空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの猫の夢想  43 【真珠のようないのち】

2019-03-24 09:45:05 | 文化

 

   オオカミ族の一人が銀河鉄道に向けてピストルを発射した。花火のような音をたてて、幻の邸宅と銀河鉄道の間に、美しい大きな一輪の花をひらかせ、さっと、再び手の中にピストルがにぎられた。

                                                                        

「我々を脅かしているようですけど、一方で、我々を楽しませてくれているようにも思える。嫌がらせもあるかもしれませんが、滅びて幽霊となっても、オオカミ族の誇りというものがありますよ。

昔の栄華を懐かしんでいるのかもしれませんよ」と吟遊詩人が言った。美しい微笑の持ち主である詩人の心には、悲しむ者、滅びる者への哀惜の情があるに違いない。

吾輩は平家物語の冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色」を思い出し、その花を思い浮かべた。

 

         【 沙羅双樹の花 】

「そんな寝言はどうでもいい。オオカミ族の幽霊がピストルを持っているということが一大事なのだ。それが分からないのか。最初のは花火でも次は実弾というのが彼らの手口なのだ。我らネズミ族はあの戦法に随分と悩まされたのだ」とネズミ族の官僚は震える声で、そう言った。

 

「しかし、相手は幽霊よ。実弾といったって、幻のようなものよ。花火と変わりませんよ」とフキが言った。

「幽霊でも、実弾は実弾です」

「そんな幻影におびえているから、長いこと、鎖国なんかしていたんでしょ。

もっと、国を広げ、武器をわがヒットリーラ閣下のおられる惑星に輸出して下さいよ

そちらの高い工業科学技術も。

そんな風だから、こんな妙な坊さんに嫌疑をかけられるんですよ」と虎族のフキは言った。

 

  「嫌疑は分かった。しかし、証拠がないだろ。ないのに、そのような詰問は無礼だ」ネズミ国の官僚はさらに震える声でそう言った。

 

「君達のお得意の戦法だろう。証拠が見つけにくいようにやるというのは」

「当たり前ではないか」

ミチストラモトは喋った。「確かに地上的な意味での証拠はない。君達の見ているのは金とネズミ王国の物質的な繁栄だけだ」

「それがどうしたというのだ」

「幽霊列車におびえているのは、君の顔にそれが出ている。

そんな幽霊列車はわしの一括で消してみせるわ」

「ハハハ。大きく出たな。出来るかどうか、やってみな。出来たら、君に少し協力しよう」とタヌキ族の軍人が言った。

 

  ミチストラモトは「生死はみ仏の御いのちなり」と言ったかと思うと、ガーと大声を出した。

その声はライオンの咆哮のようで、銀河鉄道から窓を伝わって、遠くへ響きわたった。

誰かが「王者の声だ」と言った。

不思議と白い煙も幽霊列車も消えていた。オオカミ族の幽霊も消えた。ただ、知路だけが樹木の木陰に隠れるように呆然と立っていた。

ネズミ王国の官僚は驚いたような顔をしていた。しばらくすると、知路は横笛を静かに吹いていた。

 

 「ふん、味なことをやるな。

まあ、じゃ聞いてやろう。何を俺たちから聞きたいんだ」とタヌキ族の軍人が横柄な口調で言った。丸い目の中に驚きの表情があった。

「あの事件の起きた深夜、あなたは何をしていたのかね」とミチストラモトが聞いた。

「寝ていた」とタヌキ族の軍人が言った。

「私も寝ていた」とキツネ族の官僚が不愛想に言った。細い目をさらに細めた。

「秘書は ? 」

「秘書だと。そんな者は連れてきていない」とネズミ族の官僚は言った。

「ハハハ。すると、隣の列車に乗っている美人のネズミ族の女の子はアルバイトですか。彼女がシンアストランの弟に接近したのでしょ。そして、その珈琲カップにヒ素を入れた。そうでしょ」

吾輩は毒物のことはあまり知らなかったので、青酸カリとかアガサクリスティーのミステリーに出てくるタキシンとか、地下鉄サリン事件のサリンとか、有名な名前だけがぼんやり浮かぶだけだった。

 

「随分と飛躍した話だな」

「ネズミ王国は高度の文明はあるけれども、文化はない。みな金と権力の亡者ばかり。そういう連中は自分の持っている悪に気がつかない。自分の悪に気がつかない程、愚かなことはない、これは親鸞の教えの中にもある。

法華経の教えにもある。法華経の「如来寿量品」には「このもろもろの罪の衆生は 悪業の因縁を以て」と書かれている。

このヒトの悪は 犯罪を引き起こす。そして、やがて戦争を引き起こす。」

 

  その時、どこからか風鈴の音が聞こえた。列車の中には、風もない、それなのに、風鈴の音がする。そよ風のように、ピアノの美しい音のように、花に宿る朝露の一滴が落ちる音のように、それは不思議にも、吾輩の心に響いた。

そして、真紅の丸い夕日が窓の外に大きく見えた。アンドロメダ銀河にもこんな瞬間があるのだと、吾輩は思って、感動した。

 

心なき身にもあわれは知られけり しぎたつさわの秋の夕暮れ【西行】

 

  シンアストランの弟はネズミ王国の軍備輸出に反対のアンドロメダ組合に属していた。この組合はスピノザ協会とも連携をとって、ネズミ王国の鎖国から、武器輸出を作動させる虎族フキの陰謀を早くからキャッチし、これをくいとめんとしていた。

ネズミ王国はキツネ族の惑星とブラック惑星に、優秀な銃と原発に関連する技術を輸出しようとし、一方、マゼラン金属の取締役で虎族のフキは仲介の仕事をしていた。

シンアストランの弟はそれを阻止せんとする役割をになっていたようです。

彼らの情報を仕入れ、ブラック惑星に脱原発キャンペーンをはることを企画していた。

 

「君達がこれをかぎつけ、シンアストランの弟をこのアンドロメダ銀河鉄道に誘い出し、彼を殺し、商売の密談も一挙にやってしまうということで、このアンドロメダ銀河鉄道が選ばれた」とミチストラモトは言った。

 

さらに、ミチストラモトの話によると、シンアストランの弟ははめられたのです。シンアストランの弟を誘い出すのは 商売の密談がある、という情報をわざと彼のそばに流す。それで、彼は飛びつくようにして、この列車に乗った。フキとネズミ王国の官僚とキツネ族とタヌキ族の男が銀河鉄道に乗り合わせるという情報は正しいが、わざと流されたのです。おびきだすために。彼はいさんで、この四人の談合を阻止する狙いで乗った。

 

「刺客はネズミ族の連中だとわしは見当をつけた。この列車には十人のネズミ族の連中が乗っている。わしはあの飛び切りの美人に的をしぼって、この話を聞き出した。わしは警察でないから、これ以上は追及はせん。

ただ、これだけは言っておく。

彼は微量の砒素によって、殺された。こういう微量の砒素を薬のように包んで、持てる技術があるのはネズミ王国でなくては出来ないと思っている。あそこは優秀な科学技術が発達しているだけでなく、武器も極限にまで発達している。」ミチストラモトは喉の奥でうなるような声を低く出して、そう言った。ライオン族が真剣になった時の癖のようだ。

  

それから、ミチストラモトはべらべらと一気に喋ると、ほつとため息をつくような語り口をした。

その話の中身によると、

地球の日本という国での地下鉄サリン事件にヒントを得て、非常に小型化したものをネズミ王国はつくっている。あれはオウム真理教という宗教勢力が引き起こしただけに、世間を驚かせ、教祖の周囲に集まる弟子が理系の秀才が多かったので、何故だろうという不安が広まったことが

宇宙インターネットにも掲載されている。

「ネズミ王国の文明は魔界メフィストの悪の精神がよく染み込んでいた。核兵器の小型化と一緒に、砒素やサリンを小型の容器に納め、一種の兵器を作り出したことはわしも知っている。原発もお手の物。これを地震の多いブラック惑星に輸出するという計画もシンアストランの耳に入ったのだから、彼はそれを阻止せんという勇敢な行動をとろうとした。

それだけに、こういう紳士であるシンアストランの弟に砒素を使うとは、恐ろしいことだ。」と言うミチストラモトの目は悲しげだった。

 

  ミチストラモトは一息つぐと、さらに少し声を大きくして続けた。

「たがな、君達の陰謀からアンドロメダ銀河を守ろうとする人達の勢力の方がはるかに、力が大きいということだ。それは愛の力。大慈悲心の力だ。わしの修行もやっとそこまで分かるようになった。銀河をささえているのは愛なのだ」

「何だ。それは目に見えないではないか」とタヌキ族の軍人が言った。

「目に見えない愛の力、大慈悲心の力がいかにこのアンドロメダ銀河で大きいか、君達は知らないだろう。魔界メフィストの悪の手先になって、満足していると、そうなるのだ」

  

さらに、ミチストラモトは話し続けた

「ネズミ王国に他の惑星のヒト族が入ることは、鎖国が国是であるし、ネズミ王国の高度の文明をよそにもらしたくないという思惑がある。

しかし、武器だけは彼らのよりは少し劣ったものは輸出し、儲けたいという事情があつたのだろう。マゼラン金属の取締役で虎族のフキさんの方では、ここにキツネ族の官僚とブラック惑星のタヌキの官僚を集めて商談をしてしまえば、一挙にできるという思惑もあったのかもしれない。

しかし、それはアンドロメダ銀河にとっては、悪だ。」

  

「あなたはシンアストランと同じような力を持っている」とハルリラは言った。

かって、シンアストランが猫族の霊を馬族の先生の身体から追っ払ったことを思い浮かべたのだろう。

 

「真理は一如である。真理をめざし、修行を積めば、無明におおわれた幻影を追っ払うことが出来なければならない。」とミチストラモトは素晴らしく誠実な表情になって言った。

「わしは道元系の寺で、座禅をずっとやってきた。

まだ道半ばであるが、少し光が見えてきたからのう。

オオカミ族が滅びたのはやはりヒトが全てのヒトに罪を持つという考えがなかったせいではないかな。

罪の解釈は宗教的には真理に暗いという事だろうし、これを無明ということもある。そのことから、人に迷惑をかける行為や人を傷つける行為が出てくるのだから、いじめやハラスメントや悪口やストーカーも罪ということになる。ただし無宗教の人では、法律で罰せられる行為だけが罪ということになろう。

しかし、そうだろうか。人類の歴史以来、戦争が起きるので、人が人を傷つけることがいけないという思いがあり、日常の礼節が大事されてきたのではなかろうか。

ヒトはエゴの塊であり、組織もエゴの塊になる傾向にある。そこから、争いの火種がでてくる。法律上の罪だけでなく、人類は宗教的な罪も考える時がきているのではないか。良心に恥じる行為をしてはいけないとか、卑怯なことをしてはいけないとか、いうのはヒトの心の法則だ。

 

エゴというのは人間の言葉がつくっている。ハクスリーが言うように、人間として生まれ落ちた時に、人の脳は減量バルブ【ヒトが生きるのに不必要なものを捨てる】となって、真如【真理そのもの、一如、法身】さえも、この娑婆世界で生きるのに必要なもののみが現象するようになった。

この脳こそ、理性とか感性としての役割をなしている。

しかし、このことによって、ヒトはエゴの塊となり、他者と対立するリスクを背負ったのだ。

 

本来は道元の言うように、全世界は一個の明珠である。分かるでしょうか。

南無如来と唱えてごらんなさい。座禅をしてみなさい。頭の中の妄想が消え、

風景と私との垣根が取り払われると素晴らしい世界が見えてきますよ。

  

宇宙はあるいは世界は、というべきか、それは真珠のような美しいいのちに輝いた珠であるということです。

それは生命そのものです。

神の霊そのものです。神仏そのものなのです。

 

 法華経には「如来の室に入り、如来の衣を着、如来の座に坐して

しこうしていまし四衆の為に広くこの経を説くべし。

如来の室とは一切衆生の中の大慈悲心これなり

如来の衣とは 柔和忍辱の心これなり」と書いてあります。

  

だからこそ、愛語が大事なのだと思います。人の悪口を言うのは宗教の精神ではありません。

汚い言葉を使うのは 魂の堕落した証拠。

本当の真実を実感できれば、言葉は、真理を指し示す指。それだけに経典の大切さが分かるではありませんか。又、経典を読んでも、堕落した言葉を使うのは、論語読みの論語知らずです。

だからこそ、修行も大切なのです。それはともかく、月という美しい真理を指さすのが神仏の言葉です。

  

実感して下さい。身体で知るのです。心身脱落です。

目覚めましょう。

座禅をして南無如来と唱えれば、世界は宝石のように美しいのです。

 これに気がついた時、法然がおっしゃつたこと、親鸞がおっしゃつたことは真実であると実感しました。道元の座禅も同じです。」

 

吾輩はミチストラモトの表情の豊かな変化に魅せられ、静かな語り口と激しい語り口の入り混じる講釈に圧倒されていた。それでも、彼の口から、親鸞に似た考えが出て来ることに不思議な思いを抱いていたが、聞き終わると、それもまた又、当然のことなのかもしれないと納得するのだった。親鸞と道元は同じお釈迦様の悟りから生まれた深い教えなのだと。

ふと、吾輩はすっかり忘れていた知路を思い出し「知路はどこに行ってしまったのかな」と突然気がついたように言う。

「知路は我々が話に夢中になっている間に、消えたよ。美しい金髪の真ん中にかすかに見えていた銀色のつのがなくなると、緑の目が黒い目になり、黒髪になり、昔の知路に戻って消えた」とハルリラが答えた。

「彼女の笛と私のヴァイオリンの音色が神聖なものを呼び覚まし、メフィストの魔力を麻痺させて、知路の珠玉のような心が彼女を復活させたのだ。」

「え」と我輩は思わず感動し、知路は詩人を愛したのだ、それで、メフィストの呪縛から、解かれたのだ、真の愛には、魔界メフィストの力もなすすべをもたなかったのだと思った。

【了】 

 

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