東京北区議会選挙にトップ当選した“元・筆談ホステス”斉藤里恵さんに期待したい／少数派

　少数派シリーズ／社会の弱者・人権
東京北区議会選挙にトップ当選した“元・筆談ホステス”斉藤里恵さんに期待したい



斉藤里恵さんは、２０１４年の東京・北区の区議会選挙で、２位以下を１，８００票以上も離し６，６３０票を集めトップ当選・初当選しました。ＴＶ・新聞で大いに話題となったため、皆さんもご存じだと思います。斉藤さんは全く耳が聞えない聾（ろう）者、満足に声を発することもままならない言語障害の中で、“奇跡の当選”を果たしました。身障者を選んだ、北区区民のレベルの高さが評価されます。私はそれより数年くらい前、自叙伝の「筆談ホステス」（ドラマ化もされた）を読んだのですが、その後、ノーマークでした。そうですか、遂に政界に打って出たのですね。斉藤さんの不幸な生立ち、身障者にとって極めて不利な選挙戦を勝ち抜いた背景には、相当な苦労があったと思われます。

選挙中も「耳が聞えず・しゃべれないのに、何で政治ができるのか」（＊実際の言葉は、ブログでは書けない汚い差別用語）といった、高齢者にありがちな心無い身体に関する嫌がらせを、直接、何度も受けたようです。また選挙規則は健常者を前提としているため、様々な壁にぶつかっていました。街頭演説の代わりに、ボードに文章を書いて見せようとしたが、公選法が禁じる「文書図画の掲示」にあたるためＮＧ。また区議選では選挙用ビラは配れないことから、苦肉の策で名刺配り（違反ではない）をしました。名刺の裏や電子ボードで、集まった有権者と“筆談”を続けたのです。余りにも名刺配布枚数が多かったので、運動員が配布したと推測されて、警察から選挙違反を疑われるはめに。それだけ、斉藤さんへの支持が多かったことを示します。手振り・身振りを加え、失礼な言い方ながら必死に「言葉にならない言葉」で訴えたのが、有権者の心に届いたと思われます。

４歳の娘をもつ、シングルマザーです。斉藤さんは、１歳１０か月の時に髄膜炎が元で完全に聴力を失いました。言葉を覚える前だったので、満足に話すこともできなくなったのです。案の定、中学ではいじめられ、茶髪・たばこ・飲酒・万引き・暴力などお決まりの不良コースへ。その後は青森のクラブで働き「筆談」が人気になるも、快く思わないママや同僚ホステスに妬まれ店を追われることに。１７歳の時に憧れの東京へ、銀座の高級クラブの「筆談ホステス」（筆談接待）が人気を呼び、ＮＯ．１ホステスとして人生の花が咲くことになったのです。競争が激しい銀座の水商売は、身障者への憐れみ・同情だけでは客は付きません。苦労に耐えた、彼女本来の優しさがあったからと思います。

「私は障害者であり、母です」 「聞こえないからこそ、人の声に耳を傾ける政治家になりたい」と決意し、バリアフリー社会、待機児童ゼロ、女性・子育て支援、高齢者に優しい街づくり実現を目指すそうです。健常者にはうるさ過ぎる選挙中のスピーカー（連呼）、でも「聴覚障害者には、全く聞えないのです」 「選挙や議会は『音（声）』があることが前提、そのため言語や聴覚の障害者が排除されている」 「ホステスでも政治家でも一般の市民でも、障害者は大きなハンディキャップを負っている」、そうした障害者の声を届けたいと訴えます。私は、斉藤さんの所属する政党は支持していません。しかし聴覚障害者の政界挑戦を、政党や選挙区は異なっても温かく見守っていきたいと思います。

しかし現実は厳しく、本会議の一般質問、委員会審議の際、耳が聞こえない、声を出すことができなければ、事実上、政治活動ができません。区議会では、パソコンの音声読み上げソフトを使った質問、議会に提出する質問状はＰＣに書き込んでモニターに映し出す方法を検討しているようです。そんな機械に頼るより、手話通訳者と「代弁者」の２つを認めたらどうかと思います。区条例を作れば、済む話です。前例がない、税金の無駄遣いというなら本末転倒です。過去には車イス国会議員の八代英太氏のために、前例がない衆院議場内に階段昇降機を設置しました。税金は、弱い立場の人に多く使うべきです。そして将来は全国でも、普通に身障者が立候補できる流れができればと思います。


“元筆談ホステス”（障害者）斉藤里恵さん惜しくも参議院選挙比例で当選ならず