化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

引き続き中国の天然ガス

2019-02-04 | ガス
2017年の数値と2018年の見込みの数値が混在しているので、必ずしも正確ではないがざっくりと概要を掴むとこんな感じか。

日本:天然ガス消費量 1,170億m3=LNG換算8,190万トン m3とトンの換算は1,000億m3=7,000万トンとした。
このうち国内生産は僅かに28億m3、2.4%しかない。生産は殆ど新潟県で以外にも千葉県にもガス田がある。
残りは輸入だがこれは全量LNG、海外からのパイプラインは無いですから。

さて中国:2,800億m3でおよそ2.0億トン。日本の天ガスは電力と暖房用だが、中国は産業用が一番多い。従って冬場の不足時は産業用を抑制、すなわち工場が強制的に稼働停止させられる。
日本と違って中国内で天ガスは1,500億m3も生産されている。大部分は四川省や新疆。このガスを消費地の北部(北京、天津、河北など)に運ぶ必要がある。
輸入はLNG8,400万トン(2018年には日本を抜いて世界一のLNG輸入国)
   パイプラインでLNG換算1,500万トンだそうな。(3,000万トンという数値もwebで見つけたがこれだと帳尻が合わない)

中国はPM2.5抑制(青空作戦)とCO2抑制の観点から、石炭から天然ガスへのシフトを政策で強要。但し、2017年冬に暖房用の天ガスが不足して問題になったことから、2018年冬は供給量見合いで石炭の抑制策を実施せよと地方政府に通達しているとか。

米国からもLNGは輸入されているので、昨年来の米中関税報復合戦によりLNGにも10%の関税がかかるが、輸入量への影響は少ないとみられる。

LNGの製造プロセスは単純に言えばマイナス162℃に冷やして液化するのだが、前処理が意外に大変。
コンデンセート(油分)分離、H2S・CO2など酸性ガス除去、水銀除去、脱水、ベンゼン等重質分除去してから混合冷媒プロセスにて製造する。


世界の天然ガスと石油

2019-01-25 | ガス
化石燃料はCO2排出抑制の観点からその利用が抑制されてはいますが、依然としてエネルギー源として重要な位置を占めています。中でもCO2排出係数の小さい天然ガスの利用は今後も増えていくものと予想されます。という事で、世界で石油と天然ガスはどれくらい使われているのかの備忘録。

天然ガスの生産/消費量:3,650 bm3/年 3.65 兆m3 LNG換算:26億トン

原油生産 :9,700 万BPD 51億トン/年 (100万BPD=1.9万BPD)
ちなみに日本の消費量350万BPD 1.8億トン/年

重量で比較すると天然ガスはざっくり原油の1/2の生産/消費

天然ガスの内LNG取引量は 3億トン/年 大部分はパイプライン輸送
日本は全てLNG輸入で8,300万トン/年

中国消費量:2,800億m3/年 LNG換算2億トン
LNG輸入は8,400万トンで2018年に日本を抜いて世界一(中国の爆食は続く)

ロシアの天ガス輸出 200 bm3/年=0.2兆m3 1.42億トン
このうちウクライナ経由 60 bm3 4,260万トン/年
ウクライナは通過料20億ドルを得ている。

ノードストリーム 550億m3 3,900万トン/年(ロシア-ドイツ)
ノードストリーム2 同上 2019年末完成
NS2によりウクライナ経由のガスが無くなるとウクライナ他の国は困りますね。

サハリン2

2009-04-11 | ガス
世の中がエコ、つまりエコロジーとエコノミーの話題にまみれて全く注目を集めませんでしたが、先週サハリン2からの天然ガスが日本に始めて輸入されたといいます。

エコロジーにはもちろん配慮しなければいけませんが、首を傾げたくなるような「環境に配慮しています」の広告宣伝には辟易です。省エネと何が違うの、省エネじゃ何がだめなの、と思いますね。

なんだかんだいっても足元化石燃料に依存しているわけで、エネルギーの多様化と確保の点からサハリン2のガスがLNGとしてついに輸入されることになったのかと感慨深いものがあります。

当初西側に民間会社の開発として始まったサハリン2は途中からロシアのプーチンの横暴で利権の半分を取られてしまいました。しかし、大家さんにはかなわないので何とか半分の利権を残して開発は続けられました。

日本の天然ガス使用量の8%を担うことになるこのルートは、パイプライン構想が浮かんでは消えました。北海道ルートとか日本海ルートなど、その地元と建設会社の利権を求めての誘致、招致合戦でしたが、最終的にはLNGという形態になりました。

すぐに元バルブを閉められて苦々しい思いをするくらいならば、多少なりとも備蓄の聞くLNGのほうがよかったともいえます。東京ガスと東京電力はこの先10年以上の長期にわたってサハリン2からの天然ガスを購入するといいます。

ところでサハリン2というからにはサハリン1というものがあるはずです。1のほうはあんまり話題に上りませんが、どうなっているのでしょうか。よい機会なので少しあとで調べてみよう。


サハリン2の教訓

2007-01-18 | ガス
サハリン2プロジェクトについては、シェル・物産・商事がガスプロムに51%の株式を$7.45ビリオンで売却することで決着がつきました。決着というのはこの株式譲渡を見とどけて、プーチンはサハリン2プロジェクトの犯していた環境に関わる違反行為が解決されたと、ぬけぬけと表明し、同プロジェクトの継続が確認されました。環境問題が株式譲渡で解決するという見え見えの茶番劇の結果です。

結局シェルは$6ビリオンをかけたプロジェクトの主導権をガスプロムに奪われたわけです。この事実からいくつかの教訓が得られました。

ロシアの規制当局など全く当てにならないということです。政府の意向に従って白でも黒でも都合の良い判断を下すわけです。結局ロシアで資源開発を行なおうとすれば、ガスプロムやロスネフチの意に沿うように(つまりプーチンの意に沿うように)やらなければいけないことになります。環境問題についてはNGOの告発に端を発するということが良くあります。今後は政府がこの様なNGOの活動をうまく利用する、あるいはけし掛けるという風潮が世界中で生まれるのではないでしょうか。

さらに国際石油会社、メジャーはもはやロシアの化石資源を当てにできないと思われます。折角資金を投入して資源開発を実施しても、最後には環境問題やら税金問題やらで政府からいちゃもんを付けられて権利を横取りされます。契約書など何の力にもなりません。

現在、ロシアの技術では開発できないような悪条件の資源を高度な技術を駆使して開発している企業も、これからはいつか言いがかりを付けられると認識しておく必要があります。

さらに困ったことにはこうした手法を南米やアフリカの資源国が真似するようになることです。資源国の悪口を言うつもりは毛頭ありませんが、今後ますます資源を持つ国と持たない国の交渉は難しいものになっていくのでしょう。

一方マーケットもこの様な一部の資源国の行動に影響を受けるのは必須です。今後短期間を想定すると、LNGの供給は計画されているほどは増加しないと見る向きもあります。それはシェルの代わりにロシアの石油会社の無能な経営者がサハリン2のオペレーションをするわけですから、シェルが計画したとおりの生産量は達成できないということです。

この先ロシアとはどう付き合っていけばいいのでしょうか。かすかな希望ですが、2008年の選挙でプーチンに変わる次期大統領がまともな運営をしてくれることに期待することのようです。

ロシアからの天然ガス

2007-01-12 | ガス
年末からロシアとベラルーシ間で天然ガス価格交渉をめぐり、駆け引きが続いています。ロシア側が天然ガスの値上げに成功して一件落着と思われましたが、今度はベラルーシ側が同国内を通過するロシア産原油のパイプライン送油をストップ(ポーランドやドイツ向け)するという対抗手段に出て対立は深まるばかりです。この対立はこれからどうなるのか予想はできません。

そういえば2005年から2006年にかけては、ロシアとウクライナ間の値上げ交渉の段階で天然ガスパイプライン供給ストップという出来事がありました。ロシアが化石資源を武器に国際貿易での地位向上を目指していることは確かですが、ウクライナやベラルーシに対してロシアが一方的に悪い、ということではなさそうです。

そもそもロシアからCIS諸国への天然ガス価格は国際価格に比べて格段に安かった。それは同じ寒冷地民族として暖房用燃料が死活問題であるということに配慮していた、といえるかもしれません。あるいは格安の天然ガスを供給することで、同盟関係を維持していたと見ることもできるでしょう。値上げ後でもまだ充分に安い価格といえます。

ロシアが2006年にウクライナに対して決着した価格は1,000m3当り$50を$96にするというものでした。確かに2倍近い値上げですが、それではこの価格水準は国際価格から見てどうなのでしょうか。ここで、ガス価格の交渉は形式的にはガスプロム社とナフトハス・ウクライナ社のガス会社同士の交渉ですが、いずれも国営企業ですから国家間の交渉と見なされています。

欧米でのガス価格はMMBtu当りで表されます。ブルーンバーグなどで$6.69と表示されているのがそれです。MMBtuは百万英国熱量単位という意味でこれは業界用語です。私たちが日常購入する都市ガスは例えば、200円/m3という価格です。先に決着した$96/1000m3を1ドル120円で換算すると11.5円/m3となり、かなり安いという事が分かります。

1MMBtu=1Mcf=26.3m3とおよそ換算できますから、$96/1000m3は$2.72/MMBtuとなり、国際価格と比べれば値上げ後も半値以下ということが分かります。ということは、ロシアの値上げ要求があながち無理難題でもないと思われます。

さらにこの価格はパイプライン輸送料とバーター決済のための指標です。ウクライナを通るパイプラインはそのままEU諸国まで通じていて、ウクライナは通行料をもらうことができるわけです。つまり、実際のガス購入価格はパイプライン輸送料を引いた分だけさらに安いということになります。

価格交渉の過程でガスプロムはウクライナ向けガス供給をストップしました。真冬に暖房用ガスを止めるとはなんとムゴイ、と思われますが現実は少し違うようです。ウクライナを通るパイプラインにはウクライナ分+EU向け分が流れているので、ガスプロムはウクライナ分の30%をカットし残りのEU向け70%分は送り続けました。しかし、ここがパイプラインの特徴でしょうが、ウクライナは自国内を通っているパイプラインから自分の使うガスを取り続けたため、パイプライン末端のEU諸国でガスが出なくなるという事態が発生し、国際問題となりました。
こういう状況になると悪いのはガスを止めたガスプロムか、使い続けたウクライナか、どちらか分からなくなってきます。

さらに1990年代にウクライナはパイプラインからしばしば無断でガスを抜き取り(もちろん代金は払わない)使っていたようで、ガスプロムは対抗手段としてしばしば供給停止の措置をとっていたようです。つまり、ガス供給停止ということにはガスプロムもウクライナもある程度慣れっこになっていたわけです。
さらに言えばソ連崩壊後のある時期、ロシアはウクライナからの貿易代金を踏み倒していたという事情もあるようで、両者の対立は複雑な構図になっています。

このように天然ガスのパイプライン輸送、特に国際パイプラインネットワークというのは、いろいろな事情が絡むもののようで、日本人には直ぐに理解できない部分があります。

ところでベラルーシの首相は「ガスの女王」とも呼ばれるそうですから、こちらの対立もそう簡単に決着がつくことはないのでしょう。

それにしても原油が下がっています。2006年夏は78ドルでしたが、昨日は53ドル、実に20ドルも下落しています。

天然ガスからの不純物ガスの分離

2006-11-27 | ガス
一般に天然ガスと呼ばれているのは可燃性天然ガスのことですが、ガス田から産出される時には炭化水素以外のガスも含んでいます。この不純物としては窒素、二酸化炭素、硫化水素、アルゴン、ヘリウムなどがあります。含有される不純物ガスの種類とガス組成はガス田によりまちまちでしょうが、除去しなければならない主な不純物は二酸化炭素と硫化水素です。

広く用いられている不純物ガスの除去方法は、水溶液に吸収させてメタンと分離する方法ですが、メンブランフィルターを用いる方法もあります。しかし、不純物ガス濃度が15%以上になるとこれらの方法は経済的に成り立ちません。

例えば水溶液に吸収させる方法では、不純物ガスを吸収したリッチ溶液を加熱して不純物ガスを放出させる必要がありますが、不純物濃度が高いと加熱に使われる熱エネルギーが生成される製品天然ガスの熱エネルギーを上回ることになります。

そこでシェルでは遠心分離による新しい不純物ガス除去方法を考案しています。回転分離プロセスと呼ばれるこの方法は、ウラン濃縮で使われているものと同じ原理のようです。ガス-ガスの遠心分離ではガスの拡散が遅いので分離時間を長く取る必要があり、必然的に装置が巨大となって実現不可能です。

シェルの回転分離プロセスでは相変化、具体的にはガスを液体に変えて分離速度を大きくする方法を採用しています。ガス田の中のガスは高圧、例えば130気圧、ですので、これを地上に持ってきて膨張・冷却させて不純物を液体ミストにします。なおこの時エクスパンダーで動力を回収します。不純物ミストは回転粒子セパレーターで分離し、コンプレッサーで再加圧して製品天然ガスとします。コンプレッサーの動力はガスエクスパンダーで回収した動力を使います。分離された二酸化炭素は再びガス田に戻されます。

この方法では経済的に高濃度の不純物ガスを回収できるといいます。シェルの試算では100kg/secのメタン(50%の二酸化炭素を含む)を処理するのに直径1m、長さ10m程度の装置で済むといいます。ガスの処理量を換算すると1440トン/dayです。例えばサハリンIIでの生産天然ガス量は23,000トン/dayと計画されていますので、これと比べると回転分離装置の能力が理解できます。

パイプラインの価格

2006-11-20 | ガス
天然ガスの輸送手段にはパイプラインとLNG船(少量ならばコンテナーやタンクローリー)があります。パイプラインは輸送効率が高いものの、初期投資が大きくまた投資リスクも大きくなります。

サハリンIIプロジェクトは石油ならびに天然ガスの生産設備、陸上処理プラント、原油とLNGの輸出ターミナル、全長800kmの石油並びに天然ガスパイプラインを含みますが、当初予算の$10 billionから$20 billionに上方修正されています。加えて環境影響評価の観点から、ロシア政府より工事の中止命令を受けてストップした状態です。

ところでパイプラインの価格は一体どれくらいなのでしょうか?費用の構成要素は材料費、建設費それにRights-of-way(ROW)です。ROWは用地買収や環境保全あるいは設置地域の特異性などに関わるコストです。それぞれのコストを積み上げてPP建設費を算出するためには多くのデータを必要とします。それらのデータを集めるには時間と労力、場合によってはお金がかかることになりますし、必ずしもデータが揃うとは限りません。

テキサス大学のCEE(Centre for Energy Economics)が過去のPP建設費の実績からPP建設推定費用を計算する方法を提案しています。その方法とはPPの単価($ million/mile)は配管外径と大まかに相関があるというものです。直径30インチから55インチの天然ガスパイプライン単価をHigh、Mean、Lowの3種に層別するというものです。例えば30インチであれば、2、3、4.2 million $/mile、50インチならば2.5、4.5、5.5 million $/mileとなります。

アラスカのプルードベイからアルバータを経由してシカゴまでのトランスアラスカガスパイプラインの価格は$18.4 billionと推定されています。この予想価格はアラスカ州財務局が2006年5月に公表した推定額です。プルードベイ(B)からアルバータ(A)とアルバータ(A)からシカゴ(C)までの二つの区間に分けて考えると、B-A間は52インチ径で5.6 million $/mileの単価なので$12 billion、A-C間はMeanコストの4.1 million $/mileで$6.2 billionとなり合計で$18.2 billionと計算できます。

B-A間は気象条件が厳しく高級な材料を使う必要があること、工事が夏の期間だけしかできないなどの理由からHighケースとなり、A-C間には既設のPPもあることから困難さはそれほど大きくないと予想されるのでMeanケースを適用しています。

しかしPPの建設には予期できない要素も多く、予算オーバーあるいは上方修正を余儀なくされる場合が多々あります。例えばBPが運営しているバクーPPは予算$2 billionのところ$3 billionかかりました。先にあげたサハリンIIも同様に予算オーバーの例です。

大規模PPの建設では技術課題以外のリスク要因を充分に見込んでおかなければならない、あるいはリスクが高まった時の対応をあらかじめ準備しておく必要があります。

ロシアの石油・天然ガス資源

2006-11-01 | ガス
最近サハリンI、サハリンIIに関わるニュースがいくつかありました。ロシアの石油、天然ガスに関する事項を忘備のため、まとめておきます。

ロシアの原油生産量はサウジについで世界第二位でシェアは12%である。1995年には6割まで生産が落ち込んだが、2000年以降年率8.5%の増加を見せ足元は1987年のピーク時に戻っている。

西シベリアが中心地域で、石油生産量、埋蔵量ともに約7割を占める。また超大型ガス田もこの地域にある。サハリンの開発は日本では関心が高いが、ロシア全体から見ると優先順位は低い。

ロシアの天然ガス埋蔵量は世界一で27%、イランが15%、カタールが14%と続く。天然ガスは石油以上に一握りの国に偏在している。世界の石油と天然ガスの消費量は3:2(重量比)であり、天然ガスも重要なエネルギー源である。

ガス会社ガスプロムはサウジ、アラムコやベネズエラのペドベサを押さえて世界第一の石油、天然ガス埋蔵量を有している。

ロシア原油の55%は直接輸出に、製品を合わせると石油の7割が輸出されている。またガスプロムのガスの25%は欧州市場に輸出され、これが売上げでは7割を占める。つまりロシア国内ガス価格は低く保たれている。これは冬の厳しいロシアでは暖房の主燃料である天然ガスの価格は極めて公共性が高いからである。

ガスプロムはロシア税収の4分の1を占める。ロシア政府がガスプロムへ一定の発言権を維持することは国家安全上極めて重要で、2006年に30%から51%まで株式保有を増やした。それはロスネフチ(石油会社、非上場で100%政府保有)との株式交換による。

ロスネフチはユコス事件で確認埋蔵量を11億バレルから150億バレルに増やした。今後はIPOが予定されている。

こうしてみるとロシアの石油、天然ガス資源は大量の埋蔵量であり、またロシア政府が直接関与していることが分かる。

砕氷LNGタンカー

2006-10-26 | ガス
サハリンの天然ガス開発に関しては、サハリン1プロジェクトの日本向けLNGが中国に横取りされそうだとか、サハリン2プロジェクトに自然破壊を起こすとの理由でロシア政府から中断の横槍が入ったりと、現時点では散々な状況です。

ロシアの天然ガス開発ではサハリンもさることながら、シベリアの鉱区が今後とも最も注目されると予想されます。天然ガスを需要地まで輸送するためにはパイプラインやLNGタンカーが使用されます。パイプラインは初期投資が大きい、需要先との長期・大量契約で需要先・流通が硬直化するなどの弱点があります。これに比べてLNG輸送は少量輸送できる、需要先の変更も可能なことからフレキシブルな輸送手段といえます。

しかし冬のシベリアの海は氷に閉ざされてしまいますから、氷海を航行できるLNG船、航路の確保が必要です。

氷海には単年氷と多年氷があるそうです。単年氷は夏には融けてなくなるもので、厚さは0.3から2.0m、多年氷は2年以上にわたって存在するものでその厚さは3mにも及ぶそうです。この様な分厚い氷を砕いて航行する船の建造は、造船会社にとっても新たな挑戦となりますが、シベリアLNG開発にとってはキー技術となります。

サハリン2プロジェクトでは砕氷仕様までは行かないまでも、厳冬仕様のLNG船を採用しています。デッキや通路のさまざまな箇所のヒーティング、結氷を解凍するためのスチーム配管、バラスとタンクのヒーティング、船員のための特別仕様衣料や防寒具、低温グレードの潤滑油などです。また流氷中を航行できるようにエンジン出力を増強し、それに見合うスクリューシステムを採用しています。

氷に閉ざされたシベリアの海を航行するにはさらに強力な仕様が必要です。現在は三つの方法が考えられています。一つ目は二隻の砕氷船を使って航路を確保する方法、二つ目は斜め向きに進行して1隻で広い航路を作ることのできる特別な砕氷船です。

そして三つ目がダブルアクションLNG船と呼ばれるものです。これは砕氷能力も併せ持つLNGタンカーです。船首の構造は通常のLNGタンカーと同じですが、船尾は砕氷ができる特別構造になっています。通常の海を進むには前方向に行けばよく、氷海を進むときには後ろ向きに進みます。そのため船首にもスクリューを備えています。

エンジン出力は増強されており、繰り返されるショックに耐えうる強力なギアボックス、高トルクと低速回転を生むためのディーゼル発電で駆動するスクリューシステムなども装備しています。

既に石油タンカーでは実用化されているそうですが、LNGタンカーでは今だないようです。今後のエネルギー需要の増加に後押しされて、このダブルアクションLNGタンカーが実用化される日も近いものと予想されます。

サハリン2のパイプライン建設中断

2006-08-29 | ガス
サハリンエナジー社はサハリン2生産井から輸出設備のあるサハリン南端までのパイプラインの建設の中断を発表しました。理由はロシア環境監視当局が環境汚染の恐れがあると指摘したことによるといいます。サハリンエナジー担当者によれば8月中旬に工事を停止し、再開時期は未定といいます。

積出港となるプリゴノドノエではLNG生産設備と積出設備の建設が進んでいますが、肝心の天然ガスのパイプラインが開通しなければ、LNGの輸出は出来ません。

サハリン2の陸上パイプラインについては当初から課題として環境に与える影響が指摘されてはいました。例えば、800kmの陸上パイプラインのサケ・マス類の生息・産卵に対しての深刻な影響、重要な1000本以上の河川を横断しての埋設、工事による土砂流出、水質汚濁の懸念、パイプラインルート上の22の活断層、地震による破損、油流失が起こる懸念、アニワ湾での浚渫作業・海洋投棄、LNGプラント、原油ターミナル建設に伴う海底浚渫作業及び土砂投棄による漁業資源への被害、投棄場所について代替案の問題などです。

これらについてはそれなりに対策や対応を進めていたと推測されますが、環境監視当局から指摘(言いがかりであっても)があればそれに従うしかありません。問題は環境監視当局が純粋に環境影響を精査しての指摘かどうかということです。

ロシアはサハリン2へのガスプロムの参加を推し進めることを考えています。プーチン大統領のエネルギー政策には、石油ガスの輸出振興で2010年までにGDPを2倍にする、というものがあります。開発そのものは外国企業にやらせておいて、完成間近になったら自国のガス会社のものにするというのは賢いやり方です。取られるほうはたまったものではありませんが。

全くただでサハリン2の権益を手に入れるわけにはいかないので、シェルとガスプロムの権益交換ということにしています。つまり、シェル保有するサハリン2の権益(55%)の25%超とガスプロム保有のZapolyaroneガス田深部の50%の権益を交換するというものです。シェルにとっては西シベリアの埋蔵量獲得による埋蔵量の上方修正というメリットがありますので、この権益交換に応じるとしていますが、ここに来て条件面で折り合いがついていないと伝えられています。

また、25%の権益ではサハリン2を支配するということにはならないので、三井物産、三菱商事(あわせて45%の権益)の持つ権益の取得を働きかけているとも伝えられています。

日本のLNG買い手として、東京電力、東北電力、九州電力、東京ガス、東邦ガス、広島ガスが購入契約をしています。購入期間は早いところでは2007年開始で20年から24年、日本企業全体での購入量は528万トン/年です。現状の日本のLNG輸入量は6000万トン/年ですのでおよそ1割に相当します。

ロシア得意の「売らないぞ」戦術に日本はどう対応していけばよいのでしょうか。単にお金を払えば買える、という状況でなくなりつつある以上、ロシア側が欲しがるようなものを日本側が持っている必要があるということになります。

カナダのコールベッドメタン その2

2006-08-22 | ガス
コールベッドメタンの開発に際して、最も注意すべきことは水の処理のようです。素人は炭層中をボーリングしてガス溜りに当たると、メタンガスのみが噴出してくるように考えてしまいます。しかし実際のガス生産では多かれ少なかれ、水分を含んだガスが地上に取り出されるようです。利用するのは有機ガスだけですから、不要な水は必要ならば除害された後、排水として流すか、地中に戻されます。またむやみやたらと地層をドリリングして地下水の系態に悪影響を与えてもいけません。この様な状況や利害を整理して、環境に悪影響を与えないように開発、生産するための指針が決められています。

この指針はCBMに関わる利権者アドバイザー委員会(MAC)によって定められたもので、CBMを開発するガス石油会社、州政府そして最終利益者となる住民のいずれもが納得できるようになっているといいます。化石資源開発について長年の歴史と経験を持つアルバータ州では、この様な利害・利権の調整がうまく機能するものと考えられます。

アルバータ州政府は州内の化石燃料資源を重要な経済資源と位置づけています。中でもCBMを含むガス資源の重要度は増す一方です。2004年では2/3のドリリングがガス向けだったそうですが、2006年には3/4にその比率が上がっていることからも覗えます。2005年12月のガス販売高は544億円といいますから、年間では6000億円を超える産業です。アルバータ州の人口は318万人ですから、ガス関連産業が占める比重は大きなものがあるといえます。

この資源を独力で有効に活用しようというのが、これまでづっと続いてきたアルバータ州の政策と言えるのでしょう。

カナダのコールベッドメタン

2006-08-04 | ガス
カナダでは現在3000本以上のコールベッドメタン(CBM)生産井が稼動しています。日本ではあまり馴染みの無いこのガス資源についてOGJの記事を引用します。アルバータ州にあるWest Canada Sedimentary Basinでは500mcfdのCBMが生産されていますが、これはアルバータでの全ガス産出量の3.6%にあたります。そして2010年には1.6bcfd、2015年には2.5bcfdに拡大していくと予想されています。その推定可採埋蔵量は167tcfですから、単純計算で180年分となります。日本に身近なサハリン2の天然ガス埋蔵量は14tcfですから、その10倍はあるということで、アルバータ州の埋蔵量の大きさが理解できます。

アルバータでのCBMはオイルショック後の1970年代に着目されるようになりました。1990年代にアルバータ州政府は、既存のガス関連規制を補完する形でCBM開発に対応する規制を整備してきました。

アルバータ州は昔からその地下資源の開発に関して、生産量に応じたロイヤリティーを州政府が得るような仕組みを構築しています。余談ですが、地下資源が豊富なアルバータ州はこのロイヤリティー収入があるので州政府の財布が暖かいという住民にとってはありがたい状況になっています。

そのため、他の州では5%くらいかかる州税がありません。(但しタバコと燃料には5%の州税がかかります。)ちなみに国の消費税(GST)7%はすべてのものにかかります。同じものを買ってもアルバータでの消費税は7%ですが、隣のブリティッスコロンビアでは12%になります。

商業的規模で始めて生産が開始されたのは2002年で、場所はエドモントンとカルガリーに至るHorseshoe Canyon formationというところです。ここは石炭とCBMが一緒に算出されるという世界でも珍しい資源構造のようです。

アルバータのCBMの特徴はドライコールから算出されることです。そのためガス中に水分を含んでおらず、脱水操作や排水処理の心配をする必要がないという利点があります。

次回に続く

都市ガスの値下げ

2006-07-28 | ガス
原油の値上がりによりガソリン価格が夏休みに入って値上げになる、というニュースに接する日が多くなりました。ところが都市ガスは値下げするという。どちらもエネルギーなのに片方は上がって、もう一方が下がる。都市ガスの価格が一体どういう風に決まっているのかを調べてみました。

ガス会社は3ヵ月後との原料すなわちLNGとLPGの平均価格を計算している。この原料価格が過去の価格に比べて5%以上、高いかあるいは安くなっている場合は、その分を都市ガス価格に上乗せしたり値下げしたりしている。今回発表になっているのは4月から6月の原料平均価格がLNGで2%、LPGで18%値下がりしていることによるらしい。この改定料金は10月から12月分に適用されることになる。

東京ガスのHPによれば、この調整額は0.081×変動額/100(円/m3)という式で計算されている。この式を見ただけでは、原料が100円上がったら都市ガス価格がいくらあがるのかが良く分からない。そこで、少し計算をして見ます。

原料LNG価格はトン基準です。例えば2006年1月から6月の平均価格は財務省貿易統計によれば、41,570円/トンです。1トンのLNGはガスの体積に直すと、マレーシア産の場合1,233Nm3です。これより平均価格は33.7円/Nm3になります。原料LNG1トン当り1233円値上がりしたとすると1Nm3換算では1円/Nm3の値上がりとなります。一方、上の計算式に当てはめると
0.081×1233/100=0.998円/Nm3ですから、原料LNGが1円/Nm3値上がりすると都市ガス価格もほぼ1円/Nm3値上げする方式なっています。ガス会社が便乗値上げしないようになっているといえるでしょう。

石油もLNGも3ヶ月くらいの単位で見ると変動しており、このようにたまには下がることもあるということです。しからば、年度で見た平均価格は原油とLNGでどうなっているのかを調べてみました。先ほどと同様に貿易統計から年間輸入数量と価格のデータを入手し、少し換算しています。



2003年までは熱量基準で原油もLNGも同じ価格です。しかし、2004年に原油が値上がり始め、2005年、2006年と急騰しています。2000年から2002年の安定価格を0.5円/MJと見れば、2.4倍になっています。LNGも2005年、2006年と値上がりしていますが、1.6倍程度に収まっています。

石油もLNGも燃料ですから、燃料の用途(発電も含む)ならば熱量基準の価格はほぼ同じになるはずです。事実2003年までは全く同一の動きをしています。石油が使えてガスが使えないものといえば、自動車用ガソリンくらいです。しかし2004年以降、世界的に見て自動車が爆発的に増えたということはありません。とすれば、この原油価格の上昇は用途面からは説明できない、ということになります。何か別の意図があって上がっているのは確実でしょう。

ところでガソリンと都市ガスの価格を比較してみます。2006年原油価格は貿易統計より44.7円/Lです。石油会社はこれを原料にガソリンを作って売っていますが、先日のブログに書いたように税抜き価格は74.7円/Lです。ガスの場合、原料LNG価格は33.7円/Nm3ですが、都市ガスの小売価格(一般家庭)は120円から140円/Nm3です。ガス会社は原料の4倍以上の値段で都市ガスを売っています。石油会社とガス会社の粗利を熱量基準で計算すると石油は(74.7-44.7)/34.6=0.9円/MJに対して、ガスは(120-33.7)/41.1=2.1円/MJになります。ガス会社さん、ちょっと儲け過ぎと言っては失礼でしょうか?

GTL軽油

2006-07-24 | ガス
GTLは石油代替エネルギーの一つです。天然ガスから液体燃料、特に軽油を合成するので、非化石燃料ではありませんが、一次エネルギーの石油依存度を下げることには貢献します。

石油依存度を直接下げるために天然ガス自動車の導入が考えられますが、車の改造に費用がかかる、天然ガススタンドが少ない、連続走行距離が短いなどの理由で、日本での普及率はなかなか向上しないのが現実です。

そこで、自動車の改造をしなくてすむように、天然ガスを自動車でそのまま利用できる液体燃料に変えるのがGTL技術です。日本ではいまだ、商業プラントは稼動していませんが、世界では確実に増えていくようです。

GTL軽油を使ったモーターレースの話題が二つあります。
一つ目は先月行なわれたルマン24時間レースです。アウディスポーツが優勝しましたが、燃料はシェルのビンツルプラント(マレーシア)で製造されたGTL軽油をブレンドしたものです。耐久レースでディーゼル車がガソリン車に勝ったのは初めてだそうです。

二つ目はOryx GTLプラントの落成式イベントです。南アフリカのサゾールブルグからドーハまで10,000kmを6週間かけてトヨタハイラックスで走破したものですが、燃料はサゾールのGTL軽油でした。

Oryx GTLプラントは330MMcfdのカタール・リーンガスから34,000BDの超低硫黄軽油と24,000BDの一般軽油と9,00BDのナフサと1,000BDのLPGを生産します。これはカタール石油とサゾールの合弁ですが、2010年までに100,000BDへの拡張計画があります。

他に2010年にはシェルとカタール石油の合弁GTLプラント、2011年には能力145,000BDのカタール石油とエクソンモービルの合弁プラントが計画されています。カタール当局者は2010年までにカタールのGTL能力は800,000BDに達すると予想しています。

ヨーロッパの車はディーゼルがメインですが、米国はガソリン車がメインです。そこで米国でのGTL軽油の普及はスクールバスに代表されるような大型車になるものと考えられます。

ガスを液体燃料にすることで輸送や貯蔵の利便性が向上し、エネルギー密度が大きくなるので自動車にも使えるという利点のあるGTL技術ですが、課題は以下の二つです。

一つはコストです。GTLプラント建設コストは$25,000から$45,000/BDといわれており、これは通常の製油所建設コストの3倍近くになっています。昨今の原油高によりこの建設コストが賄えるかどうかが課題です。

二つ目はエネルギー効率です。GTL軽油の製造エネルギー効率が低すぎると、実質の自動車からのCO2排出量が減らないことになります。以上の二つのポイントを検証することが大事です。

韓国天然ガス事情

2006-06-06 | ガス
「プロ中のプロである自分にしては、気づかなければいけないことであった。」という言葉が、本日の新聞各紙にありますが、んーん、本当は意図してやってたんじゃないの、プロ中のプロなんでしょ、でなけりゃ、プロ中のプロと自分のことを言うのは言い過ぎじゃないの、と突っ込みをいれたくなる。
どこの世界でもプロ中のプロが少なくなっているのでしょうか!

CO2排出抑制効果ありとして、化石燃料のかなでは天然ガスが好んで使用されている。ガスは開発から輸送にかけて莫大な資金を必要とするので、買主が長期契約をして買うのが通例。しかし、韓国のガス会社Kogasは躊躇しており、このままでは2008年以降大幅な不足になるという報道がある。

あと数年で韓国が長期契約しているインドネシアやマレーシアの一部の契約が切れるのだが、それに代わる契約がなかなか決まらないのだそうだ。2004年に韓国経産省が決めた計画では2010年の需要は25百万トンである。ところがKEEIの予測では30百万トンである。2005年の実績では実需は経産省の計画よりも多く、足りない分をスポット購入している。スポット購入は価格が高くなる上、必ずしも手当てできるとは限らない。韓国経産省は2年ごとにこの計画を見直すとしているが、その計画見直しが出来ておらず、Kogasなどは長期契約を増やせないでいるそうだ。

ところで日本はというと、LNGの輸入量は2004年で60百万トンである。韓国の3倍近い。この量は日本の一次エネルギーの14%に相当する。石油、石炭についで3番目です。この総一次エネルギーのうち発電に使われる量は42%(いわゆる電力化率)ですが、発電燃料中(水力なども含めて)では28%であり、その比率は原子力を抑えて一番である。われわれが使う電気は天然ガスから最も多く作られているということです。

話を戻して、韓国の天然ガス不足量は2008年で5.7百万トン、2010年では8.2百万トンに達すると予測されている。韓国でも日本同様に、天然ガスは電力用や産業用に使われている。日本はとりあえず自分の分は長期契約により確保されているからいいや、となるでしょうか。韓国が不足分をなりふり構わずスポットで調達を始めると、スポット価格の急騰に加えフレートの急騰にも及ぶかもしれない。
他人事と無関心でいるわけにはいかないのである。