深キ眠リニ現ヲミル

放浪の凡人、中庸の雑記です。
SSなど綴る事アリ。

ひなたの日常②

2006年05月17日 | 小説/SS
五月十七日。曇天。
 最近天気が悪いことが多くて、ぼくはいつも家の中でゴロゴロしていた。
 コウスケは雨の日は早く帰ってくる。ぼくは折角だから、たまには遊んでやるかとやつの部屋に行くと珍しく勉強していた。まだ何もしてないのに、邪魔すんなよ、と一言。
 ぼくは、雨が降ったからあいつが勉強しているんじゃなくて、あいつが勉強しているから雨が降っているんだろう、という事をひかるの友達が言っていた事を思い出した。そういえば、今日ひかるはその友達とどっか行ってるんだった。
 
 このまえ、久しぶりに晴れた日にコウスケを伴って、ぼくはひかるとひかるの友達が住んでいる隣の家に行った。キョウコというのが、ひかるの友達の名前だった。年齢はコウスケの一つ上だったけれども、殆どあいつとは友達のようなものだった。
 ぼくもコウスケも期待していたのはキョウコの作るクッキーだった。――全くあいつも食いしん坊だな。でも、キョウコに頼まれてもいないのに手伝っていたのは意外だったな。
 キョウコのクッキーはいつものようにおいしかった。ひかるも以前ぼくが分けてやったお気に入りのカンズメの時より、全然おいしそうな顔をしている。こりゃ、太るはずだ。ぼくは、なんとなくひかるがこんなに丸くなった理由が分かった気がした。こんなに上手いものしょっちゅう食べてたら、そりゃ……。ぼくの考えていたことをなんとなく分かっていたらしく、ひかるは鋭い目で、ぼくの心中をえぐりとった。ぼくは無意識にクッキーの入った皿をひかるの方に押しやっていた。
 余計にひかるは怒り狂った。キョウコはそんなぼくらを見て笑う。それをみたコウスケもいつも見せないような笑顔で笑う。
 まったく仲がいいやつらだよな、って早くぼくを助けろって。こっちは全然笑っていられる状況じゃないんだよ。
 ひかるがその爪をようやく鞘に収めたのは梟でも鳴きだしそうな夜になってからだった。こっちは泣き出しそうさ。コウスケとキョウコはそんなのお構いなしにしゃべり続けている。
「水曜って暇だっけ」
「え、なんでだよ」
「映画、映画、これ、いってみない」
 キョウコは興奮気味にチラシを指差す。映画って、確かあの暗いとこにある変なテレビみたいなのだったかな。「ああ、まぁ……ってキョウコ、テストは?」
「ん?」
「中間だろ?」
「あたしは別に大丈夫だけど。焦るようなもんでもないでしょ」
「ああ、そうだな……」
 ひかるの、邪魔だよ的な体当たりを受けて、ぼくは転がった。ぼくの目には全然大丈夫そうではない。コウスケのやつ毎日テレビと漫画ばっかりみて、勉強なんてしてないだろ。
「ほんとー、全然大丈夫そうにみえないけど」
 キョウコもぼくと同じような考えをしていた。
「だいじょうぶだって」
 キョウコは目を細めて疑わしそうに、コウスケの目を覗き込んだ。ああ、馬鹿。明らかに大丈夫じゃない目をしてどうすんだ。
 結局キョウコの眼力にその心中を看破されたコウスケは肩をすくめて、少し顔を紅潮させながら、正直にその切羽詰った状況を語った。
 まったく、あいつもぼくも揃いも揃ってこの家の連中には弱いらしい。

 そんなこんなで、ぼくたちは置いていかれたわけだ。
 ぼくは眠るのも疲れて廊下をぶらぶらしていると、玄関の方で元気な声がした。キョウコとひかるだった。どうやら、映画には行かずコウスケに勉強を教えにきたみたいだった。
 まったく人間はよくわからない。

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 ひなた君第二弾。書くのは決まって雨とか曇り。どうしてだろう。
私信
 最近は少し活字を読もう月間ということで、いろいろな活字に挑戦中。
乙一から、梶井からニーチェまで。なんと統一性のない……。
「きみにしかきこえない Calling You」は泣きそうだった。活字で泣きそうに
なったのは初めてだなぁ。多分酔っていたからだと思う。
「善悪の彼岸」は難しい。哲学関係にしてはわかり易いような。いや、わかりにくい。そう断言しよう。かつてカントの「純粋理性批判」よりかは読みやすいような。読みにくいような。はたまた読みやすく見えて、読みにくくないこともなかったかもしれない。
 今年も激動。以上。



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