地球上に広く伝染し、世界人口の極めて多くが罹患し,人類の生存に大きな影響をもたらしてきた伝染性の疾病を指して「パンデミック」という。いま世界中を震撼させている新型コロナウィルス感染症COVID-19を世界保健機構が「パンデミック」だと認定したが、これはこの流行の前と後とでは人類の文明の在り方がドラスティックに変化する可能性が高いことを意味していることになる。
6世紀、ビザンチン帝国から始まったペストはやがてイスラームを産み出し、17世紀にヨーロッパ一円を席巻したペストの流行では中世を覆ってきたキリスト教世界からルネッサンスへと宗教から世俗的社会を導き出したし、第一世界大戦の渦中でアメリカ生まれのスペイン風邪はヨーロッパから当のアメリカへと文明を移動させた。そして今、COVID-19パンデミック!、これもまた中国で発症し中国への文明移動を起こす契機となるやも知れぬ。いずれにせよCOVID-19は何か大きな変革を人類に突き付けてくるのであろう。
こういうタイミングですでに世界の政治や経済などに地殻変動が起こり始めている。アメリカではティル・オイレンシュピーゲルを地で行ったようなトランプ大統領が七転八倒の末に石をもて追われるところとなったし、反対に国際政治に辛うじて知性を保持させるのに貢献してきたメルケル女史が政界を去るという。日本でも永久政権か?と思われた安倍政権が消えた。それもこれも世界史の変極点=パンデミックなればこそに違いない。
こういう「歴史的」変化のタイミングで、宿命的に政権を受け継いだはずの菅内閣がまことに心許ないのはどうしたことか? 折角の歴史的大変化の時代への認識に畏怖や畏敬の念が全く感じられない。どうやら政権はこのパンデミックをエピデミックかあるいはそれより狭小のエンデミックくらいの認識でいるようだ。
1月19日の総理大臣施政方針演説を我慢して読んで見た。11,520字に及ぶ長文の演説原稿から立ち上がってこなければいけない新しい時代への足音はその中からは全く聞こえて来なかった。日本語として貧相であったことは敢えて問わずに感想を二三あげつらうと;――「わが国の農産品はアジアを中心に諸外国で大変人気があり、わが国の農業には大きな可能性があります。昨年の農産品の輸出額は、新型コロナの影響にもかかわらず、過去最高となった2019年に迫る水準となっています。2025年2兆円、2030年5兆円の目標を達成するため、世界に誇る牛肉やイチゴをはじめ27の重点品目を選定し、国別に目標金額を定めて、産地を支援いたします。(中略)農林水産業を地域をリードする成長産業とすべく、改革を進めます」などという。冗談じゃない。この国の農業は自給率37%しか支えられない無能力。パンデミックの中での保護主義が起これば1億の民は餓死する。いまこそ自給能力向上を提案すべきをこのピンボケだ。
また、「わが国には内外の観光客を引きつける『自然、気候、文化、食』がそろっており、新型コロナを克服した上で、世界の観光大国を再び目指します。先を見据え、短期集中で、ホテル、旅館、街の再生を進めます」ともいう。インバウンド観光への見果てぬ夢を見続けたいのらしい。「観光」とは所詮、旅人の懐に手を突っ込んで、労せずして財布を空にさせるビジネス。与えられた自然景観や先人の努力の跡を売り食いしつつ生きる待ちぼうけ産業である。額に汗せよと説いた柴又の寅さんすら唾棄したモラルに他ならない。
更に、「国際金融センターをつくることも、長い間言われてきたことです。日本には、良好な治安と生活環境、1900兆円の個人金融資産といった大きな潜在性があり、金融を突破口としてビジネスを行う場としても魅力的な国を目指します。(中略)海外の人材がビジネスを容易に開始できるよう、在留資格の特例も設けます」。おそらく菅氏の知恵袋竹中平蔵氏のいう東京を世界の金融センターにという戦略の入れ知恵ではあろうが、所詮はカネ偏の博奕市場形成構想に過ぎない。額に汗するモラルを失った博打打の世界である。
どれ一つとっても、首相の施政方針演説の中に「パンデミック後の世界」を見晴るかせる光明を見つけることはできなかったのである。これではこの国のお先は真っ暗だ!!
菅政権は、コロナウィルス効果で一気に末期症状に入ったようだ。