空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。今回のは猫の語り手が吟遊詩人と「アンドロメダ銀河」を旅する話。散文詩
のように磨くのが夢。

銀河アンドロメダの猫の夢想  42【脱原発】

2019-03-21 10:39:29 | 文化

 

   いつの間に銀河の野原の、緑の邸宅の周囲を巨木の菩提樹が二本おおいかぶさるようにはえている。

「見てごらん、あのコーヒーを飲むオオカミ族のヒトの幽霊を」とハルリラが言った。

吾輩はじっと見た。オオカミ族の亡霊の涙が珈琲の茶碗に落ちるその一滴に過去の栄光の影が映ったような気がした。が、吾輩はそれ以上に知路の緑の目に引き付けられた。それはまるで月の光のようではないか。その光が我らの吟遊詩人の方に向けられているような気がしたのは吾輩の思い過ごしか。

ぼうっと幻影のような色々な肌色をした顔立ちのオオカミ族の紳士。服は黒っぽいが透き通ったようなものを皆、着ていた。よく見ると、右手にコーヒー茶碗を持ち、左手に拳銃のようなものを持ち、お互い、相手に向けている。

「あれではオオカミ族が滅びたのも当然でしょう。それにしても、知路は何故あんな所にいるのだろう」とハルリラは言った。

 

 ハルリラの知るところによると、アンドロメダ銀河全体の沢山の惑星では相当のばらつきはあるが、日本の明治初期程度の文明にやっとたどりついた所がいくつかある。もちろん、まだ原始時代など文明の段階に達していない所も多いのだが、中世や戦国時代に突入した惑星もちらほらあるらしく、中にはネズミ国のように高度の文明を持つところもいくつかあるという。

オオカミ族の惑星は文明段階に入って、かなりの科学技術も発達させていたが、ネズミ国の噂を聞くににつれ、自分の惑星の文明を一挙に高度化するためには、かねてから高度の文明を持つネズミ族の惑星から密かに、色々の文明の利器の情報を盗もうと画策していたという。

「科学技術を中心にした文明も大切だが、精神の豊かさをしめす文化の発達も大切」と吟遊詩人はハルリラの目を見ながら言った。ハルリラがうなづくと、詩人は微笑してさらに続けた「それに、この文明と文化がバランスよく発達することが、ヒト族の健全な進化にとつて必要だと思う。しかし、とかく、文明が発達して、物質が豊かになると心は貧弱になり、あくなき欲望のために、より物をほしがる、そうすると危険なのは争いが起こるということである。

そして、オオカミ族はネズミ国の情報を盗み取ろうとしたがゆえに戦争となり、崩壊したということだよね」と吟遊詩人は言った。

「その通りだと思います」とハルリラは答えた。

「このオオカミ族の滅びの道へ哀惜の情を以前、詩にしたことがある」と言って、吟遊詩人は歌う。

 

 なにゆえに こころは 乱れ迷い 亡霊となる

銀河 霧深き天空の波さわぐ所

名も知れぬ巨木の幹の黒き肌に

いくつもの緑の葉が糸のように天に伸びている

 

しなやかな枝の伸びゆく空間のあたりにすみれ色の音がして

銀河の天空もオオカミ族の亡霊に満ち、狂えり

折しも かなたの星々の野原の上は

珈琲のにおう不思議なオオカミ族の墓の跡

 

 

  名も知れぬ巨木の年輪の刻まれた太い幹に

りこうそうなリス一匹悲しき笛を持って立つ

珈琲から立ちのぼる白き蒸気はゆらゆらと幻となりて

そこに昔の雄々しき君ありし

 

オオカミ族の在りし日の君はそこにいる

ああ、栄光の日は過ぎ去り

幻影の亡霊となりて

あでやかに浮かびたつ昔の悪の道

何ゆえに わが心 かくも乱れ 君を悲しむ

 

 

「滅ぼされた者達の怨霊だけが残ったのだ。」とハルリラが言った。

地球の日本でも、オオカミは絶滅したことを何故か、吾輩は思い出した。

なにはともあれ、アンドロメダ銀河で、進化してヒトとなったオオカミ族という民族が滅びたのだ。

それを吟遊詩人が悲しんでいるのだろうと、吾輩は思った。

 

「ネズミ族は長い間、鎖国を国是としていたので、オオカミ族のそういう行動をキャッチして用心をしていたが、核兵器と原発の情報をオオカミ族に盗まれた。しかし、オオカミ族は科学の発達が未熟だったので、その情報をこなすのに、時間がかかる。

それでも、オオカミ族が着々と、武力の点で、いずれネズミ族と対等になろうという野心を持ったことに、ネズミ族は烈火のごとく怒ったようだ。」とハルリラは言った。

 

  「ただ、オオカミ族のうちわ争いも深刻だった。ネズミ国から得た情報だけが一人歩きし、脱原発と反核を唱えるオオカミ族のヒト達は、推進しょうとする多数派から魔女のように扱われたのだ。脱原発・反核の側もある程度の人数がいたし、この両者の争いはオオカミ族の毛の色、大別すると白と黒とブルーと茶の四色なのだが、他にも戦略の微妙な争いということがあり、お互いにレッテル貼りが進み、その争いが絡み合い、時に嵐のように吹き荒れることがあった。

中には、脱原発の本を書いただけで、処刑されたヒトもいた」と吟遊詩人が悲しそうな表情で言った。

 

ハルリラは微笑して、「それで、ネズミ国はチャンスとばかりに戦争をしかけ、オオカミ族は、圧倒的なネズミ族の戦力に滅ぼされたようだ。気の弱いネズミ族が気の強いオオカミ族を滅ぼしたというのも奇妙ではあるが、アンドロメダ銀河の歴史に残る事実となったのである。」と言った。  

              

「滅ぼされた怨念だけがこの銀河に残り、幽霊検察列車だと言って、アンドロメダ銀河鉄道みたいな優雅な旅をしている列車を邪魔する権力の権化になりはててしまったわけですね」と吾輩は言った。

 

「放っておくと、いつまでも我らの銀河にまつわりついて、いずれはピストルは我らに向けて発射されますよ。弾はここまで届きませんが、音だけは嫌な響きを我らのような優雅な旅を続けている者の邪魔をするというわけです。嫉妬ですね。嫉妬は人間性の中に深くあるのです」とハルリラが言った。

 

吾輩はこの話を聞きながら、地球の京都の哲学の道の近くに住む懐かしい銀行員のことを思い出した。そう言えば、彼が変人と言われたきっかけはどうも、彼が脱原発の小説を1997年頃に自費出版したことに原因があったらしいと、最近思うようになった。出すのが早すぎたというわけだ。

しかし、今や「脱原発は常識である」という声が吾輩の耳に届いたのは不思議だった。

 

 

 猫である吾輩、寅坊を育ててくれた懐かしい銀行員の1997年頃の小説の「脱原発」のいくつかの文章が目に浮かんだ。

 

【そして、急に「ひどい」という声がする。その声の間延びした感じから、彼女が酒に酔っぱらっている感じがした。そしてしばらく沈黙したあと、ギターがなる。

そしてギターと共に、歌を歌う。聞いたことのない哀切なトーンの歌だ。その調子も酔っぱらって歌っている感じだ。

  オラはさ、原発反対したのさ、

あれはさ、放射能という毒になるものをまき散らすからさ、

それなのにさ、飛行機より安全だと信じて、オラが間違っているのだとさ

  驚いたよ 驚いたよ

それでオラは悪人にされてしまったのよ。

ああ、世の中、転がっていくぞ、どこへさ、

オラ 知らんよ。

親鸞様はおっしゃつた、自我は悪であると、ああ、本当さ、本当さ。

そのことが分かれば、人間は清らかになれる

美しくなれる

そうじゃないか

戦争の全てが自我と自我の衝突

平和の時の人の笑顔こそ宝さ。

 

そこまで、彼女が歌うと、急に静かになった。寝てしまったのだろうか。私の部屋の開いた窓から、美しい三日月が見えた。春が近いと思われる涼しく心地よい夜気が月の光と共に入ってきた。】

 

吾輩の耳には「良寛」の和歌も聞こえるのだった。

「かくばかり憂き世と知らば奥山の

草にも木にもならましものを 」

 その時、銀色の竜巻のようなものが巻き起こり、もわっとした巨木のようなものが、現われたと思うと、黒い髭と四角い大きな目をした巨人に変身し、知路を手招きした。「メフィストだ」とハルリラは叫んだ。

知路はメフィストに対して首を振り、横笛をふいた。終わると、吟遊詩人が声を高らかに歌った。

 

                【つづく】 

 

 

 

 

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銀河アンドロメダの猫の夢想 41 【歌姫】

2019-03-16 10:21:29 | 文化

 

 アンドロメダ銀河鉄道のブラック中央駅の入口の横には巨木が生えており、駅の構内は、色々な民族が集まっていた。その賑やかなこと。

弁当売りの背の高いキリン族の男が大きな声をはりあげている。

「弁当! 弁当こんなうまい弁当はどこの銀河にもないよ。銀河弁当だよ」

あの工場長に似たタヌキ族は茶色のカーディガンのような服を着た人が多いと吾輩は思った。

キツネ族は緑と白のまだらのワンピースに似た服が多い。

夢見る詩人と自分で言っていたリス族の若者に似たヒト達は赤系が好きなようだ。

そして、黄色地に黒い模様柄のチャイナ服に似た服を着た大柄な虎族。

インドのサリーのような布を頭からかぶるようにしているライオン族の衣装。熊族。猫族とそれぞれが民族衣装を着ている人が多いが、普通のラフな仕事着のように見える服を着ている人もいる。

それに、これだけの民族が集まると、顔つきもみな強い個性を持った感じがする。

これほどの民族が一挙に集まる場所は滅多にないことなので、吾輩は様々の民族衣装や様々な風貌をした顔立ちにも目移りがしてしょうがなかった。

花を売り歩く髪の長いリス族の娘が優しく元気な声をはりあげる。

「お花はいりませんか。いのちの宝石のような花ですよ。夢見るように美しいお花をいりませんか」

ブラック惑星の名物の宝石を、金持ちらしく見える銀河鉄道の客を狙って、売り歩くライオン族の目のあどけないがっちりした青年。

駅のプラットホームの中央には、奇妙な形の枝の松が飾ってあった。

 

 そこで舞姫が歌を歌っていた。舞姫は猫族だっただけに、吾輩の胸は久しぶりに高鳴った。薄い緑色の衣装で、肌が透けて見える。黄色い顔は優雅で、丸い目は情熱的だった。声はソプラノで澄んだような響きがあり、喜びと悲しみがミックスしたような魂の高揚が雑踏の駅の中に響いていた。

 

銀河の流れに乗っかり

旅する人達よ、

 

美しい星と宝石を身につけ、豊かな髪をなびかせて

喜びと悲しみの表情を浮かべて

どの惑星を旅するというのですか。

 

銀河の岸辺には柳や桜だけでなく、

色々な花が咲いていますよ。

 

 小さな花にも目をとめて、その花の中に無限のいのちが息づいていることを、そしてその花のいのちがあなたにあいさつを送りたがっていることを

 知って下さいね。

 そうなんです。岸辺の花たちは皆、孤独に耐えながら、

あなたの笑顔を待っているのです。

あなたの優しい眼差しを待っているのです。

 

 永遠のような銀河の旅は

喜びも悲しみもあるでしょう。

岸辺の向こうには色々な街角が見えますよ。

 

大きなお盆の上にのったような巨大な石壁の街の中から

いくつもの灯があなた方に挨拶をしていますよ。

もしかすると、ギターにあわせて静かな

甘い歌が歌われて、あなたの到来をうながしていますね

 

あなたの魂には、無限の優しい愛の光が眠っている。

その光が目覚めた時、岸辺の花も石も喜びに震えましょう。

街角では歓喜のアドバルーンがあげられることでしょう。

 

 我々は舞姫の歌に聞きほれながら、列車の中に入った。

 

我々は銀河鉄道に乗って、おもいがけない人物を見ることになった。

マゼラン金属の取締役で虎族のフキという女だ。

その席にネズミ族の大柄の男と、キツネ族の官僚ぽい男とブラック惑星のタヌキ族の軍服を着た男が座っていた。

何かこの四人が一つの組み合わせのように、談笑しているのを不思議に思いながらも、我々はそこを少し離れた席に、座った。

不思議な邂逅だと吾輩は思った。

ハルリラが言う。「時々、ホトン語が聞こえる。彼らの会話だ。死語なのに、使うとは変だな」

ホトン語とはラテン語に似たアンドロメダ銀河の死語だと宇宙インターネットには書かれている。

「変だね。アンドロメダ銀河鉄道の共通語はサンスクリット語だ。それを使わないで、ホトン語を使うとは」とハルリラは言った。

吾輩はサンスクリット語もホトン語も全く分からないで、ハルリラの言うことにあまり注意を払わなかった。

  

しばらくすると、その我らの横に、僧の服を着た少し背の高めのほっそりしたライオン族の好男子が座っていた。彼は頭を坊主にしていたので、ライオン族特有のたてがみのような貫禄のある髪の毛と髭をそりあげてあるので、一見すると、ライオン族とは分からない。

ただ、目が大きく、鼻も口も大きい。ライオン族としては大柄というわけではなく、がっちりした逞しさが身体全体にみなぎっている。さらに彼にはどこか睡蓮の花を思わすような優しい品格が備わっていた。

ハルリラは何か魔法界の小さな器械を取り出して、いじっていたが、「あの人は

ミチストラモトだ。魔法界にまで名前は響いている有名人だ。『尽十方世界是一箇明珠』を考察した本を出している。座禅をするアンドロメダの修行僧だ」

 

 彼は熱心に本を読んでいた。

  

出発した翌朝、ひと騒ぎが起こった。

車掌の知らせで「殺人事件」が起きたというのである。

車掌は興奮していた。この銀河鉄道でこんなことが起きたのは初めてのことで、列車には警察官も医者もそういう部類の人は誰もいないというのであつた。

 死んだのはシンアストランの弟だった。これには驚いた。

 ミチストラモトという僧が立ち上がった。

「どれ、わしが見てくるか」

しかし、犯人はこの列車にいても、犯人が名乗り出ない限り、逮捕は無理。

車掌は混乱していた。

その時、ミチストラモトが車掌に言った。「私がお手伝いしましょう。私は、昔、若い頃、警備会社に勤めていたことがあるので、何かのお役に立てるかもしれない」

ミチストラモトは少年のようにういういしい声で、目は宗教の長い修業によってつちかわれた天使のような洞察力に輝いていた。

 

 しばらくすると、ミチストラモトはマゼラン金属の取締役で虎族のフキの横に車掌から借りたのか、折り畳みの椅子を広げて座って、

「何の商談なのですか」と質問していた。

「あなたには関係ないことですよ」とフキの隣のたぬき族の軍人が答えた。

「アンドロメダ銀河の惑星に住んでいる者ならば、無関係とはいきません。

ネズミ国は武器の極度に発達した国。

先程、死んだシンアストランの弟さんはわしも知っている。なにしろ、シンアストランはわしの若い頃の修行仲間。

中年になって、修行の中身は変わったが、シンアストランとは一年に一度は会う。その弟さんが車の会社に勤めていたのは知っていたが、

こんな形で死ぬとは解せぬ。」

「あなたは何の権限で、わし等を詰問するのか」

何時の間に、後ろに立っている車掌が「警察や検察の方がおりませんので、銀河鉄道法によって、車掌の裁量によって、この方に捜査を依頼したのです」

「なるほど」とタヌキ族の軍人が言った。

 

ハルリラが立ち上がって、言った。

「この人達は武器の商談をしていたのですよ」

「何だ。この男」

「駄目ですよ。ホトン語が分からないと思って、銀河鉄道の中で武器輸出の商談なんかしていては。ぼくはホトン語が少し分かるのです」

 「しかし、わしらはあの男の死とは何の関係もない」

 「でも、あなたの内、三人は寝台車で寝ないで、ずっと、ここで居眠りしていた。シンアストランの弟も向こうの車両で寝ていた。

多くの人は寝台車で寝るのに、わずかの人がこちらの席で寝ていた、詰問されるのは仕方ないことでしょう」

 「何だ。この男」

 「ぼくは夜、トイレに起きたので、寝台車からトイレに行くまで、この二つの車両を見て回ったので、

あの時刻に誰が車両にいたか、覚えているのです。

 あの惨劇はぼくが寝室に戻ってからおきましたから」

 

吟遊詩人はハルリラの後ろに立って言った。

「それに、シンアストランの弟はブラック惑星で会ってきたばかりで、無関心にはなれないのです。彼が車のセールスと一緒にスピノザ協会と組む

アンドロメダ組合に熱心だったことを私は知っているのです。アンドロメダ組合は素晴らしいカント九条をわれらの銀河に普及させようと啓蒙活動をしています。我らの銀河に軍備の放棄と永遠の平和を約束するためにも、優れたカント九条が必要だったのです。

 

 それだけに、彼は故郷のネズミ国の武器輸出に深い悲しみをおぼえ、なんとかしなくてはと思い、強い関心を持っていたのです。あなた方にとっては、厄介な奴が乗っていたと思ったに違いないのです」

 「アンドロメダ金属の取締役で虎族のフキさんはあの時間つまり、夜中の二時ですね。寝室におられた。

しかし、キツネ族とネズミ族の男性二人、それにタヌキ族の軍人はここでしょ。」とミチストラモトが言った。

 「彼はどこで死んでいたの」とフキが聞いた。

「トイレの前の洗面所ですよ」

「トイレなら、そこの男の人のように、皆、夜中だって行く人がいるのだから、私達にだけそんな風に尋問するのはおかしいのでは」

「その通りです。しかし、あなた方の商談とシンアストランの弟さんの動きは相反している。つまり、衝突する。つまり、あなた方にとっては邪魔な存在」

 

その時だ。アンドロメダ銀河鉄道の窓の外に、オオカミのような動物の形をした白い巨大な雲が広がったかと思うと、真ん中のあたりが霧の晴れ渡るように穴があき、銀色ににぶく光る列車が宙に浮かんでいるのが見えた。

 「ネズミ族に滅ぼされたオオカミ族の幽霊検察列車が停まった」とタヌキ族の軍人が言った。

「そんなものある筈がない」とフキが強い調子で言った。

しかし、ネズミ族の官僚は真っ蒼になって、震えた声でつぶやいた。

「確かに。幽霊電車だ。ネズミ族に滅ぼされたことを恨みに思って、怨霊となって、ネズミ国のやることを邪魔しにやってきたのだろう。魔界メフィストがとりついているということがある。とすると、厄介だ。そもそも怨霊というのは、魔界メフィストの力がよく作用する。魔界の悪法によって、ヒトを裁こうとする。もしもメフィストの力がなければ、彼らは幻のように来るだけで、脅かすだけで何もできはしない」

 

虎族のフキはせせら笑っている。

「科学が発達しているだの、文明が極度に発達しているだのと言っているけど、

しょせん、ネズミ族ね。わたしら、虎族はそんな幻影みたいなものはびくつきもしないわ。

まあ、ともかく、私の話に乗った方が、ネズミ族の惑星にとってもいいことよ。」

ところが、幽霊列車の方から奇妙な霧のような白い煙が我らの銀河鉄道に向かってきて、窓から見る視界がひどく悪くなって、幽霊電車だけがその白い霧の中で鮮やかな黒い色彩でしばらく輝いていた。が急に幽霊電車は素晴らしい緑の邸宅のような形に変身して、天からは音なき雷の黄色い糸のようなものが降りてきて、拳銃を持ったオオカミ族の幽霊がその糸をたどっておりてきて、

緑の館に入り込んだ。それから、椅子を庭に持ち出し、そこで、彼らはこちらを眺め、珈琲を飲んでいるようだった。十名ほどいただろうか。その中に、知路がいる。緑色の目をした美しい服に身を包んで、すらりとした娘はオオカミ族の怨霊の中で、宝石のようにつくられた彫像のようだった。

 

 

フキは「ただの煙幕よ。放っておけば、消えるわよ」

ネズミ国の官僚は相変わらず、真っ蒼になっている。

 

                      【つづく】

 

 

 

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銀河アンドロメダの猫の夢想 40【万華鏡】

2019-03-02 10:25:56 | 文化

 

  次に我々がぜひとも見たかったのは産軍共同体のボスの会社、機関銃や大砲をつくる工場だった。

案内の弁護士は交代した。別の年配の鼻の長い象族の弁護士だった。彼の鼻はすっかりヒト族の鼻に進化していたが、それも吾輩のような猫族から見ると、鼻は異様に長く奇妙にそして器用に動くのだった。

彼は長い鼻の先でパイプをつまんで、煙を吹かしていた。吾輩はニコチンの害を心配したが、象の弁護士はうまそうにしてご機嫌な顔をしていた。

「工場の中身を見ることは禁止されているのですよ。敵に見られるといけないというのでしょうけど、敵と言ってもね。たいした敵はいないのですよ。

カボタ国は、確かに武器がある。時々、変なことを言う。しかし、人口の上でも、経済の上でも、我がピーハン国が圧倒的に大きく強いのです。

 

 それに、又、おかしな話なんですけど、月に武器を持つヒト族がいるなんていったって、そんな人達が攻めて来る筈がないのに、我が国では、五十年以上の前の内戦で、国内で争っていた頃の習慣がいまだ残っているんですよ。なにしろ、工場の写真を撮るだけで、いまだにスパイ罪なんていう罪があるんですか

ら。基本的人権なんてないに等しい。

ああ、スピノザ協会がアンドロメダに普及を進めているカント九条のある平和憲法を我が国はつくるべきなのです。モデルは銀河系宇宙の地球にあるそうだが、あのような素晴らしいものをつくるのには、大変な時間と努力が必要だという認識がアンドロメダ銀河のヒト族にも知ってもらいたい。

 

 射撃場なら見せてくれるというので、そこに行くことにした。

広大な平原で、そこまで馬車で行った。

途中で、奇妙な光景を見た。白い軍服を着た十七才か十八才ぐらいの少年達が十人ぐらいで、一人の背の高い立派な風貌の男を取り巻いている。

「あれは何ですか」と吾輩は聞いた。

「白衛兵ですよ。大人の人は平和主義者でしょ。軍のトップはこういう卑怯な手段も使うのです。軍に忠実でない人間をこういう手口を使って、こらしめるのです。軍が正しいと言うまでやっていますよ。」

少年たちは何か文句を言い、持っている小枝で平和主義者をつついている。

「よくあんなことが許されますね」

「軍のトップとそれに従う軍人の指導でやっているので、警察もとめることができないのです」

非人間的なやり方であると吾輩は思った。このブラック惑星でのこの国のやり方は理想も何もないただ残酷で人間の醜さを露呈していると思わざるを得なかった。

 

やがて、射撃場の近くまで来ると、砲撃の音や機関銃の物凄い音が聞こえて来る。

途中に、通行の検問所みたいな所があって、警備員のような兵士のような人達が十人ぐらいいて、チェックしている。

 

なんとか、そこを通り抜けてしばらく行くと、向こうから、馬にまたがった少し階級の高そうな兵士が部下を連れて、ゆっくり近づいてきた。

「とまれ。許可証を見せろ」と大佐が言った。

「よし、今、敵、味方に分かれて実践の訓練をしている。縄を張ってある中に入らないでくれ。あとはどこから見ても、結構」

 

我々が気付いたことは、大佐の周囲に、背広を着た人物と兵士の服を来た人物が二十名ぐらいいたことである。背広を来た人は七名ぐらいで、

吟遊詩人に名刺を渡したのは、ウサギ族の若い男で、薄いブルーの麻の背広に赤いネクタイをしていた。宇佐という名前だった。丸い目をして、黒いちょび髭をはやしていた。

「わたしの会社は扇風機も蒸気自動車の開発も蒸気機関車という平和産業だけでなく、国を守るためにもこういう武器を製造しているのです。いつ月のヒト族が攻めて来るか分かりませんからね」と宇佐は事務的に言った。

「え、衛星の国のヒト族はまだ剣の時代で、銃を持っていないと聞いているのですけど」

「それは一つの情報です。色々な情報が錯綜しているのです。衛星の内部がしょっちゆう戦争をしているという情報もあるのです」

 

「しかし、彼らが、ここに攻めて来るのには、ロケットが必要ですから、そういう科学技術はまだそこまで発達していないでしょう」と言って、象族の弁護士はパイプの白い煙を一気に自分の頭の方に吐いた。

 

宇佐は大きな両耳をパタパタさせて、まるで扇子でも使って自分の冷や汗を防いでいるようにも思えた。

「確かにね。しかし、ネズミ国の惑星がこのアンドロメダ銀河の中心に近い所にあると言われているんですよ。誰も実体は分からず、謎めいた国なんですが、この惑星は極度に科学が発達していて、相当の高度の軍備を持っている。しかし、どういうわけか、鎖国を長く続け、今だに本当の情報はどこにも来ないのです。それでも、武器輸出という誘惑に負け、このネズミ国の惑星からわが惑星の衛星国に密かに、密使が送られて、我が国があっという間に占領されるというSFめいた本が数十年前から流行りましてね。それもあって、こういう軍備の必要が言われているんです。用心するにこしたことはない。それに、国内の中にも不穏分子がいますからね。彼らに対する無言の圧力にもなるのです」

 

吾輩はネズミ族の惑星と聞いて、シンアストランという大男とロイ王朝でウエスナ伯爵の元で水素社会のための研究している天才ニューソン氏を思い出した。彼はウエスナ伯爵と一緒に、革命の動乱期に、逃げ、新しい国で活躍していると聞いている。

ああいう異才を出すネズミ族の話をただの噂とかたずけられないものが、このアンドロメダ銀河にはあると直感した。

そう言えば、さきほどの大佐はネズミ族のような風貌だった。

 

どちらにしても、産業と軍が密接に結びついている様子が目の前にありありと展開していることは、我々にとっても驚きだった。

大砲の弾が遠くに落ちた。物凄い音で、あれならまだ雷の落雷の方が自然で親しめると思った。

しばらく行くと、向こうの少し高い所に、マンション風の建物がいくつも立っている所があった。

 

 「今日は市街戦の訓練なのですよ」とタヌキ族の案内の兵士が言った。額の汗を洒落たハンカチでふいていた。階級は大尉のようだった。日射の厳しいこんな所で市街戦の訓練とは厳しいなと、吾輩は思った。

吾輩は市街戦といわれると、レニングラードの市街戦を思い出した。

何故かというと、あの映画を京都の銀行員の主人が見ていたからだ。吾輩も横から見ていて、人間どもは奇妙なことをやるものだと思ったものだ。

 

レニングラードの市街戦では百万の市民が餓死したとも聞く。あの映画で、驚いたのは、ドイツ兵の死体を放り投げるロシア兵を見て、ドイツ軍の中佐は仕返しという形で、市民の中からユダヤ人の母娘を選び出し、車に閉じ込め、火炎放射器で焼くのだ。その場面を見ていた、ロシア兵は怒り、突撃して、マンションの奪い合いという形で戦闘が始まる。

ユダヤ人虐殺をとめようとしたドイツの大尉は「戦争がいけないのだ」と叫ぶ場面がある。

 

吾輩は戦争こそ、ヒト族にまつわりつくガンという思いを強くして、市街戦の訓練をするというので、見ていた。

五百名ほどの兵士が機関銃をにぎり、

はいつくばって、にじり歩きをしている。ビルマンションの中に敵がいるという想定なのだろう。建物からも激しい機関銃の音がする。

 

「練習でも死者がでるんですよ。」とタヌキ族の大尉は言った。

「え、練習で死者が出る」

「そうしないと実践並みの訓練が出来ないというのが軍の方針なんですよ」

「そんな愚かなことをやっている軍は地球ではない」と吾輩は思わず言った。

「地球。あの惑星ね。」と赤いネクタイをした宇佐という男がにやりと笑った。

「困ったものです」と象族の弁護士は不快そうな顔をして、言った。

 

「死者になる人は皆、変な衣服を着ていますね」と吾輩が言った。

「ああ、あれは魔女の衣服ですよ」と象族の弁護士は言った。

「死ぬのはたいてい、魔女です。彼らが標的にされるんですよ」

「魔女って何ですか」

「つまり、魔女裁判で魔女とされた人達ですよ。男も女もいます」

「魔女裁判って、地球でも中世のキリスト教社会であったと聞いていますけど、あれと似たような響きがありますね」

 

「ああ、私も宇宙インターネットで調べたことがありますけど、似ていますね。ただ、今の我が国は無宗教ですから、昔のピーハン教が長く続いた時代の名残でしてね、今は軍部の考えに反する人達が魔女とされるんですよ。昔はピーハン教の異端が魔女とされ、火刑にされたのですけど、長く栄えたピーハン教は滅びましたからね。

そこへ忍び寄ったのが、魔界の悪知恵。悪魔メフィストの部下が軍の幹部に入りこみ、ピーハン教の魔女裁判だけを軍部が利用しているんです。反軍思想の人は密告されて、裁判にかけられるんです。どちらにしても死んで異界に行くだけのことですから」

「しかし、いのちが軽視されていますし、軍部の考えに反する人を死刑にするというのでは、恐ろしく息苦しいですね。今の地球では考えられないことです」

 

金色の階級章が肩についた白い薄手の軍服姿のタヌキ族の大尉がにやりと笑って、言った。「まあね、この惑星と死生観が相当違うんでしような。我々の世界では、

無宗教が支配的ですけど、奇妙な迷信だけはあるのですよ。

死ぬとまた違った美しい異界が待っているという信仰は確固としたもので、死は怖いものでないのです。死んでも、ちょつと旅に出たくらいにしかみな思っていないのです。これって、宗教のように思う人もいるけど、

どうなんですかね。神なんて信じていませんからね。ただ、異界があるという信念があるというだけなんですよ。

まあ、軍の方針というのもあるのです。軍の方針と迷信が一致しますから、ますます、みんな強く信じてしまう」

 

 「しかし、この地上で魂を美しくみがくことの大切さを忘れてはならないですよね」とハルリラが言った。

「魂をみがくなんて、みんなそんなことを考えませんよ。いかにして、出世をするか。いかにして、金をためるかですよ。金をためたものが偉いんです。その時の金の量で、あの世の生活も決まるということが流布されているくらいですからね」とウサギ族の宇佐という男は言った。

 

「それは間違いです。それは真理ではありません。宗教の大真理は大慈悲心と愛にあって、心を磨き、人に親切にして、愛する、そうすれば魂は磨かれ、世界の真理が直観されるようになった時、浄土を、本当の美しい世界を見ることが出来るのですよ」と吾輩は自分でもよくわからないが、宇佐の言っていることに反発して口走った。

 

吟遊詩人が我輩を応援するように言った。「愛のない宗教、大慈悲心のない宗教、人を傷つける宗教、それは堕落した宗教です。

宗教は最初は純粋でも、歴史の長い過程で組織が大きくなり、権力を持つようになると、堕落する危険が常にあることは地球の人類の歴史が証明している。ヨーロッパのキリスト教の歴史でも、魔女裁判が有名である。教会とは少し違った宗教観を持っていると、異端とされ、火刑にされるということがしばしば起きた。

あるいは、免罪符を買えば天国に行けると言い、貧しい民から金を取るなどということがあったから、ルターの宗教改革が起きたのだろう。

日本でも、権力と結びついた江戸の寺院が宗教として堕落しているという良寛の漢詩もある」

 

ハルリラが言った。

「宇宙インターネットで調べたら、地球の日本では、オウム真理教の地下鉄サリン事件があったという話だよ。サリンという猛毒を地下鉄の中にばらまくという恐ろしいテロの発想がどうして宗教から出るのか、僕には理解できない。オウム真理教は宗教という仮面をかぶっていたに過ぎないのだと思う。

アメリカでは、人民寺院の千人近い集団自殺があった」

 

 そんな風に、我々が宗教の宝石のような素晴らしさと怖ろしい落とし穴について、会話していると、その時、担架に横たわって血だらけの男が運ばれていた。

「まあ、彼は死ぬでしょう。ああいう風になると、兵士の方も死をのぞみ安楽死の注射を医師にうってもらうことが多いのです。なにしろ死の異界は心地よいという迷信がありますからね」

と宇佐という背広の男は言った。

 

「あなたはそんな迷信を信じているんですか」と吾輩は言った。

 

「いいとなんか思っていないですよ。実を言って、この惑星の自殺は年間十万人を超えるのです。ところが奇妙なことに、これが社会問題にならない。

ブラック企業で、競争と激しい労働と金銭至上主義。人と人との間はばらばら。これで、あの世はこの世とさして変わらないという信念がはびこると、自殺が増えるし、軍事訓練で死者が出ても誰も文句の言わない変な社会が生まれてきてしまうのですよ。変な社会ですよ  」と宇佐は言った。

 

「親鸞の教えなんかを取り入れたら」とハルリラが言った。

「親鸞。名前くらいは聞いています。なにしろ、学校が何の優れた価値観も教えませんし、家庭もね。生きている意味は金をためることだけなんですよ」

「親鸞? あの教えは物凄く深いけど、あれが一般に広まると、堕落しやすい要素を持っている。なぜなら、悪人こそ浄土に行けるという深い意味を理解せずに、上澄みの知識として知ると、親鸞の教えとは程遠い地獄の奈落に行くような行動をとる、自称信者が生まれる。だからこそ、歎異抄のような本が生まれるのではないか。人間とは本当に困った存在です」

 

我々は、祖父と二人暮らしをしているという宇佐というウサギ族の若い男の家に行くことになった。そして、驚いた。壁が厚く、鉄条網がめぐらしてあり、あるので聞くと「いつ強盗に襲われるかもしれないからだ」と宇佐は答えた。

彼の家には銃が三丁もあった。ピストルと自動小銃。

鉄条網には電気がかけられている。

ハルリラはこれを見て、謎のようなことを言った。

「わあ、文明もここまで行くと、真実を見失う悪路に入った感じだな。」

「悪路 ? 」と吾輩は聞いた。

「そう。分析ばかりやっていると、全体という聖なる生命を見ようとしない習慣ができてしまう。分析ばかりやっていると、真如が見えなくなる。ちょうど、森の中に入り、森を忘れ、木一本ばかりの分析している内に、自分が森の中にいることを忘れてしまうというようなものさ」

 

宇佐という男は言った。「言いたいことはなんとなく分かりますよ。なにしろ、金があることがこの世の幸福、あの世の切符。葬式を盛大にやるほど、あの世でいい所に生まれるというのだから、みな金をしこたまためる。

 

金をためれば、それを盗まれないかと心配する。だから、こんな鉄条網を張るのですから。自分でも嫌になっているのです。

なんともあさましい人間の生き方でしょうかね。まさにブラック惑星です。」

 

吟遊詩人が言った。

「価値観を変えねばこの惑星は滅びるのでは。金よりも貴いものがあるのでは」

 

「何ですかね」

「愛とか、大慈悲心」

 

宇佐という男は急に目を輝かして、自分の祖父の話をし始めた。

その後、我々はその祖父に会った。

 

祖父はウサギ族の長老のような風格で、白い羽毛はすっかり灰色になり、耳が大きく、落ち窪んだ目が大きかった。

視力がかなり悪くなっているという話だが、黒い瞳の奥から、我々を優しく見つめた。

 

挨拶の会話が終わると、爺ちゃんはまず吟遊詩人の持っているヴァイオリンに目をつけて、一曲弾いて欲しいと言った。

「それでは大自然のおおいなる愛という私が作曲したのを弾きましょう」と、吟遊詩人はヴァイオリンを肩にかけ、弦を持った。

 

大きな緑の丘陵に色とりどりの花が咲き、昆虫どもが飛んでいる。一人の少女がその花と花の間を歩きながら、昆虫を見たり花を見たり、鼻歌を歌いながら、飛んだりはねたりしながら、散歩している。さんさんと降り注ぐ太陽の気持ち良いこと、このおいしい空気を飲み、味わい、この自然の美しさに酔ってしまったようだ。この自然にはおおいなる愛がある。呼吸をして、息を吐き、吸い、その空気のおいしさの中にその愛を感じる。空には、青空が広がり、白い綺麗な雲がまるで船のようにゆっくり動いて行く。ああ、世界は万華鏡のように美しい。なにもかも、素晴らしい大慈悲心のあらわれではないか。

そんな風にヴァイオリンの弦は音楽によってささやいていく。.

 

 宇佐は言った。

「内の爺ちゃんはそんな風に時々、口走ることがありますよ。最近は耳も少し遠くなってきていますが、今の音楽はよく聞こえたと思います。表情で分かります。大分、老化が進んでいますけど、言うことはしっかりしていますよ。僕は子供の時、世話になったから、時々、話を聞いてあげているんです」

 

「何か、本を読んでいませんか」と吟遊詩人が爺ちゃんに聞いた。

「法華経を読んでいます」と爺ちゃんは答えた。

宇佐というウサギ族の孫の男はさらに付け加えた。

「爺ちゃんの話では、全ての人は仏になれるというんだそうです。しかし、まず、僕は仏というのが分からない。

それに、このブラック惑星でそんなことを言ったって、誰も耳を傾けませんよ。

僕は爺ちゃんに子供の頃、可愛がられましたからね。

それで忙しい合間も時々、聞いてあげるんです。

爺ちゃんの話によると、法華経は禅の寺に行って知ったんだそうです」

 

「禅の寺なんか、あるんですか」

「わがピーハン国には一つだけあるという寺なんです。広い禅道場があるらしいですよ。禅では、座禅と法華経と愛語を重要視するんだそうです。でも、来る人はわずかだそうです。

爺ちゃんは猛烈社員でしたから、若い時はそんなものにまるで関心がなかった。ところが、ある日、事故にあった。それで生死の境をさまよい、何か素晴らしい世界を見たというんです。話すけど、誰も聞かない。それで、爺ちゃんはこの無宗教のピーハン国で、唯一まともに宗教活動をしている禅道場に目を向けたのです。」

 

 爺ちゃんは言った。「音楽を聞く時、風の音を聞く時、小鳥の声はみな真如【一如】の現われそのものである。

そういうことに気がつきました。

全ての物もそうなんだけれど、やはりストレートに一如、法身の現われというのは美しい音楽だと思いますね。吟遊詩人がヴァイオリンをひいた時、ますますそう思いましたね。

神そのものが舞踏をしているような感じがしますよ」

宇佐という男はさらに付け加えた。

「そういうことを、内の爺ちゃんは事故に会ったことをきっかけに、禅寺に通うようになってから、人に言うようになった。でも、多くの人はその交通事故で少し頭がおかしくなったのだといいふらしたので、爺ちゃんはそれから寡黙になったのです。

 

今は俺だけが聞いてあげているんだ。でも、俺は忙しいし、俺も世間の人と同じで爺さんは事故でそんな風になったのだと同情はしているけど、話は話半分に聞いている」

 

爺ちゃんは微笑した。「息を吐く、吸う、これに意識を向けて、座るんです。そして、静かなバッハのような音楽をかける。寝る前に一時間必ずやるんです。これはいいですね。生き返りますよ。」

「そうですか」

「息を吸い、その吸うことに意識を集中して、吐く時に南無如来と唱えるのです。これがまた効果、抜群。これは簡単だけど最高なんですよ」と爺ちゃんは笑った。

 

我々はブラック惑星で、悪い話だけでなく、良い話も聞けたことに満足した。

この禅の教えがブラック惑星に広まることを願いながら、このブラック惑星での旅を終えて、次の惑星に向かうために、我々はアンドロメダ銀河鉄道に乗るために、足を駅の方に向けた。

 

  

 

  【つづく】

 

 

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銀河アンドロメダの猫の夢想 39 【薔薇と幽霊】

2019-02-23 09:10:44 | 文化

 

 我々は郊外にある工場長の家の近くのカフェーで、珈琲を飲み、時間合わせをした。

「約束の時間は六時半。夕食前ということですね。そうまだ二時間はある」

 

その時、夕立が降ってきた。雨宿りでもするかのように、ふらりと来た男がいる。どこかで見たような男だ。

そうだ。あのアンドロメダ銀河鉄道で見て、話をしてくれた行者シンアストランに顔が似ている。ネズミ族というだけでなく、目と鼻と口がそっくりだ。しかし、シンアストランほど大男ではない。中肉中背である。それでも、身体つきもどこか似ている。直感で、シンアストランの弟だと、我々は思った。

半袖なので、隆々とした逞しい腕の筋肉が丸見えではあるが、全体に上は洒落たブルーの麻のベレー帽から、下は輝くような茶色の靴に至るまで、一分の隙もない美しい服装をしている。

 

その男は、我々の横に「失礼」と言って、座った。

「どこかで、おみかけしたような気が」と吟遊詩人が言った。

「ハハハ。そうですか。兄貴のシンアストランにでも出会ったというわけですか。わしの兄貴がアンドロメダ銀河の旅に出たと聞いているからね。」

「それではやはり、弟さん」

「そう、ただ、兄貴は宗教哲学の行者になったが、わしは平凡なサラリーマン。そこはひどく違うな。」

 

我々はこれから行く工場長の家に出るという幽霊の話をした。

「幽霊ね。ここの国は無宗教のくせに、そういう話が多いんだ。それはともかく、わしから、兄貴のように奇妙な真理の話を聞こうというのは無理だぜ。わしはサラリーマンなんだ。ただ、幸いブラック企業でなく、ごく普通の企業に勤めている。その点で心のゆとりはあるが。だからこそ、あなた方とこんな話をこんな優雅なカフェで、出来る」

 

 「それでも問題はあるね」とキリン族の弁護士は言った。

「問題はありますよ。なにしろ、わしは修行をあきらめてボクシングをやっているくらいですから。内の上司は仕事でへますると、なぐりかかってくるんですよ。わしはそれでならってきたボクシングでさっとよけるんです。時には相手に軽いパンチをくらわせることもありますがね。そうすると、上司はお前はボクシングはうまいが、仕事はへまばかりしているという奴なんですよ」

「よくそんなことが許されていますね」

「まあ、会社によって、それぞれ違う。内はそういうことをなくそうと、わしが中心になって、組合をつくっている。パワーハラスメントはいけないと皆、思っているのに、なかなか人が集まらない。人を説得するのは難しいものさ。

今、この惑星は人がばらばらなんだ。手をつなぐことをしないとね。優良企業は手をつなぐ何らかのものを持っているけど、内の会社はまだ道半ば。わし等はスピノザ協会の教えを参考にして、アンドロメダ組合をつくり、スピノザ協会と連携を図り、平和で、手をつなぐアンドロメダ銀河づくりをすすめている。そのために、わしは故郷のネズミ国の動向が気になってね」

吾輩はスピノザ協会に熱心な虎族の若者モリミズと別れたことを思い出した。彼は今、元伯爵と一緒に介護士の仕事をしている筈だ。

 

「最初は、兄さんと修行の旅に出られたとか」

「まあね。しかし、わしは兄貴みたいに根気がない。それにわしはどうしても神だの仏だのというものを信じる気がおきんのだよ。

わしはやはり、科学が素晴らしいと思う。わしが入った会社は車の会社だ。まだ発明されたばかりの乗り物だ。しかし、つくっていると、馬車の時代は終わったという気がする。

どうですか。面白い車が沢山通っているでしょ。燃料にはガソリンを使う。幸い、内の惑星は石油と石炭に恵まれている。

道路がまだ整備されていないのは困るな。政府が国家プロジェクトとして、道路の整備を進めているから、これにも希望はある。」

「車は排気ガスを出しますよ」

「そりゃね。人間だって、おなら出すんですから」

「事故も起きますよ」

「そりゃ、起きるでしょ。馬車だって、あったことですから」

「車は夢がある」

「この熱帯のような気候に、二酸化炭素を排出したら、さらに惑星は暑くなりますよ」

吾輩は二酸化炭素の量が地球の温暖化に拍車をかけていることを思い出した。

 

「わしは科学は未来を薔薇色にすると思っているんですよ。兄貴が言う極楽とか天国というのは科学が発達すれば、自然とつくられる」

「お兄さんの話には何か深い真実が含まれているように思われますが」

 

 「兄貴が数年に一回ぐらいわが家に立ち寄ることがある。半年前に来た時は、親鸞のことを話していたな。親鸞という坊さんが、ある惑星で還相回向された。そこで親鸞に会ったんだそうだ。わしはそんな話はよく分からんが。ただ、この惑星や色々な他の惑星だけが唯一の世界とは思わん。

おそらく、親鸞の言うような浄土はあるかもしれんという気はあるな。そんな素晴らしい所があるなら、霊界だの次元の違う世界、異界があっても不思議はない。しかし、そういう世界はいずれ科学が見つける。それまではそういう話はないと思うようにしている。

だいたい、過労死が十五人も出るあんな工場長の所に行って、何を見るつもりなんですか。好奇心もいい加減にしないと危ない目にあいますよ」

 

夕立が止み、暑い日差しが戻って来た。

我々は工場長の家に行く時間がせまっていたので、別れた。

 

 そうこうする内に、時間が来て、我々は工場長のお宅を訪れた。

 

工場長の家は郊外の丘陵地帯の林の中にあった。幽霊が出るにしては、小奇麗な家だった。しかし、地下室は工場長の書斎になっているようだった。前はここが寝室だったのだが、幽霊がでるので、寝室は二階にして、地下室は書斎になったようだ。それは噂である。

我々は工場長の口から、その話を聞きたいと思っていた。

 

「幽霊の話」と工場長は困ったような顔をした。大きな丸い目、横に細長い口、

茶色いあご鬚と口ひげの上の黒い鼻の周りが白く、肌は茶色というこのタヌキ族の工場長は吾輩猫族から見ると、美男子とは言えない、服装はGパンとタヌキのイラストが描かれたTシャツを着て、黄色いタオルを首にまいていた。

先祖を大事にしなければというのが彼の口癖と聞いていたが、こんなシャツにもあらわれていた。

「実はわが娘がうつ病なんですよ。地下の書斎にこもりきりなんで、仕方なくそこにベッドを入れているんですけど、そこで過労死した労働者の幽霊を見るというんです。それを、無理に散歩に連れ出した時に、近所の人に言うもんだから、皆信じてしまい、そんな噂が広まったんだと思いますよ」

 

 

「娘さんだけが見るのですか」

「私は幽霊なんか見ている暇ありませんよ。今日のように、銀河鉄道のお客さまが来る日はわが社の宣伝にもなりますから、別です。たいてい、早くて家にたどり着くのは夜の十時ですから、軽食を食べて風呂入って、パタンキューで寝てしまいますからね。

ただ、一度、不思議なことがあったな。

夜中にトイレに起きたことがあるんですよ。わしは丈夫な方で、夜中に起きることなんか滅多にないんですが、トイレに起きて、一階のトイレに行った時に、地下室の書斎の方から、変な声が聞こえてくるのですよ。わしは眠かったが、そこは娘のことが心配ですから、飛んで地下に行き、ドアをたたきました。

娘は「な~に」と言って、『起きていたのか』と問いますと、『今、幽霊と話していたんです。お父さんの会社で働きすぎて、ノイローゼになり、自殺した幽霊と』

そんなことがありました」

「それで、今は」

 

工場長はさらに困惑したような表情をした。「その時のことを思い出しますとね。こんな風に、娘は言ったのです。『え、ドアの音で消えてしまったわ』

わしは娘の部屋に入り、『どんな時に、そんな幽霊が出て来るんだね』と聞くと、

娘は『どんな時って。ただ、本を読んで眠くなり、うとうとしていると、山尾さんの声が聞こえるのです』と答えるわけです。

『山尾君。あの自殺した男』と聞くと、

『そうよ。それまでは、会社の中では、エリートだったわ。背も高く頑丈な身体つきをして、とても死ぬような人とは思えなかった。それがあんな風になるなんて』と悲しそうに答えましたね。

『しかし、何でカナエの所に出てくるんだろう』

『過労死だって言っていたわよ』

『過労死。あの頑健な男が』

『意外と、あの人、繊細なところのある人なのよ』

『お父さんの責任よ』

『わしの。わしの工場ではない。彼は本社の技術開発部にいたのだぞ。わしには関係ない』とわしは答えました。そのあと、娘は泣くんですよ。わしが色々言うと、幽霊でも会えて嬉しかったって、娘は言うのです。あの懐かしい顔も手も足もあるの。悲しそうな目をして、会いたかったと言うのです」

 

 吾輩は工場長の困惑しながら喋る表情を見ていた。タヌキ族の困惑した顔というのは少し滑稽味があるのだが、笑うわけにはいかない。

「それで」とハルリラが聞いた。

「わしの責任と言われるのにはまいったね。娘はさらに『だって。工場で過労死が十五人も出ているのよ、山尾君の幽霊が一番多く出るけれど。他の七人は寝入りばなに出て来るのよ』と言っていたな。

『何か言うのか』と聞くと、

『一言言うのよ。あの工場はひどすぎる。何とかするように』だって。

『山尾君は』と聞くと、

『彼は』とカナエは言って、涙ぐむ。

『だから、あたしに会えて嬉しかったって』

カナエは大きなため息をついて、『あたし、その時思ったわ。幽霊の方がリアリティがあって、あたしの方がその彼の言葉の中に溶けてしまったみたいだった』

そんな風な会話だったと思います」

 

「わしは心配になって、医者に連れて行きましたよ。医者は幻覚、幻聴だ。そんな幽霊などいる筈がない。娘さんは疲れているだけだと言う。

娘さんは恋人の死と仕事のストレスで精神が参っていたのだろうと医者は言うのですよ。

だから、娘の仕事をやめさして、今はやすませています」

「それじゃ、もう幽霊は出ないんでしょ」とハルリラが言った。

「や、それが山尾君のだけは、今だに出るようだ。あそこは書斎だから、寝室で寝るようにと言っても、本が好きなの、そうすると、うとうとしてくる。その時、懐かしの彼がでてくるのだから、あたしの居場所はあそこよと言うのだから、どうしょうもないですよ」

 

 「寝る時以外には出ないのですか」

「そうだね。一度、瞑想状態のようになって、ぼんやりして静かな音楽を聞いていた時、出たことがあるという話をしていたな」

「そうですか」

「それなら、私がそこにいて、幽霊を呼び寄せてみましょう」と吟遊詩人が言った。

「どうやって」

「ハルリラ君に霊媒になってもらうのです。彼は特殊体質ですから」

「そして、幽霊の恋人さんが好きな曲を僕がヴァイオリンで弾きます」

「それで幽霊が出てくるんですか」と工場長は言った。

「間違っては困るのは、興味本位では困るということです。もう死んだのだから、娘さんの所に出ないでほしい。娘さんが悩むから、とお願いすることなんです」

 

このことを工場長は娘に説明して、そのあと、吟遊詩人は娘に会った。

食事のあと、書斎に入り、娘さんが机に向かい、我々は横のソフアーに座り、

吟遊詩人はヴァイオリンを握った。

「『知覚の扉』という本を書いたハクスリーというイギリス人が地球にいた。彼によれば、人類の進化の過程で、我々の周囲の全ての風景を見ることが出来ないように、人間として生きて行くのに必要な所だけが見えるように知覚は制限されたというのである。この知覚のバルブを開ければ、見える風景が変身し、素晴らしい浄土が目の前に広がって来るのだそうだ。

このバルブを開けるには、座禅だの色々な修行があるが、ある種の音楽も人によっては、そういう効果を発揮することがある。私はあまりやったことが無いのだけれども、今回の場合、やってみるだけの価値があると感じた」

 

 全てが静かな中で、吟遊詩人のヴアイオリンが鳴り出した。最初は小川のせせらぎの音のように、そして時に小鳥の声のようで、森に響くような音から、さえずりの声、そして、猿の声、風の吹き梢を揺らす音が小川のせせらぎにまじって、聞こえて来る。吾輩は段々不思議な

大自然の中につつまれていくような気がした。黄金色の大きな蝶が舞うような気がした。それでまた、小川のせせらぎと小鳥の声。

突然、鳴り響く音、雷かそれとも野獣の遠吠えか、そしてまた静まりゆく、

吟遊詩人は半分目をつむっているようだが、しっかりと立ち、腕は確実に動いて行く。

あ、彼が歌い出した。

「私の病んで死んだのは夢

ペットの猫の病になった心労のためだろう

私は死んだのではなく、

にゃあにやあという声に消え入りたい気持ちになったのだ

いや、もしかしたら、外の森のざわめきとせせらぎと小鳥の声に酩酊して

それはまるで酒の酔いにも似ているようで

はるかに違う幽霊の道

ああ、今日も白い月が出て

美しい星がきらきらと空に輝き

私の自我忘却の病は幽霊のようでもあるが

天のわざとでもいえようか

ひと時の夢のようで

私は死んでしまうのだ

生と死の幽霊のような高台の上から

さて、銀河の街並みを見るとするか」

  

 

その時、部屋の隅のソファーに誰かが座っている。

「あら、山尾さんがいらしているわ。幽霊の山尾さんが」と娘が言った。

確かにその薄暗い隅の所に座っているように思われるのに、姿は見えない、誰もいないようにも見える。誰かが座っているという気配だけがある。我々もそれが幽霊だと直感した。

 

吟遊詩人はヴァイオリンを奏でながら、歌を歌いながら、足を幽霊の方に近づけ、そばに来て、止まったが、演奏は続けていた。

幽霊がこの世の声とは思われぬ不思議なか細い声で言った。「分かった。もう出ないよ。彼女の心をまよわすために来ていたわけではない。ただ、会いたくて来ただけなのだ。しかし、もう異界の身。人の心をまどわすのは罪なことだ。さらば」

 

 幽霊は消えた。吾輩の猫の耳にはあの幽霊の言葉が聞こえた。猫にこんな能力があるとは、吾輩生まれて初めて知った。しかし、それにしても、吟遊詩人の実力には脱帽した。

 

その間、居間では、弁護士と工場長が過労死問題を話していた。その後、さきほどの女課長とリストラを強要された社員との非人間的やり取りみたいなことはやめるべきで、会社の中に融和の精神を持ち込む方がみんなのやる気を起こし、生産効率が上がるという話をしているらしかった。

パワーハラスメントをやめること。

リストラをやめること。

労働時間の間に、休憩を入れ、長時間労働は厳禁することなどを弁護士は要求したのだ。

工場長は、「競争が激しいし、経営者の意向をわしが無視してやることは出来ない」というようなことを言っていたが、帰り際には、「弁護士の言うことは社長に伝えておく」ということを約束したので、今回の訪問はおおいに成果があがったということだった。  

                                                                                             【つづく】

        

 


 



                        【久里山不識】

 【今朝2019年2月 2日のニュースを聞いての感想】

米国の大統領はロシアとの中距離核戦力【INF】全廃条約から離脱すると正式表明したそうだ。

まさに、新たな核軍拡の始まりを感じさせ、キューバ危機を思い出させる。何故なら、米国、ロシア、中国の核軍拡が将来の悪夢を妄想させるからである。次の世代のために、日本は被爆国として、経済大国として、この三者の国の軍拡競争に傍観者であって良いのか。もっと、国民の平和への願いが政府を動かし、政府が三者の国の軍縮を進めるように働きかけはできないものなのか。そのためにも、憲法九条は守るべきである。そして、文化交流が大切である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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銀河アンドロメダの猫の夢想 38 【ブラック惑星に鐘が鳴る】

2019-02-16 09:33:59 | 文化

 

  その時、工場長室の方まで、鐘の音が聞こえてきた。美しい響きで、吾輩はまるでピアノ・ソナタ「月光」を聞いている時のような心持ちになった。

「どこから流れてくるのですか」とハルリラが言った。

「色々言われているのです。塔から流れて来るという人もいるのです。でも、塔は蜃気楼でしょう。もしかしたら、銀河鉄道からかも。

学校も鐘をならしますけど、こんな美しいものは流れてきません」と工場長が言った。

 

「なにしろ塔は蜃気楼だと思いますよ。でも、本物だという説もあるのです。

銀河鉄道は本物の可能性が高いですね。もしかしたら、鐘はそこから流れてくるのだと。定説はないのです」と工場長は言った。

そんな話をしている内に、塔も銀河鉄道も流れゆく白い大きな雲の中に入り、見えなくなってしまった。

 

「全ての物は蜃気楼のようなものだという考えもあります」とハルリラが言った。

たぬき族の工場長は大きな声で笑った。笑い方で始めて、たぬき族と分かった。それまでは、吾輩には彼がどこの民族か分からなかったし、あまり詮索もしていなかった。この国はどうも多民族国家らしい。

「私も蜃気楼です」とインコが言った。皆、どっと笑った。弁護士事務所の所にもインコがいたが、こちらは金色のかごに入った少し大きめのインコである。

「すごいインコですね」と吾輩は驚いて、そう言った。

「内のインコといい勝負だ」と首の長いキリン族の弁護士は笑った。

どうもこの国では、インコを飼うのが風習としてあるらしい。

 

吟遊詩人が微笑して言った。

「道元が何故、愛語という思いやりの言葉を重視したかは大慈悲心の教えからすぐ分かることだが、言葉というのは万物という物の創造にもかかわっているような気がする。ハルリラ君が言う、全ての物が蜃気楼というのはそのあたりから来ることだろうか」

「言葉は神なりきというヨハネ伝の有名な文句がありますからね」とハルリラが言った。

 

 「もし仮に、ヒト族に言葉がなかったら、周囲の物は言葉がある時のように目に見えるだろうかなんて、考えると、面白いね」と吟遊詩人が言った。

「ここにある花瓶も花もインコも蜃気楼のようなものということですか」と吾輩が言った。「そうすると、吾輩も蜃気楼になる。嫌だなあ」

  

「話が随分と飛びますな」とたぬき族の工場長がにやにやしていて、手で口髭をなでた。

「わが国では、」と、工場長が急にまじめな顔になって言った。「塔は蜃気楼。銀河鉄道は実在という風に皆、思っている。」

「確かにその通りです」と弁護士は微笑した。

 

ちょうど、吾輩達のいる部屋の窓から、軟らかな日差しが入り込んでいた。この惑星は温暖化が進んでいるのだが、この部屋の窓のガラスはそうした強い光をやわらげる工夫がされているようだった。

 

テーブルの周囲で、我々は椅子に座って、その美しい光に包まれ、花瓶にさされた花と、ロダンの「考える人」に似た小さなタヌキ族のヒトの彫刻を見ている。タヌキ族のヒトが何か深く考え事をしているのは何か滑稽な感じがするのは、タヌキ族が陽気な民族といわれているせいもあるが、吾輩、寅坊が猫族で無意識の内に、偏見があるのかもしれないと思い、恥ずかしいことだと思った。偏見は直さねばならないと反省するのだった。

 

 「外は地獄みたいだけど、ここだけは天国みたいだね」と吾輩、寅坊は思わずそう言った。

吟遊詩人は微笑した。

「そうさ。至福の時さ。まるで、森の中に差し込んでくる春の光に包まれて、素晴らしい気分になって、草地に寝転んで目に見える花を見ているような気分になれる。

先程の話の続きだが、言葉の働きが途絶えると、美しい瞑想状態に入り、ただ呼吸だけになる。

 

その瞑想が深まると、色々に細分化されて区別されている世界が虚空に包まれて美しい光に溶けてしまったようになることがあるのではないかと夢想することがある。

意識だけが、美しい様々な色の万華鏡のようなものにひたって、瞑想する虚空ともいうべき永遠のいのちの世界があるなんてイメージする」

吾輩は周囲を見回した。丸い焦げ茶色のテーブルの上に柿右衛門風の花瓶。その中に爛漫と咲いている黄色いらんに似た花の美しさ。彫刻。

そして緑と黄色のまだらな羽と赤い大きなくちばしを持つインコが鳥かごにいる。

白い壁にかかった風景画。

これらの物が溶け合うというイメージは、あのフランスの大詩人ランボーが見つけた海と太陽の溶け合う所にあった永遠と同じものなのだろうか。

 

 吟遊詩人は吾輩の想像を補うように、さらに話し続けた。

「つまり吸う息と吐く息に集中する瞑想あるいは敬虔な祈り、あるいは南無如来と唱えるのは、座禅と同じような効果があるのです。

つまり、ヒト族の持っている言葉の機能を停止すると、摩訶不思議ないのちの世界に入るのですが」

そこまで言うと、彼はため息をついてしばらく沈黙した。

「このあとは言葉で説明するのは難しい、あえて言えば、ポエムつまり詩のような表現をするしかありませんな。つまり、

慈愛の世界に入るのですよ。

大慈悲心の世界といってもよい。

そこでは、世界は細分化されていない。

一個の美しい真珠のような世界

その球は虚空とも霊ともいのちともいえる世界なんですよ。

人は愛する時、そのいのちを感ずる

生き生きした不生不滅のいのちを知る

だからこそ、瞑想や祈りと同じように、

人は愛さなければならないのです。

慈愛こそ、人生の奥義に入る道

大慈悲心こそ、生命の深い神秘の洞窟

その中に入る時、人は光に包まれる

いのちに満ちた、慈愛に満ちた

温かい光を深く感ずるのです。   」

 

 

タヌキ族の工場長はゲラゲラ笑った。

「地球の方は難しいことを考えるのがお好きなようですな。我々は金銭の勘定で毎日、過ごしていますから、今の話は夢のようです」

 

「課長の入っているGSウトパラは課長の言葉に影響を与えているのですか。それとも、これは会社の方針なのですか。プロントサウルス教の影響とは思いたくないですね。宗教の看板が泣きますからね」と弁護士は聞いた。

「さあ、私には分かりませんが、言葉が乱暴なことは私も気がつきます。GSウトパラという社交クラブの中身を正確に把握していませんから。

ですからね、影響があるかどうかは、私には分かりません。なにしろ、名門の社交クラブですから。会社は言葉に関しては特に指導はしておりません」と工場長は答えた。

 

「言葉が乱暴というのはいけませんな」と吟遊詩人は言った。

 

 「この国は、社交クラブが流行っています。まあ、人間がバラバラですからね。なんとかして、それをつなぎとめたいという社会的要求からこういうのが流行るのです。このこと自体は良いのです」と工場長は言った。

「そうですよ。関係こそ、人間にとって、いのちですからね。慈悲も愛もその間にある。」とハルリラが言った。

 

工場長は口髭をなでて、言った。

「我が国は奇妙な格差社会になっているのですよ。社交クラブに入るのにも、金とかコネとか、なにかしらのブランドが必要になって、これがまた競争をあおる社会をつくっているのですから、奇妙です。

社交クラブにはランクがあるせいでしょうね。上のランクのクラブに入ると、政治に影響力を持つことが出来る。競争に強い会社に入ることが出来る。上のクラブほど色々な特権が出てくるのですよ。

逆に、どのクラブにも入っていないと、そういうレッテルを貼られて、就職に不利になったり、様々なことで差別を受け、ワーキングプアの典型みたいになってしまうのです」

 

「人間がバラバラならば、組合というのも大切だ。ここの会社にはあるのですか」とハルリラが言った。

吾輩はリス族の若者を思い出した。

「ありませんよ。それに会社はそういうものをつくることを禁止しているのです。ともかく、毎日、ノルマに追われていますからね。ともかく、この国は競争が激しい。負けると路上生活が待っているのですよ。今まで、強い会社の社長だった人が天涯孤独になって、そういう生活に転落した話はけっこう耳にするくらいです」

 

その時、課長が工場長に挨拶に来た。

ハルリラが「あ、魔性のけものが来た」と言った。

狐族の男は怒ったような顔をして、「銀河鉄道の切符がとれないようになりますよ」と言った。

「ハハハ、あなたでも怒るのですか。そんなに言葉にデリケートな方なら、人にも不愉快な言葉を使うべきではありませんな」とハルリラは言った。

その時、女の事務員はコーヒーを持ってきた。課長は怒ったような顔をして、ハルリラをにらみつけて、出て行ってしまった。

 

 「みっともない所をお見せしたくはなかったですな。しかし、先ほども申しましたように、会社も厳しいので大目に見て下さい」と工場長が言った。

 

「工場を見せていただきたいのですが」と首の長いキリン族の弁護士がコーヒーを飲みながら言った。

「工場ですか。見て、どうするのです」

「こちらの方はアンドロメダ銀河鉄道のお客さんで」

「ああ、そうですか。そんな素晴らしい方がわが社を訪問して下さるとは光栄のいたりです。見せるのはよろしいのですけど、中は暑いですよ。

五十度近くになることもあります」

「それでは従業員はまいりませんか」

「ええ、交代制にしておりますし、休憩室には扇風機がありますから、そんなに不平はでていません」

 

工場の中。外も三十度あったが、その時の中の温度は四十五度。いきなりむっとする空気で息をするのに、しばらく訓練が必要と感じるほどだった。

大きな輪転機のような機械が二十台ほど回転している。輪転機のまわりには紙がへばりついている。

白に染めているのだろう。回すのは電力だが、石炭の火力発電所が中心で、それもそういう電力そのものがまだ発明され、使われるようになったばかりのもので、時々、電圧が下がって、輪転機が止まってしまうという話だ。

その輪転機の周りで、機械を立ったまま操作している工員はシャツ一枚で汗だくであるが、真ん中にあるガラス張りの指令室の中には、大きな扇風機が回って、一人の男が座って計器を見ている。

 

「司令室のように、扇風機を入れることは出来ないのですか」

「いや、扇風機は高価でね。そんなことをしたら、会社の収益にひびきますよ。

この業界も競争が激しいですから、なるべく美しい使いやすい紙を大量につくらなければならないのですから」

「工員は労働力を暑さで消耗するでしょうけど、司令室は楽というわけで、社交クラブだけでなく、ここにも格差社会の現実がありますね」

そう言う弁護士に、工場長はまゆをひそめた。

 

帰り際に、工場長の家に招待された。

「銀河鉄道の方がわが家を訪れてくれるのは名誉なことですからね」と彼は言った。

しかし、我々は返事は電話でするということにした。

電話機が家にあるのは裕福な家庭というのが、この惑星の文明の状態だった。

しかし、電話ボックスはいたる所にあるので、色々な連絡は可能だった。

 

我々は会社を出た。大通りはケヤキのような太い幹の樹木の並木になっていた。花壇もあり、ハンキングバスケットには、目のさめるような赤い美しい花が咲いていた。先程の貧乏な道と大違いなので驚いた。

 

 日差しは強かったが、地球の東京の夏とさして変わりがない気候だった。ただ湿度がそれほど高くないので、助かるが、オゾン層が薄いので、皮膚がんや白内障と目をやられる人が多いので、殆どの人がサングラスをかけ、長そでのシャツを着ていた。

 

弁護士は言った。

「弁護士が工員に組合をつくることの大切さを教えなければならないのです。手を結ぶことの大切さを教えるのです。みんなバラバラですからね」

 

「どうしますか。あの工場長の家を訪ねるのは」

「ブラック企業の工場長の家でも、勉強になりますよ」と吟遊詩人は言った。

「あの家はね、ちょっとこの惑星でも特殊でしてね」

「特殊」

 

「そう、彼の家には幽霊が出るという噂があるんですよ」

「え、幽霊が」

吾輩は銀河鉄道での猫族の娘の幽霊を思い出した。

「何でまた」

「過労死した人の幽霊が毎晩、かわりばんこに出るというんです」

「え、そんなに過労死しているんですか」

「もう十五人ですよ」

「それが変わりばんこに、毎晩でる」

「そうです。奇妙な家でしょ。でも、これは噂ですからね。噂は本当のこともあるが、偽情報のこともある」

「だいたい、幽霊なんて、この惑星には出るんですか」

吾輩は、アンドロメダの惑星で、過労死した人の幽霊が出るというような話を聞くのは初めてのような気がして、そんな質問をした。

「ありますよ。電話機が発明されたり、扇風機がまわったり、蒸気機関車が走ったり、まあ、今や科学の世紀。それでも、不思議に幽霊は出るんですよ」

「地球ではそういう話はまゆつばもの扱いされるんですけど」

「ああ、地球ね。聞いています。わが惑星の宇宙天文台は他の科学よりは極度に発達していますからね。宇宙インターネットにも通じることが出来ますし、その内容を新聞に流しますから。でも、これもね。幽霊の話と同じで、信じる人と信じない人がいるんです」

「そうですか」

「銀河鉄道はみんな信じているんですか」

「はあ、不思議なことに銀河鉄道はみんな信じているんですよ。宮沢賢治がつくったものですからね。あの方は全ての人が幸せにならなければ自分の幸せはないとおっしゃった。こんなことを言う人は仏様ですよね。

我が国は無宗教の人が多いのに、意外と宮沢賢治のような人は信じちゃうのですから、不思議です。

私も銀河鉄道は実在するものと信じています。蜃気楼ではありません。

ただ、どこかに、霊的なものが含まれているような気がして、そこのお客さまはそういう高貴な人達という気持ちになってしまうから、不思議です」と弁護士は言った。

 

 我々はそこの工場長の家を訪ねることになり、電話ボックスから連絡した。

「名誉です」と工場長は三回もそう答えた。

 

 

                            【つづく】

 

 

 

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久里山不識のペンネームでアマゾンより短編小説 「森の青いカラス」を電子出版。 Google の検索でも出ると思います。

長編小説  「霊魂のような星の街角」と「迷宮の光」を電子出版(Kindle本)、Microsoft edge の検索で「霊魂のような星の街角」は表示され、久里山不識で「迷宮の光」が表示されると思います。

 

 

 

 

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