玄文講

日記

デュルケム「自殺論」他3点

2005-04-26 20:13:25 | 
昨日、私は自殺志願者もどきについて触れたが、自殺についての本といえば幾つかが思い出される。

デュルケム「自殺論」

これは有名な社会学者の代表作である。

私たちは普通、自殺の原因といえば個人の内面の葛藤であると考える。
それは必然ではなく、不幸な偶然の寄せ集めがもたらした悲劇である。

しかし、デュルケムは自殺の原因を個人を超えたマクロな視点から研究した。
つまり自殺は社会の性質の一部であり、必然的に起こる一つの社会現象に過ぎないと考えたのだ。

彼は言う。

個人の身体的、心理的素質によっても物理的な環境要因によっても説明することのできない特有の自殺傾向が、それぞれの社会集団に存在することが明らかにされた。

その結果、自殺傾向が必然的に社会的原因に根ざすものでなければならず、それ自体が一つの社会的現象を形作るものでなければならない。


自殺は、宗教社会の統合の強さに反比例して増減する。
自殺は、家族社会の統合の強さに反比例して増減する。
自殺は、政治社会の統合の強さに反比例して増減する。


つまり集団の力が上昇すると個人的な自殺は減少する。
彼は1848年の二月革命や1866年の普墺戦争などのような民衆の高揚を伴う闘争がある年に自殺率が減っていることを示している。
宗教の教義だとか信仰の強さだとか、家族の絆とか、公共への奉仕だとか国への忠義というのは、自殺を抑止する本当の原因ではない。
自殺率はただ「集団の統合の強さ」に依存するだけである、というわけだ。

それはあたかも落下の法則において、落下速度が重要と思われていた重さには依存せず、実は重力加速度のみに依存していたことに似ている。

他にも、統合が過剰になると逆に自殺率が上昇し、また多くの欲求が急に満たされなくなった社会においても自殺が増えると論じている。

この自殺論に対する批判として、自殺の原因として精神病や貧困を軽んじ過ぎていると言われており、後の研究者がいろいろと修正を施しているらしい。
(私はそこまで追いかける気力はない。この自殺論でさえ私の手にはあまり、第二遍の一章から五章までしか読んでいない。残りの部分は軽く流し読みしただけである。)

だが110年前に出版された本がいまだに価値を失わず、本書が「自殺」をテーマにした考察の第一位の存在であり続けているというのは驚くべきことである。
社会学はジンメルとデュルケムとウェーバーでほぼ完成されたと言われるゆえんであろう。

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なだいなだ「心の底をのぞいたら 」

新聞やマスコミはいつも「自殺が増えている」と声高に唱えている。
しかし自殺オタク、自殺マニアにとって「自殺が増えている」なんて憤飯ものの主張である。
自殺は減っている。特にいじめ自殺なんて激減だ。

そんな嘘を徹底的にデータを持ち出して否定し、批判したのが精神科医のないだいなだ氏である。

最近では、彼らは「少年犯罪が増えている」と声高に唱えている。
それを教育制度の欠陥のせいにして、自分の思想を子どもに吹き込もうとしている人もいる。

しかし犯罪オタク、犯罪マニアにとって「少年犯罪が増えている」なんて憤飯ものの主張である。
少年犯罪なんてここ50年のトレンドでみたら大激減だ。
数年の誤差のような変化だけで「危機の時代」と騒ぐのではまるでエセ環境運動家のようだ。

少年犯罪については「少年犯罪データベース」が詳しい。

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鶴見済「完全自殺マニュアル」

懇切丁寧に自殺のやり方について教えてくれるのがこの本であり、かなり売れた。
ちなみに私は「死んだり、死なせられたりする人間」には興味はあるが、「死ぬこと」には興味がないので、この本をきちんと読んではいない。

世を嘆いてみせるのが趣味の人にとって、この本が爆発的に売れたことほど嘆き甲斐のあることはなかったであろう。

こんな本を出して自殺する人間だ出たらどうするつもりだという、当然の批判も出た。
しかしそれは杞憂である。

個人レベルで見れば、自殺する人間はどのみち自殺する。やり方を教えれば自殺するという考え方はなしである。
良識派の方々には、私たちがマニュアルがないと何もできない人間ばかりだと思わないでいただきたいものである。

そして社会に与える影響という視点からもこの本は「社会の統合の強さ」とは無関係なので、自殺率の増加にはつながらないであろうし、実際つながらなかった。

この本はただ楽しいだけの本である。
首吊り自殺の記述に嘘があるなど、自殺オタク、自殺マニアの間では「より正しい自殺方法」について議論が交わされ、
新聞の投書欄には「息子が「完全自殺マニュアル」を持っていたが大丈夫でしょうか」なんてマヌケな相談が送られ、
当の著者もこの本への社会の反響や賛同、罵倒、落書きを含むアンケートハガキを収録した「ボクたちの完全自殺マニュアル」を発行している。

ちなみに氏は作家の椎名誠氏が中学生連続自殺事件をうけて書いた文章、タイトル「死ぬな!」についてこう皮肉を言っている。

「死ぬな!」だってさ。
無理だよ、みんな死ぬんだから。
あんたのほうが先に死ぬって。
次は末期癌の患者のホスピスに行って「死ぬな!」って言ったらいいんじゃないか?
面白くて。


(「檻のなかのダンス」より引用)

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古谷実「僕といっしょ」劇中の1エピソード

14歳の文無し家出少年二人は自殺しようとしていたOLに、「死ぬなら必要ないだろうから、お金をくれ」とお願いする。
それで怒ったOLと近所のファミレスで飯を食いながら大ゲンカして、最後に二万円をもらって別れる。

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