あのガキを送るのはあなた

息子デンゼルが中学生の頃には、年二回から三回くらいの割合でＰＴＡの交通当番が回ってきた。

でかい旗を持って横断歩道の前に立つのだが、このたかだか30分の間に送迎の車をじゃんじゃん見かけた。

中高生の我が子を駅や学校に送り届ける親（大多数は母親）の車である。

我が子を遅刻させず送り届ける日課を使命とした親の車は、横断歩道で止まる余裕はない。

止まってくれるのは、たいてい自営業のおっちゃんワンマンカー。

旗で学生らをせき止めながら、車の往来を確かめていると、こんな替え歌が浮かんできた。

かなり古いが、和田アキ子のレコード大賞最優秀歌唱賞受賞曲 「あの鐘を鳴らすのはあなた」のフレーズ。

♪ 街は今～ 眠りの中～ あの鐘を～ 鳴らすのはあなた～
という歌詞が、

♪ 街は今～ ラッシュの中～ あのガキを～ 送るのはあな～たぁ～

顔見知りのあの方、この方が子を乗せて走り去る姿に無事を祈りながら私は、時間になると 旗をしまいスタコラ帰るのだった。

そうしてこの春からデンゼルも高校生。雨の朝は、頼まれもしないのに学校近くまで送り届けるのが常になった。

車から降り立つデンゼルの後ろ姿を見届け、そっと口づさむ。

♪ このガキを～
送るのは 私ぃ～