化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

産業・エネルギー部門の自主行動計画

2007-02-27 | 環境
前回の続きです。97年6月に経団連は『温暖化対策のための自主的な温暖化ガス削減計画』を策定し、実行してきました。行政から数値目標を押し付けられる(ということは役所の規制行政が増える)ことを嫌って、産業界は自主的にCO2を削減します、と先手を打ったわけです。

これには60業種が参加し、産業・エネルギー部門の35業種では数値目標を定めています。これが功を奏しているといっても良いのか、その他の部門が軒並みCO2排出量増加しているにもかかわらず、産業・エネルギー部門はCO2排出量を減少させています。

経産省は毎年計画の進捗を点検し、改善などを指導する、ということで面子を立てています。

ところで業界別のCO2排出量(2005年、百万トン/年)は以下のとおりです。
日本鉄鋼連盟    182
日本化学工業協会  75
石油連盟      45
電気事業連合会   39
日本製紙連合会   25
セメント協会    22
その他       66
合計        454

鉄鋼が飛びぬけて高くなっています。これは鉄鉱石の還元により銑鉄を作るのですから、原理的にCO2が生成するのは仕方のないことです。化石燃料の燃焼によりCO2が排出しているのではありません。しかしそうも言っていられませんから、製造プロセスの改善によりエネルギー効率を向上させることや、今後、鉄スクラップのリサイクル量が増えて、電炉鋼比率が上昇していくことでCO2排出量削減が期待できます。

電力会社からの排出量が39 million tonと少ないのは意外です。日本の電力化率は42%ですから、日本で消費している一次エネルギーの42%は電力に転換されています。そう考えると発電により相当量のCO2排出があってもおかしくありません。

日本の総発電量は約1兆kWh/年(1×10^12kWh)です。全電源平均のCO2原単位は0.378kg-CO2/kWhなので、両者をかけると発電により排出されるCO2は378 million tonと計算されます。

電気事業連合会の排出量はそれのおよそ10分の1です。しかし考えてみれば、電力会社は発電した電力をすべて自分で使っているわけではありません。電力は工場や家庭で使われるわけですから、CO2排出の区分けは電事連ではなく業務部門や家庭部門などの使用部門になるわけです。

結局、電事連が負うべきCO2排出量は、発電に伴って要した部分のみになるのでずっと少なくなります。ところで、具体的にどういう計算や集計をして39 million tonという数値になるのかは良く分かりません。

温暖化対策としての自主行動計画

2007-02-21 | 環境
温暖化ガスを削減しなければならないことは、もはや誰の目にも明らかです。京都プロトコルに乗らない某国大統領も、温暖化ガス削減の政策を強く打ち出しています。石油メジャーですら「低炭素エネルギーへのシフト」といって、温暖化ガスという言葉を使ってはいませんが、その意味するところは同じエネルギー使用量でもCO2排出量を削減すること、を目指しています。

日経新聞によれば政府は学校や病院に対してCO2削減の数値目標を課すとのことです。日本では製造業やエネルギー業が自主行動計画に沿ってCO2排出削減を進めています。しかし、その他の部門ではちっとも進まないのが現状です。特にCO2排出量が増加してしまっている学校や病院などに数値目標を課そうという事のようです。

記事にはCO2排出量の現状と目標がまとめられているので、忘備のために記しておきます。単位はすべて百万トン(million ton per yaer)、CO2換算値です。
年度           1990年   2005年    目標
国全体          1,261   1,364(+8.2)  1,185(-13.1)
産業・エネルギー部門  550   540(-1.8)   504(-6.7)
運輸部門          217   257(+17.1)  250(-2.7)
業務部門          164   234(+42.7)  165(-29.5)
家庭部門          127   175(+37.8)  137(-21.7)
CO2小計         1,058   1,206(+14.0)  1,056(-12.4)
カッコ内の数値は増減率です。

CO2合計値と国全体の数値の差は、その他のメタン、代替フロンなどが含まれると新聞記事の但書きにあります。より正確に記せば、この差の中にはメタン、代替フロンなどのその他の温暖化ガス、さらに森林吸収分、今日とメカニズムによる海外からの排出権購入によって削減される分も含まれる、ということです。

話が細かくなるので以降はCO2排出量のみについて書きます。
チーム-6%という言葉が定着しつつあります。それではCO2排出量の目標値が1990年との比較で-6%かというとそうではありません。上の表で分かるようにCO2排出量で見ると1,056 million tonが1,056 million tonですからわずかに0.2%の削減です。これに先に述べた森林吸収や排出権の購入などをあわせて-6%にするということです。

むしろ足元2005年を基準として12.4%を削減しなければならない、といった方がピンとくるのではないでしょうか。 1990年から2005年にかけての増加量は148 million tonですから、家庭部門の排出量以上です。

言い方をかえれば、家庭の人口が2倍になったとおなじくらいに増加したことになります。日本の人口は減少しているのに、人口が倍増したくらいにCO2排出量が増えてしまったのはなぜでしょうか。

CO2排出量を減らすために、省エネ機器の導入を進めるといった具体的な方法を考える前に、なぜこんなに増加したのか、その原因を考えて見ることも必要でしょう。

産業・エネルギー部門はこの15年間で10 million ton減少しています。この減少量は満足できるものではありませんが、他の部門が大幅に増加していることを考え合わせると、自主行動計画の策定と実施が確実に行なわれているといえます。

その他の部門はいずれも増加していますが、業務部門の増加率が42.7%と最も大きくなっています。業務部門でもスーパーや百貨店は既に自主行動計画に参画しています。記事によれば学校(研究機関)や病院での排出量が倍増しているといいます。そこで増加量の多い学校と病院を対象に数値目標を設定しようということです。

ところで病院と学校は同じ理由によってCO2排出量が倍増しているのでしょうか。高齢化により医療施設にかかる人が増えた、医療の高度化により多くに機器が利用されるようになったなどが思いつきます。これらが病院におけるCO2増加の原因でしょう。

一方、学校はどうでしょうか。少子化ですから生徒の数はむしろ減っています。全国の教室が冷暖房完備になってきた、という話も聞きません。OA教室やPC教室など、電気を使う教室が増えてきているのでしょうか。学校・研究機関でのCO2増加の原因は良く分かりませんね。

バイオ燃料はLCA評価が大事

2007-02-13 | バイオマス
バイオ燃料はカーボンニュートラルなので化石燃料の代替として使用すると、CO2排出量が実質的に削減されます。原則的にはそのとおりですが、何事も現実的にはそうはいかないもので、バイオ燃料の利用がかえってCO2排出を増加させているといいます。

ヨーロッパではバイオ燃料の利用がすすめられていて、中でもオランダは国から補助金を出してバイオ燃料の使用量を倍増させています。EUでは2010年に輸送用燃料の5.75%をバイオ燃料に置き換えることを目標にしています。

ヨーロッパでバイオ燃料といえばバイオディーゼル(BDF)のことで、これはガソリン車よりもディーゼル車が普及しているからです。反対に北米でバイオ燃料といえばガソリン代替のエタノールです。

このBDFの原料となるパーム油はインドネシアやマレーシアで大量に栽培され、ヨーロッパに輸入されています。ところで、パームを栽培しているインドネシアやマレーシアでは、その生産量を増やすためにパーム畑を増加させています。マレーシアは85年から2000年にかけて87%増加させ、インドネシアは実に118%もパーム畑を増加させています。

これらの国ではパーム畑を増やすために熱帯雨林を伐採したり、ピート土壌を開墾したりしています。ピーと土壌は水分の多い泥炭質ですが、これはスポンジのようなもので大量のCO2を吸収しています。このピート土壌から水を抜くと吸収されていたCO2が大気に放出されます。さらに整地のため泥炭を焼き払うので燃焼によるCO2が上乗せされます。

パームの生育を早めるために大量の化学肥料が使用されることとあわせて、バイオ燃料使用によるCO2削減効果よりも、パーム畑を作るために排出されるCO2の方がはるかに多いという皮肉な調査結果です。

バイオ燃料の利用においては植物の選択とその栽培方法が重要で、それによりCO2削減が90%になるケースから、逆に20%増加するケースまであるといいます。
そういうことですから、いわゆるLCA評価を充分にしないといけません。

ドイツの調査ではインドネシアのピート土壌からの水抜きにより、年間660ミリオンドンのCO2が大気に放出され、さらに焼畑により1.5ビリオントンのCO2が発生しているといいます。合計でなんと2.1ビリオントンです。

日本のCO2排出量はおよそ1.3ビリオントンですから、日本全体のCO2排出量よりもインドネシアのパーム畑を造るために排出されているCO2量のほうが多いことになります。この様な事情があってインドネシアは、米国、中国についで世界第3位のCO2排出国というありがたくないランキングに入っています。

パーム油の価格が安すぎるのでこの様な環境破壊を伴う栽培が行なわれている。だからパーム油の買い取り価格を高くすることで、持続可能な栽培が行なわれると、環境団体は主張しています。

これはおかしな論法です。パーム油の価格が上昇すれば焼畑による開墾がなくなるのでしょうか。もしパーム畑の価格が上昇して現在のパーム油生産量で充分な収益が得られるようになり、その結果として開墾が止まれば、パーム油の生産量も頭打ちになります。それではバイオ燃料の利用も増えていかないわけで、持続可能な栽培とは一体何をさしているのでしょう。
やっぱり、しっかりとLCA評価をしてCO2削減という側面からパーム油BDFがフィージブルかどうかを検討していくことが一番大事です。

家庭用SOFCシステム

2007-02-05 | 省エネルギー
大阪ガスと京セラは共同開発した家庭用SOFC(固体酸化物形燃料電池)システムの市場導入を2008年度に行なうと発表しました。2006年5月のプレスリリースでは出力1kWのテスト機で2000時間運転を達成して実証データを得ていましたが、これを700W出力に下げることで装置の大きさを世界最小クラスにしたといいます。

既に家庭用FCはPEFCで1300台のテスト運転が行なわれていますが、3-4年後追いでSOFCも実用化に向けて開発が進んでいるようです。SOFCは運転温度が750℃と高いですから、電池本体やその周辺部に高温に耐える材料を用いる必要があり、これがPEFCよりも開発が遅れた要因でしょう。

出力を1kWから700Wに下げたのは、その方が運転しやすいためと考えられます。SOFCは高温で運転されますから、運転開始・停止を繰り返すことなくずーっと運転していたい。低出力運転の限界は30%といいます。家庭での電力使用は深夜に最低になりますが、省エネ機器の導入が進んだ現在では300Wをはるかに下回っているといいます。つまり1kW定格出力装置では300Wまでしか出力を落とせないので、深夜には運転を停止しなければなりません。そこで、定格出力を700Wにすれば210Wが最低出力ですから、深夜でもSOFCの運転を継続できるというわけです。

SOFCがPEFCよりも優れているのは、発電効率が高い、したがって熱出力と発電出力の費が小さいことにあります。PEFCの実証試験結果を見ると、夏場では一般家庭の熱需要がわずかに9.7kWh/日であるのに対して、電力使用量は27kWh/日となっており、およそ熱1に対して電気が3の割合になります。つまり熱よりも電気を遥かに多く使っているということです。

ガスエンジンコジェネのエコウィルでは発電1kWに対して熱出力2.8kWで、割合は熱と電気で逆になっています。これではもっと発電したくても熱が(お湯が)一杯になるので発電を続けることが出来ません。SOFCシステムでは発電700W、熱出力470Wだそうですから、より多くの発電をすることが出来ます。つまり装置の稼働率が高くなるわけです。

同じ理由で燃料電池は寒冷地向きといわれています。

公表資料のデータを見ると電気と熱を合計した総合効率では、ガスコジェネ(エコウィル)が88.5%(22.5%+63%)、PEFCシステムは80%(35%+45%)、SOFCシステムは75%(45%+30%)になっています。確かに発電効率が高いのは良いことですが、総合効率が下がっていてはより多くの燃料を使うことになって、省エネ効果が半減します。この辺りが今後の開発課題ではないでしょうか。

SOFCはPEFCに比べて発電効率が高いのは、実証試験結果からも裏付けられています。ところでどうしてSOFCの発電効率は高いのでしょうか。不勉強で原理的にこれが説明できません。


環境保全と企業利益の関係

2007-02-01 | 石油
公害問題に始まり地球温暖化にいたるまで環境保全と企業利益、あるいは社会的コストとはどのような関係があるのかは興味深く、さまざまに議論されてきたところです。環境対策のためには、何らかの装置を新たに設置したり、規制に違反すれば罰金を払わなければいけないので、企業利益は明らかに低下すると考えられます。一方で、環境保全対策をとらなかった場合、国民の健康が損なわれる、経済的には医療費の上昇や平均寿命の低下、気候変動による農業生産量低下などがあり、結果として企業利益も低下するというとらえ方もあります。
もっともみんなが早死にするのではそもそも企業利益も何もあったものではありません。

この様な環境保全と企業利益の量的関係についてOGJ誌に記事がありました。記事ではカナダの製油所について、有害物排出量、原油処理量、運転のための資金と純利益の関係について重回帰分析をしています。カナダ国内の15の製油所について過去10年間のデータ、総計51データを利用したといいます。

データはすべて公表されているものを用いており、有害物排出量はNPRI統計値、その他の数値は各企業のAnnual reportによっています。

純利益の計算式は以下のとおりです。
純利益=a+b*有害物排出量+c*原油処理量+d*資金+e*西暦年
最後に西暦年を入れているのがこの解析の味噌とも思われます。この西暦年の中に説明できない要因を全部入れ込もうという狙いです。51個のデータを用いて重回帰分析によりaからeまでの係数とt値を求めています。T値により各変数と純利益の相関が統計学上有意であるかどうかを判断しています。分析結果から有害物排出量と資金は危険率5%で、原油処理量は危険率1%で純利益と相関があると判断しています。

例えば、有害物排出量が1トン減ると純利益は2,000カナダドル向上するそうです。これは随分と大きな影響で、CO2排出権取引で1トンあたり1,000円から2,000円ですから、これと比較すると2,000カナダドルという数値が随分と大きいことが理解できるでしょう。

一方、原油処理量が大きくなると利益が向上するという関係が得られていて、これはリーズナブルです。しかしその係数は2,700BDアップで1,000カナダドルです。つまり、10,000BDの処理量アップを達成しても年間の利益向上はたったの4,000カナダドルにしかなりません。これは明らかに小さすぎます。

これらの結果については記事の中でも矛盾というか、合理的でないと指摘しています。重回帰分析の結果は変数と変数間の因果関係を与えるものではなく、二つの変数が同時に変化しているかどうかの関係を与えるものです。

有害物排出量が減少すると純利益が向上するのは、環境規制に適合するように精製装置を改造したり運転方法を変更したりすることで、同時に生産効率の向上が達成され、それにより純利益が増大したものと考えられます。
逆に言えば、93年から2002年にかけて、カナダの製油所は有害物排出量を減らしながら同時に生産性の向上を技術開発により達成し、利益を向上させたということでしょう。

さらに環境保全に積極的に取り組む企業は社会的評価も高く、株価が上昇すると予想されます。それにより資本調達コストが下がり、利益向上につながったとも考えられます。

環境保全のための製油所コストとしては93年当時、全米の製油所で環境規制への対応で152ビリオンドルが投資された、あるいは最近のガソリンや軽油のサルファーフリー対応のため、カナダの製油所では全体で5.3ビリオンドル投資したなどが上げられます。

これらの投資は直接的には利益を生まない投資といわれますが、実は直接、間接に生産性の向上につながっていると考えられます。
通常技術屋は、精製装置の改造や新設を検討する時、ただ単にCO2を減らす装置だとか硫黄分を減少させる装置を考えることはしません。同時に総合的に生産性が向上するような工夫や改善を盛り込むように努めるわけです。この様な技術開発や改善の積み重ねが結果として、環境保全と収益向上の両方に寄与していると考えられます。