化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

エタノールガソリンの腐食性

2006-10-31 | バイオマス
とうもろこしや小麦・ビートを原料として製造されるバイオエタノールは、カーボンニュートラルとみなされるのでこれを自動車用燃料に利用することにより、CO2排出を抑制できます。アメリカでは10年以上前からガソリンに10%混合し使用されてきましたが、今日ではエタノール混合割合は85%まで高められています。ブッシュ政権や中西部州では中東石油への過度の依存を下げる目的で、このバイオエタノールの導入を促進させています。

しかし最近、独立製品安全テスト機関であるUnderwrites Laboratories(UL)がE85は給油ステーションのディスペンサーポンプの金属・プラスチック部品を腐食すると発表しました。そしてE85ディスペンサーに張ってあるUL認証シールを取り消しました。ULはE15用として認定しているのであってE85については認定していないという理由です。

ULはトースターからテレビまですべての製品の安全性を認証しています。今後2年かけてE85用の規格を制定し認証を行なうとしています。これによりいくつかの州ではE85ディスペンサーを使用できなくなる事態が想定されます。

BPはこの決定を受けてE85の販売開始を延期しました。Wal-MartはE85ステーションを400箇所に設置する計画ですが、さらに検討するといいます。
一方、アイオワ州は今後2年間でE85ステーションを3倍にする計画です。同州の法律ではUL認証がなくても2009年6月まではE85ステーションを作ることができるからです。

日本でもCO2排出抑制と自給率向上(わずかばかりですが)に寄与することを評価し、バイオエタノールの使用を認めています。各種自治体や企業がE3ガソリンの実証化を進めてきています。総合資源エネルギー調査会の答申(2003年6月20日)で、ガソリンへのエタノールの混合率は3%上限とされました。これは含酸素率が1.3%を超えると金属腐食が起こるという実験結果によるものです。これをエタノールに換算すると3%になります。

同調査会では2006年4月の取り纏めで、エタノールを直接ガソリンに混合するよりもETBEに転換することを推奨しています。ETBEはバイオエタノールとFCC装置で生産されるイソブテンから製造されます。バイオエタノールを一部原料にしているのでCO2抑制とエネルギー源の多様化に寄与します。しかしエタノールは蒸気圧が高く大気中に揮発する、水と混和するという欠点があります。ETBEではこの欠点がなくなるため、石油業界はETBEを今後導入していこうというものです。含酸素率1.3%の制限でETBEならば8.3%までガソリンに添加が可能です。

同じバイオエタノールといっても日米ではその取り込み方に違いがあります。

ソーラーサービスモデル

2006-10-30 | 再生可能E
CO2排出抑制のため太陽光発電を検討しても、初期投資が大きすぎて投資回収ができないという問題にぶつかります。初期投資がゼロで、運転管理費もかからずに太陽光発電を設置することができ、炭素排出量削減を実現できると同時に、自らのエネルギーロストを削減できる方法があるようです。

日本でいうエネルギーサービスプロバイダー(EPS)に似ているモデルです。
カリフォルニアにあるGMの部品倉庫の屋根には年間150万kWh発電量(稼働率約20%とすると900kW)のソーラーパネルが設置されています。設置したのはGMではなくて、DEERS(Developing Energy Efficient Roof Systems)という会社です。Deersは投資家から資金を集めてそのお金でソーラーパネルを設置しました。

GMはDeers社から9-10セント/kWhで電力を買います。(通常系統電力よりも安い一定価格か、一定割引率で10年の契約を結ぶようです。)この価格は電力会社からの買電よりも安いのでGMは電気代を年10%削減できるそうです。Deers社はカリフォルニア州から再生可能エネルギー(CO2削減)発電ということで税免除や税還付を受けることができ、その結果として安く電力を売ることができます。GMからは長期(10年)にわたって一定の電力販売収入が得られるので、投資家からみると20%の高リターンは期待できませんが、AAA債権と同程度のリターンを10年間という長期にわたって受け取れるので悪い話ではありません。

同様の事例として、GEがサンディエゴの23の学校にソーラーパネルを設置、Whole Food Market社の店舗や倉庫にSunEdison社(ゴールドマンサックスが出資)がソーラーパネルを設置し10%の電力を供給、Staple社のカリフォルニア配送センターにSunEdison社が280kWのパネルを設置し全使用量の15%の電力を賄う、などがあります。

いいこと尽くめのようですが気をつける点もあります。エネルギー価格は今後とも上昇するという前提ですから、10年間の間に系統電力料金が下がってしまうと買う側はメリットがなくなります。ソーラーパネルの発電効率の悪い場所、つまり日照条件の悪い地域には適用できません。さらに免税や税還付といった再生可能エネルギーに対する優遇政策を実施している州のみが対象になります。

どこでも適用可能というわけではありませんが、太陽光発電の導入を促進する良い仕組みです。

砕氷LNGタンカー

2006-10-26 | ガス
サハリンの天然ガス開発に関しては、サハリン1プロジェクトの日本向けLNGが中国に横取りされそうだとか、サハリン2プロジェクトに自然破壊を起こすとの理由でロシア政府から中断の横槍が入ったりと、現時点では散々な状況です。

ロシアの天然ガス開発ではサハリンもさることながら、シベリアの鉱区が今後とも最も注目されると予想されます。天然ガスを需要地まで輸送するためにはパイプラインやLNGタンカーが使用されます。パイプラインは初期投資が大きい、需要先との長期・大量契約で需要先・流通が硬直化するなどの弱点があります。これに比べてLNG輸送は少量輸送できる、需要先の変更も可能なことからフレキシブルな輸送手段といえます。

しかし冬のシベリアの海は氷に閉ざされてしまいますから、氷海を航行できるLNG船、航路の確保が必要です。

氷海には単年氷と多年氷があるそうです。単年氷は夏には融けてなくなるもので、厚さは0.3から2.0m、多年氷は2年以上にわたって存在するものでその厚さは3mにも及ぶそうです。この様な分厚い氷を砕いて航行する船の建造は、造船会社にとっても新たな挑戦となりますが、シベリアLNG開発にとってはキー技術となります。

サハリン2プロジェクトでは砕氷仕様までは行かないまでも、厳冬仕様のLNG船を採用しています。デッキや通路のさまざまな箇所のヒーティング、結氷を解凍するためのスチーム配管、バラスとタンクのヒーティング、船員のための特別仕様衣料や防寒具、低温グレードの潤滑油などです。また流氷中を航行できるようにエンジン出力を増強し、それに見合うスクリューシステムを採用しています。

氷に閉ざされたシベリアの海を航行するにはさらに強力な仕様が必要です。現在は三つの方法が考えられています。一つ目は二隻の砕氷船を使って航路を確保する方法、二つ目は斜め向きに進行して1隻で広い航路を作ることのできる特別な砕氷船です。

そして三つ目がダブルアクションLNG船と呼ばれるものです。これは砕氷能力も併せ持つLNGタンカーです。船首の構造は通常のLNGタンカーと同じですが、船尾は砕氷ができる特別構造になっています。通常の海を進むには前方向に行けばよく、氷海を進むときには後ろ向きに進みます。そのため船首にもスクリューを備えています。

エンジン出力は増強されており、繰り返されるショックに耐えうる強力なギアボックス、高トルクと低速回転を生むためのディーゼル発電で駆動するスクリューシステムなども装備しています。

既に石油タンカーでは実用化されているそうですが、LNGタンカーでは今だないようです。今後のエネルギー需要の増加に後押しされて、このダブルアクションLNGタンカーが実用化される日も近いものと予想されます。

サルファーフリー軽油

2006-10-24 | エネルギー
2006年9月1日より米国では製油所の15ppm(硫黄分)軽油規制が始まりました。但し、小さな製油所には猶予が与えられているそうです。これに向けて製油所では6月以降、15ppm軽油(米国ではULSDと呼ぶ)の生産を開始していました。現在の15ppm軽油の流通状況をAPI関係者が以下のように発言しています。

10月15日現在で、ハイウェイ軽油の80%以上が15ppm軽油となっている。今のところ特段のトラブルの報告は無い。25年前のガソリン無鉛化では完了までに数年を要したが、15ppm軽油にあっては数ヶ月で達成するだろう。ヨーロッパにも10ppm軽油の規格はあるものの、流通している大部分の軽油は50ppmなので、米国は今世界で一番クリーンな軽油を使用していることになる。
15ppm軽油対応のため、製油所では$8 billion、パイプライン事業者は$500 millionの設備投資を行なった。

ちょっと待った。米国から見ると日本はアジアの小国で、あまり眼中にないのかもしれません。が、軽油の硫黄分規制に関しては日本が世界で一番です。

日本では既に2005年より10ppm軽油の流通を開始しています。これをサルファーフリー軽油と呼んでいます。米国ではハイウェイ軽油は15ppmですが、別にオフロード軽油という種類があり、こちらは今でも500ppmです。加えて日本ではガソリンも2005年より硫黄分10ppm以下ですが、米国では30ppmと規制値は緩やかです。

日本では5,000ppmあった軽油の硫黄分を、92年から2,000ppmに、97年から500ppm(これを深脱軽油という)に、2003年から50ppm(これを超深脱軽油という)に段階的に引き下げ、ついに2005年からは10ppm以下(これをサルファーフリーと呼ぶ)にしてしまいました。

日本でも深脱軽油製造のため2,000億円、サルファーフリーへの対応のため3,000億円の設備投資がされたといわれています。日本の精製能力は米国の4分の1ですから、日本における設備投資のほうがはるかに大きいといえます。

このように軽油の硫黄分が低減されることで、ディーゼル車に装着されている排ガス浄化装置が充分に機能して、窒素酸化物、浮遊微粒子やCO2低減に寄与するものと期待できます。

アルバータ・オイルサンドの増産

2006-10-19 | 石油
アルバータ州はオイルサンドの生産量が今後10年間で3倍になると発表しています。EUB(Alberta Energy and Utilities Board)は5月に発表したレポートで今後の見通しの詳細に言及しています。現在のオイルサンド(正確にはビチューメン)の生産量は1.06 million b/dですが、2015年には2.90 million b/dまで増産するというものです。

アルバータ州には北部のFort McMurrayを中心とするAthabasca、その西側のPeace River、Edmontonに近くCold Riverの三つの鉱区があります。これらをあわせた原始埋蔵量は1.69 trillionバレル、確認埋蔵量は173 billionバレルといいます。

現在開発中の鉱区では10.2 billionバレルの総生産が期待されています。ちなみにこれまでに5.0 billionバレルを累積で生産してきました。オイルサンド生産で最大のSyncrude社のHPをみるとトップページに操業開始以来の生産量(約1.69 billionバレル)の数値が表示されます。秒を刻むようにその数字が増加しており、この数値の増加具合が彼らの誇りだと良く分かります。

オイルサンドの生産方法にはsurface miningとin situ法とがあります。Surface mining
は地表からオイルサンドを掘りだし、これよりスチームや溶剤を使ってビチューメンを抽出します。回収率は80%と高くなりますが、土を掘り起こして、また埋め戻すという手間がかかります。

これに対してin situ法は地中(深度10-15m)に水平方向に上下に2本の管を配置し、上方管よりスチームを土中に挿入します。周囲のビチューメンは粘度が下がり下方に移動してきますので、下方管よりそれを吸い上げる方式です。土を掘るのに比べてランニングコストは小さくできますが、土中のビチューメンを完全に回収することはできず、回収率は20-50%と低くなります。

EUBは2015年にminingで1.8 million b/d、in situで1.1 million b/dを生産すると予想しています。MiningではSyncrude, Suncor, Albianといった会社が、in situではPetro-Canadaが主なプレーヤです。現在、 in situ法では8,000本のwellが稼動しており、一本あたりの平均生産量は56b/dだそうです。

ビチューメンは超重質油ですから、そのままでは既存の製油所で処理することができません。そこで、水素化分解や熱分解により低粘度で水素分の多い人造原油に転換します。

North American社では2016年までに16万b/dの人造原油プラントを建設予定ですが、その中核になるのがコーカーとガス化プラントです。コーカーによりビチューメンを熱分化し、生成したコークスをガス化してスチームや電力を得ます。最終的に排出されるCO2は原油回収(EOR)に利用することもできるとしています。

またin situ法で大規模な開発を進めているPetro-Canadaもエドモントン郊外に人造原油プラント(32万b/d)を2014年に完成させるとしています。同社はオイルサンド開発の老舗であるSyncrudeに出資しているのでSyncrudeの技術と経験を導入できる点が優位です。Petro-Canada社のオイルサンド生産コストは6ドル/バレルだそうで、同時に1 Mcfの天然ガスが生産できるそうです。足元の原油価格から見て十分に採算が取れ、それゆえ多くの石油会社などがこぞってオイルサンド開発を加速していることが理解できます。

アルバータ州は人口320万ですが、そこでこれだけの化石燃料資源が生産されることはうらやましい限りです。

原油価格の動向

2006-10-18 | 石油
2005年のハリケーン・カトリーナの時には70ドルに迫った原油価格は、その後60ドルまで下がったものの、2006年に入って上昇を続け7月中旬には75ドルをはるかに上回りました。しかしその後は下落を続け、足元は60ドルを割り込んでいます。今夏にはこのまま行けば100ドル越え、という論調も聞かれましたが、今はやや落ち着いている感があります。しかし、2003年-4年は30ドルでしたから、下がったとはいえ消費者の感覚からすればまだ高いといえます。

原油価格の予測はできませんが、FACTS(Fesharaki associates Consulting & Technical Service Inc.)レポート要約を見ながら、原油価格がどのような要因に影響されるのか考えてみました。原油は翌月渡しなどの先物価格で表されますので、現在よりも将来のことを重要視します。そこで個々の要因の解析も今度どれだけ増加(減少)するかという言い方になります。

世界の需要では2006年に1.2 million b/d増加し、2007年には1.6 million b/d増加するとIEAは予想しています。今後5年間で年平均1.5 million b/d増加するとしていますので、最終的には7.5 million b/d増加することになります。言うまでもなく中国やインドなどのアジアパシフィックでの消費増大が大きな要因です。日本は近年の経済回復が消費増加要因ではあるけれども、既に充分成熟した国、成熟した産業構造で今後は人口が減少していくことを考えると、長期的に見て石油消費は増大しないと考えられます。

原油は精製して初めてガソリン、軽油などの商品になりますから、精製能力(余力)は石油製品の価格に関係し、ひいては原油価格にも関係します。2005年の米国ガルフ地域がハリケーン被害にあったとき、原油価格とガソリン価格は上昇しました。しかしそれは原油生産が減ったことが主因ではなく、精製設備がダウンしたためガソリンの供給不足となりガソリン価格が上昇し、原油価格も上昇しました。1990年代の原油価格低迷期に精製設備に対する投資を行なわなかったため、米国の精製能力(余力)が全くなかったためです。また、備蓄原油があるのにガソリンが不足したということからも精製設備能力(余力)の重要さがわかります。

今後見込まれている世界の精製能力増強は、中国2.3 million b/d、インド1.3 million b/d、中東3.0 million b/d、その他1.2 million b/dで合計7.8 million b/dです。これは石油消費量の増加とほぼ見合う値ですので、今後精製能力(余力)が原油価格に与える影響は小さいといえます。

原油生産能力(余力)はどうでしょうか。Non-OPECは現在53 million b/dの生産量ですが、2006年で1.1 million b/d、2007年には1.7 million b/dの増加を予想しています。しかし予想通りに生産能力は増えておらず、予想は毎月下方修正されているそうです。Non-OPECで不足する分をOPECの増産で補完できるかといえばむしろ逆で、OPEC能力は毎年 1.2 million b/d減少するとの予測がなされています。2010年までに世界で新たに10 million b/dの原油生産能力を増加させる必要がある、というのが専門家のひとつの見方です。このようにみてみるとColin Cambellのpeak oilの様相を呈しているといえます。最も、今後の生産能力増加は可能とする専門家の意見もあります。

原油が北米や北海、オーストラリアなどで充分に生産できれば良いのですが、残念ながら中東や南米といった地域の原油に頼らなければならないのが実情です。つまり、常に供給不安にさらされているということです。いわゆる地政学リスクとか、カントリーリスクといわれるやつです。政情不安、テロ、労働争議、住民争議、事故などにより原油はあるのに市場に供給されないかもしれないという不安です。この不安の度合いの大小も原油価格に大きく影響します。特に昨今の市場でのキープレーヤーであるヘッジファンドは、原油供給のサプライチェーン、ハード面よりもこのリスク面に強く関心を払っているのではないでしょうか。

原油への依存は供給不安との戦いとなります。いきおい、もっと安定でクリーンなエネルギー、例えば再生可能エネルギーへ移行するという話になります。自給率の向上に努める必要はあるでしょうが、そうかといって石油以外の地下資源(鉱物)や食糧のすべてを自給することは不可能です。当たり前ですが、付き合いにくい石油とも当分の間、付き合う覚悟は必要です。

エタノール狂想曲

2006-10-17 | バイオマス
オイル&ガスジャーナル誌にバイオエタノールガソリンに反対するコラムが掲載されています。要は、コーンから製造されるエタノールをガソリン代替に利用することは、エネルギー収支(石油ベース)でプラスにならず、経済性も成り立たないという立場からの主張です。

バイオエタノールはエネルギープラスになるというのが今日の大勢を占める意見ではありますが、記事の内容を見てみました。

企業は修復不可能な過ちを犯しているし、米国政府は将来性の無い施策を拡大しその成功を公言しています。税制優遇措置と市場に対する命令によって、政府はエタノール狂想曲を煽っています。バイオエタノールは海外石油依存度を低下させ、大気環境を改善すると謳っていますが、その実は農業ビジネスと農業州経済の振興という政治的目的にあります。

誰も出費を強いられないのならばどんなひどい政策も良いでしょうが、エタノール政策はその付けを消費者と納税者に回しています。さらに自動車メーカーも優遇税制にそそのかされてフレキシブル燃料自動車を売り込んでいます。こうしてエタノールプラントは増えるばかりです。

政府の目標は2015年に7.5 billion gal/yearですが、現在計画中のエタノールプラントがすべて稼動すれば2010年にも10 billion gal/yearを超えると推定されています。
そのため議会はエタノール目標生産量の引き上げを要求しています。

今後も原油価格が$50/bblを下回ることなく、さらにコーン価格が上がらなければバイオエタノールは経済的に成り立つでしょう。しかしその条件が崩れた時、経済性が成り立たなくなった企業はエタノールプラントの稼動を中止し、やがては廃棄してしまうでしょう。

しかし、今日のエタノール産業は政治家が作り出したものですから、この様な経済原則に従うことはないでしょう。どのような状況になっても政治家達はエタノールの増産を行い、その結果として輸入原油は減り環境は改善されたと公言し続けるでしょう。その付けを消費者と納税者に回しながら。

原料コーン増産のため土壌は肥料付けになり、より多くの化石燃料が消費され最後にはオゾン層が破壊されるとも知らないで。

うなづける部分もありますが、本当にこの主張でよいのでしょうか?確かに数あるエタノールプロジェクトの中には、エネルギー効率に疑問符がつくものや、補助金なしでは経済性が成り立たないものもあるのでしょう。環境保全と経済性が基本的にはトレードオフの関係にあることも確かだと思いますが、だからといってすべてのバイオプロジェクトを否定する事は適切でないと思います。各プロジェクトごとにエネルギー効率、環境保全と経済性の妥協点を見出すことが今の企業に求められている社会的使命と考えねばなりません。

原油の重質化

2006-10-05 | 石油
今週に入って下げを続ける原油価格(WTI)ですが、ついに60ドルを大きく割って57ドルまできました。最も、昨日アメリカの石油精製・販売大手のValero Houston Refで硫黄酸化物ガス漏洩事故があり、製油所が操業停止とのニュースで59ドルまで上がっています。ちなみにバレロはテキサス州を中心に北米に17の製油所を持ち、330万BDの精製能力を持つ会社です。

70年代のオイルショック以降、原油の重質化と重軽価格差の拡大が見込まれたことを背景に、日本の製油所は分解装置、二次装置の増強を進めてきました。これは世界に先駆けた公害(大気汚染防止)対策とも密接に関係していました。しかし、80年代、90年代を通じて原油価格は下落基調にあったため重軽価格差も広がらず、石油代替燃料の開発が進んだことともあいまって、結果として生産される原油は軽中質のものが主でした。

これに対して2000年以降は経済成長、とりわけアジアにおける経済成長により原油需要は大幅に拡大し、生産される原油は重質化の傾向にあるようです。

CGES(the Centre of Global Energy Studies)とい機関が、2000年と2004年の原油生産を比較検討しています。CGESは1990年にサウジのヤマニ石油相によってイギリスに設立された機関ですから、OPECびいきの情報とは思われますが、統計の数値はすなおに見てもよいでしょう。

2000年と2004年を比較するとNon-OPECで生産された原油は中・重質系が23%の増産、軽質油は10%の減産です。このレポートでは軽質原油はAPI比重35以上、重質原油は26以下、中質原油は26から35と定義されています。平均するとNon-OPEC原油のAPI比重は33.2から31.5へと重質化しています。API比重で2変化すると密度(g/cm3)で0.01の変化に相当します。

その理由として以下のことがあげられています。
カナダ、ブラジル、メキシコなどの重質原油の増産
ロシア・ウラル(API比重33、硫黄分1.3%)原油の増産
北海、オーストラリアなどの軽質原油の減産

同様の変化は北米だけを取ってみても起きており、API比重は28.4から27.7に重質化しています。これはWTIが減って、ガルフ産の原油が増えたことによります。

一方、OPEC原油ではベネズエラ等の減産により重質系が80万BD減り、アルジェリア・リビアの増産により軽・中質原油が190万BD増えています。最も、今後も増産の余地を残しているのはサウジの重質原油のみとのコメントも付け加えられています。

Non-OPECとOPECを合計すると、軽質原油は90万BDの減少、中質原油は500万BDの増加、重質原油は70万BDの増加となっており、重質化の傾向が顕著だということになります。

今後の世界の石油需要は量的には一層の増加とともに、現状と同じあるいはより軽質な製品へシフトしていきます。一方原油は重質化をたどることになるので、精製設備と原油性状のミスマッチがこれからの問題となるだろうと指摘しています。


浮遊粒子状物質の規制強化

2006-10-04 | 環境
石原都知事が自動車の排ガスにはこんなものが含まれている、といって黒い粉末の入ったビンをかかげて、都内のディーゼル車に排ガス浄化装置を付けさせたのは記憶に新しいところです。

アメリカ環境保護局は、大気中のparticulate matter:PM (粒子状物質)の規制値改定を発表しました。大気汚染防止法(Clean Air Act)により5年ごとに規制の見直しが求められており、今回の改訂はそれに沿ったものです。
PMは粒経2.5μm以下のfine particleと2.5から10μmのcoarse particleの2種類に分けられています。日本では10μm以下の粒子とひとくくりにしていますが、アメリカでは健康被害のより大きい2.5μm以下を区分けしています。

1997年に定められた現在の規制値のうち、PM2.5の日間基準値を65から35μg/m3に厳しくしました。PM2.5の年間基準値15μg/m3とPM10の日間基準値150μg/m3は据え置きとし、PM10の年間基準値を取り消しました。これは健康障害とPM10の長期間暴露の間に明確な科学的関係が見出せないことによるとしています。

PM2.5の日間基準値が厳しくなったことに対して、産業界からはいくつかの反論がなされています。PMは工場のばい煙や自動車、特にディーゼル車の排ガスが原因となっていますので、この規制が強化されることは、石油、ガス、電力業界にとってはコストアップの要因になることは確かでしょう。

APIは35μg/m3という数値は不完全な科学的根拠に基づくものだとしています。NPRAは石油精製、石油化学会社を含むすべての産業にとって、コスト負担を強いるものと言っています。1997年の規制は予想以上の効果を挙げているのだから、今の段階でこの規制値を厳しくする必要はないではないか、今回の改訂により年間で$20-60Billionのコストアップになるという意見もあります。

一方、全米肺疾患協会は当然歓迎で、35μg/m3に厳しくすることで$9-75Billion、PM2.5年間基準を据え置くことで$20-160Billionの健康メリットが見込まれると主張しています。さらに日間PM2.5を25μg/m3、年間PM2.5を12μg/m3にすべきだとも言っています。

コストアップにつながるからという理由だけで反論する産業界もどうかと思いますが、健康メリットと製造コストアップを直ぐに金額換算して主張するところがいかにもアメリカ的といえます。

もう一つ付け加えるならば、科学的根拠が不明確であったとして一旦決めた規制値を取り消すことのできることもアメリカ的であります。

インドの風力発電

2006-10-03 | 再生可能E
インドと中国における風力発電の設備導入量増加が著しい。原油高を背景にコスト経済性がでてきたことと、発展途上国というよりは高度成長国といったほうがいいでしょうが、各国の経済発展事情が後押しをしているものと推察できます。

2005年度末の推計で、風力発電設備容量(累計)はインドが430万kW、中国が109万kWとなっています。おのおのの増加率はインドが48%、中国が65%です。ちなみに日本の設備導入量は108万kWですから、中国とほぼ同程度です。

これらの設備容量の数値から、インドの導入量が飛びぬけて高いことが分かります。インドも中国も発電燃料は石炭に頼るところが大きくなっています。両国の経済成長を支えていくためには今後ともエネルギー供給量を増加させなければいけませんが、これをすべて石炭に頼ることは環境面から許されなくなるだろうから、新エネルギー導入を進めようというものです。

インドにおける風力発電は石油価格$40/バレルで見合うといいます。また、$40/バレルを下回っても炭素税などの補助により採算性は確保されると予想されています。風力発電導入者の7割は企業ユーザーですが、残りは裕福層の個人・家族です。企業は信頼性の乏しい系統電源に代わるものとして風力発電をとらえています。インドにおける発電・配電事情はひどいもので毎日のように停電があるといいます。従って、企業はコスト高だがディーゼル発電に信頼性を頼っています。そこで、自家発電の一環として風力発電を導入しています。裕福層は税金控除を受けるために、導入しているといいます。これらのことが、インドにおける風力発電導入が高い理由の一つです。

もう一つの理由はインド国内に風車メーカーがあることです。Suzlon Energy社は売上げ202百万ドルを誇るインドの風車メーカーです。もともとは織物業でしたが、ドイツから購入した風車がうまく稼動しなかったため、自分たちでインドに合う風車を製造するようになりました。今では世界で5番目(Vestas,GE,Enercon,Gamesaに次ぐ)の風車メーカーに成長しています。インド市場はもちろんのこと、ミネソタや天津に工場を持ち、生産の8割は輸出用だそうです。ちなみに日本における国産風車のシェアは25%にとどまっています。

中国への輸出や工場進出について同社は懸念を持っていません。一般に中国への先端機械製品、プラントなどを輸出するとあっという間にコピーされることは周知の通りです。ところが風車の場合、10数社の中国風車メーカーがあるそうですが、中国メーカーは性能トラブルが絶えず、生産能力不足のため納期遅れが常態化しており、中国国内でも苦戦しているといいます。

さらにSuzlon社の風車は特異な部品を使用しているためコピー品を作るには2-3年はかかるといいます。中国勢がコピー製品を完成させる頃には、Suzlon風車は一段と改良されているので中国勢に負けることはないと言っています。

インドの風力発電は系統発電事情が悪いことと、強力な国産メーカーがあることで今後とも増加するものと予想されます。