もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

アメリカとタリバンの和平調印を学ぶ

2020年03月01日 | アメリカ

 アメリカとタリバンの和平合意調印が報じられた

 和平合意の詳細は不明であるが、タリバンがアフガン政府(ガニ政権)と和平交渉の席に着くこと、アメリカが駐留米軍を段階的に縮小することと観られている。しかしながら、再選のために駐留米軍縮小・撤退という実績を必要とするアメリカ(トランプ大統領)に対して、既に国土の半分近くを支配下に置き、さらに勢力拡大が見込めるタリバン側には和平を急ぐ必要がないことから、一時的な小康状態以上は期待できないという見方が一般的である。タリバンは、1979年から1989年まで続いたソ連駐留軍の撤退後、内戦状態に陥ったさなかの1994年に「神学生」を中心としてパキスタンの支援を受けて誕生した組織とされている。厳格なシャーリア法を以て政権の腐敗摘発や治安の回復を成し遂げたことから着実に勢力を拡大し、1996年には首都カブールを制圧して「アフガニスタン・イスラム首長国」を樹立させた。しかしながら女性の就学・労働を禁止、偶像崇拝禁止教義によるバーミヤンの仏像遺跡破壊等の厳格なイスラム原理主義施策と、2001年9月米国同時多発テロ事件の首謀者ビン・ラディンを保護下に置いたことからアメリカ(同盟軍)の介入を招いて、同年12月には最後の拠点であるカンダハルを放棄して崩壊したとされたが、ケシ栽培保護による経済的利益によって農村部を中心に支持を維持・拡大するとともに、麻薬によって年間30億ドルともされる豊富な資金を以て、前述のように現在でも国土の半分を依然として支配している。このように有利な情勢でありながらタリバンが和平に合意したのは、米軍の縮小によって政府軍の弱体化が見込めるとともに、ガニ大統領(大統領選不備のために任期延長)の政権基盤がさらに弱体することを期待しているものと思う。近年のタリバンからは女性差別の緩和等、往時のタリバンとは変質した一面も発信されていることに加えて、アメリカとの和平で政府との和平交渉を有利に展開し都市部や知識層まで取り込んで、民主的手続きによる政権奪取も可能との見方に立っているのかも知れない。

 アフガニスタンの歴史を見ると、常に戦乱の歴史であり国家の成立も何時と解釈して良いのか判らないほどである。2001年にカルザイ暫定政権発足後、アフガンの安定と復興のために西側の援助が急増したが、開発途上国の例にもれず援助の多くが高官の懐に入り、腐敗と貧富の格差が急増したことがアルカイダ勢力拡大の一因ともされている。見返りを求めることなくアフガンの緑化と灌漑に努めていた中村医師が殺害されたことに見られるように、アフガン国民の求める正義とは何だろうかと思うと同時に、西側社会の尺度とかけ離れたアフガンの混迷は留まることがないように思えるのだが。


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