金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)が手術後に重体に陥ったとの情報に尾ひれがつき錯そうしています。中国側からは「中国の医師団が北朝鮮に派遣された」との情報が入ってきた。金正恩の健康不安説はますます高まってきました。当面の課題は死亡もしくは政治的生命を失った場合に (1)米国は「北朝鮮の核兵器を回収・確保」 (2)韓国は「難民対処」ということになるでしょう。いずれにしても、風雲急を告げる状況で数日で結論が出そうな雲行きです。
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金正恩氏の生命に関わる事態が発生したのではないかとの観測が流れている。4月25日には、北京/ソウル発のロイター電は次のように伝えている。
「中国は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長についての助言を行うため、医療専門家や高官を北朝鮮に送った」
「事情に詳しい3人の関係者がロイターに明らかにした。2人の関係者によると、中国共産党中央対外連絡部のメンバーが率いる代表団は23日、北朝鮮に向けて北京を出発した」
「中央対外連絡部からのコメントは得られていない。中国外務省もコメントに応じていない」
このような事態に、合同訓練を行う米韓の意図は奈辺にあるのだろうか。
第1の目的は、北朝鮮の不測事態(金正恩氏の死亡とそれに伴う混乱)に対する備えであろう。
4月25日に、東洋経済オンラインに、「北朝鮮崩壊へアメリカが隠し持つ『極秘計画』 約20年間に作られていた『COPLAN 5029』 」というダニエル・スナイダー氏の記事が掲載された。
筆者は、この計画のポイントは以下の2つであろう。
(1)米国は「北朝鮮の核兵器を回収・確保」
(2)韓国は「難民対処」
米韓両政府の国益・思惑は違い、この計画がストレートに発動されることはないだろうが、何もないよりははるかにましだ。
万一北朝鮮が崩壊したら事態は予測不能で、米中共に既存の計画では対処できないのは明白だ。
いずれにせよ、米韓両国はもとより、大量の難民流入を懸念する中国も一定の「軍事的な構え」を取るのは当然だろう。
中国も、北朝鮮の体制崩壊などの混乱に対処できるよう人民解放軍の「北部戦区」(北朝鮮と隣接)に即応準備を命ずるだろう。
米韓合同訓練の第2の目的は威力偵察であろう。
軍事作戦においては、敵の意図や陣地配備を暴露させる手段(敵の情報獲得手段)として威力偵察という戦術を使う。
威力偵察では、敵の陣地に砲弾を撃ち込むなどの“荒業”(蜂の巣を棒で突っつくような仕業)で、あたかも本格攻撃を仕かけるかのようなそぶりを見せる。
すべての政策・戦略は情報から始まる。
様々な情報の中で政策判断のカギとなるものを情報主要素(EEI: Essential Element of Information)という。
一例として米国の北朝鮮に対するEEIは、以下の通りと推測される。
(1)金正恩の容態:「全くの健康状態」なのか、「重篤な病」なのか、さらには「死亡」しているのか。
「重篤な病」の場合は「生存・回復」できるか、「死亡」か。
「生存」の場合は「植物人間状態か」、「判断能力・統治能力があるか(寝たきりであろうと車いすであろうと)」。
(2)後継の行方:妹の金与正氏か、他の血縁か(伯父の金平一や兄の金正哲など)、「白頭山の血統(金王朝)」以外の人物か。
(3)軍の動向:(2)と連動し後継者を巡る争いは起こらないか。特に軍によるクーデターの可能性は。
(4)「金正恩委員長重体説」に対応する中国とロシアの動向は。
米国は、北朝鮮に対してソフト(礼儀を重視、トランプ氏の役回り)とハード(米韓合同軍事演習など米軍とポンペオ国務長官の役回り)で情報戦を仕掛けるものと思われる。
仮に米国と中国が金正恩氏の病状を掴んだとしても、それを簡単に暴露することはないだろう。
「情報は、相手に高く売りつける」のが相場だ。
後継体制確立などに大わらわの北朝鮮に恩を売るには、素知らぬふりをして「時間・余裕」を与えてやることだろう(今トランプ氏がやっていることかもしれない)。
静観することも情報戦の範囲なのだ。
さもなければ、北朝鮮の後継体制は過早にイヤな情報を暴露した国を恨むことになるからだ。福山 隆氏