寒い夜に読書する際、ひざ掛け毛布をパジャマの上から下半身に巻き付けて暖を取る。
腰に巻くたびに「オトコもすなり、ほっこり湯文字」と、一人でニヤついている。
湯文字は平安時代の御湯殿(宮中の風呂)に奉仕する女官が、活動しやすいように袴の代
わりに身に着けていた「湯巻」と呼ばれる白い巻きスカートのようなものが起源とか。
やがて湯につかるとき赤い布を腰に巻くようになり、江戸時代になって和服の下着として
普及したらしい。
小学生のころ、田舎のお袋や祖母が愛用していて庭に干して翻っていたのを覚えている。
男とは縁のないもので、もしそんな湯文字を男が愛用していれば、それはかなりのヘンタ
イでしょう。
冬の夜な夜な「湯文字スタイル」で悦に入っている私も、かなりヘンタイ?
その湯文字のちょっと可愛いお話。
直木賞作家の朝井まかてさんの「晴れ湯」という短編に出てきます。
江戸の神田松山町で松乃湯という湯屋の一人娘お晴(10歳)が両親の稼業を手伝って、
金太郎みたいな赤い前掛けをつけて流し場で、湯客の背中からお尻まで糠袋でせっせとこ
する三助をしている。
首の後ろでひもをくくり、腰に裾短かに巻き付けた赤布は、おっ母さんの湯文字を自分で
ちょきりと鋏で切ったものだ。
赤い前掛けを見たおっ母さんは、自分の湯文字を切られたことに腹を立てた。
「また勝手に、そんなことをして」「もったいない」
「あたいは別に素裸でもいいんだけど、裸ばかりの中で裸でいても目立たないから」
お晴が言い張ると、おっ母さんは「それもそうだけど」と首をかしげた。
「だけどお晴、本当に三助なんてできるの」
(中略)
「できるの」おっ母さんはもういっぺん訊ねた。
「アイサ、できます」
母と娘のまったりした会話が微笑ましい。
そのおっ母さんは、家業を顧みない極楽とんぼの亭主に「お前さんを遊ばせるのも女房の
甲斐性」と言ってはばからない、気風よい肝っ玉女房でもある。
「男の湯文字」のヘンタイ日記からそれてしまったが、ほっこりさせられる江戸の湯屋一
家の物語。
詳しくお読みになりたい方は、時代小説アンソロジー「商売繁盛」(角川文庫)をどうぞ。
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