「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

「数楽者」の素顔―『遠山啓―行動する数楽者の思想と仕事』

2020年09月20日 | Science
☆『遠山啓―行動する数楽者の思想と仕事』(友兼清治・編著、太郎次郎社エディタス)☆

  ツンデアッタ本読了。400ページ近い大著。集中して読んだりパラパラ読んだりしていたら1ヶ月ほどかかってしまった。遠山啓さん(1909-1979)は著名な数学者であり、とりわけ数学教育の分野では非常に有名な方である。「水道方式」と呼ばれる数学教育法を開発し、数学教育に大きな足跡を残した。もう数十年も前になるが岩波新書『数学入門』(上・下)を読んだ。当時どのような気持ちで読んだのかは覚えていない。数とは何かから微分方程式まで扱っているが、いまちょっと見直してみると、根気さえあれば中学生でも十分読めそうである。
  さて本書『遠山啓―行動する数楽者の思想と仕事』は遠山啓さんの素晴らしい評伝である。いましがた「数学教育の分野では非常に有名」と書いたが、その程度の人物ではなかった。当初は純粋な数学研究に没頭していたが、数学教育に乗り出してからは、数学教育の領域を大きく超えて、いわば人間教育、人間論にまで至った知の巨人だったのである。東京帝国大学数学科に入学したが、ほどなく退学し、東北帝国大学数学科に再度入学。その経緯についても書かれていて興味深い。
  「知の巨人」などと書くと評論家や文筆家のような印象を受けるかも知れないが、障害児との出会いを原点として競争原理・序列主義を批判し、教育改革に挑戦した市民運動家でもあった。遠山さんの学識は数学や科学に限らず、哲学・文学・芸術にまで及んでいる。教育改革をテーマにした雑誌『ひと』を創刊したが、『ひと』は遠山さんの熱い情熱と深い学識の集大成といえるだろう。そして終生、数学の楽しさを説いた人であった。本書のサブタイトルが「数学者」ではなく「数楽者」になっているのはそのためである。
  いま、もう一度『数学入門』を読み直してみようと思っている。きっと新しい発見があるだろう。さらにもう二冊、遠山さんのツンドク本があるので、そのうち読んでみるつもりだ。

  


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