映画と音楽そして旅

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 (映画音楽 番外編) 再び[哀愁」を観る

2005-11-15 00:07:08 | 映画音楽
 私にとってのラヴ・ロマンスの原点ともいうべき、映画「哀愁」を再び観ました。
以前にブログで書きましたが、この作品を初めて観たのは五十数年も前のことでそれも、お付き合いで観た映画なので、内容が十分消化し切れていませんでした。最近になってからDVDで再度観たのを機会に、現在の冷めた目で再検証してみました。
 
 も一度観て気がついたのは冒頭から流れてくる、チャイコフスキーの「白鳥の湖」です。前には気がつかないというより、全く知らなかったというのが真実のようです。
 クローニン大尉(ロバート・テイラー)とバレリーナのマイラ(ヴィヴィアン・リー)との出会いのシーンは、往年の人気ラジオ・ドラマ「君の名は」とそっくりでした。
 私がこの映画を観たのは本邦初公開から三年ぐらい後ですので、この頃にはこのラジオ・ドラマは始まっていたのかも…私の記憶はこのあたりは曖昧ですが、このドラマを聞いた記憶はあります。菊田一夫氏がこの映画をヒントにしたことが定説のようです。
 初めての出会いの後でバレエの公演中、マイラが客席に彼の姿を発見した時の驚きと歓びの表情…舞台から上目使いで客席の彼の方を見るときの表情…私が最も可愛いな…と感じた一瞬でした。
 この映画で最も印象的だったといわれる「別れのワルツ」の場面ですが、フロアを照らす蝋燭の灯りが、ワルツを奏でる楽士の手により順次消されていきます。
最後の灯りが消されて暗闇になったとき、窓の薄明かりに二人のシルエットが浮かんで、切なくも寂しいラスト・ダンスの雰囲気を盛り上げていました。
 彼が戦地へ赴く予定が延びて、思いがけない再会 プロポーズ 婚約…しかしマイラの幸せな夢はここで暗転します。
 予定が急に繰り上がって彼は戦場へ旅立ちます。駅での別れのシーンは「旅情」のあの一コマを思い出します。
 やがて友人のキティと共にバレエ団を解雇され、彼の戦死の知らせ、マイラの病気など不幸が次々と彼女達を襲います。病身のマイラを助けるため、生活のためキティはある決心をします。それを知ったマイラも同じ道を選びます。
 そして戦場から帰ってきた彼との衝撃的な再会…
 
この映画で第一次大戦の戦勝国のイギリスですら、第二次大戦後の日本のように哀しい道を辿った女性たちがいた…ということは、大きい驚きでした。
 この映画が日本で公開された1949年といえば、敗戦の傷跡もまだ癒えていない頃、戦争の悲惨さ、残酷さを実際に体験したこの世代の女性たちが流した涙はおそらく真実の涙だったのではないでしょうか。それはまた現在の悲恋ドラマで流す涙とはまた異質のものだったのでは…と思います。
 昨日の新聞には「高齢者の医療費自己負担を増額の方向で検討…」という記事が掲載されていました。人生で最も愉しかるべき時代に灰色の青春を送り、戦後もなんら報われることがないまま、受難の時代はまだまだ永久に続くようです。
 私達の世代は物質的に不自由はありましたが、生命も勉強も大丈夫だったし、精神的には充実した時代を過ごせただけ幸せだったのでは…とも思います。
 この映画を単なるラヴ・ストリーとしてでなく、底辺に流れるものが当時の日本人の共感を呼び、映画史上に残る名作として現在も、生き続けているのではないでしょうか。