「人類と建築の歴史」藤森照信・著 ちくまプリマー新書(¥760)
この本は友人のN君から頂いたものだが、ナカナカいい。人と建築との関わりを、マンモス時代の大元から説きほぐし、最終章の20世紀モダニズムへと読者を導く。世界的な視野で、建築文化が歩んできたこれまでを、分かりやすくエイヤッと切り割った一冊になっている。
著者は、本質的な建築のエッセンスを読者目線で分解整理し、どう現在我々が目にする建物の姿、あるいは街並みに至ったかを解いてみせる。こうした明快さは藤森流の独壇場である。
思えば、この著者からは、「建築探偵術入門」に始まりベストセラーとも言える「建築探偵シリーズ」のお陰で、建物の見方、魅力への迫り方を随分と教えてもらった。若い頃に、全国全ての洋館という洋館を見て歩き、東大の村松貞次郎先生の門下生として次第に近代建築の分野で地歩を築く。
何より、それまでの建築というどちらかと言うとお堅いイメージの世界を、この人ほど一般目線で世に紹介した人は居ない。事実、建築の本を本屋に探しに行くと、住宅雑誌はともかくとして、大抵それは専門書のコーナーに置かれていて、その前で本を開いているのは建築関係者くらい。ところが、藤森氏の本は、一般の書棚でも扱える。ちょっと知的な主婦が買ってゆく。建築の魅力を、その見方の面白さを一般化させた革命児と言っても過言ではない。と、かつてハマッてしまった私が断言している。その現場主義の建築史家である当人は、ナント今では実際に建築を設計する建築家にまでなってしまっている。その建築物もまぁ藤森流でオモシロイ。(紹介したいが文章が長くなるので割愛、いつかまた。)
ともかく氏のタネは、ある時愛媛にも直接蒔かれた。氏の松山講演がっきっかけとなって「えひめ路上観察友の会」が発足し、アレが1987年だったから来年で20年を迎える。「俳句の盛んな松山という土地柄は、観察のDNAが王道として存在していて、路上観察の下地が出来ている」という趣旨に、ナルホドと妙に納得させられたのだった。