」と彼女は言っているようだった。

そして、しばらくハルリラに何かを喋り、そこから消えた。それが我輩の直観でも分かった。幽霊の話はこうだった。

幽霊つまり、新聞記者はプロントサウルス教の取材をしていて、この教えの悪に気づき、それを宇宙インターネットに一部、発表している最中に消されたというのだ。

ハルリラが言った。「お礼の言葉を言っていたよ。そして、異界に帰るって」

そういえば、銀河鉄道のわれらの車両には少なくともいないことが、吾輩にも分かった。どこの車両にもいないだろう。彼女の行くべき異界に帰ったのだ。そう思い、吾輩はモリミズと結婚した猫族の娘ナナリアのことを思い出し、胸が苦しくなる思いがした。今ごろはきっと幸せな家族をつくっているだろう。子供ができると忙しくなるな。

幽霊の無念はどうすることも出来ない。我々はアンドロメダ銀河鉄道に乗って、動きがとれないのだから。メールでモリミズ夫人【ナナリア】に知らせることも考えたが、幸せのまっただかにいる彼女に知らせても、ロイ王朝が健在となってしまった今となっては、どうすることも出来ない。それに、幽霊の話には具体性がない。我々は相談して、知らせないことにした。

今、若者モリミズは、伯爵と同じように、新しいカナリア国で介護士になり、新しい幸せな生活が始動したばかりなのだ。

 

 それにしても、我らは幽霊の悲劇から表現の自由などの基本的人権の大切さを痛感したわけだ。この事件を守る砦が憲法であることは明らかなことであるし、スピノザ教会が独自にアンドロメダ銀河の惑星に広めようとしているカント九条の理念はまことに素晴らしいと感嘆する。なぜならば、惑星間や国通しの紛争解決のための武力行使はしない、そのために軍備は治安を維持するための最小限にとどめるというのだから、現実との背離があまりに大きいとはいえ、その理想主義には脱帽せざるをえないではないか。

基本的人権の宝庫とカント九条は平和を希求する人類の宝が凝縮されているのである。

 

吾輩はそう思いながら、伯爵と結婚したヒト族の娘のことも思いだした。

巌窟王の娘だ。彼女も幸せになったことだろう。

 

どちらにしても、次の惑星はどんなところだろう。

アンドロメダ銀河鉄道の窓の外を見ますと、美しい風景が広がっていました。

緑色に光る銀河の岸に、柳の並木の細長く垂れた葉や焦げ茶色の太い幹のある緑の桜の葉が、風にさらさらとゆられて、まるで何かの踊りを踊っているようでした。他は、全て、真空のヒッグス粒子のような何かの輝きのようで、波を立てているのでした。

しばらくすると、アンドロメダ銀河鉄道の先の方で蜃気楼のような白い宮殿が立ち、その周囲に花火のようなものが上がったのです。白い宮殿におおいかぶさるようにして、大きな花のような広がりは赤・青・黄色・と様々な色に輝き、薔薇の花のようなひろがり、百合のような花の広がり、向日葵のような花の広がりと直ぐに消えてしまうのですけど、再びその花火のような美しい大輪の薔薇、菊、百合の花は白い宮殿をおおってしまうのです。全てが夢のようで、また蜃気楼のようで、時々、ピアノの音のような美しい音を空全体に響かせているのは、宮殿で何かの催しをやっているようにも思え、宮殿の周囲にも白いミニ邸宅が並び、おそらくは人々がその不思議な光景を鑑賞しているに違いないと思わせるものがありました。

そして、確かに、銀河鉄道の列車の周囲の下の方は何か透きとおったダイヤのような美しい水が流れているのかもしれないのだと、ふと吾輩は思ったものです。

 

 

 何時の間に、シンアストランの行者がコーヒー茶碗を持って、そこに座っていました。

うまそうにして、珈琲を飲むと、満面に笑顔を浮かべて、彼は言いました。

「地球で死んだ人は、そのまま、銀河鉄道への旅に出ることがある。

アンドロメダ銀河の惑星で死んだ人は 幽霊となって、銀河鉄道に出て来る。ここは面白い所だ。そうは思わんかね」

「確かに不思議ですね」

「宇宙には、まだまだヒト族の理性では理解できない所がたくさんあるということだよ」

「そうなんですか」

「どちらにしても、いのちは永遠さ。この永遠の旅で、人は自分の魂を磨く、これを知らないと、人は愚かになって、そして争い、みじめになる」

「魂を磨くのですか」

「そうさ。色々な試練にあって、自分の魂を美しくしていく、そういう永遠の旅だ。しかし、人間には親鸞がおっしゃったように煩悩というものがある。この煩悩の重さは大変なものさ。ところで、君等の旅。次はどの惑星で降りるのかね」

「通称ブラック惑星と言われている所です」

「あの惑星ね。あそこには、わしの知人がいる」

「え、どんな方ですか」

「いや、あまり話したくないのだが、実は弟が」

「弟さんですか。それじゃ、ぜひお会いしたいですね」

「や、彼は金の亡者になってしまったからな。わしとネズミ王国を出る時には修行をして真実のいのちを見つけようと意気軒昂だったのだが、彼は途中で落ちこぼれ、堕落した」

「堕落した」

「金に目がくらんで、修業なんかくそくらえと思ってしまったのだ」

「そんなに簡単に」

「真実のいのちを見つける修行は厳しい。

吟遊詩人のヴァイオリンの奏でる天へと魂を運ぶ美しい音楽も魂を掃除して、一定レベル以上に引き上げないとその良さが分からない。絵画もそう。

物語もそうさ。物語を新聞を読むようにして読んで中傷するような奴は魂を引き上げる修行の意味が分からない。

魂は進化するのだ。その意味が分からない連中がブラック惑星には多いのさ。

自分の弟には、そうはなって欲しくないと思う。それだけは願ってるよ。なにしろブラックな所だからね。

親鸞が言うように、まず自分の中にある悪と愚かさを見つける時に、人は天空から降りて来る素晴らしい光の衣に包まれ、本当の人間になれる。

宗教の本質は大慈悲心である。このことを忘れると、全ての宗教は堕落する素質を持っている。良寛が漢詩で、江戸幕府に体制化した仏教を批判しているのを見ても分かる。堕落すると、尾ひれのついた人の噂をまきちらすような悪がにじみ出て来る。

悪っていうのは、ああいうブラック惑星の住人になってその雰囲気にひたると、直ぐにその人の魂の中に入り込もうとする。つまり、誘惑が大きいということよ。

もっとも、ブラック惑星にもそういう精神の荒廃と戦い、煩悩と戦い自分を磨いている立派な人も多い。弟がその仲間になってくれることを、わしは望んでいる」

 

どこから飛んできたのか、美しい赤いインコがシンアストランの肩にとまった。

「わしのペットだ」とシンアストランは微笑した。

 

 吟遊詩人は小鳥にほほえみ、歌を歌った。

 

雪がふる夜、ああ降りしきる白い雪の涙

薔薇は机に向かい古典を読んでいた

海のような音がする、ふと見る、窓の外、

幻のような、紫陽花のブルーの姿、ああ街角の悲しみの舞踏

 

吹雪の夜、ああ悲しみの嵐の神の号泣

薔薇は机に向かい静かに画集を見ていた

すすり泣きのヴイオロンの声がする、ふと見る、窓の外

蜃気楼のような、紫陽花のブルーの姿、ああ森の中を駆け抜ける

 

街角と自然、紫陽花のブルーの姿、あなたは舞踏が好きだ

あなたが舞う時、薔薇は古典を読んでいる

その時、永遠が舞う。雪のように永遠が舞う。

どこへ行くのだ、紫陽花よ。薔薇は君を愛しているのだ。

今ここの永遠の舞台の上で、静かに思い出の紫陽花のブルーの姿を見ていたいのだ

おお、人間は自らの悪を知るべきだ。

戦争、地球汚染、気候の温暖化、核の恐怖

紫陽花のブルーに学ぶべきだった。

あの清廉な魂の美しさに学ぶべきだった。

あの天界の色の胸に染み入ること

一輪もいいけど、紫陽花の森となるとね、それは極楽。

 永遠を見る薔薇よ、紫陽花と街角で会おう、そこで温かい珈琲を飲むか

 

  

  

                  【つづく】

 

 

 (ご紹介)

久里山不識のペンネームでアマゾンより短編小説 「森の青いカラス」を電子出版。 Google の検索でも出ると思います。

長編小説  「霊魂のような星の街角」と「迷宮の光」を電子出版(Kindle本)、Microsoft edge の検索で「霊魂のような星の街角」は表示され、久里山不識で「迷宮の光」が表示されると思います。

 

【 久里山不識より  】

 世界がより平和な方向に進むことを切に祈ります。そのためにも、日本は憲法九条を守り、平和と軍縮を呼びかける先頭にたてることが望ましいと思います。

経済格差が少なくなること、価値観の見通しが明るくなり、あおり運転など、一部の人のマナーの悪さもなくなること、これも今年の課題だと思います。すべての人に仏性があるというのが、お釈迦様の教えです。永平寺だけでなく、すべての人がこの仏性とは

何かということを考えるようになれれば良いなと思います。

 

 

 【憲法九条を守る意味 】

この文章はFC2の【猫のさまよう宝塔の道】2016年10月 3日に掲載したものです。今もあります。憲法九条を守るが物語の一番のテーマですので、物語をきちんと読んでいただければ「何故、憲法九条を守らねばならないかが、分かると思っているのですが、お忙しい方もいて、拾い読みする方もあるようで、そうすると、意味がきちんと把握できないという方も出てくるかもしれません。それで、以前書いた「憲法九条を守る深い意味」を思い出し。この場に付け足しておきます。【書いた時間が大分前なので、今と少し違和感がある文もありますが、直さないでそのまま掲載します 】

  



映画の感想を書いて、次の物語の備えをしていたら、たまたまコメントが入った。私の【the Pianistとアドルフに告ぐ】のブログを読んで、彼自身もその映画を見てみたいし、「アドルフに告ぐ」もいずれは読んでみたいという内容には、良いことだと思った。

しかし、そのあとに続く内容は私の日本国憲法を守るという立場とはかなり違う。
要するに、北朝鮮の脅威を言っているわけで、それに対する防備をしなければならないということだと思う。でも、北朝鮮の脅威は多くの日本人が感じていることだし、核兵器開発に恐怖を感じていることは、この日本国の大地に住む者は同じ思いだと思う。

どうやって、日本を守るか、政治家はもちろん、ジャーナリスト、学者、一般の人、みんなこの日本の大地を守り、日本の子供たちがこの大地で健やかに育つことを願っていると私は思う。
しかし、どうやって守るかで意見がわかれる。私は両方の意見を聞いて、考え、やはり、憲法九条を守る方が平和への道に近いと感じる。
勿論、人間ですから、色々な意見があって、改憲、憲法九条の廃止そして軍拡をして、もしかしたら核武装論にまでいく考えを持っている方もおられるのではないかと思いますが。
しかし、もしそうした立場に日本が突き進んだとしたら、中国や、北朝鮮、やロシアはどういう反応をするか、東アジアは今以上に不安定になり、軍拡競争がはじまり、いきつく先は核戦争ということになりかねない。
【人類は滅亡の道に進む可能性があるということです。少なくとも文明・文化は破壊され、第二次大戦を上回る死者も予想される。こういう恐怖は既にキューバ危機で人類は経験しているのです 】

では、憲法九条を守っていては、北朝鮮が図に乗って、何かの拍子に彼らのミサイルが飛んでくるではないかという心配はどうか。

確かに、そういう不安があるから、今、活発に外交が進んでいるのではないでしょうか。
安部首相がキューバのカストロ氏に会って、北朝鮮の核開発を押しとどめるように協力を要請しましたね。キューバは北朝鮮の友好国であり、カストロ氏は大の親日家であって、日本庭園を持っていると聞きました。
それにやはり、平和憲法を持っているという実績は安倍首相がカストロ氏と会った時に、口に出して言わなくとも(首相が改憲をたとえ、考えていたとしても)
、現実にある憲法九条の威力は 無言の世界の行くべき方向をカストロ氏に指し示していることが私には感じられるのです。

それから、憲法九条がアメリカ軍という占領軍の中でつくられたものだし、日本を軍事的に無力にするというご意見。それがたとえ、本当であるとしても、憲法の内容を吟味すると、軍を最小限にして、その金を国民の生活にまわすという発想はそれなりに、将来の人類の行くべき方向を指し示しているのではないでしょうか。

人類の歴史を見ていると、戦争の歴史である。ことにヨーロッパでは三十年おきぐらいに戦争をしていた。全く、人類は戦争が好きなのではないかと錯覚するくらいである。
事実、日本でも、日露戦争の時に、戦争反対ののろしをあげた歌人の与謝野晶子とキリスト教思想家の内村鑑三は一時、非国民と言われたのであるが、今や教科書に載る偉人である。

そのあと、人類は第一次大戦と二次大戦という怖ろしい戦争を経験してしまった。

今や、オバマ大統領のように、核兵器をこの地上からなくしたいという思い。これは人類の悲願なのではないでしょうか。出来れば、通常兵器も世界的に縮小していくことがのぞましい。
過去のように、軍拡が世界の雰囲気となったら、人類は生き残れないと思う。
既に、過去にはキューバ危機で、ソ連とアメリカが核戦争寸前まで行った。
最近では、パキスタンとインドの軍事衝突が核戦争一歩手前まで行ったと聞いている。
イスラエルも核兵器を持ち、アラブとの対立が懸念されている。
至る所で、戦争の火種がくすぶっている。

そこへ日本人が憲法九条を見捨てたら、戦争へ戦争へと突き進むことになることは火を見るより明らかではないだろうか。
憲法九条を守り、今の段階では、それなりに防衛力を強化して、世界に平和外交を展開する、それが日本の進むべき道だと私は思う。

 

最近、「日本会議」というのを耳にした。どうも、宗教右派といわれるごく一部の人達が中心となり、財界、政治家の一部と結んで、憲法改正、憲法九条廃止、国防軍の設立、ということを考えて立ち上げた運動のようである。

宗教というのは本来、平和を目指すものである。人間のいのちという素晴らしい奇跡の存在に驚きと感謝の念を持ち、そのいのちを守るために、平和を考えるのである。
その平和をつくる願いがストレートに実現している憲法九条を廃止するというのは理解しにくい。
お釈迦様が悟りをひらいたあと、お釈迦様が若い頃、王子であった国に隣の大国がせめてきたという話がある。
お釈迦様の所に、かっての家来たちがやってきて、「お釈迦様、どうぞ我々の総大将になって、あの大国に反撃していただけませんか」とお願いした所、
お釈迦様は悲しみの表情を浮かべ、座禅をしておられたそうである。もし、あの時、お釈迦様が総大将になったら、反撃はできても、仏教はこの二千年、人類に巨大な足跡を残すことが出来たであろうかという貴重な意見を聞いたことがある。

科学が生命を物質レベルでいくら探求しても沢山の知識は増えていく喜びはあるけれども、生命の不思議さは増すばかりという「いのち」の神秘を仏教は悟りの世界で解き明かしたものである。これは人類の宝である。宗教はキリストの言われたように、隣人を愛せよ、さらに敵さえも愛せよという教えに見られるように、愛と大慈悲心が根幹にあるのだから、宗教というのは 人と争うことを拒否するものである。

そんな呑気なことを言っていたら、北朝鮮が攻めてくるではないかという意見も分かる。
しかし、だからと言って、人類の宝 憲法九条を捨てるわけにはいかない、憲法九条を守りながら、平和外交を進めるしかないのでないかと思う。
私は文化の交流が大切であると思う。

今、多くの心ある方が文化と政治の面で、平和外交と平和へのコミュニケーションの取り方を研究し、それを少しずつ進めていると私は期待している。それを応援するしかないのではないかと思われる。



人類は憲法九条の指し示す【カントのいう永遠平和】に向かって、前進しようとしている気がするのですが。【現実の世界の状況はあまりに違うのは実に残念ですが、多くの人々はそのように努力している、そう思うようになりました】

                        【久里山不識】

 

 

 

 

 

 

コメント

銀河アンドロメダの猫の夢想 34 【剣舞】

2019-01-19 10:00:23 | 文化

 吾輩、寅坊の前に、大男シンアストランが巨木のように突っ立っている。

そして、小声で何かを歌っている。

【銀河の幻の松を今日見れば、蛍の群れに横笛の音かなし 】

吾輩は猫であるが、彼はネズミ族だという。こんな邂逅は不思議である。この宇宙に不思議なことは山ほどあるけれど、これは何か夢でも見ているような気持ちになる。

それにつじつまの合わないことがある。猫族の幽霊ナナリアは吾輩には見えないのに、第一次大戦のヨーロッパの西部戦線で戦った兵士は吾輩の目にもひどくリアルだったではないか。

夢はけっこうつじつまの合わないことが一緒に出て来ることがある。そういう疑いを吾輩は持ったのだが。

 

 大男はそんな吾輩の思いなど無頓着に悠然と突っ立っている。

吟遊詩人が立っている大男シンアストランに、「ここにお座りになりませんか」と我々の席の一つ空いている所を指さした。

「ありがとう。わしもそうしようと思っていた所だ。あんた方は地球の方だろう。地球も今は大変だな」

吟遊詩人は言った。「ネズミの惑星も大変なようで。一歩、間違えると、自滅する」

「ほお、よく知っていますな。あそこの情報は中々手に入れにくいのに」

「私はニューソン氏と少し、お付き合いしましたので。あの惑星アサガオで、革命さわぎの中で、結局、カナリア国に亡命という形になったのですけど」

 

 「ほお、ニューソン氏と。わしはあいつとは肌が合わないので、一度会ったかぎりだが、面白い話がありましたか」

「ネズミの惑星の様子を心配していましたね」

「ほお、どんな風に」

「ともかく物凄い科学文明の発達ですよね。今じゃ、原子力とニューソン氏の弟子達の努力によって、水素エネルギーの利用が可能になり、惑星と周囲の三個の衛星のエネルギーの需要をまかなえるようになっていた。しかし、一つの衛星で原子力発電所の大事故があり、沢山のネズミ族のヒトが死に壊滅状態になったけれど、そんなことに無頓着にさらに物質文明を進めようとしている。

確かに、惑星も残りの一個の衛星も十分に豊かな住宅地が生まれ、物凄く豊かなネズミ族の文明が栄えている。しかし、この衛星の中の領土の取り合いで、

惑星の四つの国が激しく対立し、国と国はいつ戦争するか分からない状態という。

どこの国も、武器の発達は凄いので、恐怖の均衡という状態にあるとか。

 

精神文化も衰え、人々は毎日、享楽的な生活にあけくれているとか。人と人はばらばらになり、金銭を積み上げることが人生の目的になってしまったような社会で、自殺者も地球の十倍とか。それでも、人口は増えて、その解決のために、もう一つ残された未開拓の衛星獲得競争が始まっているという話です。

 

しかし、奇妙なことに、ここの星の住人ネズミ族は、外の宇宙に出ようとしないという鎖国状態が続いている。

もう少し、大きなアンドロメダ銀河に目を向けてもらえれば、つまらない争いも減ると思うのですが、何かニューソン氏の話では、あるエリート学者がアンドロメダ銀河の他の文明は低すぎて、我々高貴なネズミ族が得るものは何もない、それよりも、この惑星と衛星にネズミ帝国を築き、その文明を磨いた方が楽園になると発言したことから、もうみんなそういう風に思うようになってしまったのです。

広い宇宙に目を向けないということは寂しいとニューソン氏は言っていました。広い宇宙に目を向ければ、つまらない争いも減るし、優れた考えも生まれるというのですね。

あなた、シンアストランさんを見ていると、私のような旅人もそんな風に思ってしまいますね」

  

大男のシンアストランは手を合わせてから、目を半眼にして、大きな呼吸をした。

「吸う、吐くに集中する呼吸の瞑想ですね」と吟遊詩人は言った。

シンアストランは頷き、何度か吸う、吐くの瞑想をやり、急に目を大きくして言った。

「『吸う』と頭の中で、言いながら空気を吸い、『吐く』と頭の中で言いながら、空気を吐くと頭の中が空っぽになって、気分がよくなりますよ」

そこまで言うと、シンアストランはしばらく沈黙してから、再び喋り出した。

「ところで、地球も核兵器だの、気候温暖化現象だの大変のようですな。それに、最近、わしは文殊菩薩に会った。信じますか。

信じないなら、夢の中で会ったと言っておきましょう。菩薩は美しい顔に珍しい怒りの表情を浮かべていた。

 

 プルトニウムは核兵器の材料になる。知っているだろうな、と菩薩はおおせだった。勿論、日本のもんじゅは発電のためにある。発電しながら、燃料のプルトニウムを増やしてくれる。だから、増殖炉で、夢の発電の筈だった、しかし、この二十年間まともに動いたことはなく、今や止まったままでも一日五千五百万円という高い維持管理費がかかっておる。一日の費用だぞ、今までに、おそらく何兆という金額が無駄にされているのだ。

知っておるのか。これだけの大金があれば、どれだけ福祉の方に金がまわせて、消費税なんか必要のない真の意味での豊かなゆとりのある国がつくれたではないか。

こんな無駄使いが許されるほど、かの国は富があふれているのか、と文殊菩薩はおおせだった。わたしの名前をつけるなど、ふとどきだと菩薩は怒りで頭から蒸気がのぼっておられた。」

 

「よく知っておられますね」と吟遊詩人が言った。

「わしはね。地球とアンドロメダ銀河で起きていることには詳しいつもりだ。特に地球で起きていることは我々アンドロメダ銀河に生きる者にとっては、おおいに参考にすべきことが沢山ある。原発の恐ろしい危険性は明白。プルトニウムは核兵器の材料にもなる。核兵器で恐竜のように、人類が滅びないように願っているよ」

 

隣にいた青ざめた顔の兵士が声を出した。「核兵器。何だ。それは。我々は機関銃と大砲で戦ったのだぞ」

 

「ヨーロッパの西部戦線でな。何十キロという長い塹壕を掘って、互いにドイツ軍とフランス・イギリス連合軍がにらみあった。たった四年で、二百万の若者が死んだ。愚かな戦争だった。君達は死んで、長いこと時間と空間のない異界を彷徨い、やっとこの銀河鉄道にたどりついたというわけだ。しかし、地球はもうあの二次大戦を経験し、核兵器の時代に突入している。まあ、この銀河鉄道についている宇宙インターネットでしばらくその辺の歴史を調べて見ることだよ」

「本当に愚かな第一次大戦でしたね。あの塹壕戦だけで、二百万人の若者の死ですからね」

 

「わしはな。最近。地球の反戦映画を見た。まるで幽霊のような兵隊が亜熱帯の森と荒野を彷徨っている。敵の戦車が来れば、銃の的になり、ばたばた倒れ、生き残った男達がサルを銃で殺して食べる。その内に仲間割れし、味方を殺し、人肉を食べようとする男を別の兵士が殺し、最後は荒野を人里めがけて、両手をあげながら、ふらふら歩いて行く。

あれが悲惨な戦争の現実さ。核兵器は兵士だけでなく、沢山の普通の民衆と子供をそうした戦火にまきこむ」

吾輩はシンアストランの話が文殊菩薩の怒りから、戦争への怒り、核兵器廃棄の方に話が移るのを自然なことと思った。

 

 大男シンアストランはじろりとハルリラを見た。

「おぬしは何で剣なんか腰に下げているのだ」

「わしか。わしは剣のない国、武器のない国を理想としているが、そうなるまでには人間の努力が必要だ。わしはこの剣で、武器をもちたがる連中を成敗しようと思い、剣の道に励んでいるのだ」

「剣の道か。まだ、道がそこにはあるから、いい。卑怯なことはしない。ジェントルマンでなくてはならぬ。礼節を重んじ、悪い奴を退治する。思いやりこそ、武士道の道じゃ。そうじゃないか。ハルリラさん。それなら剣も生きる。」とシンアストランは微笑した。

「その通りさ」

「ところで、ハルリラさん。その剣を貸してくれ」とシンアストランは言った。

「どうするのだ。剣など簡単に人に貸すものではないぞ。」とハルリラはきっとした顔になって答えた。

「そう向きになるな。ちょっと剣舞を踊りたい気分なのだ」

ハルリラが剣を渡すと、シンアストランは隣の席が空いているのを見て、

そこに立った。

「ハルリラさん。貴公の魔法で、この場所を剣舞ができるほどで良いから、ちょつと広げて周囲から見えないようにしてくれ。それから、俺の前に、幻の悪の剣士を一人出してくれ」

「魔法で空間を少し広げるのはいいが、悪の剣士を出せだと、俺にそんなことを要求するとはどういうことだ」

「だから、剣舞の相手に欲しいだけさ。幻の男よ」

「ほかならぬシンアストランの願い。まあ、幻の剣士を出してみよう」

「ハハハ」とシンアストランは笑った。

ハルリラは何か呪文のようなものを唱えた。突然、黒ずくめの剣士が飛び出た。

中肉中背で既に剣をぬき、シンアストランに向けている。

 

何か気のせいか、シンアストランの周囲が少し広がったような気がした。

「うむ。まだ狭いがなんとか、出来るだろう。ありがとう」とシンアストランは微笑した。

「悪人よ。出てきたな。俺の剣舞の相手をせよ」

シンアストランはそう言って剣で、幻の剣士の剣を下から、突き上げた。

剣士はそれをはずし、シンアストランの胸をついた。シンアストランはすぐに、身体ごと横に飛び跳ね、自分の剣を黒の剣士の頭からたたききるように、切った。

二人の剣士の動きはしなやかで美しかった。

「シンアストランは剣の使い手だな。それなのに、普段は剣の使い手なのに、剣を持っていない」とハルリラは吾輩の耳にささやいた。

「幻の剣士も剣の使い手ですね」

「幻は幻さ。シンアストランに合わせているだけよ」

「それ、どういうこと」

「ふふう」とハルリラは笑った。「俺の魔法も君をだませるだけの力があるということだな」

 

 「大無量寿経」と吟遊詩人が微笑した。

「お、さすが、わしが何を踊るのか分かったか。詩人だな」シンアストランは微笑した。そのあとは厳しい顔に急変し、手と体が優雅に時に激しく動き出した。

「人はとかく 道を求めることには心をかけず、ただ日常の急ぐに足らないささいな事にかかわりはてている。枯葉のようでゆっくりと風に揺られて、四方八方にどこへいくともなく、散っていく」。

大男シンアストランは剣を大きく回転させて、黒の剣士に激しい攻撃をかけた。剣と剣が打ち合う響きが列車の中に響いた。

それから、シンアストランは「人の煩悩は深い。飛び火する炎のようで、燃え尽きることがない」と、そう言って、剣で弧を描いた。そのあと、急に空を切った。

「金銭や財宝のことに憂い苦しみ、欲心のために動き回っているのは政治が良くないためか。

かれらはそれ故に、心の休まるときがなく、不安のあまりうろたえ、憂い苦しみ、思いを複雑にして、空しく自らの生を浪費しているのは嵐の中の小舟のよう、それを救うのは菩薩のような政治家が必要。」

「ああ、嵐の中の小舟のよう。救いたまえ」と繰り返し言いながら、剣で黒の剣士を突いていく。黒い剣士も見事な剣のさばき。

大男シンアストランは列車の狭い空き椅子の間を広い空間があるように体と手を動かし、剣を次々としなやかに踊らした。二人の姿と剣戟の響きを知ることのできるのは列車の中では吾輩と吟遊詩人とハルリラのみというのもハルリラの魔法のためとはいえ、摩訶不思議。

 

「大無量寿経は人の煩悩に対して厳しい」と吟遊詩人は吾輩の耳元で言った。

「煩悩」

「自我の悪を見つめることから、阿弥陀仏への信仰に導く。宇宙には深い愛と大慈悲心に満ちた深いいのちがあるという信仰さ。神と言っても良い」

 

「しかし、何故、こんな剣舞を踊るのかな」とハルリラは言った。

「人は仏なのにそれに気がつかない煩悩の深さを知る必要があると、言っているのだな」と吟遊詩人は微笑した。

「煩悩ね。吾輩なんか、煩悩だらけですよ」と吾輩、寅坊は言った。

 

その時、黒い剣士が煙のように消えた。シンアストランは剣を鞘におさめると、ハルリラに「ありがとう」と言った。

「いい、運動になった」とシンアストランは笑った。

 

                  【 つづく 】

 

 

 

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銀河アンドロメダの猫の夢想 33 【いのちの旅】

2019-01-12 09:34:05 | 文化

   トパーズの宝石のようなこの惑星アサガオの冒険を終えて、我々はアンドロメダ銀河鉄道の駅に向かった。

黄昏の美しい時がこの排気ガスに汚れた空気の惑星にも訪れようとしていた。薔薇色の光は灰色がかってはいたが、それでもあの真紅の薔薇の花を思い出させる自然の荘厳さがあたりをおおっているのを感じた。青みがかった空気の流れがあり、風がそよそよと吹いていた。確かに頬には暖かい風ではあったが、何故か吾輩は心地よく感じた。

背後に広がる山にも廃墟のようなビルの並ぶ町にも明るい光の残りがぐるぐる渦を巻いていて、何か不思議な霊的なものが駅の方角に吹いているような気がした。

並木の間にガス灯が灯り、ふと聞こえる水音は何か銀河の流れの音のようにも聞こえた。

広大なクジャクが羽を広げたように、駅は前方で待っていた。

不思議な鐘の音がこの夕暮れの束の間の憩いの時を告げているようだ。

いくつもの大きな星が輝き、我らの旅立つアンドロメダの大空に手招きしているようではないか。木の葉が広場の樹木から音もなく散り、宇宙の真理を語っているではないか。

 

 物質と霊、物質と仏性、それが一つになったいのちに満ちた宇宙。孫悟空の持つ科学の如意棒をはるかにしのいだ永遠のいのちの力が我らを引っ張るように、アンドロメダ銀河鉄道の駅へと導いていく。

 

 駅の構内に入り、アンドロメダ銀河鉄道の雄姿を見た時に、ハルリラが豪快に笑った。

「この列車には、面白い男が乗る。それを今、魔法界からメールでキャッチした。そいつと話すのが良いという知らせだ」

「面白い男って、どんな人よ」

「さあ、それは会ってのお楽しみということだな。ただ、おそろしく背の高い男だから、すぐ分かるということしか連絡がきていない」

「ふうん。魔法界からメールはどうやって来るの」

「それはハートとハートで通信するのさ。だから、あまり複雑な話は出来ない。

シンプルな話しか出来ない。今回のも、ただ、素晴らしい人だ。話すのが楽しみになる人というメッセージしかない」

 

 アンドロメダ銀河鉄道の我々の座っている横側の席に、二十名ほどの中学生風の子供たちが一人の女性教師に引き連れられて、入ってきて、どさどさと座った。ウサギ族の男の子や女の子が多いようだ。

目の細い女の子が言う。「ここは座れないわ」

「何で?

「幽霊がいるんだもの」

「そんなものいるわけないだろ」と少し太った男の子が言う。

「ほら見えない?

しばらくその周辺ががやがやしていたので、先生が言う。先生は馬族のようだ。

「どうして座らないの」

馬族であるが、きりりとした目と細い引き締まった唇からインテリの風格がにじみ出ている。あごが長いのが目立つ特徴だが、長い黒髪は優雅である。吾輩はハルリラの話を聞いていたから、この先生を見ていた。

だが、ハルリラの話では、男だと言うし、どうも一人で来ているようだから、違うのだろうと思いながらも、それにしても生徒との会話が興味ぶかかった。

 

「え、先生。幽霊が座っているんだよ」とほっそりした男の子が目を丸くして言う。

「どこに?

「そこ」

「あたしの目から見たら、誰も座っていないわよ」と先生が言う。

「先生は大人だから、見えないんだよ」

「いや、僕にも見えないぜ。そんなものいるわけないだろ」と少し太った男の子が言う。

「どんな幽霊?」と耳の長い女の子が聞く。

「とても綺麗な若い女の人。でも、何か悲しそうな顔をしている」と目の細い女の子が答える。

「どうしてそれが幽霊なの」

「肌が透き通っているのよ。」

「ふうん。ともかく、私には見えませんから、あたしがそこに座ることにしますわ」と先生。

「大丈夫かしら」

大人は見えないようだが、子供にも幽霊を見える人と見えない人がいるらしい。

 

 ハルリラが立ち上がって、そちらの方向をじっと見つめていた。

「うん、異次元の世界から迷い込んだ猫族の霊人だ。素晴らしく美しい人だよ」

吾輩は猫族と聞いて、どきりとした。

吾輩もあの京都の銀行員宅に来る前の、霊界の美しい風景がかすかに夢のように記憶としてあるのだ。自分で、これが実際の自分の前世の世界の記憶なのか、それとも、幼い頃の夢の記憶なのか判然としない。

どちらにしても、異次元から迷い込み、ハルリラに見えるものが我輩に見えないのは気持ちが落ち着かぬ。

そして、馬族の先生が座ってしまった。

「その席に、先生は座れるの」と吾輩はハルリラに聞いた。

「無理に座ろうと思えば、座れると思うけど、あの霊人がどう思うかな。相手と馬が合えば、生身の身体を借りれるのだから、喜ぶということもありうる。相性が合わなければ嫌がる、どちらにしても先生は変な気持ちがすると思う」

吾輩にはそんな幽霊は見えない。だから、子供たちだけの話だけだったら、悪ふざけということも考えられると思ったが、ハルリラが見えるというのだから、これは間違いなく、幽霊はその席にいるのだろうと、吾輩は思った。

 

 アンドロメダ銀河鉄道はいつの間に、出発していた。真紅の丸い恒星は今や遠ざかり、遠くの大空の一角はあかね色に染め上がり、列車よりの空にはもう銀河がちりばめられ、大きな星や小さな星が輝いてみえるのだ。先生もなにくわぬ顔をして、外の方角を見ている。

「先生、何だか急に若くなったみたい」

「あら、そうかしら。うれしいわね」

確かに、先ほど見た先生は 四十代半ばくらいの中年の馬族の女性だった。顔が細長かった。

しかし、今は、ひどく若返っている。いつの間に、顔もいくらか丸みを帯びている。それに、二十代の顔だ。

厳しい表情もどことなくやわらかなムードである。

やはり、気のせいか、虎族の若者モリミズの恋人、猫族の娘ナナリアとどこか似ているような気がしてきた。

黒い大きな目に大きな黄色い耳が少しゆらゆらしていた彼女に似ている。身体はふっくらとして丸みを帯びていている所なんかそっくりではないか。透き通った肌は幽霊のためなのか。モリミズの恋人のみずみずしい肌を思い出す。彼女に似た耳はどんな情報も逃さないというしたたかさを持っているように見える。そんな知覚が幽霊にもあるものなのだろうかと、吾輩は考え込んだ。

そうだ。モリミズからちらりと聞いたではないか。モリミズの恋人ナナリアは姉の失踪を追っていたのだ。姉は猫族の新聞記者でアンドロメダ銀河のあの地域一帯を担当していたが、どうも消されたようだ。だが、はっきりしたことが分からない。ナナリアは姉を愛していたし、この失踪にプロントサウルス教がかかわっていた可能性があると感じていたので、虎族のモリミズにそれとなくもらし、モリミズが惑星アサガオに旅立つ切っ掛けになった裏があるのかもしれないと、吾輩は考えた。モリミズが惑星アサガオに行ったのはスピノザの講師というのは表向きで、こういう裏話があったのかも。とすると、これは姉の幽霊である可能性が高い。姉と妹はアンドロメダ銀河鉄道を時々、一緒に旅をしたことがあると聞いたこともある。

吾輩はハルリラに言った。

「どうしたんだろう」

「異次元の霊人が、先生の身体を借りているんだよ。先生は無理に霊人の上に座り込んだからね。」

「そんなことあるのかね」

「滅多にないことだけれども、先生にも霊人が入り込みやすい何かがあったんだと思う」

「若返りたいとかという気持ちが無意識にあったりして。それにしても、異次元の霊人というのは」と吾輩は言った。

「うん、われらの世界でも、母親の胎内にいる胎児の時に、妊娠何か月で魂が飛び込んでくるというじゃないか。

それから、有能な霊的な体質を持っている人は魂が入りやすいと言う。

だから、今回の場合も、霊人の思惑と中年の先生の無意識が一致して、面白い状況が生まれたのじゃないかな。ぼくが見た所、あの霊人はいい人だ。悪さすることがないから、心配はいらないな」とハルリラは言った。

 

 吾輩は異次元から迷い込んだ霊人というのが理解できなかった。

「いったい、それは人間なのかい」

「霊でできた人間だよ。異次元の世界から、このアンドロメダ銀河には侵入しやすい所がいくつもある。その一つがこのアンドロメダ銀河鉄道ということだろうと思う。こちらからは見えなくても、向こうからはこの面白いアンドロメダ銀河に遊びに行こうと思っている霊人はけっこういると思う」

「そんなことどうして分かるのさ」

「まあ、ぼくの直観だよ。俺だって、魔法界からこのアンドロメダ銀河鉄道に飛び込んできた。霊界のことはよく分らんが、魔法界では、アンドロメダ銀河への旅に出ようと思ったら、この鉄道に侵入するのがオーソドクスな道なのだよ」とハルリラは微笑した。

 

その時、兵士の服装をした男性が二人、一人の兵士をかかえ、向こうの車両から入ってきた。

子供が言った。「あ、第一次大戦で戦死した兵士だ」

「そうだ。そうだ」

確かに、兵士は青ざめ、かかえられている兵士の顔にはケイトウの花のような赤い血がべっとりついています。

先生が急に立ち上がった。

「え、第一次大戦。あたしが一番取材したかったあの愚かな戦争」

「先生、どうしたの」と一人の生徒が聞く。

 

 ハルリラが我輩に言う。

「先生の身体を占領している猫族の新聞記者の魂が第一次大戦と聞いて、驚いているのだ。きっと彼女はそこを取材したかったんだ。

でも、アンドロメダ銀河から地球まで行くのは ちょっと無理だと思う。異次元からやってくる霊人の中に、こういう兵士がいれば、取材の対象になると思っていて、たまたま惑星アサガオに降りるということもあるかも」

  

でも、と吾輩は思った。地球では第一次大戦というのは百年も前のことだぜ。

宇宙インターネットで、取材するというなら、分かるけど。

それじゃ、この三人の兵士たちは何なのだろう。百年前の兵士がこの銀河鉄道に飛び込んできたというわけか。そんな変なことが起こるのだろうか。

死んで百年間、どこかの霊界を浮遊していて、この銀河鉄道にたどりついたというわけかもしれない。

霊界は時間と空間のない虚空のような無限のいのちに満ちた所なのかもしれない。

吾輩はすっかり忘れてしまった故郷のことを思い出そうとしたが、無理だった。

  

その時、乗務員が入ってきた。

彼は「ああ、地球の戦争で、死なれた方ですね」と言った。

「よくわかりますね」と若い兵士が言った。

「ええ、百年くらい前の戦争でしたよね。私の方でキャッチしております」と言って、乗務員はスマートフォンのようなものをじっと見ていました。

「こちらに座っていただけますか」と生徒の席で空いている所の席を指さした。

「それで、行先は温泉天国でよろしいのですな」

「ええ、そこへ行ければ嬉しいです」

三人の兵士たちは座り、乗務員は先へ行ってしまった。

子供たちは珍しそうに、兵士たちを面白そうに見た。

「おい、そちらのうさぎさん、君たちはどこへ行くのだね」

一人のうさぎにそっくりの顔をした子供が「ぼくらは修学旅行で」とさわやかな声で言いました。

「平和はいいな。戦争なんてするものじゃない。坊や、いいか。

戦争なんて、愚かな人間が考えることだよ。外の風景はあまりにも素晴らしいのに、そこでバタバタ人が倒れて行くんだ。人間が発明した大砲や機関銃で。愚かな戦争だった」

と一人の兵士が言いました。

 

 その時、隣の方の車両からやってきたのだろうか、背丈二メートルは超える、がっちりとした体格の大男が我々の前に現われた。ハルリラは「あの男だな。面白い男というのはきっとあの男だ」

吾輩も「なるほど。面白そうだな。君の魔法のメールは正確だね」

「そりゃそうさ」

 

その姿は何かを修行している行者のようだった。茶色っぽい粗末な、しかも、洗濯をしたばかりのように、綺麗な肌触りの服を着ていた。顔は小さな岩のようにごづごつして、目はアーモンド型に近く、口髭とあご髭が白のまじった薄緑の雑草のようにぼうぼうとはえている。

これは又、何族の人間なのか、見当がつきかねる。そういう人は吾輩のマゼランの旅の中でも珍しい。

車両のどこからか、「あ、シンアストランだ」という声が聞こえた。

 

 シンアストランと呼ばれた男は立ったまま言った。

「そう愚かな戦争だった。地球はいつまでもつのかね。核兵器なんてものを沢山持っている国が争っているんだからね。何億年も栄えた恐竜が隕石の落下で一挙に滅びたように、そういう予兆があちこちのニュースでも感じられるじゃないか。戦車だの、ミサイルだの。戦闘機だの。はっきり言って、あれは人を殺す道具だぜ。あんな物騒なものに何百億円もかける人間って、はたして利口なのかね。」

「あなたもそう思いますか」と兵士が言った。

「おおいに思う。

そうだ。人間というのは愚かになった時は、徹底的に愚かになる。しかし、目覚めれば徹底的に聡明になる。人間というのは愚かという岸辺と聡明という岸辺の間につながれた太い綱の上をあっちに行ったり、こっちに行ったりしている生き物なのだろう。科学を上手に使うことが大切なのだろう。その科学が戦争に使われたりして、人間の煩悩で翻弄されている。悲しいな」

兵士はもう一人の兵士がうめき声をあげたので、そちらに気をとられた。

吾輩は何故か、人間が持つ悪を強調する親鸞を思い出した。 

 

その時、ハルリラが突然、「おじさん。ネズミ族だね」と言った。  

シンアストランはおやという顔をして、目を丸くした。

「そうなんだよ。よく分かったね。わしはネズミ族だ。わしは長い修行によって、普通の人にはどこの民族が分からないような姿になってしまったと思っていたが、見破られたか。ハハハ。ネズミ族は、アンドロメダ銀河では低く見られたり、恐れられたりする奇妙な感じになってしまった。今や、アンドロメダ銀河では、最も優秀な科学と武器を持っている惑星に住むヒトだが、宇宙に出ることには消極的で、まあ、一種の鎖国状態だな。物は豊かで、栄えてはいるが、広い宇宙に目を向ける大切さを忘れた息苦しい所があって、わしは飛び出し、アンドロメダ銀河の原始の森のある惑星に憧れ、そこで修行を積んだのだ。

こういう変わり種のネズミ族はけっこういる。例えば、惑星アサガオのニューソン氏のような科学の天才」

吾輩はカナリア国まで、ウエスナ伯爵について来て、カナリア国で水素社会をつくる夢を語っていた生き生きした目のニューソン氏の顔を思い出した。 

カナリア国に到着した時の祝い酒で、吾輩も初めての美酒に酔いしれて、ニューソン氏に良寛の和歌【ひさかたののどけき空に酔い伏せば夢もたえなり花の木の下 】を紹介した時に、彼は素晴らしい微笑をして頷いていた。あの時、昔はネズミと猫は敵だったのに、その時は心を通わす魂の友となったではないかと感動したものだった。      

  

 

                                                                           【つづく 】

【久里山不識より】

この「いのちの旅」の文中にも、恐ろしい武器に莫大なお金をかける愚かさが書かれている。

東京新聞の社説【20181219日 】にも次のような文章が書かれていた。新しい防衛大綱と中期防には「いずも」型護衛艦の事実上の空母化や防衛予算の増額が明記された。専守防衛を逸脱することにならないか、危惧する。

[今回の改正は特定秘密保護法に始まり、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法、新しい「日米防衛協力のための指針」、トランプ大統領が求める高額な米国製武器の購入拡大など、安倍政権が進める自衛隊の増強、日米の軍事的一体化を追認、既成事実化する狙いがあるのではないか。その延長線上にあるのが、戦争放棄と戦力不保持を定める憲法九条の「改正」なのだろう。さらに、看過できないのは歴代内閣が堅持してきた「専守防衛」という憲法九条の歯止めを壊しかねない動きが、随所にちりばめられていることである。ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」型の事実上の「空母」化はその一例だ。~~ ]

久里山の物語では、【   シンアストランと呼ばれた男は立ったまま言った。

「そう愚かな戦争だった。地球はいつまでもつのかね。核兵器なんてものを沢山持っている国が争っているんだからね。何億年も栄えた恐竜が隕石の落下で一挙に滅びたように、そういう予兆があちこちのニュースでも感じられるじゃないか。戦車だの、ミサイルだの。戦闘機だの。はっきり言って、あれは人を殺す道具だぜ。あんな物騒なものに何百億円もかける人間って、はたして利口なのかね。」】と書かれている。

今の日本が今回のように、軍備拡大に走れば、中国もアメリカと日本を見て、軍備増強に走るだろう。アメリカは宇宙軍をつくるなどと、言っている。話し合いをして、軍備縮小に世界を動かしていかないと、過去の歴史を見れば、軍拡競争は戦争になる危険性を秘めていることを、我々は知ったはずだ。そして第二次大戦で戦争の悲惨さを人類は知ったはずだ。

憲法九条を守り、軍備縮小に持って行くような世論を大きくすべきだろう。それが出来れば、消費税なども上げる必要がなくなる。

 

 

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銀河アンドロメダの猫の夢想 32 【松の門】

2019-01-05 10:38:29 | 文化

 

   カナリア国では、弁護士ソロとシクラメンと巌窟王はソロの知人の家に身を寄せていたが、吟遊詩人と吾輩とハルリラと、それに若者モリミズとナナリアは伯爵の知人の所の厄介になることになった。

 

そういうわけで、我々はウエスナ伯爵の遠い親類筋にあたるらしい家を訪ねた。そこは広大な屋敷ではあったし、珍しく地上にその威容が現れていた。勿論、この惑星のことだから、常に家の主体は地下にあるのだろうが、この屋敷は地上だけでも、地球の大邸宅と比べて遜色はなかったろうと思われるが、今の屋敷の外見は荒れ放題だった。

年老いた女主人がこれも召使いの老女と一緒に住んでいた。

  

吟遊詩人は伯爵の手紙を松の枝が大きくおおいかぶさっている門の所で渡した。

「ちょっとお待ちください」と言って、老女は中に引っ込んだ。

その間、我々は周囲を見渡すことになった。小さな町に古い家がいくつもある集落で、熱帯植物ハイビスカスに似た赤い可憐な花が咲き乱れ、その周囲を向日葵のように大きな黄色い花がそこら中をうめ尽くしていた。

 

我々の訪ねたレトロな感じのする古びた屋敷の庭は広く、昔はどれほど贅沢で優雅な建物であったかと想像されるような片鱗はあちこちにあったが、なにしろ、家の壁の色がすっかり色あせ、草のように茫々とはえたような唐草が屋敷を包み込むような勢いで、時々あちこちから、何の花とも知れぬ赤い小さな花が顔をのぞかせていた。

「なんだか、随分と荒れたお屋敷だね。幽霊でも出そうだよ」とハルリラが言った。

「そうだよな」と吾輩も相槌をうった。

老女が飛ぶように小走りにやってきて、「奥様は大喜びですよ。いらして下さい。お久しぶりの来客なので、掃除もしていないですみません」

この庭と屋敷を綺麗にするには、少なくともかなりの日数がかかるに違いないと吾輩は思った。

  やはり、中に入ると殺風景な広間があるだけで、まるでホテルのロビーのようでもあるが、あちこちに壁の色がはがれてゐたり、腐食していた。

あとは階段を長く降りて行き、ドアを開けた。中に入ると、むっとするような熱気があって、空気も何か淀んでいた。

 

女主人は大きなシャンデリアの輝く客室の広間のソファーに座っていた。ソフアーの色もあせ、あちこちやぶれており、真ん中のテーブルには欠けた大きな花瓶があるだけだった。

「ウエスナ伯爵のお友達がいらしゃるのは大歓迎よ。この国は共和制になって、貴族はなくなったの。私も昔は伯爵夫人だったけれど、貴族の特権は全て廃止され、ご覧のようなありさまよ」

 

吟遊詩人と吾輩とハルリラは我々の希望に沿って、同じ部屋に寝泊まりしたが、モリミズと猫族の娘ナナリアは個室が与えられたようだった。

 

  この古びた屋敷で、十日ほど過ごしている時、吟遊詩人は毎日のように、女主人の前でヴァイオリンの練習をすると、午後はどうやら、ヒト族の娘シクラメンの家を訪ねているらしかった。ただ、帰って来ると、あまりさえない顔をしていたし、無口になっていた。

吾輩とハルリラは荒れ放題の庭を毎日のように掃除したり、手入れをして楽しんだ。

モリミズとナナリアは毎日のように、どこかに散歩にでかけてしまう。

 

そんな風に過ごしていると、革命の嵐の様子が噂で流れ、夕食の食卓で話題になった。モリミズと吟遊詩人が仕入れて来た隣国の様子だった。

 

結局フランス革命のようにならず、ロイ王朝の勝利となった。熊族のプロントサウルス教が意外と鹿族の民衆ににらみをきかし、ウエスナ伯爵の悪い噂を流したのだ。伯爵は地元では人気があったが、全国的にはプロントサウルス教の全国支部が根をはり、それが鹿族を抑え込んだ。

 

古びた屋敷の女主人から、我々はこんなことを聞いた。

「プロントサウルス教はもともと鹿族の宗教だったの。熊族にはさしたる有力な宗教も哲学もなかったので、ロイ王朝の国教として採用されたいきさつがあります。

ロイ王朝の国政の荒っぽいやり方に、多数民族の貧しい鹿族の人達、あらいぐま族、狐族、貧しい熊族の少数者、猫族、犬族の多くは反発を感じていたのです。

伯爵は人気があったから、革命は成功すると思われていたが、この惑星では虎族はやはりかなりのエリート民族と見られ、警戒の目でみられていたのでしょう。そこへプロントサウルス教が根も葉もない巧みな伯爵の悪口を流したので、わあっと、民衆は伯爵から離れてしまったのよ。

プロントサウルス教はロイ王朝という権力と富と結びついたために、堕落したのね。

勿論、革命勢力は、他にもいくつもあったけれど、民衆が伯爵から離れたことは痛手だった。それに、ロイ王朝の増強されていた戦力はカナリア国に向けられていたのに、こういう動乱の時には国民に向けられたのね。」

 

そして、いのちからがら、ウエスナ伯爵はこの古びた屋敷に逃げてきた。

 

  ある時、こういうことを聞いた。

ウエスナ伯爵が虎族の若者と一緒に、病院の介護士になるという話だった。

ウエスナ氏は隣の国から亡命して、伯爵の地位を投げ捨てたので、職業を持たねばということを前から言っていた。

ウエスナ氏は言った。

「介護士は立派な職業だ。この国では、医者と同じように尊重されている。」

そして、そういうウエスナ氏をヒト族の娘シクラメンは愛した。そして婚約したのだ。

虎族の若者モリミズは猫族の娘ナナリアに求婚したという。

 

吾輩とハルリラが古びた屋敷の手入れを毎日のようにしたので、庭もかっての豪邸の素晴らしい庭の面影をとどめるくらいに回復してきた。

 

  庭に出て、この庭で我々三人は何故革命が失敗したのか、これからどうなるのかについて色々話をした。それにしても、我々はただのアンドロメダ銀河の旅人である。

どうすることも出来ない。今はただ、ウエスナ氏と若者モリミズの新しい幸せな未来が切り開かれるのを願うばかりだった。

 

夜はプラネタリウムのような星空となる。

 

ある時、吟遊詩人がヴァイオリンを弾き、歌を歌った。

 

庭園には様々な花が開き

かぐわしい香りがあなたから発せられるのだろうか

あなたの目は微笑している、薔薇のように

あなたの目は涙にうるんでいる、紫陽花のように

 

おお、せせらぎの優しい音が芸術のように奏でられている

優しく、そして激しく、あなたの音は神秘な色に満ちている

百合の花に似たあなた、どこから姿を現したのですか

海に沈む夕日の輝きがあなたにはある、ああ、熱帯の鳥の声

 

先程から降る雨の音を聞きながら、あなたの顔を見ているこの私

私は、今消え入りそうです、今ここの永遠の懐のなかに

雷が聞こえます、私は朝、目を覚ましたかのようにあなたを見る

あなたは笑っている、黄金のように

あなたは泣いている、真珠のように

夜、どこからともなく響く、ヴイオロンのすすり泣きと微笑

 

  庭に咲く向日葵のような大きな赤い花の横に、魔界の緑の目をした知路が立っていた。月の光に照らされて、細く白い首にダイヤのネックレスをつけた彼女はすらりとしていて、幻想的な美に満ちていた。彼女は「感動する」と一言、言って消えた。

「吟遊詩人川霧さんが好きなのか、音楽が好きなのか分からん」とハルリラが言った。


やがて、我々は伯爵とシクラメン、虎族の若者モリミズとナナリアの結婚式を待たずに、

内祝いの席で、お祝いの言葉を述べたあと、アンドロメダ銀河鉄道に戻り、次の惑星への旅に向かって出発したのだ。

惑星アサガオの素晴らしい友人をつくり、その人達と別れ、次のアンドロメダの旅に出発するという気持ちはおそらく芭蕉の「奥の細道」や李白の旅の詩にあるような万感の思いと似たような深い感慨があった。あの芭蕉の「日々旅にして旅をすみかとする」という深い気持ちとは違うかもしれないが、我らの思いはまさに青春の別離だ。それはまた、甘い果実の味があるかもしれないが、また苦しいものだった。

 

                    【 つづく 】

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【 久里山不識より  】

  謹賀新年   今年もどうぞよろしくお願いします。  世界がより平和な方向に進むことを切に祈ります。そのためにも、日本は憲法九条を守り、平和を呼びかける先頭にたてることが望ましいと思います。

経済格差が少なくなること、価値観の見通しが明るくなり、あおり運転など、一部の人のマナーの悪さもなくなること、これも今年の課題だと思います。すべての人に仏性があるというのが、お釈迦様の教えです。永平寺だけでなく、すべての人がこの仏性とは

何かということを考えるようになれれば良いなと思います。

 

 

 

 

 

 

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