♪枯れ葉散る夕暮れは~
来る日の寒さを…
なんだっけ?
出だしの歌詞すらおぼろげだが、「恋人よ」は80年にヒットした五輪真由美のラブソングである。
五輪真由美の低く乾いた声が奏でる男女の世界に感情移入する人は多いが、私にはもうひとつ響くものがない。五輪さんが、妖怪人間ベラにあまりに似ているせいかしら?
昔、喫茶店でアルバイトをしていたことがある。
その喫茶は、三店舗あり株式会社であった。
各店に熟女店長がいて、みな社長の女だと噂されていた。まだ30代半ばのイケメン気取りの社長は、真夏でも白いスーツに身を包み、白いポルシェに乗って各店を一日かけて見回っていた。
私のバイト先は本店で、近辺には大手スーパーや スポーツ施設がそびえ、駅にも近く集客力はよかった。
本店の店長エトランゼは、10歳の一人娘を持つ30代半ばの主婦。当時流行ったソバージュパーマを背中までたらし、爪には真っ赤なマニキュアをし、「笑って許して」時代の和田アキ子ばりのつけまつげをしていた。
五輪真由美が大好きで、店の有線を社長がいない時には五輪真由美のレコードに変えていたほどの五輪フリーク。
特に「恋人よ」は自身のテーマソングだったようで、うっとりと涙ぐみながら聴き入っていた。
その入れ込み方に、周りは皆引いていたよな。
エトランゼの10歳の一人娘は、ほとんどネグレクト状態で、毎日鍵っ子。
一度、用事があって、その娘が店に訪ねてきたが、けばけばしく着飾る母と対象的に、薄汚れた体操服姿で、ボサボサの髪をした風采の上がらぬ女の子だった。
本店と3Kmほど離れた場所に2号店があった。
そこの店長ファラセットもたまに本店へとやって来たが、エトランゼとはまた違うケバさがあり、
聞きもしないのに自らの半生を語るのが好きな熟女だった。
ファラセットによれば、自分はアル中で、妊娠中も酒を絶てず、未熟児で真っ黒でお馬鹿な子が出来たのだと言う。
その息子の面倒を見たくないので、仕事に出てる方が楽なのだと平気で口にした。
亭主も負けず劣らずのアル中なので、酔っ払った末壮絶な喧嘩が絶えないのだそうだ。
そう言いながら、かかかか笑うファラセットの前歯は何故か抜け落ちていた。
かなりの美人なだけに、異様な風貌に見えたものだ。
三号店には、雪の精のようにかわいらしい熟女がいたが、あまりお目にかかったことがない。
劇団とキッチンのバイトをかけもちしていた下ネタの帝王ボルドー君は、三人の熟女と社長の関係 やいきさつについてよくリサーチしていたようで、そっと私を呼び寄せては情報を垂れ流すのだった。
「ぽぽんちゃんは、まだ子どもだからわかんないだろうけど」
チョビヒゲを生やした童顔のボルドー君は、口癖のように前置きした。
「男と女の間にゃ、深くて暗い河がある。ちなみにぼくと女房にも…」
エビピラフの小エビを体よく並べながら、ボルドーは講釈たれた。
私は一応相槌を打ち、ピラフに乾燥バジルをふりかけながらお盆を差し出した。
たった四か月のアルバイトだったが、強烈なキャラの人々と短いながら楽しい仕事ができた。
今思えばいい思い出だ。
水曜の薬膳メニュー
冷し中華 エビ餃子 サーモンフライ 枝豆の落とし揚げ いんげん酢味噌和え 雑穀ごはん 佃煮 梅干し
来る日の寒さを…
なんだっけ?
出だしの歌詞すらおぼろげだが、「恋人よ」は80年にヒットした五輪真由美のラブソングである。
五輪真由美の低く乾いた声が奏でる男女の世界に感情移入する人は多いが、私にはもうひとつ響くものがない。五輪さんが、妖怪人間ベラにあまりに似ているせいかしら?
昔、喫茶店でアルバイトをしていたことがある。
その喫茶は、三店舗あり株式会社であった。
各店に熟女店長がいて、みな社長の女だと噂されていた。まだ30代半ばのイケメン気取りの社長は、真夏でも白いスーツに身を包み、白いポルシェに乗って各店を一日かけて見回っていた。
私のバイト先は本店で、近辺には大手スーパーや スポーツ施設がそびえ、駅にも近く集客力はよかった。
本店の店長エトランゼは、10歳の一人娘を持つ30代半ばの主婦。当時流行ったソバージュパーマを背中までたらし、爪には真っ赤なマニキュアをし、「笑って許して」時代の和田アキ子ばりのつけまつげをしていた。
五輪真由美が大好きで、店の有線を社長がいない時には五輪真由美のレコードに変えていたほどの五輪フリーク。
特に「恋人よ」は自身のテーマソングだったようで、うっとりと涙ぐみながら聴き入っていた。
その入れ込み方に、周りは皆引いていたよな。
エトランゼの10歳の一人娘は、ほとんどネグレクト状態で、毎日鍵っ子。
一度、用事があって、その娘が店に訪ねてきたが、けばけばしく着飾る母と対象的に、薄汚れた体操服姿で、ボサボサの髪をした風采の上がらぬ女の子だった。
本店と3Kmほど離れた場所に2号店があった。
そこの店長ファラセットもたまに本店へとやって来たが、エトランゼとはまた違うケバさがあり、
聞きもしないのに自らの半生を語るのが好きな熟女だった。
ファラセットによれば、自分はアル中で、妊娠中も酒を絶てず、未熟児で真っ黒でお馬鹿な子が出来たのだと言う。
その息子の面倒を見たくないので、仕事に出てる方が楽なのだと平気で口にした。
亭主も負けず劣らずのアル中なので、酔っ払った末壮絶な喧嘩が絶えないのだそうだ。
そう言いながら、かかかか笑うファラセットの前歯は何故か抜け落ちていた。
かなりの美人なだけに、異様な風貌に見えたものだ。
三号店には、雪の精のようにかわいらしい熟女がいたが、あまりお目にかかったことがない。
劇団とキッチンのバイトをかけもちしていた下ネタの帝王ボルドー君は、三人の熟女と社長の関係 やいきさつについてよくリサーチしていたようで、そっと私を呼び寄せては情報を垂れ流すのだった。
「ぽぽんちゃんは、まだ子どもだからわかんないだろうけど」
チョビヒゲを生やした童顔のボルドー君は、口癖のように前置きした。
「男と女の間にゃ、深くて暗い河がある。ちなみにぼくと女房にも…」
エビピラフの小エビを体よく並べながら、ボルドーは講釈たれた。
私は一応相槌を打ち、ピラフに乾燥バジルをふりかけながらお盆を差し出した。
たった四か月のアルバイトだったが、強烈なキャラの人々と短いながら楽しい仕事ができた。
今思えばいい思い出だ。
水曜の薬膳メニュー
冷し中華 エビ餃子 サーモンフライ 枝豆の落とし揚げ いんげん酢味噌和え 雑穀ごはん 佃煮 梅干し