30年前の1995年3月20日。私は出張でロンドンにいた。東京では地下鉄サリン事件があった日だ。仕事仲間3名と前日の夜にパリからロンドンに到着し、午前中はグラウンドワーク財団で会議を行った。午後は大英博物館を見たあと、セントジェームスパークを散策し、ヒースロー空港18時10分発ストックホルム行きの飛行機に搭乗するという強行日程だった。
写真はセントジェームスパークのパークポリスである。この公園はバッキンガム宮殿とウェストミンスター寺院や国会議事堂の間に位置するロンドンの観光地である。馬に乗った警官がパトロールするホースガードロードと呼ばれる道の近くだ。
ワンズワース署のパトカーに乗ったパークポリスの警察官が近づいて話しかけてきた。私たちは背広にコートを着た4人組で、どうにも観光客には見えない。
日本人だと確認したうえで、「日本は大変なことになっているね。」と言う。
何の話かわからないので聞いてみると、東京で毒物が撒かれ被害者多数の大変な騒ぎになっていると知らされた。地下鉄サリン事件が起きた日、イギリスの警察官から事件を教えられたのだった。狙われた霞が関駅は毎日通う駅で、仕事仲間もよく使う駅なのでとても驚いた。日本だけでなく世界を震撼させた毒物テロ事件だった。
事件を教えてくれて、記念写真まで撮らせてくれた親切な警察官だと今日まで思っていたが、これは職務質問だったのではないだろうか?バッキンガム宮殿の近くで同様のテロ行為を警戒し、観光客と思えない日本人らしき不審な4人組を発見して声をかけてきたのだと思う。仕事の合間に公園を訪れた日本人と分かって写真撮影に応じてくれた。

後に、事件がオウムの仕業と知って驚いた。テレビ朝日『朝まで生テレビ!』という田原総一朗が司会で時事問題を深夜徹底的に議論する人気番組があった。事件の4年前、若者と宗教というテーマで、オウム真理教と幸福の科学が対決し、追求する教義について激論を交わしているのを観た。オウムは教祖・麻原彰晃、広報部長・上祐史浩氏が出演し、深い知識と弁舌で相手を圧倒していた。その教団が4年後、山梨県にある教団本部への警察の強制捜査に影響を与えようと起こしたのが地下鉄サリン事件だった。霞ヶ関の官庁より1時間早い8時30分出勤の警視庁を狙ったのではないかと噂されていた。