福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

曖昧化の七つの手法:大本営発表の作りかた

2011-04-01 13:38:09 | クロスオヴァー
今回の原発事故では、メディアは真摯で誠実な情報提供したとはいえないことは、いまさら強調するまでもないでしょう。いまや週刊誌などでも「大本営発表」というなつかしい(!)表現が満ちています。情報を隠す、正確に与えない、一方的な観点しか提示しない、等々、メディアの姿勢はもうだれにでも見透かされてしまっています。では、彼らはどんなふうに「大本営発表」を製作しているか、ここでは、「重大なことを意図的に軽く扱うこと、たいしたことではないと思わせること」、すなわち「矮小化・卑俗化・曖昧化」の手法をランダムにご紹介します。

1.異常なものを日常的なものと同様に扱う比較・比喩(メタファー): La,la,la,la,life goes on!
「放射性物質は花粉と同じだ。放射線対策には花粉症対策と同じことをすればいい。」こんなふうに言えば、花粉の日常性が放射線被爆の安全性を保障するかのようです。「ニューヨーク東京間の航空機旅行(往復)による被爆」、そして今や国民的常識(!)となった「CTスキャンによる被爆量」が「だれでも日常的に経験する可能性があるもの」として引き合いに出されます。「タバコのほうが危ない」というのもありましたが、これはダイオキシンなど環境問題でもよく使われました。さて、この部門のオスカーは、東京大付属病院で「終末」医療をご担当のDr.“ストレンジラブ”中川恵一先生に差し上げたいと思います。いわく、

『そもそも「被ばくした」「被ばくしていない」という議論はナンセンスです。なぜなら、私たちは、普通に生きているだけで、必ず「被ばくしている」からです。・・・・・世界平均では、年間約2・4ミリシーベルトの放射線を浴びます。』

「お客様のご契約では、基本料金が月々2,400円発生いたします。「普通に生きているだけで」どうせ2,400円かかるのですから、月々のコストが高い・低いなどという議論はナンセンスです。どうか安心して、つまり「普通に生き」ることをあきらめて、こちらの5万円プラン、10万円プラン、15万円プラン(よろしければ「終末プラン」もございます)に追加契約ください」などという営業トークに引っかかる人はいません。

2.人生は運しだい:確率のたわむれ
終末ドクター中川恵一先生は、放射線でガンが増えるといっても、それはたった0.5%「だけ」に過ぎず、もともとのガンの確率50%が50.5%になる「だけ」だと、マッドサイエンティスト的なたんかをきっています(過去記事「Dr.ストレンジラブ先生の終末医療」をみて下さい)。あなたがその0.5%にはいるかどうかは運しだい、でも、0.5%なら「まずオレはだいじょうぶ」などと思ってしまうセコイ抜け駆け精神につけこまれます。
もう一つ、終末ドクターよりはなんだか、ほんわかとしている47Newsの前川静剛氏の「放射線ピンポンだま当てゲーム」論をみてみましょう。氏によれば、放射線は遠くから飛んでくるピンポンだまにたとえられ(この点では上の1の事例)、放射線被爆は、

『そのピンポン球があなたの身体のあるポイントに当たるとあなたの負けというゲームだ。・・・・・・「確率的に影響がでる」、というのは運次第で当たる人もいれば当たらない人もいる、ということだ。発がんや遺伝的影響がそれに当たる。』


だれもが「当たるか当たらないかは、運次第とも言える」命がけの「ゲーム」に無理やり引きずり込まれる。何だかこの人にはやけくそのブラックユーモアを感じる。それに、乳幼児や胎児ははどうやって「ピンポン球」をかわせばいいのだ?「運」のないものはあらかじめ決められているのではないのか?

3.行く川の流れはたえずして、しかももとの水にあらず:一過性の罠
大気中に原発由来の放射線が観測され始めて数日、3月20日のNHKスペシャル「東北大震災から10日」で岩本裕解説委員は、観測された「毎時」の放射線量を1日=24時間で「かけて」いる人がいるが、それは「正しくない」とお叱りになった。なぜなら、観測された「高い」値は「一瞬」のものであり、その後は下がっていったからだ。確かに、岩本委員が提示したグラフをみれば、この1日のデータに関しては、発表された数値よりもその後、線量が低下したのが見て取れる。しかし、岩本氏のお叱りは放射線量を累積で考えることを禁じ、そうした議論を「風評被害」と切り捨てる論法につながる。岩本委員の「正しくない」という科学的断定は、今後放射線量は、この「一瞬の高い値」を示した後にはずっと低いままである、という前提を私たちに押し付ける。官房長官や毎日・斗ヶ沢記者の「現時点では」も同じことだ。しかしこうした論法は、1週間もしないうちに公的な「累積被爆」の推定で馬脚を現した(過去記事「福島原発事故メディア・ウォッチ:毎日新聞記者の狂った目(つづき)」をみてください)。万物は流転する、明日のことなどわからない。24時間先のことを、あの1時間のことで判断してはいけない・・・。

4.くそみその下克上:重要度の混乱
3月28日といえば、2号機タービン建屋の水から通常運転時の1,000万倍の放射線量が測定されたと0時過ぎに発表され、それが後に訂正され(それでもいぜんきわめて高い数値)たが、午後から夕刻にかけて建屋ばかりでなく、そばのトレンチにも同様な高レベルの汚染水が見つかったという深刻な事態が続いた日だ。その夕方のYomiuri Online 「総合トップ」の一番上(第1面)には、このニュースを伝える見出し「2号機付近の地下、水から高濃度放射線観測(2011年3月28日18時00分 読売新聞)」が躍ったが、奇妙なことのそのすぐ下に「アエラ表紙に抗議、野田秀樹氏が連載降板(2011年3月28日18時06分 読売新聞)」という見出しが並んだ。重大な放射能汚染に直結するかもしれない事態の報道を前にしては、人気劇作家の執筆拒否など、野田氏には失礼ながら、情報としては「みそ」のほうではないだろう。そして、このトリビアに属する記事の追加は、情報の重要度のスケールをかく乱し、重大事の報道が伝える事態の重大さを見事に緩和する。毎日のトップ面の記事リスト構成も同様だった。あらゆる機会をとらえて、ライバル社のスキャンダルをあげつらうのが販売戦略の常道だとしても、この節操のなさは、彼らの危機管理意識の低さを反映している。

5.歴史を動かす個人:ゴシップで薄める放射能
読売新聞は3月29日、「ざっくばらん」班目委員長発言に官邸ピリピリ」という記事を掲載し、この班目(でたらめ)委員長の首相批判を取り上げている。しかも、この話題の記事は22日を皮切りに、28日に一度、29日に二度としつこくフォローされている。肝心の正確な放射線量とか、冷却水漏出ルートとか、圧力容器・格納容器の損傷程度とか、燃料棒の損傷程度とか、日々時々刻々フォローしなければならないはずのデータに関しては当局が設定する記者会見任せなのに、こういうことになるとなんとマメなのだろう。当局の内部でそろそろ責任のなすりつけあい、ババヌキのスケープゴート探しが始まったか、と状況の退廃ぶりを感じさせるこうした話題は、個人間の葛藤を持ち出すことで、事態の原因・展開を心理化して矮小化し、その構造的な性格を隠蔽する。「あのやろう、アホだな、それにこっちの方だって、偉ぶって気にいらねなー」と居酒屋でくだまく親父たちは溜飲を下げるのである。

6.切り捨てごめん、でも、お話はあくまでやさしく:「ストンと落とす」フェイント話術
「健康にただちに影響がない」というのは、新聞人テレビ人にはだいぶ評判が悪かったようで(過去記事「この表現は私たちの意識にただちに影響するレベルです」参照)、NHKは25-26日あたりから「ただちに」をやめた(30,31日の21時ニュースウオッチでも確認)。日経は、ちょっと差異化を図って、「ただちに」の変わりに「ほとんど影響ない」というニュアンスを採用。放射線量が高い値を示したときは、「一定量」(「日経・朝日の「極端な一定量」参照」)と言い、「1,000を超える」「1,000以上」はいつの間にか「1,000ぽっきり」になる。原子炉の「穴」はまずい。「損傷」としよう。それにもいつもの「可能性」がつく。もっとすてきなのは、「穴が開いたというイメージ」。どんなパステルのばら色イメージなのだ?挙句の果ては「汚染」水とはまずい、などという。では、どうするのだ。「放射能含有水」「放射線親和水」「放射線源泉水」なんて言うのか?彼らがどんなにこうした細部の工作に気を使って工夫を凝らしているか、一例を次の記事でご覧に入れましょう(図が大きいので別記事にしました)。私たちを欺くためにお仕事をしているとしか思えません。

7.放射能をも飲みこむ知のブラックホール:問題の空洞化
「円形の避難範囲を決めること自体が難しい」-これが日米の非難範囲の違いを解明すべく書かれた解説の結論です(過去記事「いったい何が言いたいの? What is your point, Mr.Katsuta ?」参照)。容器内の圧力の上下について、さんざん議論しても相手が納得しないとなると、最後の最後に「圧力計が壊れているかもしれない」。そういうことなら、最初から圧力がどうの、といってもしかたないだろう・・・こんな上司やセンセー方が、みなさんの身近にもおられませんか。「想定外」といって恥ずかしげもなく居直る人。だれよりも幸せな人、訳もなく空いばりの人・・・・。これは、知的・文化的な「シンボル操作」を旨とする、学者やジャーナリストたちの得意技である。科学と教養の権威で、正統な議論をはぐらかし、混乱させ無力化する。具体例は、後日ご期待とさせてください。


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