空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの猫の夢想 39 【薔薇と幽霊】

2019-02-23 09:10:44 | 文化

 

 我々は郊外にある工場長の家の近くのカフェーで、珈琲を飲み、時間合わせをした。

「約束の時間は六時半。夕食前ということですね。そうまだ二時間はある」

 

その時、夕立が降ってきた。雨宿りでもするかのように、ふらりと来た男がいる。どこかで見たような男だ。

そうだ。あのアンドロメダ銀河鉄道で見て、話をしてくれた行者シンアストランに顔が似ている。ネズミ族というだけでなく、目と鼻と口がそっくりだ。しかし、シンアストランほど大男ではない。中肉中背である。それでも、身体つきもどこか似ている。直感で、シンアストランの弟だと、我々は思った。

半袖なので、隆々とした逞しい腕の筋肉が丸見えではあるが、全体に上は洒落たブルーの麻のベレー帽から、下は輝くような茶色の靴に至るまで、一分の隙もない美しい服装をしている。

 

その男は、我々の横に「失礼」と言って、座った。

「どこかで、おみかけしたような気が」と吟遊詩人が言った。

「ハハハ。そうですか。兄貴のシンアストランにでも出会ったというわけですか。わしの兄貴がアンドロメダ銀河の旅に出たと聞いているからね。」

「それではやはり、弟さん」

「そう、ただ、兄貴は宗教哲学の行者になったが、わしは平凡なサラリーマン。そこはひどく違うな。」

 

我々はこれから行く工場長の家に出るという幽霊の話をした。

「幽霊ね。ここの国は無宗教のくせに、そういう話が多いんだ。それはともかく、わしから、兄貴のように奇妙な真理の話を聞こうというのは無理だぜ。わしはサラリーマンなんだ。ただ、幸いブラック企業でなく、ごく普通の企業に勤めている。その点で心のゆとりはあるが。だからこそ、あなた方とこんな話をこんな優雅なカフェで、出来る」

 

 「それでも問題はあるね」とキリン族の弁護士は言った。

「問題はありますよ。なにしろ、わしは修行をあきらめてボクシングをやっているくらいですから。内の上司は仕事でへますると、なぐりかかってくるんですよ。わしはそれでならってきたボクシングでさっとよけるんです。時には相手に軽いパンチをくらわせることもありますがね。そうすると、上司はお前はボクシングはうまいが、仕事はへまばかりしているという奴なんですよ」

「よくそんなことが許されていますね」

「まあ、会社によって、それぞれ違う。内はそういうことをなくそうと、わしが中心になって、組合をつくっている。パワーハラスメントはいけないと皆、思っているのに、なかなか人が集まらない。人を説得するのは難しいものさ。

今、この惑星は人がばらばらなんだ。手をつなぐことをしないとね。優良企業は手をつなぐ何らかのものを持っているけど、内の会社はまだ道半ば。わし等はスピノザ協会の教えを参考にして、アンドロメダ組合をつくり、スピノザ協会と連携を図り、平和で、手をつなぐアンドロメダ銀河づくりをすすめている。そのために、わしは故郷のネズミ国の動向が気になってね」

吾輩はスピノザ協会に熱心な虎族の若者モリミズと別れたことを思い出した。彼は今、元伯爵と一緒に介護士の仕事をしている筈だ。

 

「最初は、兄さんと修行の旅に出られたとか」

「まあね。しかし、わしは兄貴みたいに根気がない。それにわしはどうしても神だの仏だのというものを信じる気がおきんのだよ。

わしはやはり、科学が素晴らしいと思う。わしが入った会社は車の会社だ。まだ発明されたばかりの乗り物だ。しかし、つくっていると、馬車の時代は終わったという気がする。

どうですか。面白い車が沢山通っているでしょ。燃料にはガソリンを使う。幸い、内の惑星は石油と石炭に恵まれている。

道路がまだ整備されていないのは困るな。政府が国家プロジェクトとして、道路の整備を進めているから、これにも希望はある。」

「車は排気ガスを出しますよ」

「そりゃね。人間だって、おなら出すんですから」

「事故も起きますよ」

「そりゃ、起きるでしょ。馬車だって、あったことですから」

「車は夢がある」

「この熱帯のような気候に、二酸化炭素を排出したら、さらに惑星は暑くなりますよ」

吾輩は二酸化炭素の量が地球の温暖化に拍車をかけていることを思い出した。

 

「わしは科学は未来を薔薇色にすると思っているんですよ。兄貴が言う極楽とか天国というのは科学が発達すれば、自然とつくられる」

「お兄さんの話には何か深い真実が含まれているように思われますが」

 

 「兄貴が数年に一回ぐらいわが家に立ち寄ることがある。半年前に来た時は、親鸞のことを話していたな。親鸞という坊さんが、ある惑星で還相回向された。そこで親鸞に会ったんだそうだ。わしはそんな話はよく分からんが。ただ、この惑星や色々な他の惑星だけが唯一の世界とは思わん。

おそらく、親鸞の言うような浄土はあるかもしれんという気はあるな。そんな素晴らしい所があるなら、霊界だの次元の違う世界、異界があっても不思議はない。しかし、そういう世界はいずれ科学が見つける。それまではそういう話はないと思うようにしている。

だいたい、過労死が十五人も出るあんな工場長の所に行って、何を見るつもりなんですか。好奇心もいい加減にしないと危ない目にあいますよ」

 

夕立が止み、暑い日差しが戻って来た。

我々は工場長の家に行く時間がせまっていたので、別れた。

 

 そうこうする内に、時間が来て、我々は工場長のお宅を訪れた。

 

工場長の家は郊外の丘陵地帯の林の中にあった。幽霊が出るにしては、小奇麗な家だった。しかし、地下室は工場長の書斎になっているようだった。前はここが寝室だったのだが、幽霊がでるので、寝室は二階にして、地下室は書斎になったようだ。それは噂である。

我々は工場長の口から、その話を聞きたいと思っていた。

 

「幽霊の話」と工場長は困ったような顔をした。大きな丸い目、横に細長い口、

茶色いあご鬚と口ひげの上の黒い鼻の周りが白く、肌は茶色というこのタヌキ族の工場長は吾輩猫族から見ると、美男子とは言えない、服装はGパンとタヌキのイラストが描かれたTシャツを着て、黄色いタオルを首にまいていた。

先祖を大事にしなければというのが彼の口癖と聞いていたが、こんなシャツにもあらわれていた。

「実はわが娘がうつ病なんですよ。地下の書斎にこもりきりなんで、仕方なくそこにベッドを入れているんですけど、そこで過労死した労働者の幽霊を見るというんです。それを、無理に散歩に連れ出した時に、近所の人に言うもんだから、皆信じてしまい、そんな噂が広まったんだと思いますよ」

 

 

「娘さんだけが見るのですか」

「私は幽霊なんか見ている暇ありませんよ。今日のように、銀河鉄道のお客さまが来る日はわが社の宣伝にもなりますから、別です。たいてい、早くて家にたどり着くのは夜の十時ですから、軽食を食べて風呂入って、パタンキューで寝てしまいますからね。

ただ、一度、不思議なことがあったな。

夜中にトイレに起きたことがあるんですよ。わしは丈夫な方で、夜中に起きることなんか滅多にないんですが、トイレに起きて、一階のトイレに行った時に、地下室の書斎の方から、変な声が聞こえてくるのですよ。わしは眠かったが、そこは娘のことが心配ですから、飛んで地下に行き、ドアをたたきました。

娘は「な~に」と言って、『起きていたのか』と問いますと、『今、幽霊と話していたんです。お父さんの会社で働きすぎて、ノイローゼになり、自殺した幽霊と』

そんなことがありました」

「それで、今は」

 

工場長はさらに困惑したような表情をした。「その時のことを思い出しますとね。こんな風に、娘は言ったのです。『え、ドアの音で消えてしまったわ』

わしは娘の部屋に入り、『どんな時に、そんな幽霊が出て来るんだね』と聞くと、

娘は『どんな時って。ただ、本を読んで眠くなり、うとうとしていると、山尾さんの声が聞こえるのです』と答えるわけです。

『山尾君。あの自殺した男』と聞くと、

『そうよ。それまでは、会社の中では、エリートだったわ。背も高く頑丈な身体つきをして、とても死ぬような人とは思えなかった。それがあんな風になるなんて』と悲しそうに答えましたね。

『しかし、何でカナエの所に出てくるんだろう』

『過労死だって言っていたわよ』

『過労死。あの頑健な男が』

『意外と、あの人、繊細なところのある人なのよ』

『お父さんの責任よ』

『わしの。わしの工場ではない。彼は本社の技術開発部にいたのだぞ。わしには関係ない』とわしは答えました。そのあと、娘は泣くんですよ。わしが色々言うと、幽霊でも会えて嬉しかったって、娘は言うのです。あの懐かしい顔も手も足もあるの。悲しそうな目をして、会いたかったと言うのです」

 

 吾輩は工場長の困惑しながら喋る表情を見ていた。タヌキ族の困惑した顔というのは少し滑稽味があるのだが、笑うわけにはいかない。

「それで」とハルリラが聞いた。

「わしの責任と言われるのにはまいったね。娘はさらに『だって。工場で過労死が十五人も出ているのよ、山尾君の幽霊が一番多く出るけれど。他の七人は寝入りばなに出て来るのよ』と言っていたな。

『何か言うのか』と聞くと、

『一言言うのよ。あの工場はひどすぎる。何とかするように』だって。

『山尾君は』と聞くと、

『彼は』とカナエは言って、涙ぐむ。

『だから、あたしに会えて嬉しかったって』

カナエは大きなため息をついて、『あたし、その時思ったわ。幽霊の方がリアリティがあって、あたしの方がその彼の言葉の中に溶けてしまったみたいだった』

そんな風な会話だったと思います」

 

「わしは心配になって、医者に連れて行きましたよ。医者は幻覚、幻聴だ。そんな幽霊などいる筈がない。娘さんは疲れているだけだと言う。

娘さんは恋人の死と仕事のストレスで精神が参っていたのだろうと医者は言うのですよ。

だから、娘の仕事をやめさして、今はやすませています」

「それじゃ、もう幽霊は出ないんでしょ」とハルリラが言った。

「や、それが山尾君のだけは、今だに出るようだ。あそこは書斎だから、寝室で寝るようにと言っても、本が好きなの、そうすると、うとうとしてくる。その時、懐かしの彼がでてくるのだから、あたしの居場所はあそこよと言うのだから、どうしょうもないですよ」

 

 「寝る時以外には出ないのですか」

「そうだね。一度、瞑想状態のようになって、ぼんやりして静かな音楽を聞いていた時、出たことがあるという話をしていたな」

「そうですか」

「それなら、私がそこにいて、幽霊を呼び寄せてみましょう」と吟遊詩人が言った。

「どうやって」

「ハルリラ君に霊媒になってもらうのです。彼は特殊体質ですから」

「そして、幽霊の恋人さんが好きな曲を僕がヴァイオリンで弾きます」

「それで幽霊が出てくるんですか」と工場長は言った。

「間違っては困るのは、興味本位では困るということです。もう死んだのだから、娘さんの所に出ないでほしい。娘さんが悩むから、とお願いすることなんです」

 

このことを工場長は娘に説明して、そのあと、吟遊詩人は娘に会った。

食事のあと、書斎に入り、娘さんが机に向かい、我々は横のソフアーに座り、

吟遊詩人はヴァイオリンを握った。

「『知覚の扉』という本を書いたハクスリーというイギリス人が地球にいた。彼によれば、人類の進化の過程で、我々の周囲の全ての風景を見ることが出来ないように、人間として生きて行くのに必要な所だけが見えるように知覚は制限されたというのである。この知覚のバルブを開ければ、見える風景が変身し、素晴らしい浄土が目の前に広がって来るのだそうだ。

このバルブを開けるには、座禅だの色々な修行があるが、ある種の音楽も人によっては、そういう効果を発揮することがある。私はあまりやったことが無いのだけれども、今回の場合、やってみるだけの価値があると感じた」

 

 全てが静かな中で、吟遊詩人のヴアイオリンが鳴り出した。最初は小川のせせらぎの音のように、そして時に小鳥の声のようで、森に響くような音から、さえずりの声、そして、猿の声、風の吹き梢を揺らす音が小川のせせらぎにまじって、聞こえて来る。吾輩は段々不思議な

大自然の中につつまれていくような気がした。黄金色の大きな蝶が舞うような気がした。それでまた、小川のせせらぎと小鳥の声。

突然、鳴り響く音、雷かそれとも野獣の遠吠えか、そしてまた静まりゆく、

吟遊詩人は半分目をつむっているようだが、しっかりと立ち、腕は確実に動いて行く。

あ、彼が歌い出した。

「私の病んで死んだのは夢

ペットの猫の病になった心労のためだろう

私は死んだのではなく、

にゃあにやあという声に消え入りたい気持ちになったのだ

いや、もしかしたら、外の森のざわめきとせせらぎと小鳥の声に酩酊して

それはまるで酒の酔いにも似ているようで

はるかに違う幽霊の道

ああ、今日も白い月が出て

美しい星がきらきらと空に輝き

私の自我忘却の病は幽霊のようでもあるが

天のわざとでもいえようか

ひと時の夢のようで

私は死んでしまうのだ

生と死の幽霊のような高台の上から

さて、銀河の街並みを見るとするか」

  

 

その時、部屋の隅のソファーに誰かが座っている。

「あら、山尾さんがいらしているわ。幽霊の山尾さんが」と娘が言った。

確かにその薄暗い隅の所に座っているように思われるのに、姿は見えない、誰もいないようにも見える。誰かが座っているという気配だけがある。我々もそれが幽霊だと直感した。

 

吟遊詩人はヴァイオリンを奏でながら、歌を歌いながら、足を幽霊の方に近づけ、そばに来て、止まったが、演奏は続けていた。

幽霊がこの世の声とは思われぬ不思議なか細い声で言った。「分かった。もう出ないよ。彼女の心をまよわすために来ていたわけではない。ただ、会いたくて来ただけなのだ。しかし、もう異界の身。人の心をまどわすのは罪なことだ。さらば」

 

 幽霊は消えた。吾輩の猫の耳にはあの幽霊の言葉が聞こえた。猫にこんな能力があるとは、吾輩生まれて初めて知った。しかし、それにしても、吟遊詩人の実力には脱帽した。

 

その間、居間では、弁護士と工場長が過労死問題を話していた。その後、さきほどの女課長とリストラを強要された社員との非人間的やり取りみたいなことはやめるべきで、会社の中に融和の精神を持ち込む方がみんなのやる気を起こし、生産効率が上がるという話をしているらしかった。

パワーハラスメントをやめること。

リストラをやめること。

労働時間の間に、休憩を入れ、長時間労働は厳禁することなどを弁護士は要求したのだ。

工場長は、「競争が激しいし、経営者の意向をわしが無視してやることは出来ない」というようなことを言っていたが、帰り際には、「弁護士の言うことは社長に伝えておく」ということを約束したので、今回の訪問はおおいに成果があがったということだった。  

                                                                                             【つづく】

        

 


 



                        【久里山不識】

 【今朝2019年2月 2日のニュースを聞いての感想】

米国の大統領はロシアとの中距離核戦力【INF】全廃条約から離脱すると正式表明したそうだ。

まさに、新たな核軍拡の始まりを感じさせ、キューバ危機を思い出させる。何故なら、米国、ロシア、中国の核軍拡が将来の悪夢を妄想させるからである。次の世代のために、日本は被爆国として、経済大国として、この三者の国の軍拡競争に傍観者であって良いのか。もっと、国民の平和への願いが政府を動かし、政府が三者の国の軍縮を進めるように働きかけはできないものなのか。そのためにも、憲法九条は守るべきである。そして、文化交流が大切である。

 

 

 

 

 

 

 

 


銀河アンドロメダの猫の夢想 38 【ブラック惑星に鐘が鳴る】

2019-02-16 09:33:59 | 文化

 

  その時、工場長室の方まで、鐘の音が聞こえてきた。美しい響きで、吾輩はまるでピアノ・ソナタ「月光」を聞いている時のような心持ちになった。

「どこから流れてくるのですか」とハルリラが言った。

「色々言われているのです。塔から流れて来るという人もいるのです。でも、塔は蜃気楼でしょう。もしかしたら、銀河鉄道からかも。

学校も鐘をならしますけど、こんな美しいものは流れてきません」と工場長が言った。

 

「なにしろ塔は蜃気楼だと思いますよ。でも、本物だという説もあるのです。

銀河鉄道は本物の可能性が高いですね。もしかしたら、鐘はそこから流れてくるのだと。定説はないのです」と工場長は言った。

そんな話をしている内に、塔も銀河鉄道も流れゆく白い大きな雲の中に入り、見えなくなってしまった。

 

「全ての物は蜃気楼のようなものだという考えもあります」とハルリラが言った。

たぬき族の工場長は大きな声で笑った。笑い方で始めて、たぬき族と分かった。それまでは、吾輩には彼がどこの民族か分からなかったし、あまり詮索もしていなかった。この国はどうも多民族国家らしい。

「私も蜃気楼です」とインコが言った。皆、どっと笑った。弁護士事務所の所にもインコがいたが、こちらは金色のかごに入った少し大きめのインコである。

「すごいインコですね」と吾輩は驚いて、そう言った。

「内のインコといい勝負だ」と首の長いキリン族の弁護士は笑った。

どうもこの国では、インコを飼うのが風習としてあるらしい。

 

吟遊詩人が微笑して言った。

「道元が何故、愛語という思いやりの言葉を重視したかは大慈悲心の教えからすぐ分かることだが、言葉というのは万物という物の創造にもかかわっているような気がする。ハルリラ君が言う、全ての物が蜃気楼というのはそのあたりから来ることだろうか」

「言葉は神なりきというヨハネ伝の有名な文句がありますからね」とハルリラが言った。

 

 「もし仮に、ヒト族に言葉がなかったら、周囲の物は言葉がある時のように目に見えるだろうかなんて、考えると、面白いね」と吟遊詩人が言った。

「ここにある花瓶も花もインコも蜃気楼のようなものということですか」と吾輩が言った。「そうすると、吾輩も蜃気楼になる。嫌だなあ」

  

「話が随分と飛びますな」とたぬき族の工場長がにやにやしていて、手で口髭をなでた。

「わが国では、」と、工場長が急にまじめな顔になって言った。「塔は蜃気楼。銀河鉄道は実在という風に皆、思っている。」

「確かにその通りです」と弁護士は微笑した。

 

ちょうど、吾輩達のいる部屋の窓から、軟らかな日差しが入り込んでいた。この惑星は温暖化が進んでいるのだが、この部屋の窓のガラスはそうした強い光をやわらげる工夫がされているようだった。

 

テーブルの周囲で、我々は椅子に座って、その美しい光に包まれ、花瓶にさされた花と、ロダンの「考える人」に似た小さなタヌキ族のヒトの彫刻を見ている。タヌキ族のヒトが何か深く考え事をしているのは何か滑稽な感じがするのは、タヌキ族が陽気な民族といわれているせいもあるが、吾輩、寅坊が猫族で無意識の内に、偏見があるのかもしれないと思い、恥ずかしいことだと思った。偏見は直さねばならないと反省するのだった。

 

 「外は地獄みたいだけど、ここだけは天国みたいだね」と吾輩、寅坊は思わずそう言った。

吟遊詩人は微笑した。

「そうさ。至福の時さ。まるで、森の中に差し込んでくる春の光に包まれて、素晴らしい気分になって、草地に寝転んで目に見える花を見ているような気分になれる。

先程の話の続きだが、言葉の働きが途絶えると、美しい瞑想状態に入り、ただ呼吸だけになる。

 

その瞑想が深まると、色々に細分化されて区別されている世界が虚空に包まれて美しい光に溶けてしまったようになることがあるのではないかと夢想することがある。

意識だけが、美しい様々な色の万華鏡のようなものにひたって、瞑想する虚空ともいうべき永遠のいのちの世界があるなんてイメージする」

吾輩は周囲を見回した。丸い焦げ茶色のテーブルの上に柿右衛門風の花瓶。その中に爛漫と咲いている黄色いらんに似た花の美しさ。彫刻。

そして緑と黄色のまだらな羽と赤い大きなくちばしを持つインコが鳥かごにいる。

白い壁にかかった風景画。

これらの物が溶け合うというイメージは、あのフランスの大詩人ランボーが見つけた海と太陽の溶け合う所にあった永遠と同じものなのだろうか。

 

 吟遊詩人は吾輩の想像を補うように、さらに話し続けた。

「つまり吸う息と吐く息に集中する瞑想あるいは敬虔な祈り、あるいは南無如来と唱えるのは、座禅と同じような効果があるのです。

つまり、ヒト族の持っている言葉の機能を停止すると、摩訶不思議ないのちの世界に入るのですが」

そこまで言うと、彼はため息をついてしばらく沈黙した。

「このあとは言葉で説明するのは難しい、あえて言えば、ポエムつまり詩のような表現をするしかありませんな。つまり、

慈愛の世界に入るのですよ。

大慈悲心の世界といってもよい。

そこでは、世界は細分化されていない。

一個の美しい真珠のような世界

その球は虚空とも霊ともいのちともいえる世界なんですよ。

人は愛する時、そのいのちを感ずる

生き生きした不生不滅のいのちを知る

だからこそ、瞑想や祈りと同じように、

人は愛さなければならないのです。

慈愛こそ、人生の奥義に入る道

大慈悲心こそ、生命の深い神秘の洞窟

その中に入る時、人は光に包まれる

いのちに満ちた、慈愛に満ちた

温かい光を深く感ずるのです。   」

 

 

タヌキ族の工場長はゲラゲラ笑った。

「地球の方は難しいことを考えるのがお好きなようですな。我々は金銭の勘定で毎日、過ごしていますから、今の話は夢のようです」

 

「課長の入っているGSウトパラは課長の言葉に影響を与えているのですか。それとも、これは会社の方針なのですか。プロントサウルス教の影響とは思いたくないですね。宗教の看板が泣きますからね」と弁護士は聞いた。

「さあ、私には分かりませんが、言葉が乱暴なことは私も気がつきます。GSウトパラという社交クラブの中身を正確に把握していませんから。

ですからね、影響があるかどうかは、私には分かりません。なにしろ、名門の社交クラブですから。会社は言葉に関しては特に指導はしておりません」と工場長は答えた。

 

「言葉が乱暴というのはいけませんな」と吟遊詩人は言った。

 

 「この国は、社交クラブが流行っています。まあ、人間がバラバラですからね。なんとかして、それをつなぎとめたいという社会的要求からこういうのが流行るのです。このこと自体は良いのです」と工場長は言った。

「そうですよ。関係こそ、人間にとって、いのちですからね。慈悲も愛もその間にある。」とハルリラが言った。

 

工場長は口髭をなでて、言った。

「我が国は奇妙な格差社会になっているのですよ。社交クラブに入るのにも、金とかコネとか、なにかしらのブランドが必要になって、これがまた競争をあおる社会をつくっているのですから、奇妙です。

社交クラブにはランクがあるせいでしょうね。上のランクのクラブに入ると、政治に影響力を持つことが出来る。競争に強い会社に入ることが出来る。上のクラブほど色々な特権が出てくるのですよ。

逆に、どのクラブにも入っていないと、そういうレッテルを貼られて、就職に不利になったり、様々なことで差別を受け、ワーキングプアの典型みたいになってしまうのです」

 

「人間がバラバラならば、組合というのも大切だ。ここの会社にはあるのですか」とハルリラが言った。

吾輩はリス族の若者を思い出した。

「ありませんよ。それに会社はそういうものをつくることを禁止しているのです。ともかく、毎日、ノルマに追われていますからね。ともかく、この国は競争が激しい。負けると路上生活が待っているのですよ。今まで、強い会社の社長だった人が天涯孤独になって、そういう生活に転落した話はけっこう耳にするくらいです」

 

その時、課長が工場長に挨拶に来た。

ハルリラが「あ、魔性のけものが来た」と言った。

狐族の男は怒ったような顔をして、「銀河鉄道の切符がとれないようになりますよ」と言った。

「ハハハ、あなたでも怒るのですか。そんなに言葉にデリケートな方なら、人にも不愉快な言葉を使うべきではありませんな」とハルリラは言った。

その時、女の事務員はコーヒーを持ってきた。課長は怒ったような顔をして、ハルリラをにらみつけて、出て行ってしまった。

 

 「みっともない所をお見せしたくはなかったですな。しかし、先ほども申しましたように、会社も厳しいので大目に見て下さい」と工場長が言った。

 

「工場を見せていただきたいのですが」と首の長いキリン族の弁護士がコーヒーを飲みながら言った。

「工場ですか。見て、どうするのです」

「こちらの方はアンドロメダ銀河鉄道のお客さんで」

「ああ、そうですか。そんな素晴らしい方がわが社を訪問して下さるとは光栄のいたりです。見せるのはよろしいのですけど、中は暑いですよ。

五十度近くになることもあります」

「それでは従業員はまいりませんか」

「ええ、交代制にしておりますし、休憩室には扇風機がありますから、そんなに不平はでていません」

 

工場の中。外も三十度あったが、その時の中の温度は四十五度。いきなりむっとする空気で息をするのに、しばらく訓練が必要と感じるほどだった。

大きな輪転機のような機械が二十台ほど回転している。輪転機のまわりには紙がへばりついている。

白に染めているのだろう。回すのは電力だが、石炭の火力発電所が中心で、それもそういう電力そのものがまだ発明され、使われるようになったばかりのもので、時々、電圧が下がって、輪転機が止まってしまうという話だ。

その輪転機の周りで、機械を立ったまま操作している工員はシャツ一枚で汗だくであるが、真ん中にあるガラス張りの指令室の中には、大きな扇風機が回って、一人の男が座って計器を見ている。

 

「司令室のように、扇風機を入れることは出来ないのですか」

「いや、扇風機は高価でね。そんなことをしたら、会社の収益にひびきますよ。

この業界も競争が激しいですから、なるべく美しい使いやすい紙を大量につくらなければならないのですから」

「工員は労働力を暑さで消耗するでしょうけど、司令室は楽というわけで、社交クラブだけでなく、ここにも格差社会の現実がありますね」

そう言う弁護士に、工場長はまゆをひそめた。

 

帰り際に、工場長の家に招待された。

「銀河鉄道の方がわが家を訪れてくれるのは名誉なことですからね」と彼は言った。

しかし、我々は返事は電話でするということにした。

電話機が家にあるのは裕福な家庭というのが、この惑星の文明の状態だった。

しかし、電話ボックスはいたる所にあるので、色々な連絡は可能だった。

 

我々は会社を出た。大通りはケヤキのような太い幹の樹木の並木になっていた。花壇もあり、ハンキングバスケットには、目のさめるような赤い美しい花が咲いていた。先程の貧乏な道と大違いなので驚いた。

 

 日差しは強かったが、地球の東京の夏とさして変わりがない気候だった。ただ湿度がそれほど高くないので、助かるが、オゾン層が薄いので、皮膚がんや白内障と目をやられる人が多いので、殆どの人がサングラスをかけ、長そでのシャツを着ていた。

 

弁護士は言った。

「弁護士が工員に組合をつくることの大切さを教えなければならないのです。手を結ぶことの大切さを教えるのです。みんなバラバラですからね」

 

「どうしますか。あの工場長の家を訪ねるのは」

「ブラック企業の工場長の家でも、勉強になりますよ」と吟遊詩人は言った。

「あの家はね、ちょっとこの惑星でも特殊でしてね」

「特殊」

 

「そう、彼の家には幽霊が出るという噂があるんですよ」

「え、幽霊が」

吾輩は銀河鉄道での猫族の娘の幽霊を思い出した。

「何でまた」

「過労死した人の幽霊が毎晩、かわりばんこに出るというんです」

「え、そんなに過労死しているんですか」

「もう十五人ですよ」

「それが変わりばんこに、毎晩でる」

「そうです。奇妙な家でしょ。でも、これは噂ですからね。噂は本当のこともあるが、偽情報のこともある」

「だいたい、幽霊なんて、この惑星には出るんですか」

吾輩は、アンドロメダの惑星で、過労死した人の幽霊が出るというような話を聞くのは初めてのような気がして、そんな質問をした。

「ありますよ。電話機が発明されたり、扇風機がまわったり、蒸気機関車が走ったり、まあ、今や科学の世紀。それでも、不思議に幽霊は出るんですよ」

「地球ではそういう話はまゆつばもの扱いされるんですけど」

「ああ、地球ね。聞いています。わが惑星の宇宙天文台は他の科学よりは極度に発達していますからね。宇宙インターネットにも通じることが出来ますし、その内容を新聞に流しますから。でも、これもね。幽霊の話と同じで、信じる人と信じない人がいるんです」

「そうですか」

「銀河鉄道はみんな信じているんですか」

「はあ、不思議なことに銀河鉄道はみんな信じているんですよ。宮沢賢治がつくったものですからね。あの方は全ての人が幸せにならなければ自分の幸せはないとおっしゃった。こんなことを言う人は仏様ですよね。

我が国は無宗教の人が多いのに、意外と宮沢賢治のような人は信じちゃうのですから、不思議です。

私も銀河鉄道は実在するものと信じています。蜃気楼ではありません。

ただ、どこかに、霊的なものが含まれているような気がして、そこのお客さまはそういう高貴な人達という気持ちになってしまうから、不思議です」と弁護士は言った。

 

 我々はそこの工場長の家を訪ねることになり、電話ボックスから連絡した。

「名誉です」と工場長は三回もそう答えた。

 

 

                            【つづく】

 

 

 

 (ご紹介)

久里山不識のペンネームでアマゾンより短編小説 「森の青いカラス」を電子出版。 Google の検索でも出ると思います。

長編小説  「霊魂のような星の街角」と「迷宮の光」を電子出版(Kindle本)、Microsoft edge の検索で「霊魂のような星の街角」は表示され、久里山不識で「迷宮の光」が表示されると思います。

 

 

 

 


銀河アンドロメダの猫の夢想  37【ブラック企業】

2019-02-09 09:20:14 | 文化

 

 カラスの声が一声大きく鳴いた。

黒く大きく逞しいカラスがみかんの樹木の上の方を飛び立った。

地球のよりかなり大きい。

「すごいカラスですね。あんなのに襲われては、ヒトもケガするでしょうね」

「そうですね。でも意外に温厚なんですよ。ヒトを襲うことは滅多にありません」とリス族の若者は微笑した。

吾輩は地球のカラスがこのレベルの大きさになったら、猫などやられてしまうと思ったほどだった。

「やあ、皆さん。今日は。と言ったんだよ」とハルリラが豪快に笑った。

吟遊詩人は「そうかもしれません」と微笑した。

【里山の虚空の道に来てみれば

    からすのいのち カア今日は】

 

頬のふっくらした目の細い小柄なリス族の若者の話によると、彼は宝石を探して暮らしをたてているのだそうだ。この惑星は黒い色の大地であるけれども、ダイヤ、エメラルド、サファイアなどの宝石が大地の浅い所に隠れているのだそうだ。そうは言っても、簡単に宝石は見つからないから、その間はアルバイトをしてなんとか生きているのだそうだ。最も、宝石探しよりは本当にしたいのは皆がばらばらになっているのをまとめて一つの大きな力にする組合づくりなのだそうだ。それを聞いた時は、吾輩は驚きもし、感心もした。

 

「この僕の生き方を、僕は「夢見る詩人」と自分で思っているのですよ。僕自身食っていくのが大変な状態ですからね。仲間をつくるのが大変なのですよ。それでやむなく、宝石探しに熱中するのです。宝石はこの惑星にはけっこうあるのです。もっとも、見つけて売っても、相当の税金がかかりますから、大金持ちになることは出来ませんけれど、まあ、組合づくりの資金にはなると思います」

ここでは会社に入れない若者はそういう宝石を求めて彷徨うことが多いが、中には山中で餓死することもあるという。

 

 そんな話を聞いていると、向こうに赤煉瓦の三階建てのビルが見えてきた。緑の葉がその赤煉瓦の壁にまつわりつき、上の屋根にまで伸びていた。

リス族の若者と別れ、我々は弁護士事務所に入った。玄関の横の大木にとまっていた大きな茶色のふくろうが大きい目と愛くるしい瞳をくるくる回すようにこちらを見ていた。

八人の弁護士と十人の事務職員がいた。

「ああ、よく来てくれました。ウエスナ伯爵は銀河鉄道の旅に出た時の出会いで知り合った友人でして、何か今度は、革命に失敗し、隣国で介護士になられたとか聞いております」と新品の背広を着た小柄で引き締まった感じのする首の長いキリン族の弁護士が言った。

 

「ええ、私達はこちらの惑星はどんな所かと、興味しんしんの銀河鉄道の観光客です」

「そうですね。わが国の法律は国王と裁判所の判事の判例によるので、基本的人権が保障されていないのです。ですから、理由なく突然逮捕されることがあるのです。

税金は国王の意向を受けた大臣と官僚が決めますから、議会はあっても、それを追認する形式的なことしか出来ないのです。

ですから、我々弁護士は、スピノザ協会がアンドロメダ銀河に広めようとしている基本的人権などを保障した憲法と戦争放棄を条文化したカント九条の素晴らしさを日々、勉強し、その素晴らしい人類史的な深い意味に感動して、ぜひアンドロメダ銀河の全ての惑星にこの精神を広げる運動を密かにやっているわけです。

 

こちらの惑星の特徴は国家が三つあって、それが互角で対立しているが、特に大きな紛争問題はない。過去にはいくつもの戦争があったようだが、人々は戦にあきている。それでも、政府は、軍事力を拡大しようとしている。その影で、税金を国民から取るために、国民をごまかして自衛よりも攻撃に適した軍隊につくりかえようとしている。ブラック惑星を回る二つの衛星、我らは赤い月と白い月と言っているのですが、最近そこにもヒト族が住んでいるということが分かったので、そのヒト族に備えるために必要だというのが口実なんですがね。確かに月には原始的な人類がいるようですが、彼らは星を見て、星座をつくっているようなのんびりした状態であろうと天文学者が言っているのですから、大砲だの機関銃だの戦車だのという兵器は必要ないのに、それをつくりたがるんですね。理由は軍備をつくって、儲けたがる巨大ブラック企業があるのです、そしてそこと結びついて大金を得ようとする連中もいるんですよ。こんな風に産軍共同体というのは大きな勢力ですからね。いわゆる死の商人の問題です。これが第一の問題点。」

 

 その時、銀色の鳥かごに入っていた赤と緑と黄色のまだらの羽を持った大きなインコが喋り出した。

「ですから、我々は、カント九条は宇宙の宝だと呼んでいるのです。」

「ですから、我々は、カント九条を宇宙の宝だと言っているのです。軍備を縮小し、世界に平和をもたらす優れた条文なのです」

 

我々はインコの素晴らしい喋り方に驚いた。

「綺麗な鳥ですね」とハルリラが言った。

「ハハハ。時々、こんな良いことも言ってくれるのです」と弁護士は笑って、さらに話し続けた。

「もう一つは、企業がこの惑星には何万とあるのですが、我々の調査によると、有良企業はその内の二割程度、あとは労働における過労や低い賃金それに

ハラスメントと、問題のあるブラック企業が殆どなんですよ。」

「そうすると、お仕事は沢山あるというわけですね」

「そう山ほどありますね。どんな企業をご覧になりたいですか」

「お手伝いもしたいのですが」

「いや、お言葉はありがたいですが、アンドロメダ銀河鉄道からいらっしゃるお客さんは特別待遇しなければならないんですよ。そういう方が見に来ているというだけでも、ブラック企業の従業員は励まされ、経営者は緊張します。

ですから、我々弁護士としても、そういうお客さんを会社案内するのはブラック企業を良い方向に変えるチャンスになるのです」

 

最初に案内されたのは、製紙工場だった。弁護士が川の汚染問題に取り組んでいる相手の工場だった。この国の三分の一の紙を生産しているという大企業でもある。川に垂れ流しにされる汚染物質と工場の煙突から出る煙それから働く人の過労死の問題など、案内される道々で、キリン族の弁護士は我々に説明した。

 

 工場の門をくぐると、大きな建物があり、その周囲に広い芝生が一面に植えられ、外見は綺麗で、ただ煙突からもくもくと巨大な煙が気にはなったが、それすら、白く青空の上の方に綺麗に伸びていた。

生産工場長室の隣の部屋に、通された。

ドア越しに聞えるのは男の声だ。中年の狐族の声だと、吾輩は猫の直観で分かった。

「お前、何だ。成績が一番低いじゃないか。仕事の能率が悪い。悪けりゃ、残業でおぎなうんだな。しかし、その残業代は払わないよ。

会社で決めた残業は一時間だからね。それ以上、残業やるのは能力がないからだな。それは賃金なしの残業でおぎなうのさ」

「はい、でも、」

その声は中年ぽい男の声だった。

「残業は既に一ケ月で八十時間。過労死寸前の残業と言われているほどやっていますし、それは私だけではありません。そういう状態の社員は百人以上はいると思います」

「お前な。よくそういうことを言えるな。お前の仕事はひどく能率が悪いから、残業でおぎなうだよ。それであんたが死ぬかどうかは会社には一切関係がない。それが嫌なら、あんたみたいなグズはタコ部屋に行くのさ」

タコ部屋というのは仕事のない狭い部屋だった。

吾輩は非人間的なひどい言葉だと思った。

その時、ハルリラが小声で言った。「あの言葉には魔性の響きがある。魔性のけものの響きがある。もしかしたら魔界メフィストの影響力が再び強まったということもありうる。中世には魔界の影響はひどいものだった。しかし二百年前から、メフィストの軍団はどういうわけかかなり弱まった。それがまた、強まるということはある」

この課長はGSウトパラのメンバーだという。

GSウトパラは勢力の大きな社交クラブだそうだ。ただ、謎めいた社交クラブで、評判はよくない。彼らが政界の上流階級とここで、歓談するという。そのためか、何故か法人税が免除されている。

社交クラブはこの国で、沢山あり健全なものが多いが、法人にしている場合は当然、法人税をとられている。GSウトパラは例外ということだろう。

課長のこんな説法は二人目に入っていて、内容はさらに残酷なものに聞えるのだった。我々はなんとなくいらいらしていた。

 

その時、吟遊詩人がふと立ち上がり、ヴァイオリンをかきならした。

最初は激しく情熱がこめられ、弦の響きは人の心を正しい方向に向ける。すると、音色は急に優美になり、春の日差しの中に美しい花園が目に浮かぶようにやわらかく優しく色彩に満ちた弦の響きはこちらの部屋の中から、隣の部屋にまで届く。

 

 

 課長の声が響いている。相手の人物は三人目になったようだっだ。

「私はきちんと仕事をしていますから、残業代をもう少しもらいたいのですけど」と部下の男は言っていた。

「お前な。よくそういうことを言えるな。そういうことを会社に言う人間は会社にとつて、ゴミなのよ。分かる。ゴミはリストラするのが会社の決まりなの」

ヴァイオリンの音色は優美で、日常から美しい非日常の異世界に人の心を吸い込むような激しい弦の響きがあった。

隣の部屋では、ふと、沈黙があった。

しばらくして、急に、隣の課長の声の調子が変わった。

「なんだか、いい気分になってきたな。」

ふと気がつくと、インコの声がした。インコはいないのに、インコの声がする。

不思議だと思い、ハルリラの顔を見たら、ハルリラはにやにや笑っていた。

「人として一番大事なことは真心。誠実さ。愛。」とインコの声がして、何度か繰り返すのだ。

課長はしばらくぼおっとしていたが、インコの声を聴き終えると、思い出したかのように、「あなたが頑張っていることは私も知っているわよ。あなた、少し顔色悪いわね。いつも長時間労働ですからね。確かに大変ね。なんとかしましょうよ。」

「仕事が多くて、時間内に終わらないんです」

「確かに仕事が多いわね。仕事を減らしましょうよ」

「そんなことが出来るのですか」

「出来るかどうかは分からないけれど、このままじや、あなた、身体を悪くしますよ」

「そういう仲間はたくさんいます」

「困ったわね。この会社は大きいのにね。それに儲かっているのよ」

「内部留保に、儲かった金をまわしてしまうのですよ」

「ま、あたしの口からはそういうことは言えないわ。課長としてはね、リストラを命令されているの。でも、リストラの人数を減らすように、上司に言います」

 

隣の応接室で聞いていた吾輩はテーブルに置かれた花瓶の赤い花を見ていた。そして、何故かほっとした。首の長いキリン族の弁護士は微笑した。

「恐ろしい言葉が聞こえてきましたけれど、ヴァイオリンの音色で、課長の話の内容が、悪霊を追い出されて、慈悲の光が差し込んだように、変化しましたね。不思議なヴァイオリンだ。ですけど、インコがいないのに、インコの声がするというのも摩訶不思議ですな。この中に魔法を使う方がおられる」

中々鋭い弁護士だと、吾輩は思った。

 

「私達弁護士は悪徳管理職や、それを許す経営者との戦いを常にしているのですけど、これ程 劇的に人の魂を和らげた状態を見たのは初めてです」

 

部屋の中は綺麗だ。素晴らしい絵は飾ってあるし、ソフアーは高級品だし、建物の壁は美しい。先程の怖ろしい人間の言葉など無かったかのように、優雅な日差しが窓から差し込んでいる。

地獄は人間がつくっている場合があるのだし、弁護士の言うようにヴァイオリンの威力にも吾輩、寅坊は驚いた。

 

しばらくして、出て来た工場長は満面に笑顔を浮かべ、我々を歓待した。

隣の部屋の課長の面接は次の男に対して、行われているようだった。

工場長はまゆをひそめ、笑った。

「わが社も競争が激しくて、リストラをすることになりましたので、解雇する人を選んでいるんですけど、皆、生活がかかっているから、中々やめようとしない。そこであんな課長のような厳しい言葉が出て来る。競争が激しいので仕方ないですよ。

全社で五百人の解雇。この工場だけでも、百人解雇するノルマが課せられているのでね」

 

その時、会社の窓の向こうに、スカイツリーと五重の塔の合いの子ような巨大な建物がすくっとそびえ、上の方に銀河鉄道のようなものが見えた。

皆、そちらの方を見た。吾輩は鉄道に一番注意をひかれた。守護列車ではないかと思ったからだ。このブラック惑星に来るとき、空から見た守護列車はまさに絢爛豪華そのもので、帝釈天も梵天もいらしたではないか。しかし、今は遠目のせいか、お二人とも見えないし、あのハレルヤと言って、手を振ったサルも見えない。ともかく輝く宝石と美しい金色の車体だけが慈悲の光のようなその美を四方に放っているのだった。

 

 「蜃気楼ですよ。この惑星では、時々見られるのです。塔というのは珍しいです。銀河鉄道の蜃気楼もたまに見られることがあります。金色に輝いているでしょう。もしかしたら、先ほどのヴァイオリンが招きよせたのかもしれません」と工場長は言った。

「ヴァイオリンの音、聞きましたか」と弁護士が言った。

「ええ、私の工場長室まで、静かに聞こえました。私もあの時、何か心に空白があるような時間でしたので、聞いたのでしようね。普段の忙しい頭でしたら、あのくらいのボリュームですと、気がつかないこともあります。それにしても、不思議な美しい音色でした。内の娘に聞かしてあげたいような音色でした」

 

「素晴らしいことです。巨大で美しい塔が見える」とハルリラが突然のように、目を輝かせて言った。

「美しい蜃気楼だね」と吾輩は微笑した。

「宇宙の大生命があの塔に凝縮したような美しい光を放っている」と吟遊詩人が言った。

「宇宙の大生命ですか。わしは五十年間生きて来て、そういう言葉は初めて聞きます」

「宗教はないのですか」

「あの課長はプロントサウルス教ですから、ないとは言えません」

「あれは確か、熊族の宗教。課長さんは狐族のようにお見受けしましたけれど」

「熊族のロイ王朝が革命勢力を倒してから、独裁はますます強まり、プロントサウルス教も相当変質してきましてね。アンドロメダ空間にまで勢力を伸ばそうと、我が国を標的にしているみたいですよ。ですから、色々の民族の人が強いプロントサウルス教に入ってきているのですよ。だいだい、我が国は伝統的に無宗教なんです。それで狙われたのでしょうね」

「あの課長の最初の言葉は道元の教えた愛語に反する。『正法眼蔵』という素晴らしい本を書いた道元は座禅と法華経と同じように、愛語を重視した。思いやりのある言葉だ。その反対の言葉を使うのは 堕落した宗教の証拠だ。ロイ王朝のように、権力と金の虜になれば、昔の純真な宗教心を忘れ、堕落する。」と吟遊詩人が言った。

   

   

                         【つづく】

 

 

 

 

【作者より】

誤解のないために、コメントしておきます。富士山のそばにある工場とこの物語のブラック工場は何の関係もありません。この物語にピッタリの写真は不可能な状態なので、見て楽しく、しかも物語のイメージに合うものを選んでいるだけですので、よろしくご理解願います。

 

 

 

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銀河アンドロメダの猫の夢想 36 【魔法のヴァイオリン】

2019-02-02 10:21:06 | 文化

 

 

 アンドロメダ銀河鉄道がブラック惑星に近づいた頃、ハルリラの言葉を借りれば、珍しいことが起きた。

窓の外の銀河の中での出来事だ。

巨大な響きの雷が鳴り、その光は銀河全体に広がり、その光の中から、

我らの行く手に巨大で美しい鉄道がとまったのだ。ハルリラの話によれば、アンドロメダ銀河鉄道の守護列車だという。

我らのアンドロメダ銀河鉄道と違って、金色の色をして、もう少し大きく、長く、さらには様々な色の宝石などの装飾がほどこしてあった。

このように、銀河鉄道どうしがめぐりあうのは珍しいことで、しかも、あの列車には銀河の守り神の梵天と帝釈天と四天王が乗っているのだそうだ。釈迦が悟りを開いて沈黙しようとした時に、説法を促したことで知られるこのような高貴な人達とスタッフの孫悟空に似たサルが乗っている。サルはみな白い十字架のペンダントを首につけていた。窓から、こちらを見て手を振って「ハレルヤ、ハレルヤ」と言っているのはそのサルだった。

運転席の車両のところに、威厳に満ちた帝釈天と梵天が二つの席にすわり、帝釈天と梵天の眉間から雷の光とは違った不思議で神秘な一条の光が我らのアンドロメダ銀河鉄道の方に流れて来た。

その光を見ていると、ちょうど山に登ってご来光に思わず手を合わせたくなる

ような不思議な慈悲に富んだ光だった。

光に照らされた守護列車の下の方には瑠璃色の平地が広がり、光は虚空に広がっているような感じだった。

 

 

「アンドロメダ銀河鉄道の旅、どうぞご無事を祈ります」という声がその金色の列車から歌のように響いてくる。

周囲から、沢山の種類の華麗な花がその守護列車に降りかかり、今までの金色の色はまさに花の色々な色で不思議な模様を描き始めていた。

「次はブラック惑星。お気をつけて、旅をなさって下さい。あそこは惑星アサガオほどひどくないですが、温暖化が進んで、ひどく暑いところです。それに魔界メフィストが狙っているという噂のある惑星です」そういうアナウンスが聞こえて来る。

その時、帝釈天と梵天の眉間から、さらに神秘的な光が我らのアンドロメダ銀河鉄道の中にまで入り込み、吟遊詩人のヴァイオリンを包んだ。ヴァイオリンは不思議な輝きに包まれ、遠くから「そのヴァイオリンはこのブラック惑星で大きな力を果たすだろう」と声が聞こえてきた。

 

アンドロメダ銀河鉄道がブラック惑星につき、ブラック中央駅を降りると、我々はウエスナ伯爵の紹介状を持って、KPC弁護士事務所を訪れることになっていた。

駅の前のビルの一角からは三本の道が伸びていて、一本の道は石畳のように、綺麗にされていたが、

我々は一番貧しい感じのする道を選んだ。というのは、弁護士事務所は貧しい人を助けるという理念から、そういう方角につくられたいきさつを聞いていたからだ。

 

道は黒に近い色をしていて、小さな石ころが沢山ある。南国の街路樹が並んでいるのはいいが、道の横にはゴザが敷いてあって、そこで横になったり、座っている人が目立つ。

道は広く、自転車が通ることはあるが、多くの人は歩いている。

段々、分かってきたことは道端にいる人は家を持っていない人のようだ。

道端の背後に小屋がある場合もある。

そこが家という場合もあるのだろう。小屋の中には、白内障になった老人や皮膚がんになったものがいると聞いた。オゾン層が破壊され、紫外線が強いのだ。

 

一キロごとに、椅子に腰をかけたタヌキ族の制服姿の男がいる。最初の男は茶色の口髭をはやし、大きな丸い目で相手を射るように見つめていた。

どうも行く人をチェックしているようだ。

監視社会の目がこんな所にもう現われているようだ。

時々、道行く人が呼び止められ、何か言われている。何を言われているのか、聞こえないが、ある場所で聞いてしまった。

 

「仕事を持っていないなら、兵士になれ」と制服の男が言っているのだ。

それに対して、ぼろぼろの服を着た若い男は「兵士はいやだ」と言っている。

「じゃ、どうやって、生きていくのだ。めしを盗んでいるのがいるというが、お前はその仲間か」

その内に、その辺の住民と、制服の男が集まり、激しい言い合いが始まってしまった。

 

吟遊詩人はその時、ヴァイオリンを出し、我々のことを何か言っている人の前で、弦を弾いた。

音楽は短いもので、絹のようなやわらかで優美な音色が、そのあたりの空間を包み、絹の絨毯に春の日差しが射しこむような心なごませる響きがあった。

 

   

さらに、詩人の歌が続いた。

 

花と昆虫の生きる自然よ

光と風の吹くところ

さわさわと緑の梢を揺らす

そこに光が射し

木漏れ日ができる

 

その並木の道を歩く男女

ちょっとした口論から

ふと、風に揺れる緑の梢と木漏れ日を見る

ああ、我らは自然の子

二人の間に笑顔が戻る。

 

母よ、あなたに感謝する。

我らを生み出した

偉大な力

鳥が飛ぶ青空と馬の足音の響く大地

 

どこからともかく、我らはやってきた旅人

我もあなたも

旅人の悲しみと共に

森羅万象をおおう夕日に向かって歌う

黄昏時の愛のそよ風が雨のように降りそそぐ

その静かな澄んだ空間の中に

響き渡る小鳥の声のように

おおらかに歌う我ら旅人

 

悲しき迷宮を歩けども、明るく歌う我ら旅人

 

 ああ、不思議に、多くの若者に笑顔が浮かび、自然と殴り合いは終わった。住民も制服の男もいつの間にどこかに行ってしまった。

集まって来た若者の一人が言った。中肉中背で、顔は赤く、リス族のような顔をしていた。

「これは魔法のヴァイオリンですね」

吟遊詩人は言った。「そんな風に言われたのは初めてですよ」

「古来、オルフェウスの楽器以来、そういうのが宇宙のどこかにあると聞いていたけれど、私は魔法のヴァイオリンだと思う。いつもなら、こうした争いは殴り合いに発展して、時には血を流すのに、そういうことがないだけでなく、皆の顔に笑顔が戻った。これは奇跡ですよ」

「そうか。ありがとう」

「どちらに行かれるのです」

弁護士事務所だと答えた。大きなみかんが枝もたわわになっている大きな木のそばで、若者は笑顔で、「ぼくが案内しますよ」といった。

 

ふと、横笛の音がした。知路である。

リス族の若者が「魔界の女ですよ。背後に恐ろしい魔界のメフィストがいますから、気をつけた方がいいですよ。この惑星はメフィストのせいで、かなりおかしくなった歴史があるのですから」と言った。

「しかし、横笛の音はいいね」とハルリラが言った。「話しかけてみるか」

「知路さん。何で、あなたはわたしらの前によく出てきて、そして消えて行くのだい」

「あたしは詩人の川霧さんのヴァイオリンがとても好きなのです。その音を聞くと、あたしは本当は魔界の娘ではないという気持ちがするのです。あたしの行動はメフィストに指図されていることが多いのですけれど、詩人の音楽を聞くと、メフィストの言うことをきく気に慣れないのです。でも、言うことを聞かないと、魔界に戻った時、鞭で打たれるのです。おそらく、あたしはただの人なのです。メフィストに、私の記憶が届かないような幼い頃、誘拐されたのです。そういう夢を最近よく見るのです。もしかしたら、詩人と同じ地球人なのかもしれないという希望を持つのです。なぜなら、詩人のヴァイオリンを聞くと、ああ、何というのでしょう、不思議に美しい気持ちになるのです。今までに経験したことのないような気持ちです」

「メフィストから、逃れられないのかね」とハルリラが言った。

その時、雷が鳴りだした。そして、知路は忽然と消えた。

 


    【つづく】

   

               【久里山不識】

 【今朝20192 2日のニュースを聞いての感想】

米国の大統領はロシアとの中距離核戦力【INF】全廃条約から離脱すると正式表明したそうだ。

まさに、新たな核軍拡の始まりを感じさせ、キューバ危機を思い出させる。何故なら、米国、ロシア、中国の核軍拡が将来の悪夢を妄想させるからである。次の世代のために、日本は被爆国として、経済大国として、この三つの国の軍拡競争に傍観者であって良いのか。もっと、国民の平和への願いが政府を動かし、政府が三者の国の軍縮を進めるように働きかけはできないものなのか。そのためにも、憲法九条は守るべきである。そして、文化交流が大切である。


【憲法九条を守る意味】【再掲載】

この文章はFC2の【猫のさまよう宝塔の道】201610 3日に掲載したものです。今もあります。憲法九条を守るが物語の一番のテーマですので、物語をきちんと読んでいただければ「何故、憲法九条を守らねばならないかが、分かると思っているのですが、お忙しい方もいて、拾い読みする方もあるようで、そうすると、意味がきちんと把握できないという方も出てくるかもしれません。それで、以前書いた「憲法九条を守る深い意味」を思い出し。この場に付け足しておきます。【書いた時間が大分前なので、今と少し違和感がある文もありますが、直さないでそのまま掲載します 】

  



映画の感想を書いて、次の物語の備えをしていたら、たまたまコメントが入った。私の【the Pianistとアドルフに告ぐ】のブログを読んで、彼自身もその映画を見てみたいし、「アドルフに告ぐ」もいずれは読んでみたいという内容には、良いことだと思った。

しかし、そのあとに続く内容は私の日本国憲法を守るという立場とはかなり違う。
要するに、北朝鮮の脅威を言っているわけで、それに対する防備をしなければならないということだと思う。でも、北朝鮮の脅威は多くの日本人が感じていることだし、核兵器開発に恐怖を感じていることは、この日本国の大地に住む者は同じ思いだと思う。

どうやって、日本を守るか、政治家はもちろん、ジャーナリスト、学者、一般の人、みんなこの日本の大地を守り、日本の子供たちがこの大地で健やかに育つことを願っていると私は思う。
しかし、どうやって守るかで意見がわかれる。私は両方の意見を聞いて、考え、やはり、憲法九条を守る方が平和への道に近いと感じる。
勿論、人間ですから、色々な意見があって、改憲、憲法九条の廃止そして軍拡をして、もしかしたら核武装論にまでいく考えを持っている方もおられるのではないかと思いますが。
しかし、もしそうした立場に日本が突き進んだとしたら、中国や、北朝鮮、やロシアはどういう反応をするか、東アジアは今以上に不安定になり、軍拡競争がはじまり、いきつく先は核戦争ということになりかねない。
【人類は滅亡の道に進む可能性があるということです。少なくとも文明・文化は破壊され、第二次大戦を上回る死者も予想される。こういう恐怖は既にキューバ危機で人類は経験しているのです 】

では、憲法九条を守っていては、北朝鮮が図に乗って、何かの拍子に彼らのミサイルが飛んでくるではないかという心配はどうか。

確かに、そういう不安があるから、今、活発に外交が進んでいるのではないでしょうか。
安部首相がキューバのカストロ氏に会って、北朝鮮の核開発を押しとどめるように協力を要請しましたね。キューバは北朝鮮の友好国であり、カストロ氏は大の親日家であって、日本庭園を持っていると聞きました。
それにやはり、平和憲法を持っているという実績は安倍首相がカストロ氏と会った時に、口に出して言わなくとも(首相が改憲をたとえ、考えていたとしても)
、現実にある憲法九条の威力は 無言の世界の行くべき方向をカストロ氏に指し示していることが私には感じられるのです。

それから、憲法九条がアメリカ軍という占領軍の中でつくられたものだし、日本を軍事的に無力にするというご意見。それがたとえ、本当であるとしても、憲法の内容を吟味すると、軍を最小限にして、その金を国民の生活にまわすという発想はそれなりに、将来の人類の行くべき方向を指し示しているのではないでしょうか。

人類の歴史を見ていると、戦争の歴史である。ことにヨーロッパでは三十年おきぐらいに戦争をしていた。全く、人類は戦争が好きなのではないかと錯覚するくらいである。
事実、日本でも、日露戦争の時に、戦争反対ののろしをあげた歌人の与謝野晶子とキリスト教思想家の内村鑑三は一時、非国民と言われたのであるが、今や教科書に載る偉人である。

そのあと、人類は第一次大戦と二次大戦という怖ろしい戦争を経験してしまった。

今や、オバマ大統領のように、核兵器をこの地上からなくしたいという思い。これは人類の悲願なのではないでしょうか。出来れば、通常兵器も世界的に縮小していくことがのぞましい。
過去のように、軍拡が世界の雰囲気となったら、人類は生き残れないと思う。
既に、過去にはキューバ危機で、ソ連とアメリカが核戦争寸前まで行った。
最近では、パキスタンとインドの軍事衝突が核戦争一歩手前まで行ったと聞いている。
イスラエルも核兵器を持ち、アラブとの対立が懸念されている。
至る所で、戦争の火種がくすぶっている。

そこへ日本人が憲法九条を見捨てたら、戦争へ戦争へと突き進むことになることは火を見るより明らかではないだろうか。
憲法九条を守り、今の段階では、それなりに防衛力を強化して、世界に平和外交を展開する、それが日本の進むべき道だと私は思う。

 

最近、「日本会議」というのを耳にした。どうも、宗教右派といわれるごく一部の人達が中心となり、財界、政治家の一部と結んで、憲法改正、憲法九条廃止、国防軍の設立、ということを考えて立ち上げた運動のようである。

宗教というのは本来、平和を目指すものである。人間のいのちという素晴らしい奇跡の存在に驚きと感謝の念を持ち、そのいのちを守るために、平和を考えるのである。
その平和をつくる願いがストレートに実現している憲法九条を廃止するというのは理解しにくい。
お釈迦様が悟りをひらいたあと、お釈迦様が若い頃、王子であった国に隣の大国がせめてきたという話がある。
お釈迦様の所に、かっての家来たちがやってきて、「お釈迦様、どうぞ我々の総大将になって、あの大国に反撃していただけませんか」とお願いした所、
お釈迦様は悲しみの表情を浮かべ、座禅をしておられたそうである。もし、あの時、お釈迦様が総大将になったら、反撃はできても、仏教はこの二千年、人類に巨大な足跡を残すことが出来たであろうかという貴重な意見を聞いたことがある。

科学が生命を物質レベルでいくら探求しても沢山の知識は増えていく喜びはあるけれども、生命の不思議さは増すばかりという「いのち」の神秘を仏教は悟りの世界で解き明かしたものである。これは人類の宝である。宗教はキリストの言われたように、隣人を愛せよ、さらに敵さえも愛せよという教えに見られるように、愛と大慈悲心が根幹にあるのだから、宗教というのは 人と争うことを拒否するものである。

そんな呑気なことを言っていたら、北朝鮮が攻めてくるではないかという意見も分かる。
しかし、だからと言って、人類の宝 憲法九条を捨てるわけにはいかない、憲法九条を守りながら、平和外交を進めるしかないのでないかと思う。
私は文化の交流が大切であると思う。

今、多くの心ある方が文化と政治の面で、平和外交と平和へのコミュニケーションの取り方を研究し、それを少しずつ進めていると私は期待している。それを応援するしかないのではないかと思われる。



人類は憲法九条の指し示す【カントのいう永遠平和】に向かって、前進しようとしている気がするのですが。【現実の世界の状況はあまりに違うのは実に残念ですが、多くの人々はそのように努力している、そう思うようになりました】

                        【久里山不識】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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