化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

石炭ガス化複合発電

2006-12-01 | 石炭
資源埋蔵量が豊富で安価な石炭は、日本を初め米国、中国など多くの国で発電用燃料として消費されています。他の化石資源に比較して産出地域が広く世界に分布していることも利用を促進する理由です。

しかし石炭は熱量ベースで比較すると天然ガスの1.8倍のCO2を排出します。従って石炭火力発電を推し進めるためには発電効率を向上させる必要があります。熱力学の第二法則が教えるところによれば、熱効率は高温部と低温部の温度差が大きいほど大きくなります。低温部を大気温度以下に下げるには多大なエネルギーが必要となりますから、熱効率向上のためには高温部の温度を上げる方策を採ることとなります。

蒸気タービンの温度は実用上600℃程度です。さらに高温とするにはガスタービンを回すこととなります。燃焼ガスの温度は1300℃から1500℃ですから蒸気タービンよりも発電効率の向上が期待できます。また、排熱回収ボイラーで蒸気を作って蒸気タービンを回す、いわゆる複合発電をすればさらに発電効率を上げることが可能です。しかし石炭は固体ですからガスタービンの燃料にするには石炭ガス化技術が必要になります。

日本で行なわれている石炭ガス化複合発電といえば、Jパワー/日立のEAGLEプロジェクトが有名です。本年度で研究運転を終える計画のこのプロジェクトでは商業規模の10分の1のパイロットプラントを稼動させています。石炭の微粉炭燃焼では発電効率は38%ですが、EAGLEプラントでは55%が達成可能といいます。しかし石炭ガス化炉、酸素製造プラントやガスタービンなどを加えて建設しなければならず、発電効率向上によるCO2削減効果は期待できるものの、経済性に見合うかどうかに注目が集まるところです。三菱重工が東電と計画しているプロセスでは燃焼に酸素を用いずに空気をそのまま用います。空気のままでガス化させるのは技術的に難しい面もあるようですが、酸素プラントが不要になる分、総合的に見た発電効率は5%上がるとの試算もあります。

実用化では先行している欧米での実績は発電効率47%です。日本の技術でさらに発電効率の向上を達成して欲しいものです。

石炭火力に賭ける

2006-11-10 | 石炭
石炭火力発電はCO2排出源の親玉と見られていますが、その石炭火力に賭けるという頼もしい会社のニュースです。
テキサス州にあるTXUコーポレーションは炭鉱も所有していますが、今後州内に11プラント、合計で900万kWにもぼる石炭火力発電所の建設計画を提出しました。900万KWという発電量は全米の石炭火力発電量の3.5%に相当します。一度にこれだけの大規模な発電所建設計画は初めてだそうで、投資額は$10 billionになります。すべて微粉炭燃焼で、追加でCO2隔離装置を設置するとしています。

CO2隔離のためにはガス化を採用したほうが良いという環境論者の意見に対しては、年間6ヶ月エアコンが稼動するテキサスでは、安価で信頼性の高い電力を供給することが消費者にとってのメリットであり、これに会社の利益を重ね合わせると微粉炭燃焼が一番の解決策と、その主張に揺るぎはありません。

現時点では石炭ガス化は信頼性、経済性の両面から充分とは言えず、これを採用することはしないとしています。カリフォルニアのシュワルツネッガー知事ならば建設申請を認めないかもしれませんが、テキサス州にはCO2排出の州目標がなくこの石炭火力発電計画は認められるものと思われます。

CO2排出抑制規制ができる前に駆け込みで建設し、自社のCO2排出枠を確保した後に休止させて、余ったCO2排出枠を転売するのではないかとのうがった意見に対しては、新設プラントをアイドル状態にしておくような経済性、効率性の観点から見て不合理なことはしない、と反論しています。

天然ガス発電はコストが高く、原子力発電は建設期間が長くまたコストも不明瞭、風力等再生可能エネルギーは発電量予測ができないなどの課題を抱えており、石炭火力が最良の選択だとしています。

TXUはこの11プラントの新設により、全社合わせてのスモッグ原因物質やすすの排出量を20%削減するとしています。そのため新設プラントには吸収塔、フィルターや触媒浄化装置などを具備するとしています。実際同社の最新のプラントは少し離れた場所から見ると発電所が稼動しているのかどうかさえ分からないくらいに排出物は少ないといいます。

最後に別途、風力発電や小型の原子力発電などCO2を排出しない発電も手がけ、化石燃料使用量を減らす用意があるとして、環境への配慮もアピールしています。テキサス州は既にカリフォルニア州を抜いて全米で一番の風力発電量だそうです。

価格が安く、産出国のカントリーリスクが少なく、埋蔵量の豊富な石炭の利用を進めていくことは、確かに重要なことです。

Coal to Liquid

2006-07-12 | 石炭
日本語で言えば石炭の液化ですが、より正確に表現するならば石炭を原料として液体燃料を製造する技術、ということになります。石炭液化には直接法と間接法がありますが、今の主流は間接法です。

間接という意味は、石炭から一旦合成ガスを作ってそのガスから液体燃料をFT合成するからです。CTGとGTLを組み合わせた方法といえます。直接法に比べて回り道にはなりますが、直接法は技術的に課題を残していることから、南アフリカ(SASOL社)では間接法の商業プラントを長年にわたって操業しています。近年はGTLやガス化技術が進んで、コスト的には直接法も間接法も大差ないのではと想像されます。

米国は中東原油依存から脱却したいわけですが、その方法の一つに国内資源である石炭の利用があります。発電分野では石炭火力の割合が51%で、石油はわずかに2.5%です。日本の発電燃料は石炭24%、石油11%ですから、いかにアメリカの電力が石炭に依存しているかが分かります。

ついでに言えば各国の主要電力源は次に用になっています。カナダは水力58%、インドは石炭で70%、中国も石炭で77%、ロシアは天然ガスで43%、フランスは原子力で78%、ブラジルは水力で83%です。この主要電力源を見ていると各国のあり方の一面が分かります。

日本は天然ガス、石炭、原子力がほぼ4分の1で、石油と水力が各1割と他の国に比べてバランスの良い割合になっています。最も裏を返せばどれも自国では取れないので、分散させているわけです。

ところでいずれの国も電力の石油への依存は小さいことがわかります。(中東産油国を除く)つまり石油、液体燃料は発電ではなく輸送用燃料として使われているわけです。それは液体燃料がもっともエネルギー密度が高く、ガス燃料ではタンクが大きくなりすぎ、固体燃料は内燃機関で燃やせないからです。

アメリカのRentechという会社が、イリノイ州にある天然ガスから肥料を作るプラントを買ったとのこと。この会社はGTL技術を得意とする会社なので、肥料を作るのではなくこのプラントを改造などして、CTLを事業化しようとしています。同社はミシシッピーに二基目、ワイオミングに三基目を計画しているとも伝えられます。
同様にタルサにあるSyntroleum社もCTLを計画しているようです。シカゴのGreatPoint Energy社は、ラボスケールですが石炭をガス化して、その合成ガスからメタンリッチな都市ガスを製造する検討を行なっています。

いずれも原油価格の高騰で石炭液化の採算性が取れるようになる、と踏んでいます。石炭液化のコストはおおよそ$25/バレルといわれていますが、軽油がバレル100ドルを越えるような価格の現状ならば、充分経済的に成り立つのでしょう。

但し、CO2排出の問題がついて回っています。石炭から軽油を作るとCO2の発生が増加するという指摘があります。NYTimesの記事によれば、原油から軽油を作って使うと2.98kg-CO2/Lの発生量だが、石炭からだと5.37とほぼ2倍に増加してしまうそうです。この差の大部分は石炭から軽油を製造する段階で発生しており、困った問題になります。
ということは石炭液化工程で発生するCO2は隔離、固定化が不可欠ということになるでしょう。

ドイツは石炭を特別扱い

2006-06-30 | 石炭
ドイツは石炭産業をEU炭素トレーディングプログラムから除外すると発表した。石炭産業とは石炭を燃料として使っている産業という意味だ。炭素トレーディングプログラムとは定められた以上の量のCO2を排出する時は、その超過する分の枠を取引所で買わなければならないという仕組みです。

ドイツ首相と連立内閣はドイツのCO2排出制限を2008年から2012年の3.4%だけカットすることに同意したという。これに批判的な人は、石炭はもっとも多くのCO2を排出する(CO2排出係数が最も大きい)のだから、これを除外してしまうとCO2削減そのものが意味をなさなくなると主張している。とはいえ、石炭なんぞを入れたらば、足元一体いくらお金を払えばよいのか分からないし、そもそも石炭の分をカバーできるほどの排出権の量があるのかということだろう。
欧州委員会はドイツの今回の行動に対してコメントをする前に、よく検討するとしている。

ドイツの環境大臣は今後ともドイツは国際社会あるいはEU内において気候枠組みの中でパイオニア的な役割を果たし続けるといっている。まー、何をどうやって果たすのかはよく分かりませんが。

排出権取引において、導入初期にあっては需要の方が大きくなる。2005年に始まった第一フェーズでは石油精製、鉄鋼、セメント、窯業、紙などの産業ではCO2排出の特別な枠を必要としている。

これに対して、イギリス炭素トラストはEUメンバー各国は排出権の価格暴落を避けるために国が許可する枠(交付枠)を19%減らしたと主張している。

企業は国から交付された枠よりも多くのCO2を出す時には、排出権を取引所で買い、逆に余った時には売ることになる。どこの企業も買うほうには回りたくないので、交付枠を多くもらうように働きかける。国が各企業の枠を決めるというのは、昔の日本の護送船団方式です。国がある企業に公布する枠を決めるにあたっては、その企業あるいはその業界の実績をベースにするしか無い。ところが、昔からCO2排出削減に取り組んできた企業は、少ない排出量を基準にして決められる。一方、CO2をばんばん出してきた企業は、より多くの排出枠をもらえることになる。これでは頑張った人が存することになってしまい、これが本当にうまく機能するのかどうかという疑問がついて回る。

今回のサンクトペテルブルグサミットでは、ドイツは気候枠組み問題を避けて経済問題を中心にすえてがっているが、英国は逆にこの問題をトップに持って期待という綱引きがある。
さらには原子力発電廃棄物の国際管理にかかわるような議題も想定されている。小泉首相としては最後のサミットだが、物見遊山というわけには行かない。

カーボンフリーの石炭火力発電所

2006-06-20 | 石炭
ワールドカップ開催中のドイツでの話し。Schwarze Pumpeという所にスウェーデンのVattenfall社がカーボンフリーの石炭火力発電所を建設した。石炭燃焼により生成する二酸化炭素を分離回収し、地中に圧入して大気に放出しないという方法である。プラント運開のセレモニーにはドイツ首相も参加したという。しかしこのプラントはデモンストレーションで、ドイツは今後5年間で8箇所の石炭火力発電所の建設を計画している。もちろん経済性の観点からそれらは二酸化炭素を回収する設備は有していない。

ヨーロッパの国は一般に温暖化対策に積極的だと思われているし、事実その通りだろう。ドイツやイギリスは今日とプロトコルでの削減量をたいした努力もせずに(失礼)、達成できる見通しという。このことからそもそも削減量の設定が不当に低いのではないかという批判がある。もっとも欧州は90年以降の経済成長が緩やかで、つまりは経済的にはあんまり発展しておらず、旧式の石炭火力を新型石炭火力に更新するだけで大幅なエネルギー効率の向上が見込まれ、それによりCO2削減量が達成できてしまうという。

しかし石炭に大きく依存していることもまた事実であり、そのことは広く認識されているとはいえ無い。例えばドイツは石炭火力により発電の50%をまかなっている。日本は24%だから如何に石炭への依存度が高いかが分かる。中学校の頃習ったようにドイツではライン地方やルール地方(だったか?)で石炭が取れるので、国内資源の石炭を利用すること自体は自然だ。

さらに近年の原油価格の高騰や、ロシアがウクライナとの天然ガス価格交渉時においてパイプラインのガス供給を停止するという強硬手段(売り手のロシアにすれば当たり前の作戦か)を目の前で見せられては、経済面やエネルギー安全保障の両面から石炭の比重をあげるのは当然とも言える。

石油は中東に偏在しているし、天然ガスはロシア、イラン、カタールで58%を占めているのに対して、石炭はどこの国にもある。アメリカにも中国にもあるので、取り合い合戦にならずに済んでいる。唯一の輸入大国は日本になるのでしょう。日本の炭鉱も石炭を掘りつくしたので閉山となったのではなく、価格面で海外炭にまけ、石油へのエネルギーシフトが起きたので閉山したのであり、資源としてはまだ埋蔵量はかなりあるものと思われる。もっとも現在の石炭輸入量は1.5億トン/年で、1961年のおける最高産出量は5500万トンなので国内炭だけでまかなうのには無理があることも事実。それにしても、国内の炭鉱に後どれくらい石炭の埋蔵量があるのかは興味深いところではある。

クリーンコールテクノロジー

2006-06-15 | 石炭
石炭は旧くて新しい燃料である。液体燃料に主役の座を譲ったとはいえ、埋蔵量から見ても引き続き主要なエネルギー源になるだろう。但し、石炭の燃焼により排出される有害物質を除去する必要はますます高まる。この有害物質を取り除くのがクリーンコールテクノロジーと呼ばれている。

有害物質とは具体的にはSOx、NOxと煤塵である。最近はこれに温暖化ガスのCO2も含めて考える。日本の技術は世界でも比類無いくらい高い。発電所で1kWhの電力を発電するのに排出される有害物質の量で比較すると、日本の排出量はSOxで0.2g/kWh、NOxで0.3であるが、アメリカではSOxで4.8、NOxで2.1と桁違いである。

有害物質を取り除く装置には以下のようなものがある。NOxは排煙脱硝装置でアンモニア還元法により除去される。装置そのものは煙道のダクト内に設置され、NOxをアンモニアと反応させて、窒素と水に変える。反応のためにハニカム形状の触媒が使用される。

煤塵はフライアッシュとも呼ばれるが、石炭中に含まれる鉱物(金属)の微粒子である。大きさは0.5-50ミクロンで排煙に混じって排出される。これは電気集塵器で捕集される。

SOxは石灰石(CaCO3)スラリーに吸収されて石膏(CaSO4)となる。排煙脱硫装置は、排煙脱硝装置、電気集塵器の後段に設置され、胴体の太い塔(脱じん塔、吸収塔)より成る。
日本の発電所ではこれらの設備を備えているが、海外では必ずしもすべての発電所でこのような設備を備えているわけでは無い。

以上の装置は燃焼後のガスをクリーンにするものであるが、これに対して石炭からクリーンな燃料を製造し、これを燃料に使用する方法もまた、クリーンコールテクノロジーの一種である。石炭の液化、ガス化、ガス化したものからさらに液体燃料を合成する方法などである。

以上の技術はそこそこ完成の域にあるが、燃焼後のCO2の処理についてはまだまだ開発を進めていかなければならないことが多い。

石炭の需要

2006-06-14 | 石炭
NYTimesの記事から中国における石炭の使用に関して。中国の石炭火力発電所からの排煙が偏西風に乗ってソール経由でアメリカ西海岸のオレゴン、ワシントンまで到達しているそうだ。このような微粒子は肺疾患を初め多くの病気を引き起こす。中国からのありがたくない輸出品である。中国の石炭消費量は2025年には世界のそのほかの国の合計よりも多くなろう。

排煙中のSO2の健康被害により中国では毎年40万人が早死にするだろうという意見もある。もちろんSO2は酸性雨を引き起こす。この微粒子は太陽の熱線を宇宙に反射させる効果も有しており、これは一時的ではあるが地球温暖化を抑制する方向に働くという。
もっとも同時に排出されるCO2の温室効果は何十年も続くことになるので、SO2の温暖化抑制効果などは直ぐに帳消しになってしまう。

中国の石炭需要は過去2年間、年率14%で増加している。これは毎週、新設の石炭火力発電所が稼動していることを意味している。この電力はダラスやサンディエゴの一般家庭分に相当する、といわれてもぴんと来ないが、両市の人口はそれぞれ120万くらいです。

中国の後ろにはインドが控えていて、インドも石炭火力に力点を置いている。2030年にはインドが中国の人口を超える、という。中国の人口は13億人、インドは10.6億人である。しかし、一人っ子政策で人口抑制を図っている中国ではあるが、統計に載らない人口もいるようで、現在の中国の人口は15億人を超えているという人もいる。まー、いずれにせよ多すぎるということです。

中国などで今後の石炭利用に当たっては、日本を初めとする環境技術先進国の技術を取り入れて高効率利用をせねばならないが、安い国産の技術で済ませたいという本音もある。また、これまで建設している旧型炉の寿命は75年くらいはあり、おいそれと石炭利用効率が向上するものでも無いという現実もある。

石炭の需要に関する数値をまとめておく。全世界では年間43億トンの石炭を消費しているが、そのうち中国は20億トンです。石炭はすべて中国国内産であり、わずかながら輸出もしている。石炭の可採年数は230年といわれているが、今の調子で中国、インドでの需要が増加してしまうと可採年数は短くなる。それでも石油の40年に比べればはるかに埋蔵量は多く、また世界中にぷんぷしている(一部の地域に偏ってはいない)という利点がある。しかしCO2排出係数が大きいという、10年前には考えられないような不利な点が出てきてしまっているのが困ったところだ。
日本はというと全量を輸入に頼っているが、1.5億トンの石炭需要がある。これは鉄鋼と電力でほぼ半々に使われている。日本人一人当たりにすると年間1.2トンの石炭を使っている計算になる。1.2トンという量はちょうど自家用車1台と同じくらいの重さです。ちなみに輸入先はオーストラリアが最も多く、58%になっている。
 
次回に続く。

石炭の話 その2

2006-06-01 | 石炭
石炭価格はカロリーベースで天然ガスや石油よりも安い。したがって発電に利用した場合、安価な電力を供給できるというメリットがある。また、米国の国内エネルギーなので価格の安定性、安全保障の観点からも良い燃料では有る。

しかし、CO2排出量と温暖化という課題が重石になっている。

石炭を積極的に使っていこうという意見はこうだ。

American Electric Power社はCO2排出制限を設ければ2010年以降、エネルギー供給の成長が阻害されると主張する。

石炭の消費量ではすでに数年前にアメリカを追い越している中国がCO2排出制限などせずに石炭を利用し続けているのに、米国内でクリーンコールのために時間とお金を費やすことは無いという意見もある。

ブッシュ政権はCO2排出制限には反対しているなどなど。

石炭を発電に使い続けることは経済的に理にかなっているが、CO2排出を全く無視しても言いというわけで無い。
そこで、排出されるCO2を分離して、地中に埋め戻すあるいは注入するという方法が解決策として注目される。また、CO2分離やSOx抑制のために現状の微粉炭燃焼に変わりガス化燃焼技術の導入も考えられるべきであろう。

2025年までは石炭の使用は拡大を続けるだろうから、CO2排出削減の技術開発はマーケットにゆだねられるべきで、政府の規制で行なわれるべきで無い。例えば前出のPeabody社はイリノイ南部とケンタッキー西部にそれぞれ150万kWの石炭火力発電を計画している。

このような企業を後押しするようにオハイオの公共局はクリーンコール技術のためのコストをエネルギー価格に建設完了前に転嫁することを了承した。この技術はガス化燃焼なのでSOx排出も抑制され酸性雨被害も無くなる。

微粉炭燃焼はIGCC(Integrated Gasification Combined Cycle)ガス化よりも15-20%安価であり、この点が有利である。
一方、ガス化のほうがCO2隔離には有利である。CO2隔離技術は10年以内に経済的にも技術的にも実現すると見られている。

すでにノースダコタのガス化プラントではサスカチュワンにCO2を送り、旧い油田に注入して産油量アップを図っている。BPも同様の試みをロス近郊の製油所でコークスからのCO2を用いて行なう計画である。Bush政権もFuturegenというPJで25万kW発電所からのCO2隔離技術開発を計画しているが、このPJは遅れており2012年に運転開始である。しかし、時期的に遅いし規模も小さいという批判はある。


しかし石炭の使用に消極的な意見もある。

Natural Resources Defence Councilは石炭の使用は毎年10億トンのCO2を増加させると主張する。

石炭の使用そのものに反対するのはExelonやDuke Energyなどの原子力関連企業である。

石炭は時代遅れの燃料ではなく、まだまだ活躍の場はある。その埋蔵量が石油よりも多いことや埋蔵地域が石油のように偏っていないことなどの利点もある。LPGの岩盤備蓄が出来るのだから、CO2の油層注入も技術的に可能になる日も近いと考えられる。


石炭の話

2006-05-31 | 石炭
日常生活において、石炭を使うことや見かけることはほとんど無いが、今でも工場や発電所では燃料として使われている。日本の一次エネルギーに占める割合は18%であり、石油には及ばないが天然ガスや原子力よりも多いのである。しかし実感としては灯油やガソリンのように身近に触れることがないので、19世紀の燃料と思う人が多いことだろう。

しかし石炭が重要なエネルギー源であることは今も昔も変わらないようで、アメリカでは日本以上に石炭が重要になっている。アメリカの石炭埋蔵量は可採年数で200年といわれており、もちろん米国内の石炭と天然ガスの合計よりも多い。また、エクソンモービルが持っている海外も含めた石油・ガス埋蔵量よりも、アメリカ国内の石炭埋蔵量は多いという。

以下はNYTimesの記事を織り交ぜながら。

Peabody Energy社はワイオミング州に全米最大の露天鉱山を有しているが、炭層は24メートルあるそうだ。

全米には1000箇所の石炭火力発電所があり、今後も140箇所の建設計画があるそうである。しかし、温室効果ガスの排出量は化石燃料の中でもっとも多い(排出係数が高い)ので、使用量を増加させることにブレーキがかかりつつある。
50万kWの発電所は50万軒の家庭のエネルギーをまかなえるが、75万台の自動車と同じ量のCO2を排出する。(このたとえが意味あるのかどうか分からないが)

American Electric Power社は全米一の石炭火力発電量を有するが、OhioとWest Verginiaにそれぞれ$1.3billionをかけて60万kWの発電所を計画している。排出CO2を地中に固定化することで、石炭火力はもっとも経済的なエネルギー源になると主張している。

これに対して、Peabody Energyの社長はCO2固定化はまだ技術的にも経済的にも確信の持てる技術では無い。石炭は逃げないのであせって対策を講じることは返ってまずいといっている。

埋蔵量から言えば魅力的な石炭だが、温暖化を加速せずにエネルギー需要を満たすことは改めて技術的、経済的なChallengeである。

Cabon Capture and Storage

2005-12-21 | 石炭
大気中のCO2を減らす方法としてCCSがある。これは、発電所や工場の排ガスからCO2を回収してどこかに圧縮貯蔵し、化石燃料の燃焼により大気に放出されるCO2を力ずくで減らそうというもである。

先ごろ、三菱重工はJパワー松島火力発電所(長崎)で「火力発電所石炭焚ボイラー実排ガスからのCO2回収長期実証試験」のための大規模試験設備の建設に着手した。これは、RITE:(財)地球環境産業技術研究機構の技術開発促進事業の一環で、2006年7月から5ヶ月にわたって最適なCO2回収システム構築のためのデータを蓄積する、と報道されている。

排煙脱硫後の排ガスから吸収塔にて化学吸収液にCO2を吸収させ、Rich液から再生塔にてCO2を加熱回収する方法である。処理ガス量は1,750nM3/h、CO2処理能力10ton/dである。

カナダではこのCCSをEOR(Enhanced Oil Recovery)の中に組み込む構想がある。これは、原油生産サイトでCO2を油層に圧力注入し原油生産量を上げる方法である。生産する原油からのCO2発生量のうち、20-67%相当が圧入可能との報告もある。

石炭・石油といった化石燃料を利用しても、実質CO2を排出しない方法を確立するものである。電力分野ではオイルショック以降、石油依存度を減少させるため石炭焚火力発電所を作ってきた経緯がある。また、一般工場ボイラにおいては価格競争力のある石炭ボイラを持つところも多い。ところが、ここにきてCO2発生源単位の大きい石炭は槍玉に挙げられている。そのため、CCSが注目されている。

カナダではConventionalな原油に加えて、OilSandの開発が盛んである。その豊富な埋蔵量はサウジアラビアを上回るとさえ言われている。但し、これらの化石燃料の使用にはCO2排出による制限がかかるので、これをCCSで解決しようということである。

排ガスからのCO2分離・回収技術は既存の技術の応用が可能であるが、回収CO2の圧縮、パイプライン輸送や地中への圧入には技術的問題もさることながら、コスト負担をどうするかという問題もある。また、かなり長い間(100年?)CO2を地中・岩盤に安全に貯めておけるのか、地震などによりリークしないかなど、検討課題は多い。

CO2制限により化石燃料の使用そのものを放棄することはできないので、何らかの対策が必要である。それには、何か一つの特効薬的な方策はなく、いくつかの方策を組み合わせたポートフォリオ的考えが必要である。
エネルギーの使用そのものを抑制する、エネルギー製造ならびに消費の段階で効率を向上させる、CO2発生の少ない方法に移行する(再生可能エネルギー、原子力、CO2回収を伴う化石燃料)、バイオ的にCO2を押さえ込む方法などである。
このような方法の中から、国の事情、その地域の事情にあった最適組合せを模索していく必要がある。

石炭の価格

2005-11-08 | 石炭
世界経済の足かせになるかもしれないとFRBのG議長も言っている原油高だが、ここにきてピークの$70/bblから$59.47/bblへと下がってきている。

ハリケーンの影響や依然として強い中国等の需要を背景にあがってゆくと思ったら、足元は米国の温暖な気候見通しが伝わり、暖房用燃料の需要が経るとの見通しとハリケーンの影響で操業停止していたGulf coastの石油関連施設が操業再開が進んだためらしい。3ヶ月ぶりの安値である。

そもそもハリケーンの影響は限定的とも言われていたし、考えてみればハリケーン前の状況に戻っただけなので、原油高の基調は変わらないというところ。しかし安値といっても2004年初めの頃を思えば、十分に高い。

中国エネルギー局は2006年から2010年の間で石炭の国内生産量を3億トン増加させる計画である。いまどきもっともCO2排出係数の大きい石炭を使うのかい、との声もありそうだが、エネルギー需要旺盛な中国にあってはそんなこと言ってはいられない。

2002年の統計で見ると世界の石炭(褐炭を含む)生産量は47億トンで、中国13.2億トン、アメリカ9.2億トン、インド3.6億トン、豪州3.4億トンとなっている。石油と違って埋蔵地域が分散していることがわかるのだが、それでも中国とアメリカで50%以上になっている。偏在とは言わないまでも均等に分布しているわけでもない。日本では太平洋炭鉱で少し採炭しているに過ぎない。中国はこれにさらに3億トンの上乗せを計画している。

70年代のオイルショックの時、脱石油資源が叫ばれ石炭の液化技術開発が国内外で盛んに行われた。しかし、その後の長期原油価格低迷を背景に技術開発は完成し、終了したことになっている。今現在、国内で石炭液化の研究など誰もやっていない。要するに技術はできた、後は経済性の問題だが、原油が$45/bblを超えたら経済的にも成り立つといわれていた。

とすれば今の原油価格ならば石炭液化プラントは十分成り立つのだろうか。
原油価格上昇->石炭・石油価格差拡大->液化プラント なので石炭価格を見てみた。

例えば豪州炭(FOB)は2004年1月には$28/トンであったが12月には$45/トンまで上昇している。この間の原油(WTI)はおよそ$30/bblから$50/bblへの上昇であった。石炭1トンを液化して1bblの液体になるわけではないが、石炭と原油の値差は2ドルから5ドルに開いただけである。原油が$45/bblということは値差が17ドルということだから、このように石油価格につられて石炭価格が上がってしまっている今の状況では液化プラントは成立しそうにない。

加えて、液化のために余計なエネルギー(CO2も排出する)を必要とすることなどから、石炭の液化というものが成立する状況はなかなか難しそうである。

中国でDMEプラント

2005-10-16 | 石炭
中国で低品位石炭からDME(ジメチルエーテル)を製造するプラントが建設されるそうである。DME生産能力は年産15万トンで2007年末には稼働するとみられる。

DMEは一般にはまだなじみがないですが、沸点が-25℃で6atmで液体になる、ガス燃料です。LPGに近いと思って良い。
LPGは家庭で使用されたり、タクシーの燃料になっていますから、DMEも同様になじみやすいと考えられます。

とにかく燃料・エネルギー源のほしい中国としては、利用価値の小さい低品位石炭(褐炭)から、自動車用燃料が作れればよいと言うわけです。

人類の燃料転換は薪、石炭、石油と進んできましたが、これらは前の燃料が枯渇したから新しい燃料を使い出したというわけではなく、安くて便利なものに変わっていっただけです。そして、その流れ・消費者の要求は変わることがないでしょう。

石油の次に天然ガスが来ているという人もいますが、馬鹿いっちゃいけません。天然ガスを使うようになってはいますが、石油から全面的に変わったわけではありません。その比率は落ちたとはいえ、いまだに石油へのエネルギー依存度はほかの燃料よりも高く、50%弱はあります。何故、今でも石油が一番かと言えば、貯蔵が楽、液体なので移し替え、供給や運搬が楽だからです。

天然ガス自動車というものがありますが、いっこうに普及する気配がありません。天然ガス自動車ならばCO2排出量もガソリン車に比べて26%減ります。温暖化ガス排出抑制に大いに寄与するのですが、いっこうに増える気配がありません。燃料電池自動車を開発、とまどろっこしいことをしないで、とりあえず天然ガス自動車を普及させればよい。ところが、天然ガスはガス体なので、貯蔵や運搬に手間と費用がかかるという問題があります。それでいっこうに普及しないのです。

先にも言いましたが、DMEはガス体ですがLPGと同様に6atmに圧縮すると液体になるので、使いやすいのです。石炭という固体燃料を液体化する方策の一つとしてDME合成を中国では選択したわけです。

これには、原油価格が上昇して石炭からの合成が経済的に成り立つようになったことも大きいでしょう。
かつて石炭の直接液化技術開発を行なっている時代に、「石炭の液化はコストがかかって駄目でしょう」といわれたものです。「原油価格が45ドルになれば、経済的にも成り立ちます。」などと返答していたことを思い出します。
今の原油価格、70ドルなら間違いなく成立する訳です。中国内には低品位石炭が多く埋蔵していますので、これから液体燃料ができれば自給率の向上にも寄与するというものでしょう。

でもDME合成をしてもCO2排出量は減らないって。中国にしてみれば地球環境問題よりも、夏場の停電、冬場の暖房燃料不足の方が深刻な問題でしょう。