化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

2006年はどんな年だった

2006-12-30 | エネルギー
2006年はどんな年だったでしょうか。簡単に振り返ってみます。年初65ドルで始まった原油価格は夏に75ドルの最高値をつけた後に、62ドルまで下がりました。一年を通してみれば高値安定した年でした。
この原油高に後押しされた数々の省エネが民生、業務を通して進んでいるものと考えられます。

京都プロトコルの第一履行期間まであと一年となりましたが、欧州や日本からは「できん」という悲鳴が出た年でした。予想されたことではありましたが、CDMを通じでお金を払うことでつじつまを合わせることになるのではないでしょうか。

日本に限っていえば、再生可能エネルギーの導入という点から、風力発電や太陽光発電からバイオマスの活用に軸足が移った年となるでしょう。もちろん風力発電や太陽光発電をないがしろにしても良いというわけではありませんが、系統にどうやって連携していくかということに課題が収斂してきた気がします。

個人的には原発よ、しっかりしろという感じです。バックヤードの問題はおいておくとして、取りあえず今は計画通りに運用してくれといいたい。これは電力会社ばかりでなく、それを支える重電各社にもいえることです。

観点は変わりますが、新聞やテレビがあてにならないとつくづく感じた年でした。トリノオリンピックやサッカーワールドカップの結果を見ればわかるでしょう。新聞やテレビは事実を把握するのに利用するにとどめるのが、賢明というものです。新聞のコラムやテレビのコメンテーターなんぞの言う事を当てにしてはいかんということです。その行間を埋めるのはブログという新しいメディアかもしれません。

結局今年は、野球の年といえるでしょう。イチローが引っ張ったWBCに始まりハンカチ王子や駒大苫小牧が活躍したの甲子園はヨン様に熱中していたおばさんを甲子園に引き戻してしまいました。また、新庄劇場といわれたわれらが北海道日本ハムの劇的な優勝に北海道民は感動しまくりました。おらがチームを持つという感覚を一度覚えてしまうとなかなか忘れられないものです。阪神タイガースファンと一緒ですね。この流れをプロ野球全体が共有し、生かしていけるかどうかはひとえに日本野球界のリーダーの資質にかかってくるでしょう。星野さんがコミッショナーになるのを願ってやみません。

総じて今年は良い年といえるかもしれません。しかしすべての人が夕張市のようになるかもしれないというバブル時代の付けを、もうしばらくは払い続ける必要があるのを忘れてはいけないでしょう。

ガソリン消費量の減少

2006-12-22 | 石油
フォードやGMの経営不振は主力のSUVが売れない、あるいは売れ筋の燃費の良い小型乗用車を作れないことにあるといわれています。その影響でしょうか、USではガソリン消費量が減少してきていると、O&GJの記事に出ています。

USのガソリン消費量は90年代において年率1.6%の伸びを続けてきましたが、2005年は0.3%の伸びに落ち込み、2006年も1%に留まっているといいます。この25年間で初めて平均走行距離が減少しました。その原因は何でしょうか?

自動車会社の販売不振から想像すると自動車の数が減少しているのではないかと思われます。しかし、フォードやGMは販売不振ですが、トヨタや本田は米国での販売数量を伸ばしており自動車数が減少しているわけではなさそうです。統計によれば、USでは自動車免許人口以上に自動車があるそうです。免許を持っている人、一人当たり1.15台の車を保有しているそうです。一家に一台どころか一人一台以上あるというのは、ちょっと贅沢すぎます。

次に考えられるのはガソリン価格の高騰により、ドライブの距離が短くなったことです。2003年のガソリン価格はガロン当り$1.5ですが、2006年のピーク時には$3と実に二倍になりました。確かにこれが一番大きい原因でしょう。特に燃費の悪いSUVに好んで乗っていた米国人にとっては、ガソリン価格が上昇した分、ガソリン購入数量を減らしていると予想されます。

ところでSUVは一体どれくらい売れていたのでしょうか。75年には新車の16%だったものが2004年には56%まで増加しています。新車の半分以上はSUV(ミニバンや小型ピックアップを含む)というから驚きです。GMでは小型乗用車で日本車に売り負けている時、ローンの金利0%というサービスをしていましたが、SUVの販売ではこのローン金利ゼロを付けなくても売れていたといいます。しかし、2004年以降は減少し、今は53%だそうです。ハイブリッドが爆発的に売れていることをみても、SUVの販売減少は理解できます。

ガソリンの消費量が減るということは、その分温暖化ガスの排出が減っているということに他ならず、それはそれでよいことです。需要と供給をバランスさせるのが価格の役目、というのは経済学の初歩です。ですからガソリンの価格上昇はガソリンの需要を抑えます。これを広く解釈すると、エネルギー価格の上昇はエネルギー消費量の抑制を通じて直接的には温暖化ガスの排出を減らす働きがあります。ひいては過熱している経済を調整する役割もある、原油価格は経済成長のビルトインスタビライザーと呼ぶ人もいます。

原油価格の内訳の解釈の一つに、OPECの目標価格$35/bbl、中国インドなどの需要増大と産油国の供給余力低下で$10/bbl、いわゆる地政学的リスクで$10/bbl、さらに投機資金の原油マーケットへの流入で$15/bblで合計$70/bblになる。これが2006年夏に付けた最高値の理由という説明があります。今は投機資金が減ってきているので、価格が60ドル台に下がったと解釈します。

USのガソリン消費量は減ってはいるのでしょうが、そもそもが多すぎます。その理由の一つに税金が安いということが上げられます。税抜きのガソリン価格は安い中国で$1.8、USや日本で$2.3、一番高いイタリアで$2.8です。(いずれも2006年3Qの価格) 税金はUSで15%、日本は45%、さらに高いのが欧州でUKは64%に達します。日本の小売価格はガロン当り$4.5になりますが、USは$2.8、UKはなんと$6.5に達します。ヨーロッパでディーゼル車が普及しているのはガソリンの税金が高いことも一因です。

話を戻して、平均走行距離の減少は人口構成が高齢化しているためとの説明もあります。確かに高齢になれば若者ほどは長距離ドライブをしないでしょう。これについては医療の進歩で平均寿命が延びているのだから、現在の60歳代は昔の50歳代くらい元気なので長距離ドライブをしなくなるわけでは無い。むしろ、リタイアして自由な時間があるのでドライブの距離は伸びるのでは、との指摘もあります。これはどっちが正しいのかは分かりません。

もう一つエタノールを代表とする代替燃料が増えてきたので、という理由もあります。確かにエタノールの生産量は伸びていますが、ガソリン消費量の減少をすべてエタノールのせいにするには量的に無理です。
但し、エタノールは温暖化ガス削減の観点からも確実に伸びてゆくでしょう。研究機関の報告ではガソリンの10%までは現在のコーンエタノールで代替できる可能性がある、としています。それ以上は、食料としてのコーンが足りなくなるのでコーンエタノールは増やせないようです。食料と競合しないセルロースエタノールならばさらに増産ができ、ガソリンの3分の1を代替できるそうです。但し、一番の課題は経済性です。価格が高いままでは需要は増えていきません。さらにはエタノールガソリンを多くのステーションで売るためには物流の課題を解決する必要もあります。

木質ボイラー禁止条例

2006-12-21 | 再生可能E
バイオマスを分散エネルギー源として使っていくとこんなトラブルも発生することがあるという例です。ニューヨークタイムズのサイエンス欄より。

一台5,000ドルのウッドボイラーが飛ぶように売れている。昨今の原油高騰により暖房用燃料の価格も上昇していて、木質を使うことで暖房費が節約できるからです。また再生可能エネルギーの利用は中東原油への依存度低下にも寄与するという大義名分もあります。

このウッドボイラーは本来農場の住宅用に作られたもので、3.6mの煙突を有する屋外設置型です。木質を燃料にボイラーで温水を作りこれをポンプアップして地下配管で住宅まで引き込みます。住宅の暖房と給湯に利用できるというものです。

しかし、これを街中で使用する人が増え公害問題になっているそうです。燃焼空気の量が足りないと大量の煙を発生させ、微粒子を生じます。悪臭を放っているという苦情も町や県に殺到しました。中には木質原料だけでなく家庭ごみや家具などを燃やす輩もいるとか。

この様に健康障害を引き起こす物質を排出していることが明らかになって、町や県の条例で学校や民家から300m以内での使用を禁止するところも出てきました。隣家から300m離れていればよいということですが、住宅地にあっては実質禁止ということです。中には無条件に全面禁止とする自治体もあるようです。

米環境局も何もしないわけにはいかず、離隔距離、煙突の高さに関する規制を作ることになりました。また、ボイラーメーカーに対して微粒子の発生を低減するよう改良の要請を出しています。

ウッドボイラーそのものは利用価値が大いにあるものですが、その利用や管理にはそれなりの配慮が必要です。バイオマスの利用がそく温暖化ガス排出削減につながるという安易な考えは禁物です。

ディーゼル車を見直そう

2006-12-15 | 省エネルギー
今年8月にベンツから新しいディーゼルエンジンの乗用車が発売されました。かつてガソリン価格が1リットル80円とか70円台だったころ、ディーゼル乗用車はそれなりに売れていました。新車販売台数の割合では96年に2.4%でした。ところが2004年には0.1%を下回っています。確かに4WDのランクルタイプ以外でディーゼル乗用車を見かけることはほとんどありません。

ガソリン価格と軽油価格にそれなりの値段差があった時代には、長距離通勤の人は燃料代を考えて少々車体価格が割高でもディーゼル車を購入していました。しかし、石油業界の規制緩和によってガソリンの価格が120円から80円台くらいに下がった90年代なかば以降、ガソリンと軽油の価格差がなくなりディーゼル車の経済有利性がなくなりました。一方、排気ガスのNOxが多い、PMと呼ばれるすすがでる、振動・騒音が大きいなどの欠点が目に付くようになり、減少していきました。

しかし、欧州は逆で2004年にはおよそ半分の新車がディーゼルです。ディーゼルは燃費がよく温暖化ガス排出が少ないことが評価されているからです。また、欧州ではシティ軽油といって比較的排気ガスのきれいな軽油(簡単に言えば日本での灯油)を使用していることもあります。

ディーゼル車の燃費はガソリン車よりも30%くらい良いといわれています。そこでこの利点を生かすために、排気ガスや振動軽減のための技術が開発されています。

95年にデンソーが開発したコモンレールと呼ばれる技術はその代表です。燃料を超高圧で噴射することで細かい霧状にし燃焼を完全にすることで、燃費向上や排ガス、騒音を改善できます。1600気圧という高圧の燃料をノズルから噴射するための容器がコモンレールです。これに電子制御による噴霧技術を組み合わせて最新車種では1サイクル中に5回の噴霧を行うそうです。

排ガス浄化のためには特殊フィルターが開発されています。さらに排ガス循環装置により、温度を下げた排ガスを吸入空気と混合させ、燃焼温度を下げてNOxを低減する技術もあります。

日本でディーゼル車が見直されるかどうかは、ガソリンハイブリッドに対抗できるだけの高燃費、低燃料代を実現できるかどうかにかかっています。

ガソリン税

2006-12-08 | 石油
連日、道路特定財源の一般財源化という議論が新聞紙上をにぎわしています。もちろん、政府と自民党との間でさまざまな駆け引きが行なわれているからでしょう。ところで、税金・ガソリン税を払っている納税者の視点からの意見がもっとあってしかるべきと考えます。

道路特定財源とは平たく言えばガソリン税です。ガソリンを給油した時に払う代金に含まれている税金です。払っているのはガソリンを買っている人、ドライバーです。

新たに建設されている道路の脇には、「この道路はガソリン税、自動車重量税で作られています」という看板が立っています。なるほど、自動車が通る道路というのは自動車に乗っている人の税金で作っていると納得できます。受益者負担というやつですか。

そこでこのガソリン税を一般財源化し道路建設以外にも使えるようにしようということですが、そうなると受益者負担ではなくなります。自動車を運転する人から道路を作るからといって集めたお金で、たとえば何とかセンターを作ってしまおう、あるいは公務員の給料にしてしまおうという考えです。ちょっと違うんじゃないでしょうか、と突っ込んでみたくもなります。

なぜ道路以外にも使えるようにしようと考えたかといえば、お金が集まってくるのにもう作る道路が無い。それなのに道路を作るので、牛しか通らない立派は道路ができてします。この無駄使いを止めるために、道路以外にお金を使えるようにしようといいます。つまりお金が余るから、他に使おうということです。
しかし余ったのならば返さなければいけないでしょう。あるいは、今年の分はもうガソリン税が充分集まったので、12月販売のガソリンにはガソリン税をかけない、というのが本来の姿です。

集まった税金は自分のものなので何に使おうと勝手だろうと、納税者に向かって言っているに等しい。
一般財源化するのも結構ですが、まずは税率を下げることが第一でしょう。それをしないのならば、ガソリン税を一般財源化すると消費税に換算して何%になるのかくらい試算して公表すべきです。

サウジアラビアという国

2006-12-07 | 石油
サウジアラビアで思い浮かぶのは、産油国、イスラーム国家、砂漠などです。近年の石油価格高騰の恩恵を受けて積み上がるマネーをどのような投資に振り向けようとしているのでしょうか。

サウジはこれまで親米路線でしたし、それを極端に変えることはないでしょう。しかし、イスラーム同胞意識を基盤として見れば、WTCの9.11テロやデンマークに端を発する風刺漫画事件など近年の欧米との関係は必ずしもよくありません。ここで中国が石油を求めて中東諸国に積極的にアプローチしていることもあり、アジア・日本にも目を向けているようです。

日本との関係について、2004年に昭和シェル石油の10%の株をアラムコが取得したことで、サウジから日本への原油輸出は拡大し増した。それまで日本のトップ輸入先であったUAEを抜いてサウジがトップになっています。ちなみに日本の原油輸入先は、サウジ26%、UAE25%、イラン15%、カタール9%と続きます。日本にとって最も近い関係の中東国といえます。

石油マネーは石油へ還元というわけでサウジでは原油生産能力増強に力を入れています。現在の能力は1,100万BD(実際の原油生産量はこれよりも少なく、900万BDです。この差が増産余力と呼ばれるものです。)といわれていますが、これを2009年には1,250万BD、長期的には1,500万BDに引き上げる計画です。

石油が増産されるとエタンを主成分とする随伴ガスの生産も増加します。随伴ガスは発電用燃料に利用されます。サウジの発電量すなわち電力需要量は石油随伴ガスの増加ほどは増えないでしょうから随伴ガスに余剰が生じます。ガスとして輸出しても良いのですが、より付加価値をあげるためにこの随伴ガスを利用して石油化学産業を拡大しようとしています。

住友化学とアラムコは共同で1.1兆円を投じて石油精製・石油化学コンビナートを建設しています。2008年末にはエチレン年産130万トン、プロピレン年産90万トンが生産されるはずです。主要な部分の工事を請け負うのが日揮です。日揮の受注額は2000億円とも言われています。

このコンビナートは一定期間、公定価格で原料のエタンガスを購入できます。日本の石化工場での原料ナフサの購入価格は1トン600ドルです。これに対してサウジでのエタンガスの購入価格は1トン37ドルです。原料代が10分の1以下ということです。さらに原油価格が上昇すればナフサ価格も上昇しますが、サウジコンビナートは原料代が変わらない契約なので、原油が高騰すればするほど価格競争力が出てくるという仕組みです。

サウジではこれ以外にも石油化学プラント増設の計画があります。こんなに増産して供給過多になったらどうするのかと思いますが、先ほど言ったように圧倒的な価格競争力がありますから、供給過多によるオレフィン価格下落が起きても心配ないというわけです。

一方、オレフィンを生産しこれを原料に合成樹脂を製造する産業が広まることで雇用が創出されます。サウジでは20歳以下の人口割合が50%以上と、日本では考えられない数値です。この若年層を吸収するだけの国内雇用を生み出したいというわけです。

それにしてもアッラーのお陰とはいえ、石油が埋蔵しているというのは本当にうらやましい限りです。サウジ国内のガソリン価格は1リットル当り16円と破格です。石油輸出額は17兆円、国家財政は6兆円の黒字だそうですから、この様なことができるのでしょう。ちなみに日本の輸入額は60兆円、輸出額は70兆円です。日本はやっぱり、加工貿易の国としてこれからも生きていかなければなりません。

石油、ガス関連施設の建設計画

2006-12-05 | 石油
昨年の夏、USでのガソリンの高騰は原油高騰に加えてハリケーンによりUS内の精製能力が落ちたため、ガソリンの品不足になったことが大きな要因でした。USも含めて、世界の石油・ガス生産設備の増強や建設計画について簡単に見てみます。

US国内では引き続き石油製品の需要が高いことから、いくつかの大型プロジェクトが計画されています。テキサス州ポートアーサーにあるMotiva石油では既存の28.5万BDの精製設備に加えて32.5万BDの増強を計画しています。最新の技術を取り入れて精製装置からのエミッションの排出を極力抑えるという方針のようです。2010年完成予定ですが、現在のエクソンBaytown製油所(61万BD)を抜いて全米一の規模の製油所になります。

インドのグジャラート県のジャムナガー製油所では8基のディレードコーカーの計画があります。2008年に完成すれば世界で最も大きなコーカー装置になります。
サウジアラムコは2011年完成で40万BDの製油所を新規に2箇所建設の予定です。

石油化学プラントについては中東・アジアでの計画が目を引きます。サウジアラビアでは年産135万トンのオレフィンプラントを発注しました。一方、UAEでは年産8万トンのメラミンプラントを260億円で計画中です。メラミンは尿素とアンモニアから製造され、メラミンは耐熱、耐水性に優れ強度が大きいことから工業的に大量に生産されている熱硬化性樹脂の原料です。また、UAEは2010年完成予定でポリエチレンとポリプロピレンプラントも計画しています。アジアではシンガポールのシェルブコムが年産80万トンのエチレンクラッカーを建設します。2007年にも建設開始のようです。

GTLプラントについても大きなプロジェクトがあります。今年6月にカタールのオリックスGTLプラントが稼動を開始しました。建設費950億円のこのプラントは世界で最初の商業GTLプラントです。このプラントは南アフリカ・サゾール社のスラリー相技術を採用しています。一日に330百万cfのガスから34000バレルの超低硫黄軽油と24000バレルの軽油と9000バレルのナフサを生産します。

ドイツでは2009年完成の予定で石炭ガス化プラントの設計が進められています。熱量換算で100万kW相当といいます。また、Wバージニア州では規模63万kW相当、オハイオ州では60万kW相当のガス化プラントが計画されています。

石油精製設備の増強だけでなく、石炭やガスを利用するための新たなプロセスが計画されていることが良く分かります。

ハイブリッド車の三種の神器

2006-12-04 | 省エネルギー
いまどき三種の神器とは古めかしい言い方ですが、ハイブリッド車を支える三大技術についてです。エンジンとモーターという二つの動力源を有するハイブリッド車は、一般ガソリン車には無い装備を必要とします。それがパワーコントロールユニット、モーター付トランスミッション、大容量バッテリーです。

ハイブリッド車で高燃費、つまり高エネルギー効率が達成できるのは、極めて単純化して言うと次の通りです。
ブレーキ時に発電機を回してバッテリーに充電し、その電気を利用して発進するので発進時のエネルギー消費がゼロになる。エンジンは一定走行時主体の使用になるのでエネルギー効率が最も良く、それゆえに車体の大きさに比べて小さなエンジンでよい。
言葉で表現するのは簡単ですが、これを実現するためにさまざまな技術が開発されています。いずれも小型化・軽量化と高性能化・高出力化のための技術です。

パワーコントロールユニットとはバッテリーに貯められている電力をモーターで使用するために昇電圧したり、逆にワイパーなどの使用のため降電圧したり、直流を交流に変換したりする部分です。初期のハイブリッド車は30Lの容積を占めていたようですが、最新型では約3分の1に小さくなっています。

トランスミッションは発電機、動力分割機構(エンジンの動力を発電機とシャフトに振り分ける)、モーター、2段変速機などです。高出力を得るためモーターは500Vから600Vのものが使用されています。また、高速で高トルクを得るため変速機が装備されています。

バッテリーはニッケル水素で約300Vの電圧を有しています。出力密度と放電容量だけを考えるとリチウムイオン電池(デジカメなどに使われている)のほうが良いのですが、価格や安全性の観点から現在はNiMH電池になっています。

確かに燃費の良いハイブリッド車ですが、一般車との価格差は40万から50万くらいです。6年無いし7年で更新するとすれば、月5000円以上ガソリン購入費が下がらないとペイしません。もちろん、高燃費ゆえの省エネルギー、省資源ひいては温暖化ガス削減という大義名分はありますが、一般消費者に広く普及させるためにはコスト/パフォーマンスを度外視することはできません。

最近注目されているのが、プラグインハイブリッドという方式です。ハイブリッド車といえども走行のための燃料つまりエネルギーはすべてガソリンです。そこで家庭用のコンセントから夜間にバッテリーに満充電して、電気だけである程度走ってしまおうというものです。ガソリンと電気の価格は圧倒的に電気が安く、およそ3分の1程度でしょうか。

トヨタやGMは公式にこのプラグインハイブリッドを開発していると表明しています。ポイントはなんと言ってもバッテリーのようで、リチウムイオン電池を使用することになりそうです。カリフォルニアのエナジーCS社はプリウスをプラグインタイプに改造しています。バッテリーのみで80km走れるといいます。

ハイブリッド車の進化はまだまだ続くということのようです。


石炭ガス化複合発電

2006-12-01 | 石炭
資源埋蔵量が豊富で安価な石炭は、日本を初め米国、中国など多くの国で発電用燃料として消費されています。他の化石資源に比較して産出地域が広く世界に分布していることも利用を促進する理由です。

しかし石炭は熱量ベースで比較すると天然ガスの1.8倍のCO2を排出します。従って石炭火力発電を推し進めるためには発電効率を向上させる必要があります。熱力学の第二法則が教えるところによれば、熱効率は高温部と低温部の温度差が大きいほど大きくなります。低温部を大気温度以下に下げるには多大なエネルギーが必要となりますから、熱効率向上のためには高温部の温度を上げる方策を採ることとなります。

蒸気タービンの温度は実用上600℃程度です。さらに高温とするにはガスタービンを回すこととなります。燃焼ガスの温度は1300℃から1500℃ですから蒸気タービンよりも発電効率の向上が期待できます。また、排熱回収ボイラーで蒸気を作って蒸気タービンを回す、いわゆる複合発電をすればさらに発電効率を上げることが可能です。しかし石炭は固体ですからガスタービンの燃料にするには石炭ガス化技術が必要になります。

日本で行なわれている石炭ガス化複合発電といえば、Jパワー/日立のEAGLEプロジェクトが有名です。本年度で研究運転を終える計画のこのプロジェクトでは商業規模の10分の1のパイロットプラントを稼動させています。石炭の微粉炭燃焼では発電効率は38%ですが、EAGLEプラントでは55%が達成可能といいます。しかし石炭ガス化炉、酸素製造プラントやガスタービンなどを加えて建設しなければならず、発電効率向上によるCO2削減効果は期待できるものの、経済性に見合うかどうかに注目が集まるところです。三菱重工が東電と計画しているプロセスでは燃焼に酸素を用いずに空気をそのまま用います。空気のままでガス化させるのは技術的に難しい面もあるようですが、酸素プラントが不要になる分、総合的に見た発電効率は5%上がるとの試算もあります。

実用化では先行している欧米での実績は発電効率47%です。日本の技術でさらに発電効率の向上を達成して欲しいものです。