作家・五木寛之のベストセラー小説『青春の門』(講談社刊)の第3部「放浪篇」が北九州芸術劇場プロデュースで舞台化され、19日から同劇場で公演が始まり、私は20日に感激しました。
『青春の門』は1969年6月から「週刊現代」で連載が開始され、未だに完結していない大河小説。炭鉱の町として栄えていた筑豊を舞台に、主人公・伊吹信介が様々な出来事を体験しながら成長していく過程を描いています。現在、「筑豊篇」「自立篇」「放浪篇」「堕落篇」「望郷篇」「再起篇」「挑戦篇」まで刊行されており、計2000万部を超えています(私も以前、6巻まで文庫本で通読し、物語に引き込まれた)。来春からは待望の「続編」の連載が始まる予定です。
「筑豊篇」と「自立篇」は、これまで映画化、TVドラマ化、コミック化など様々なメディアで作品化されていますが、北九州芸術劇場では今回、「青春の門」シリーズ全体を通して主人公の思想の核となる物語「放浪篇」を初の舞台化。様々な時代に生きる日本人を見つめ、高派な舞台で定評がある鐘下辰男氏が脚本・演出を担当し、地元・北九州でのオーディションで選ばれた若い俳優たちと文学座のベテラン実力派俳優・坂口芳貞が出演しています。
時は1960年安保闘争を前にした頃。青年・伊吹信介は大学進学のため故郷筑豊から上京し、そこで出会った学生劇団「劇団白夜」の仲間たちと大きな志を持って北海道の港町・函館へ渡ります。
「この旅のなかから何かを創り出し、そいつを持って東京へ帰ろうと考えている」「中央から地方へという形を、反対に地方から中央へと逆流させたい」
そんな彼らの情熱に対して「現実」は厳しい試練を突きつけてくる。
港湾労働者とそれを取り仕切る暴力団員。底辺に生きる人々と出会い、衝突と流血……。
会場は100人ほどの観客でいっぱいとなる小劇場。開演30分前に入ると、いくつもの机やイスなどが置かれた舞台の至るところに数人の出演者が人形のようにすでに静止していて驚きました。私の座席は最前で舞台から1メートルあまりの場所。出演者の姿を目の前で見ることができました。
青函連絡船から函館に降りた信介が故郷に残る幼馴染で恋人の「牧織江」に語りかけるところから劇は静かに始まります。
力強いピアノ曲やサイレン、大きな破裂音などが何度も流れます(私には耳障りで、逆効果と思いました)。各場面の変わり目には大音量の歌曲が流れ、舞台の奥にある黒板にチョークで「食堂」「会議」などと場所や状況を書いて、その間に出演者が舞台上の机やイスの配置を変えていきます。
主人公が暴力団員を前に突然全裸になったり、女子学生が下着姿(私の真ん前に置かれた椅子に座っていました)で登場したり、男や女同士の激しいとっくみ合い(流血シーンも多々あり)、団員らが大声で叫びながら労働賃金搾取の実態を訴えるビラを客席にバラ撒くなど、グロテスクで過激な演出が随所に見られました。俳優らの息づかいもモロに伝わってくる演劇でした。
自らの若さで社会を変え、時代を作ろうとする若者たちの「地域から中央への反逆の精神」。彼らが叫ぶ「どん底から立ち上がろう!」という言葉が印象に残ります。