ふせちゃんのブログ

布施隆宏 公式ブログ。 鉄道写真 風景写真 ジオラマ制作など 趣味の世界を紹介します。

フォトエッセイ   第六話

2007-06-20 14:52:01 | 伝えたいもの

   フォトエッセイ ― 第六話 ―     天の声を耳にする

 あるとき私は、軽井沢町の湯川渓流にいました。 「 風景写真を 撮り歩いている割りには、野生動物の写真が撮れないなぁ 」 ということで、小動物の撮影を思い立ちました。
 山に棲む動物のほとんどは、体がこげ茶色をしている。 シカも イノシシも、サルも タヌキも リスも。 そう考えると、積雪期の方が 野生動物を発見しやすそうです。 しかも、恐い熊や ヘビは冬眠中ですし・・・。 雪に付いた動物の足跡の多い場所を探して、そこで待ち受けていれば 写真に撮れるはずです。
 で、真冬の軽井沢。 最低気温はマイナス15℃の世界です。
 白糸の滝を水源とする湯川渓流は、遊歩道が整備されていて、自動車でのアクセスの楽な所です。 セーターやら防寒着やらを重ね着して、自動車の中から シャッターチャンスを待ちます。 雪の上にスナック菓子を撒いておき、エサでおびき寄せようという作戦です。 野生動物は夜に行動しますから、夕暮れ時から翌朝にかけて、寝ずの撮影になります。
 あたりが暗くなるにつれ、気温はどんどん下がっていきます。 鉄のカタマリでできた自動車は 想像以上に冷えて、開け放たれた運転席の窓から 冷気が入り込みます。 ペットボトルに入ったジュースは、商品見本のように固まっていました。 ふと、「 寝たら死ぬかも? 」 の不安がよぎります。
 夜半前、何かの気配に気付いてカメラを構えました。 ストロボの電源を確認し、構図を決めている間に 動物にカン付かれ、逃げられました。 この失敗が大きくひびき、この日は二度とチャンスはありませんでした。
 夜が明け、あたりが明るくなって見ると、撒いておいたスナック菓子は ほとんど無くなっていました。 一体 いつ、誰が食べたのだか。。。



 あるとき私は、JR信越線の横川駅の近くにある、麻芋 ( あさお ) 滝にいました。
 数日前、自宅で写真を整理していたとき 麻芋滝周辺の 写真が目に留まりました。「 この緑に囲まれた沢の、この岩の上にリスがいたら絵になるなあ 」 そんな想いが突然、心をよぎりました。 まるで、天の声が聞こえたような感覚です。
 この場所に行けば、必ずイメージ通りの写真が撮れるのだと、何の疑いも無く出掛けて来ました。 観光客が来る前が写し時と思い、少々早いスタートです。 足場の悪い川原での撮影なので、普段使っていない、大型の三脚を持って行きました。 カメラの向きの調整を 両手で行わなければならない、即写性の悪い三脚です。
 川原に降り、三脚の位置を決めます。 なにげに前を見ると、お目当ての岩の上にリスがいます。 まだカメラのセットも 終わっていなかったので、カメラの角度を調整するため、手に持っていたノートを 地面にそっと落しました。 これに気付いたリスは、すぐに逃げ出してしまいました。
 あわてて撮った写真に、ブレた後ろ姿だけを残して、リスは二度と 姿を見せることはありませんでした。 その後、この場所には数回訪れていますが、動物を見ることはありません。。。



 あるとき私は、妙義荒船林道にいました。 前日の金曜日の朝、出勤の車に乗り込むさい、ふと、東の空を見ると、雲が淡い虹色に 染まっているのが見えました。 彩雲 ( さいうん ) 現象です。 平地でも彩雲を見ることが出来るなら、山に行けば もっと綺麗な彩雲に 出会えるのだろうなあ。
 初めて目にする彩雲に心を奪われていた次の瞬間、「 あした、内山峠に行けば、彩雲を写せる 」。 自分の意思とは関係無しに、そんな言葉が口を突いて出ました。
 朝7時。 妙義山の背後から陽が昇り始めました。 ちぎれた雲の間を見え隠れしながら、太陽は高度を上げていきます。 太陽から少し離れた 頭の上の薄雲が、何やら マダラ模様に見えています。 日の光を反射して、オレンジ色のとなりにミドリ色、その反対側がピンク色。 色彩は帯状になって延び、雲の中に幾重にも虹の層が出来ています。
 雲が形を変えるたび、光の帯もゆっくりと うねって見えます。 オーロラの様に見える虹色の雲は、氷の粒の集まりです。 陽が昇り、温度が上がるにつれて 蒸発し、20分ほどで見えなくなりました。。。
コメント
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