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せせらぎせらせら

日々思うこと

時のメルヘン

2009-04-13 | ぎらぎら
むかしむかしのある酒場。
何人かの芸術家たちが酒を飲み交わしながら、こんなことを話していた。

「おい、俺は今、とんでもないものを表現しようと考えてるんだ」
「とんでもないもの?興味深いね」
「そうだ、いまだかつて何人たりとも表現し得なかったもの、それはなんだと思う?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「なんだよ、誰もわからないのか?それは時間さ。あらゆる場面で俺たちが関係し続けているにもかかわらず、いや、一方的に支配され続けていると言ったほうがいいかな、それにもかかわらず、なぜ誰もそれ自体を表現しようとしないのか?そういうことに俺は最近疑問を感じているんだ」
「ふぅん、なるほどねぇ。・・・しかし、想像もつかないな、一体何を作る気だ?まさか時間を作り出すわけにはいかないだろう?」
「ふふ、まぁ焦るなよ、そのうちに見せてやるから」

その翌日から、彼は自宅のアトリエにこもって酒場にも姿を見せなくなってしまった。

それから数ヶ月が経ったある日の酒場。
「そう言えば、アイツ、時間を表現してみせると豪語してたが、あれからどうなったんだろう?」
「以前からアイツはやる事なす事、随分と破天荒だからなぁ。この前アトリエを覗きに行ったらクロノスだかカイロスだかっていう男と何か球体の設計図を描いてたぞ。なにやら最初は一点の爆発から始めて、爆発と同時に幾つかの原理を球体に埋め込んでいくらしい。まったく、僕にはよく分からない話だった。大変そうだな、と声を掛けたら『なーに、難しいのは最初だけ、あとは運任せだから』と笑ってたよ」
「ふーん。やっぱりアイツの考えることは謎だな、よくわからん」
「ケイオス家の血筋は昔からおかしなヤツばかりだと、うちの親父も言ってたよ」
「アイツも決して悪いヤツではないんだが、如何せん、やっぱり謎だ」
「うん、謎だ」
「だな。よし、明日にでも皆で様子を伺いに行こうか」
「いいね。じゃあ、10時頃にヤツのアトリエに!」

翌日、アトリエ。
「おぅい、首尾はどうだい?」
「おう、お前らか、ちょうど良かった。見ろよ成功したぜ」
「完成したのか?」
「お前、人の話聞いてんのか?成功しただけだ、完成するのは終わったときだ。ほら、いいから早くこっち来て見てみろ」
部屋の中心には黒くモヤモヤした液体とも気体ともつかない球体状の何かが置かれ、それはあたかも生命体のように時折脈打ちながらゆっくり膨らんでいくようだった。その中では小さな無数の光の粒があちこちで行き迷う煙のように渦巻きながらチラチラと瞬いている。
「これが例の作品かい?確かに綺麗だが、これじゃあ時間を表現していると言われてもよく解らないな・・・?」
「何なんだいコレは?」
「お前らの目は節穴か?(解らないだと?この馬鹿ども、芸術を理解する必要があると本気で思ってるのか?)まぁいい。そうだな、例えばこの赤い光のそばで小さく光ってる青っ白い光をよ~く覗き込んでみろよ。中で奇妙な生き物が些細なことに一喜一憂してるのが見えるだろ?」
「ほぉ~、あ、ホントだ!・・・あは、バカだねコイツら。大勢で喧嘩を始めた」
「うは、こっちの奴らは妙な植物の下に集まって、なんか飲みながら皆でバカ笑いしてる。何が面白いんだ・・・?」
「うわ。う~、コイツら泣けるわぁ・・・。え、嘘!?死んじゃった、なんで?」
「何層にもフラクタルが見て取れるけれど、それも君が作ったのかい?」
「お、いいところに気が付いたな!いや、俺は最初にルールを幾つか与えただけなんだ。あとは勝手に形成された。俺の作品にはどうしても不確定な要素が必要なんだ」
「へぇ。(また、よう分からへんわ。)あ~、この辺の奴らはどんどん増えてくなぁ。こっちは急激に減っていく・・・?」
「お、何コイツ、こっち見上げたまんま一人で泣いてるよ、いっちょ前に感傷に浸ってんのか?」
「あらら、何やってんの、今度はどんどん住みにくいように周りを変え始めたね、おい、もっとしっかり考えて行動しろ~」
「な?面白いだろ?ついさっきまでは、今のより形も違ったもうちょっと大きい生き物がウヨウヨしてたんだぜ。じゃあ今度はこっちの光を―」

芸術家たちは、しばらくの間、やいのやいのと各々が好き勝手に騒ぎながら、いろんな光の粒を覗き込んで楽しんだ。
そのうちに黒いモヤモヤした球体は少しずつ小さくなって、ついに消えてしまった。

「どうだった?これで完成だ。これが俺の渾身の作品、時間だ。まぁタイトルが『時間』じゃあセンスが疑われるから・・・『コスモス』とでもしとくかな。いや待て『インプロヴィゼイション』の方がカッコイイかな、ん~、どっちも捨てがたい」
「でも消えちゃったよ?完成して無くなっちゃうんじゃあ、ちょっと―」
「このウスラバカ!芸術なんてそんなモンだろーが!見たくなったらまた創るだけさ」


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