「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

科学記者の思い―『気になる科学』

2013年07月07日 | Science
☆『気になる科学』(元村有希子・著、毎日新聞社)☆

  著者の元村有希子さんは毎日新聞東京本社科学環境部所属のいわゆる科学記者で、共著書の『理系白書』などでも有名。いわば科学コミュニケーションの最前線に立っている人である。もう数年前になるが、国立科学博物館サイエンスコミュニケータ養成実践講座の講師をつとめていらっしゃった縁で、一言二言ことばをかわさせていただいたこともある。気さくで、きれいなお姉さんといった雰囲気だった。毎日新聞では「科学部」ではなく「科学環境部」ですと紹介されたのも印象に残っている。
  さて、ここのところ遠距離介護や仕事に追われ、まともに本も読めない状態が続いている。本書を買ったのは、まだ寒さの残る3月頃だったと思う。ところが、読み終えたのはつい先日。関東地方の梅雨も明け、全国各地から早くも猛暑日の知らせが届いている。読了までに数ヶ月かかったわけだが、本書はブログや新聞のコラム記事などがもとになっているので、こんなとき興味を持ったところから読めるのはありがたい。しかし、それぞれのコラムを読んだときに感じたことなどは、歳のせいもあるのか、かなり忘れてしまっている。
  書店で本書を目にしたとき、買うかどうか少し迷った。そんなとき、一つのコラムに目がとまった。「スマホはスマートか」がそれ。毎日の生活で何が嫌いといって、スマホ(スマートフォン)をさわりながら歩く輩ほど嫌いなものはない。前からぶつかってくるし、階段やエスカレーターで前に進まず立ち止まったりするなど、迷惑のみならず危険でさえある。歩きケータイも同様だったが、歩きスマホになってからというもの、マナーはいっそう悪くなり危険性も増したように思う。ケータイは片手で操作できたが、スマホは両手を必要とすることが多いからかもしれない。歩きスマホは完全に周囲から断絶しているようにも見える。元村さんも同じようなことを感じているように思えた。それで同じ「デジタル・イミグラント(移民)」として親近感をいだき、本書を閉じてレジへと向かったという次第。個々の感想は忘れても、このことだけは、いまも忘れずに覚えている。
  元村さんは文系の出身ながら、科学に対する旺盛な好奇心から、自らの「気になる科学」の話題を自ら「調べて、悩んで、考える」。対象は身近な食や老いから、エコロジー、宇宙、生命、人間、男女、そして科学そのものへの問いかけへと向かう。それは3・11と科学との関係性を問い直すことでもある。「原発事故取材日記」は他のコラムとは異質だが、科学記者の日常(むしろ非日常というべきか)を垣間見ることができて興味深い。元村さんの文章は、ユーモアがありながら、きれいなお姉さんならぬオバサン的な硬派(?)の発言もあり、読んでいてあきない。それは、科学記事のように単なる事実の羅列や解説に終わらず、自分の経験や思いを綴っている証でもある。この本を読んだ一人ひとりが、一つでも二つでも、気になる科学の話題を見つけることができたなら、元村さんの思い(科学コミュニケーション活動)は一つ実を結んだことになるのだろうと思う。

  

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