深キ眠リニ現ヲミル

放浪の凡人、中庸の雑記です。
SSなど綴る事アリ。

ひなたの日常⑥(前)

2006年08月09日 | 小説/SS
八月九日雨。

 コウスケが戻ってきたのは、学校に行くという意味不明の嘘をついてから三日たった日だった。
 それから今の間までどういうことがあったかは知らないが、僕の尻尾に届いていた不穏な気配ももうなくなっていて、どうやらもう、その嫌な感じは過ぎ去ったのかもしれない。
 僕はそんなことお構いなしに、いつものように、一家の一員として、飯にありつき、散歩ばかりして日々を過ごしていた。その間僕の尻尾が感知した、不安というのはすっかり飛んでいた。それが彼ら二足類と僕らとの知恵の違いじゃないだろうか。
 それに、どんな事があろうと僕は決して、僕のスタイルは変えないことにしている。ただ一つ食料の確保という問題以外は僕らは、「気まま」というスタイルを保つ。よくわからない不安に付き合う程、僕も暇じゃあない。
 あくまでも気ままに生きるんだ。

 僕はふとしたことから、例の不安の元を聞くことになった。
 僕は夏本番になってからというもの、毎日のように東光寺に出向いていた。確かに、ヒカルとハクの、テレビのなんたらという芝居みたいな、大袈裟で繊細な会話を聞いているのは、苦痛でなかったことはなかった。けれども、そこには、この町の他のどこでも得られないくらいの、素晴らしい涼しさがある。差し引きして、なんとか会話の苦痛に耐える方がましだった。そのくらい、暑い毎日だ。
 だから、その苦痛な会話が、僕が前に気に掛かっていた出来事を解決するものだと知ったとき、東光寺は夏一番の一日へと変った。
 そう、それこそまさに今日なのだ。

「あなた本当に何にも知らないんだわね」
 ヒカルはいつもの嫌味っぽさを、上手く笑顔のオブラートに包んで僕に投げかけた。それでも、全然いつもと変わりなく感じたのは僕だけだろうか。
「キョウコが苦しかったのは夏風邪だけじゃないわ」
 ヒカルはハクに目で何か語りかけ、そんな風に切り出した。
 ハクは気障な仕草で、とことこと寺の奥の方へ行ってしまった。ふん。

 今日は眠いのでこれくらいにしよう。ヒカルがハクに対しての外面を捨てて喋った事は、少しばかり整理する時間が必要だ。あいつの話はバラバラだから、今ここにそのまま話すには幾らか僕が配慮に欠いたように思われてしまうだろう。
 そういうことで、続きは明日。